To perceive is to suffer.
一誠が課外合宿に連れ出され悪夢を拝んでいるその頃……駒王学園では。
「……納得出来ないわ‼︎ お兄様‼︎」
拳を机に振り下ろしリアスは椅子から立ち上がりながらそう異論の姿勢を示す。紅色の髪を振るいながらその視線の先にはホログラム体の長身の男性が浮かび上がっている。
『決まった事なんだ……セラフォルーが突発的に発生した日本神話の神との対談で、大きく揉めた上にボロクソに言われてね……』
リアスと同じく紅の髪を靡かせ覇者たる貫禄あるマントを羽織った優顔の男性。リアスの実兄であるサーゼクス・ルシファー。即ち悪魔社会にて『魔王』の1人。ホログラムを介して自身の妹であるリアスと相対する形で話をしている。リアスの様子から内容は気分の良い話では無いようだ。
『会談は上手く行かず……その場に居合わせる形となったソーナ君の眷属が3人殺されたと言う』
「……‼︎」
その話はソーナ本人から聞いた。サーゼクスの言う日本神話の神も恐らくソーナの話に出て来た神なのだろう。
『セラフォルーは妹の取り巻く状況に耐え兼ねて……領土放棄を宣言したんだ。日本にある悪魔陣営が持つ領土を全て放棄。勿論、リーアたんの駒王町も含まれる』
「……ッ‼︎」
歯軋りするリアス。その様子を見て朱乃と小猫は何も言えない。魔王と言う存在の手前、如何なる動作も許されない。心中は察する事は出来るが、どうにも言えない。
「そんな、馬鹿な事……‼︎」
『セラフォルーも妹の事は大事だ。状況が状況だ。あのまま、蹂躙されるのを見ては居られなかったんだろう……』
しかし魔王が決めた事にリアスが口を挟む事は許されない。故に何も言えないのだ。この時、既にリアスは駒王町の領主では無くなった。
『……仮に私とリーアたんが同じ立場だった時、恐らく同じ事をしただろうね。その時、日本神話を潰すつもりで戦争を仕掛けるのは簡単だ。大戦で数多くの悪魔を喪ったが……『悪魔の駒』で転生悪魔の人数も増えつつある……。だけど、戦争し続けると言うのは状況的に宜しく無い。出来るのならば皆、仲良く出来るのが1番だ』
「…………」
悪魔陣営はリアス達が日本の学校に通っているし魔王であるサーゼクスも日本にホテル等を建てた。それに元日本人の転生悪魔の事も考えて日本神話と懇意の間柄になりたい。その方が将来的に双方共に有益なると信じている。
しかし以前から外交担当であるセラフォルーが日本神話と会談や交渉を行おうにも全く相手にされない。姿さえも見せなかった。そんな時、現れた日本神話の神の一柱。しかし、その会談内容は会談と呼ぶにはお粗末な糾弾大会。結果的にソーナの眷属は3人喪い、セラフォルーは日本にて所有する悪魔の領土を放棄する事によって相手側の溜飲を下げるに至った。しかしその対価は安くは無かった。
「……だからと言って」
『悪魔がコケにされた』。その事実はリアスにとっては許し難い現実。祟り神である狐花に遇らわれている事も許せない。リアス自身のプライドが許せない。と言うか悉くリアスの邪魔をして来る日本神話陣営が気に入らないのが主な理由であった。
『リーアたんの状況はグレイフィアから聞いている。駒王町での日本神話の者との関係も含めてね。それに……『ビザ』の件も』
「ビザならあるわ‼︎ なのに、領土を放棄だなんて……‼︎」
リアスは『日本神話のビザ』を提示する。しかし、サーゼクスは『外交担当のセラフォルーが決めた事だ』と言い、反故にするのは危険と諭す。
『無論、私自身も納得していない。我々は歩み寄ろうとしているが日本神話陣営は意固地な所為か……上手く行っていないのは事実だ。恐らくコレはお互いの事を良く知らず、先入観で決め付けているのが原因かも知れない。天使や堕天使は相手の事を知っているからまだしも……日本神話の事は良く分かっていない。元日本人の転生悪魔も限られた者しか知らないだろう? 君の朱乃君の様に』
