『此処やな。此処から堕落した気配を感じんで』
狐花は帰り道の途中で道を外れてある場所に訪れていた。その場所は寂れた教会の建物であった。昔は使われていたであろうが、今は管理人も居らず打ち捨てられた場所であった。
「来たは良いけど……」
『今はただの通り掛かりや。手を出さんかったら無視される可能性はあるな……此の儘、突貫すんのは止めとけや。おまはんの場合……周りとかに考慮せえへんやり方やから……おっかないねん』
五七は今は直接乗り込むなと告げる。堕天使如きに負けるとは思っては居ないが問題は別の箇所。それは周囲の被害が甚大になる可能性。
廃教会と言えど周辺には一般住宅は当然存在しているし、民間人も居る。それに夕方とは言え、まだ人目は多い……そんな状況で大暴れなんて真似すれば目立ち過ぎてしまう。
「悪魔の領土。領民に考慮する価値は無い」
だが、狐花は冷酷だった。悪魔の領土内、領民である以上……人間だろうと敵に変わり無しと言う残酷な答えを出していた。敵の居る敵国だからその民も敵であり鏖殺すれば良い。そんな考え方である。
『あかん! 幾らなんでもそれはやり過ぎや‼︎ 悪魔共は勝手に名乗っとるだけや‼︎ 流石にお上も承知せえへんで‼︎ この土地諸共、滅ぼすつもりか⁉︎』
「その方が手っ取り早いと思うけど……?」
『……せやけど、やり方っちゅーもんがあるやろ。巻き添え喰らう方は堪ったもんやないと思うで。流石に巫がする真似やないて……お上もお冠になるで。お上だけや無い。天上や欲のはんもお冠になるやも知れへんで……』
五七は狐花の行動を何としてでも阻止しようと躍起になる。狐花の場合、本当に駒王町を地図上から消し飛ばしかねない……それを行使出来る力がある……。
「…………分かった。出来るだけ善処する。鏖殺すれば手っ取り早いのに」
五七の訴えに狐花はジト目のまま、了承し指に複数枚の札を顕現させる。無地の紙であり何も書かれても描かれても居ない。
『壁張るのはええけど、その強度を上回る攻撃すんのは止めぇよ? おまはんの場合は防御〈攻撃なんやからな』
「今日の夕餉は蜚蠊で決まり……」
『止めんかいッ⁉︎ せめて人間が食うモンにしろって言うとんやんか⁉︎』
「……じゃあ、蛙」
『……昆虫よりはマシやと思うけど蝦蟇に喰われんようにな……』
「うっさい」
何時も通りのやり取りの後、狐花は札から手を離す。その札は4枚、狐花の眼前に浮遊して留まる。
「荒振る神等をば神問はしに問はし賜ひ。神掃ひに掃ひ賜ひて語問ひし磐根樹根立草の片葉を語止めて紡ぎは磐根八重垣斷ちひ罪を祓ひ巌戸の如く」
狐花の指が札に添えられつつ行われる祝詞の様な詠唱。その詠唱が終わると同時に札には滲む様な形で紋様が描かれて行くと同時にその札は砲弾の如く上空へと飛翔し一定高度で停止、四方に飛んだ後に急降下し地面に突き刺さる。その位置は目の前の廃教会の敷地の四方を囲む頂点の位置。その四方の点を起点として不可視の結界が張られたのであった。
「コレでこの場所と外界は拒絶された……。誰が見ても元の廃教会がある様にしか見えない」
逆を言えば結界を解除すれば、その後にはスプラッター映画状態の廃教会が露見する事になるだろう。
『の割にはおまはんの攻撃であっさりブッ壊れる気が済んやけどな……まぁ、ええわ。サクッと殺ってさっさとスーパーで常識の勉強会でもしよか。早よせんと、スーパー閉まってまうで』
