ライザーが情報の収集に奔走している頃、顕界では時間が流れ……黄昏時、即ち放課後の時間帯となっていた。その夕日が差し込む時間帯の部活棟の廊下をリアス眷属が『女王』、姫島 朱乃は目的を以って歩いていた。
——……リアスの地位を維持、或いは向上させるには失墜した評価を覆す武勲が必要。相手は日本神話に属する者。その配下達も同様……リアスは眷属として欲しがって居ますけど、そんな真似をしてしまえば……唯でさえ荒れ狂うと危険な日本神話を激昂させるのは明白。
狐花。その力の片鱗はあの夜で見た。その気になれば文字通り駒王町諸共、自分達は灰に還る事は容易く予想出来る。
——……亀裂はそう容易く塞ぐ事は出来ないでしょう……でも、此の儘では危険な事に変わりはありません。それに地獄の一件が何処まで影響を響かせるか……その点が気掛かりですわね。
懸念事項は他にもある。『地獄』での一件である。一誠を地獄から連れ出した……死した者を蘇らせる行為……それは危険極まりない行為……リアス達はその禁を犯した。その対価は何時の日か必ず支払わなければならない。
獄卒の少女は——。
『後は魔王様にお願いする』
と告げて居た。日本神話に関連する魔王と言えば……ただ一柱しか存在しない。
——『第六天
『e38288e38186e38081e58886e381a3e381a8e3828be381a7e381afe784a1e38184e3818be280a6e280a6e5b7abe38288』
「ッ‼︎⁉︎」
心臓が直接、握り潰されるかの様な悪寒が全身に駆け巡った。全身の体温が急速に低下した様な感触も生まれる。
——気配は……何処にも感じないのに、声が聞こえた……‼︎ 悪魔でも天使でも、それこそ妖怪ですら無い……この気配、感じた事……いえ、気配が無いのに気配を理解出来る事自体、異常としか……‼︎
『e6849fe38198e381ace3818befbc9fe5b7a6e6a798e38081e590bee381afe6b19d』
「……ッ‼︎ わ、私の右眼が……⁉︎」
徐に廊下の窓ガラスを見た。ガラスに写り見えたのは自身の顔。自分自身の顔……その右眼だけ自分の眼では無くなっていた。真っ黒に染まった眼球に桜色に光る虹彩。
——い、何時の間に……⁉︎
『e7b297e79bb8e381afe38199e3828be381aae38081e4bba5e4b88ae381a0』
脳裏にその様なノイズがかった声が聞こえた直後、朱乃の目は元に戻った。同時に冷え込んでいた身体の体温が元に戻る。
「……な、何だったのでしょうか?」
形容し難いナニカ。その存在が朱乃に一時的に取り憑いた……身体の一部を奪われた様な錯覚に陥る。
——……刻一刻と状況が悪化している、様な気がしますね。一刻も早く打開策を見つけなくては……‼︎
リアス眷属対日本神話勢……数も質も圧倒的かつ絶望的な戦力差。魔王の妹と言うネームバリューも相俟って最強クラスの存在を誘致する可能性も否定出来ない。
「此処ですわね……‼︎」
思わぬトラブルに見舞われたが朱乃は美術室の扉の前に辿り着く。狐花達は此処を拠点としているらしい、元々はアイラ・ニューエイジャーだけだったが賑やかになった様だ。美術室の廊下側の窓ガラスは白い紙が張られて中が見えなくなっている。
——確認出来た皓咲さんの身内は3人。三人の内、2人はシスターと言った聖職者。悪魔とは対極に位置する2人では話は通じない可能性がある。となると、残りのアイラ・ニューエイジャー……になりますね。
誰に話を持ち掛けるか決めた朱乃は意を決して扉を開ける。
「突然の訪問、失礼致します……わ……?」