「え、ええ……」
憤るリアスにサーゼクスは魔王の威厳は払拭し柔和な笑みで諭す。戦争すれば勿論、悪魔が勝つと信じて疑わないサーゼクス。転生悪魔の増加やレーティング・ゲームの普及により戦力は向上の兆しはある。しかし、はぐれ悪魔の存在は無視は出来ないし、戦争となれば少なからず損害は悪魔陣営が出る上、その機を見計らって天使陣営や堕天使陣営がどう出るかは分からない。三大勢力とも、過去の大戦で大きく疲弊した事実は記憶に新しい。今は小競り合い程度だが、悪魔陣営が他神話と戦争中に背後を突かれるのは痛いのだ。トップがそれを分かっていても部下や配下はそうだとは限らない。何かしら不満を持つ者が現れても不思議では無い。平和を願うサーゼクスにとって、その事態は好ましく無いのだ。
『報告によると現在、駒王町に居る日本神話所属の者は悪魔を非常に毛嫌いしていると聞く。其処を切り口にするのは危険だろう』
「え、ええ。私の話を一向に聞く気がないわ……」
『……お互いの事を良く知れば、和平の道が開けると信じている。その為にも良く知る必要がある……この点は任せられる者に任せようと思う。誰にでも得手不得手と言うのはあるモノだ。厳しくはあるが、それでも諦めるにはまだ早い』
「…………」
その言葉にリアスは自分がその責に向いていないと暗に言われた気がした。しかしながら、現時点で見える範囲には話を聞かない者達ばかりな気がするのも事実だ。
『今は苦しいかも知れないけど、直に好転するだろうから心配しないでくれ。リーアたん、日本での高校生活を楽しんでね』
重い空気を払拭しようとサーゼクスは気持ちを持ち上げる事を言い残してホログラム体を消した。
「……部長」
「ええ、お兄様も苦労なさっているのは痛い程分かるわ。私が騒いでもお兄様を困らせるだけ……グレモリー家の次期当主たる者……実兄とは言え魔王様を困らせる事はあってはならないわ」
リアスは椅子に座りながらそう呟く。『領主』が解任された……今や駒王町はリアスのモノでは無くなった。そんな事実を魔王から伝えられて参って居ないと言えば嘘となる。
「……私だけ何もしないと言うのも我慢出来ないわね」
「いや、その……」
朱乃はリアスの行動が裏目になると思い始めていた。場を引っ掻き回して事態を悪化させているだけな気がして来たのだ。
「それに……‼︎ あの紫と言う教師も気に入らないわ……‼︎」
一誠はリアスの眷属。しかし、昼休みは愚か放課後は殆ど姿を見せれていない。理由は紫先生が問題児である一誠とその他、変態2人の監督をしているのが理由。その為、リアスにとっての活動に大いなる障害となっていた。
教師と雖も相手は人間と侮っていたが、こう間接的に邪魔され続けるのも気分良い話では無かった。記憶操作で排除しようとしたのだが、紫先生には全く効いていなかった。暗示の類も効果は見られず、一切の効果は無いと言う事実にリアスは驚愕した。その癖、紫先生は最も遅くまで学園にいる。その最中に見つかれば『部活動の時刻は過ぎている早く帰れ』と言われる。
旧校舎にまでは接近してくる事は無いのが不幸中の幸い。
「……私の可愛いイッセーを拉致するだなんて、万死に値するわ……‼︎ 他の教師を洗脳して追い出そうともしたのだけど、他の教師にも効かなくなっている。どう言う事?まさか、街中に蔓延る破邪の気が原因かしら……?」
「聞いた話ですと、イッセー君は今日から1週間程、公欠の外部合宿だそうですわ。何でも、コレまでの覗き行為が目に余るので精神矯正の為だとか……」
「い、1週間も……⁉︎ 本当にこの私を邪魔する者が多いわね……‼︎ 忌々しい限りね……‼︎」
