それでも正義感のある者は『巫山戯るな』と言うであろうが、『お前ら人間が言うな』と言えば不毛の争いだろう。故に結局は暴力で解決する事になる。そして、正義も悪もクソも無い、勝者が正義となるのである。
「ごほん。話が逸れましたね。して、狐花ちゃん。『悪魔の駒』を取り除く霊術の件は……?」
『すまんな。今の所、静香の嬢ちゃんが最初で最後や……。現状、ゴッタゴタやし、狐花は『鏖殺』一択やから……する理由が殆どあらへんって話や』
「え?何それ、初耳なんスけど。え?『悪魔の駒』って……取り除けないって聞いていたんスけど?」
『あー、『悪魔の駒』は取り除く事が確立はされてんねん。でもなぁ、出来んのが狐花だけやけど、悪魔は鏖殺って思考回路やから試す機会はほぼ皆無や』
「え、嘘⁉︎ それはマジな話なんスか⁉︎ 『悪魔の駒』を取り除くって事は……⁉︎」
『転生悪魔や無くなるっつー意味やで。本来の種族に戻るって訳や』
「……他神話からしたら見過ごせない話っスよ⁉︎ 悪魔陣営に拉致られた者達は日本神話以外にも沢山、居るって話は聞いているっス。それが可能ならば……」
『元に戻りたい、帰りたい』と願う者は必ずや出て来る事だろう。転生悪魔にする権限があるのは貴族悪魔が大半。その癖、拉致すれば殆どの場合故郷には帰れない。顕界に進出する者は少数、今となっては抹殺姿勢で屠っている為に姿は然程は見せようとしないだろう。故にほぼ冥界で過ごす羽目になろう。或いははぐれ悪魔となって殺されるかの2択。寿命でも10,000年と言う巫山戯た寿命だ。
『……場合によっちゃあ殺到するやろなぁ。何処の誰でも出来へんかった事を出来る様になったんや。当然、悪魔共も無視はせえへんかもな』
悪魔社会は深刻な少子化が進んでいる。悪魔は元々寿命の長さに対して出生率は極めて低い。子に恵まれずに御家断絶が深刻化している。其処で転生悪魔を増やして挽回を図ろうと画策しているのだがそれを台無しにされたら、それこそ拉致してまで集めた転生悪魔が露と消えたら被害は甚大となるだろう。貴族悪魔よりも転生悪魔の方が人数は多いのだ。貴族悪魔だけで悪魔社会は回らないだろう。
民の無い国程、脆いモノは無いのだ。逆に王が居なくても国は回る。
その可能性を秘めた存在が居る。となれば、相手はどう考える?答えは1つだ。殺すしかない。死の恐怖に勝る恐怖は存在し得ない。
「しかしながら狐花ちゃん1人だけだと、負担は尋常ではありません。理想は転生悪魔全員を救う事が出来れば良いのですが……」
「理想は理想。夢の中に浮かぶ月を掴むが如し。私は釈迦様じゃない……全員を救える程の英雄なんかじゃない。救えない者も現れる……」
夜摩天様の言葉に狐花は『誇大妄想』だと言わんばかりに現実的に言い放つ。自分が全員救えるとは思わない。救えない者も現れる。寧ろ自分が救わない者を作っている時点でその理想は理想の果てに消え失せる事となる。
「そんなに難しいんスか?」
『せやなぁ……そもそも術自体が篦棒に難しくな……。狐花は色々培って来て霊術の扱いは上手いんやけど、それでも中々難しいと言われてたんや。そして、狐花には剣術の才覚は全く無い。現時点で使おうと宣うんやったら相手が微動だにせず棒立ちしといてくれへんと陸に当たらんレベルや。下手すりゃ、其の儘、バッサリ身体をサヨナラさせるんやからな。そうでなくても霊術の出力や詠唱は兎も角……細かい操作は未だにダメッダメや。つまり何が言いたいかと言うと、現状の狐花は洒落にならん爆弾みたいなモンやと言う事や……』
敵味方、部外者を無視して燼滅させる行動が目立つのだ。そりゃあ狐花からしたら全員敵かつ赤の他人だと断ずるのだろうが、それは昔の話だとそろそろ自覚して欲しいのだ。今は、隣人が居るのだ。種族は関係ない……狐花の事を見る者が居る。其処を理解して欲しい……蹂躙しか無い世界なんて寂しいにも程がある。
「……他の方で習得出来そうな方は居られますか?」
『どやろな……土壇場やけど形になったのは狐花だけやろうし、後にも先にも出て来ぇへんと思うわ。相性ってのもあるしなぁ……本人の気質も関係すっからなぁ……その関係で狐花以外、思い付かんわ。つーか、同類が2人以上現れたら日本、保たんで。物理的に』
五七は狐花以外、習得するのは難しいと見ている。そも霊術自体、誰でも習得出来る訳ではないし本人の気質、性格にも大きく左右される。
「それはあり得ますね……」