五七としてはさっさと堕天使を仕留めて帰りのスーパーで世間知らず+天然+常識無しの狐花に世間体と言うモノを実地教育せねばならない。
「分かった。火責めにする」
狐花は廃教会に立ち入らずにその場に立ち尽くして先程とは異なる詠唱を行う事にした。具体的には炙り出て来た所を叩く。
「煉獄よ、燎原よ、災禍の導となり焰の主の呼び声を聞き賜へ、天上穢界、天下欲界。焰による平定を。尸よ屍よ、骸と成りて、仰ぎ、俯き、祓い賜れ。彼岸此岸、界なるや。焦土となり絶える寿ぎを以って唄い舞えよ彼岸の華。劫末の開闢を、頽廃の宴を此処に」
『ちょ⁉︎ 待てい、狐花ァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎⁉︎ それ、やり過ぎ‼︎ やり過ぎやァァァァ‼︎⁉︎ 炙り出すとか火責めとか言うレベルちゃう‼︎』
五七が悲鳴染みた声量でそう叫ぶも時既に遅し……黄昏時を迎える時刻。狐花を中心にして地獄の業火を思わせる程の熱量が巻き起こる。その熱量は凄まじいの一言であり狐花が事前に張った結界より外には出なかったが、廃教会はそうはならなかった。
暴力的な勢いの劫火は瞬く間に廃教会を覆い尽くしてしまう。それだけに留まらない、廃教会は風化している事もあるが、外壁はその熱量に耐え切れずあっという間に赤熱化し融解しドロドロになって崩れ始めて行く。
『う、うわぁ………コレ、中に居た連中。黒焦げ通り越して骨すら融けてまうんちゃう……?』
劫火に包まれ熱量に耐え切れず液状化して地面に還って行く廃教会の姿を見て五七はドン引きしている。幾ら堕ちし天使と雖も、暴力的過ぎるこの光景が前では消し飛ぶと言うか、本当の意味で蒸発してしまうかも知れない……流石に主神クラスと言った最上位連中ならば鼻で笑うかも知れないが、並の者ならば絶望以外何物でも無いのは事実である。
一陣の劫火が過ぎ去る頃には廃教会は影も形も亡くなり、燼滅された骸が残るのみとなった。
『う、うわぁ……発破解体でも此処までの光景にはならんで……』
残骸、否、黒泥と化した廃教会の成れの果て。焦げた肉とか鉄とか建築材とかの匂いが混ざりに混ざり合って何も分からない。死んだのか、元々、居なかったのか?、或いは直前で逃げたのか?それすらも分からない。
「うー……炙り出すつもりが、出力間違えた」
『いやいやいや、間違える所かノリノリでやったやん‼︎ 手加減以前の問題や‼︎ 一応、結界ブチ破らん程度には出来たけど‼︎ それでも、アレやんか⁉︎ うわぁ〜、どないしよ〜‼︎ 幾ら天使の塵共のモンとは言え、お上になんて言われるか⁉︎』
コレが結界の外に及んだとなれば間違いなく駒王町の一角が焦土と化していた。その事は容易に想像出来たであろう。それでも人間が建設した以上、派手に壊してしまった為にお叱言言われるのは明白と言えた。
「こうなるんなら、ライフル持って来るべきだった」
『本当にソレな‼︎ ホンマ、ソレな‼︎ こんな光景と脳漿ブチ破る光景比べるんなら、絶対に俺様は後者を選ぶわ‼︎ 全国の読者も絶対に後者を選ぶ‼︎』
「……あ、彼処……地下室の階段がある」
『聞けや……って、ホンマやな。あー、融解した建築材が地下に流れ込んだんやろうなぁ……気配は消し飛んどるけど、一応見ておくか? 悪魔や堕天使や言うけども、中には欺瞞する奴、おっても不思議やない』
「ん……」
狐花は融解し切った廃教会の跡地に露出した地下への階段を見つけてその下へと潜る事にした。
何気に詠唱を真面目に採用した気がする。