リアスの周りの者達は悉くリアスを邪魔している様にも思える事態。この流れは宜しく無い。そう憤慨する。
「小猫は何か有益な情報とか無いかしら?」
一誠も居ない。祐斗もまだ退院出来る状態では無い。領主も解任された。此の儘、燻って居るのも次期当主としてはあるまじき姿。其処に加えて先日のライザーとの一件で自身の評価は下がった。
現時点でリアスがするべき事、それは失墜した自身の評価を取り戻すに値する成果を示す事。して、現時点で魔王であるサーゼクスやセラフォルーは日本神話陣営との交渉に注目している。
「……そう言えば皓咲さんの姿が見えて居ません。どうやら学園に来ていない欠席らしいです」
皓咲とは、リアスが現在進行形で揉めて(抹殺宣告済み)いる狐花のファミリーネーム。小猫よりも低身長、幼女と差し支えない低身長に普段着が巫女服。そして、祟り神。
「……好機ね」
「「え?」」
「イッセーが居ないのは心残りだけど……この機会は逃せないわね」
「ぶ、部長?」
「……皓咲 狐花だったわね。少なくとも凄まじい力を持つのは確か……神滅具に匹敵すると言う『魔獣創造』……その亜種に目覚めて居る……」
強い力、神器を持つ者を眷属化させる事が悪魔陣営では最近の流行りである。して、リアスには落ちた評価を取り戻すには功績を出さねばならない。それも、納得させ得る功績である。はぐれ悪魔をチマチマ討伐しても評価には値しない。もっと大きな功績が必要。魔王さえも認める内容である。
「欲を言えば眷属として欲しいわ。日本神話陣営と言う事を差し置いて……あの力は正しく強いと言わざるを得ない」
「し、しかし……私達の事を毛嫌いしていますわよ?」
「……其処なのよね。アレ程の力だと……眷属化出来るか不安なのよね。イッセーだって『兵士』の駒を八個全部、使っちゃったし……。仮に出来たとしても物凄く反抗しそうよね。主人殺しと言う意味で」
「……ッ‼︎」
その言葉に小猫が反応するもリアスは気付かない。
「かと言って此の儘の状態はよろしく無い。本人がダメならば狐花の仲間を眷属化すれば……間接的に繋がりを作れるわ……‼︎」
本人が難しいのならば間接的に与する様に仕向ける。其処には単純に新しい眷属が欲しいと言うのもあった。あの暴君を制御出来るの者が眷属となれば……‼︎
「リアス。流石に他陣営の直属の者を無断で眷属化させるのは……不必要な軋轢を生みますわよ?」
「朱乃……最近、やたらと日本神話側に肩を持つじゃない。なら、他に案があるの?」
リアス自身が自業自得で悪化を招いて居る。そう思えて仕方ない朱乃。地獄での一件、どの様な反応を示すか分からない状態で、日本神話陣営の狐花、その仲間に手を出すと言うのは悪手だと言わざるを得ない。
と言うかリアス自体が喧嘩を売り兼ねない代物。出向くだけで怒らせる事となる。
「……私が交渉して見ますわ」
「朱乃先輩⁉︎」
リアスがダメなら『女王』である朱乃が交渉に臨む。無論、上手く行く保証は無い。そもそも、狐花の存在が大きいが故にその仲間の詳細な情報は少ない。強いて上げればアイラの存在位である。
アイラ・ニューエイジャー。2年生でアーティストとして美術家と言う側面を持つ。1人、美術室で常に絵を描いて居ると言う孤高の存在。狐花とどの様な接点を持ったかは分からない。
「そう、分かったわ。出来るなら眷属の勧誘もして頂戴、あの狐花の仲間。神器持ちの可能性があるわ」
戦力を削ぐ事と充実させる事。リアスにとって重要な事。それに眷属化してしまえば余程の事が無い限り言う事は聞く。自身の眷属からはぐれ悪魔を出す行為は絶対に避けねばならない。
「……善処致しますわ」
リアスの言葉に朱乃は眼を臥せてそう返した。
残り、2。