「んにーっ‼︎ うっさい‼︎」
狐花みたいな鏖殺思考が2人も居たら見事に国1つが崩壊すると言われて憤慨する狐花。ベンニーアは笑いを堪えるしか無かった。
『や、夜摩天様‼︎ た、大変です‼︎』
その時、獄卒の1人が部屋に入ってくる。慌てた様子故に只事では無い事が予見出来た。
「何事ですか?」
『そ、それが……『劫末』が封印を破り地獄を横断中です‼︎』
その言葉に夜摩天は目を細める。その言葉には心当たりがあったからである。
「そう……まさか、少し前に地獄送りになった元赤龍帝に触発されて……? その件は分かりました。速やかに防衛線を……‼︎ 揉めている矢先にコレとは……」
獄卒はその内容だけで全てを理解して部屋を飛び出して行った。夜摩天の視線は落ちたまま、問題と言うのは立て続けに起こるモノの様だ。
「あのー……『劫末』って何スか? って、ウチ……仮にも部外者っスから席を外した方が良いスかね……?」
「構いません。恐らく防衛線は破壊されるでしょう。いつの日かは白日の下に晒されます……。それに余り気分の良い話じゃ無いですよ?そも『劫末』と言うのは通称に過ぎません」
『劫末を体現するって言う事かいな?』
「そう、ですね。アレは正しく『劫末』を発言するでしょう……もはやアレは滅びの姿其の物……『神煉具』と呼ばれる存在です」
「神煉具……スか?」
「聖書の神がやらかした……特大級の迷惑案件。正直に言ってアレは……とても容認出来ません。魂を弄ぶ……あの愚かな神の戯れは」
仏教側としてはキリスト教の思想は容認する気は無いらしい。まぁ、日本の歴史からしてキリスト教は相容れない形として弾圧されて来た為にさもありなん。
「……ん……?あれ? 狐花ちゃんは?」
「『あれ……?』」
気付けば狐花の姿が見えなかった。何処に行ったのだろうか……?
『お、己……よもや、此処まで、か……‼︎』
融解し続ける地獄。その中でも一際強い劫焰に業火は灼かれて行く。
『チクショウ……獄卒の俺が……如何にも出来ねぇ、なんて……‼︎』
牛頭は相方の馬頭と共に封印が破られ地獄を進行する『劫末』に対処していた。しかし、奮戦虚しく破られてしまった。
その獄卒達を打ち破った存在は斃れた者達に歯牙にも掛けず歩いて行く。赫黒い火の粉が赤熱化した大地を黒く染めて焦がして行く。
赫黒く燃える焔幕が灼け逝く髪に倣う様に靡いている。焔幕と髪が合わさり一体化して居る。
黒く灼けた黒袴から覗く両脚は赫黒く罅割れており尚且つ三本指の脚に変化している。赫血で染まって尚且つ、焦げている白衣から覗く両腕は融解して今も真っ白に赤熱化しており、指の数が不均等となっていた(右手が4本、左手が3本の指しか残っていない)。その胸元、人であれば心臓がある位置には穿たれた孔が開いており、血の色の様な菌糸が蠢いている。
そして額には赤熱化し灼ける双角。赫黒い黶が左半分を鷲掴み様に侵食した顔、黒い眼球に赫い瞳の双眸。
もはや、『灼けた鬼』のバケモノと言っても差し支えない姿をした存在が地獄を文字通り燼滅させながら歩いて居る。
「……」
獄卒とは明らかに違う存在を目の当たりにした亡者達。獄卒からも見捨てられた亡者達は逃げ惑う他に道は無い。その存在は徐に赤熱化した腕を払う、直後。爆轟と爆炎が周囲一帯を包み爆ぜる。此処は地獄、幾ら亡者が朽ちようとも何れは蘇る。10京を超える年月が経過するまで……故に亡者達は放置されている。
「近くで見ると、凄く熱い。融けそう……」
その時、存在の前に立つ者が居た。先程までの大柄な獄卒と比べれば半分にも満たない小柄な体格の幼い幼女だ。
「……何故、立ち塞がる?」
その存在は見た目に違い、理性ある口調で目の前の幼女、狐花に問い掛ける。
「喧嘩を売りに来た。無論、負けたら逃げるけど……」
狐花は単刀直入にそう告げた。喧嘩を売りに来て負けたら逃げるとも堂々と言い放つ。何故、狐花が目の前の存在に喧嘩を売りに来たのか、それは本人だけが知る事。何故、喧嘩を売らないばならないのか……その事も本人のみぞ知る事。
「是非も無し。名乗れ、鈴よ」
「皓咲 狐花。歪められた命の在処をあるべき為の導とならん。その劫炎の意志を宿す為……貴方に挑む……‼︎」
狐花はそう名乗る。名乗られたのならば、此方も名乗る。その位の礼儀は持ち合わせている。
「永遠と終焉。相反する様で相互関係に座す。復讐と憎悪の果て、その身に見せろ。
和奏・擬神・火産霊。推して参る……‼︎」