美術室の風景。アイラが描いた絵画や狐花が描いた絵画(思いの外、ヘタクソ)が置かれているアトリエ。その部屋に居ない筈の者達が待っていた。
アトリエの床に置かれた椅子に座る男子。手には紅茶のカップを持って飲んでいる様子が見えた。その男子ら朱乃から見ても年下に見える。一誠よりも年下、強いて言えば高校一年生位か、だが駒王学園の制服では無い。黒い軍服に近い服装で黒い外套を羽織っている。横顔から童顔である事は分かるが何処かしら看守の様にも見える。
「……君達とは面と向かっては初めましてかな? 今はあの『祟り神』
その男子は朱乃の姿を見るやカップをもう片方の小皿に置いて向き直る。その双眸は桜色になっているのが分かる。つい先程、形容し難いナニカに右眼を乗っ取られた事もあり少し怯む。
「……
その男子の左右には2人の女性と女子が立っている。女子の方は黒髪の短髪の少女であり黒のロンググローブに黒と赤のメイド服を彷彿させる衣を纏っている。後、貧に(検閲により鏖殺)
「……何故、そう言い切れるのですか……?」
「さぁ、何でかしらね〜? 何となく分かっちゃうのよ〜。貴方達の中で貴方しか真面に会話が成立しないから、此処で待っていたのよ〜」
もう片割れの女性は駒王学園の中でも比較的高身長であるリアスや朱乃よりも僅かに身長が高く尚且つ、自分達と比類する程の爆乳。此方も女子と同じ黒と赤の配色の服装だが下乳になっていたりスカートにスリットが入っていたりと随所に露出が見える。
——敵意は無さそうですけど……。
朱乃の前に現れた3人の存在。朱乃は纏う気配から人間では無い事を理解する。口振りから狐花は愚か、アイラ達がこの駒王町に居ない事を確信している。
「……貴方方は何者なのですか?」
「知らないかな? 冥界、悪魔社会から離反した家系を」
「……!」
男子が開いた口から投げ掛けられる言葉に朱乃は心当たりが浮かぶ。リアスから昔、『裏切者』の話を聞いた事がある。三大勢力の泥沼の大戦後、悪魔社会から離反し冥界から去った家系が『旧魔王派』以外に存在すると。
「まさか……⁉︎」
「改めて初めまして。僕はリィティア。リィティア・アンドラス」
——アンドラス……‼︎
彼、リィティアが名乗った名前に朱乃は顔が強張る。裏切者の家系で筆頭格だと言われた家系。そして大戦では後の魔王となる悪魔と同等の武勲を立て……もし存続していれば四大魔王の座を争奪していたかも知れないと言われた悪魔の家系。侯爵家と雖も戦闘力では大王家に匹敵すると謳われた。
「君達も名乗ったらどうかな?」
「リィティアが言うなら……。シノア・アスモデウス」
女子の方はツリ目のままそう名乗る。具体的には朱乃の胸を嫉妬深く見ている気がする。
「ふふ、シャルロッテ・アスモデウスよ。シノアのお姉ちゃんよ」
女性はシノアの姉らしく手を頬に添えてそう名乗った。
——あの2人はアスモデウス……‼︎ 旧魔王派のアスモデウスとは別に離反した家系、との事でしたが……。
「本来なら君の『王』に会う所だけど……君の『王』、気が触れているでしょ?会話にならない」
リィティアはリアスが『会話にならない』と見ている。朱乃は現在のリアスの様子から確かに会話にならないと思える。だが、何故……その事を知っているのか?
「猫魈の子は会話になりそうだけど〜、後が難しいでしょうし〜……今、此処には居ない子にシノアを見せたく無いのよね〜。騎士の子は真面に会話が出来そうだけど、居ない。消去法よ」
「……目的は何ですか?」
裏切者の悪魔達。アンドラスが筆頭格でありその他の家系が追従している様にも見える。目的が見えない。少なくとも現在の悪魔政府とは相容れない筈……その目的は……?