チビ狐花の裏幕府行脚。その過程では彼方此方で大なり小なりのトラブルが発生した。件のロリコン空母と重巡の付喪神が暴走したり、24時間アルコール中毒の付喪神が絡み酒したり、ロイヤルな茶会のポッドの中に落ちて飲み干したりと、散々な事になった。
「んにー、戻った」
そして、大きな変化はチビ狐花が元の大きさに戻った事。ロリコン付喪神達からスコーンやレープクーヘンを貰ったり、アルコール中毒の付喪神と共に葡萄酒のボトルを5本単位で軽く飲み散らかしたり、ロイヤルティーな茶会では紅茶を飲み干した挙句、女王陛下の前に置かれたいちごケーキを強奪して食べた結果、栄養が身体に回って元の大きさに戻った模様。
『……何と言いますか、結構やりたい放題やらかしましたね』
恐介は小さくなっても狐花はフリーダムな行動に呆れを見せていた。特に英国の『陛下』と呼ばれる戦艦の付喪神『クイーン・エリザベス』に献上された苺ケーキを眼前で強奪して食べるなど、恐れ多い事をやってのけた。(直ぐに次のケーキを出された為に事なきを得たが)
「そう?」
コレでもマシな部類だと言われているが、過去の狐花はどんな真似をやらかしたのか……確か、島一つを沈めたとか何とか言っていた気がする。
——今でも『死ね』と言いながら周囲の事、お構いなしに燼滅させに掛かりますけどね。駒王町での件では、悪魔を町諸共滅ぼしに掛かって居ましたがね。
恐介のそんな不安を他所に狐花は恐介を頭の上に乗せて裏幕府の廊下を歩いて行く。辿り着いた先は船渠と呼ばれる区画。裏幕府ではある種の工廠として機能している。
「……んにー、ケーニヒスベルク〜。明石〜」
「おや、狐花さんじゃ無いですか? あれ、確かミニマムサイズにまで縮んだと聞いて居ましたが……?」
「戻った」
狐花の声に明石が気付いて部屋の奥から顔を出した。狐花の姿を見て体が縮んだのでは?と尋ねるが戻ったと返答した。
「ええ⁉︎ 嘘でしょう⁉︎ 小さくなったと聞いて、貴重なサンプルが得られると舞い上がって待っていたと言うのに⁉︎」
その奥から甲高い声を出しながらまた別の付喪神が飛び出して来た。眼帯を付けた隻眼は煌煌と赫く、対するその素肌は病的な迄に白い。纏う服はシースルーであり、ブーツ以外は水着を身に付けている様にしか見えない。そして鋭い双角が備わる鋭角的なティアラを頭に付けている。その付喪神は狐花に急接近するなり持ち上げて上下に揺する。
「もう一度小さくなって下さい‼︎ 今すぐ‼︎ せめて、サンプルを採取する間だけで良いですから‼︎」
「んにー、無理〜」
「そんな『(ーwー)』見たいな顔で断らないど下さい‼︎ 姿其の儘で縮小化だなんて、早々にお目にかかれないんですから‼︎ ほら、早く小さくなって下さい‼︎︎」
『いや、◯◯◯ンじゃ無いんですから……』
「あの〜、ケーニヒスベルクさん。興奮するのはその程度にした方が良いのでは?」
「何ですと⁉︎ 私は興奮なぞしていません‼︎ 常に‼︎ 冷静に‼︎ 研究を行いたい所存なだけです‼︎」
それの何処を見れば興奮していないと宣えるのだろうか……。
「……その状態で興奮なぞしていないと良く断言出来ますね。早く降ろして上げてやって下さい」
「むぅ、仕方ありませんね」
ケーニヒスベルクと呼ばれた付喪神は渋々と言った形で抱えていた狐花を床に降ろした。
「ならばどうしてそうなった経過報告位は聞かせて下さい。検証実験を行いますので」
『えーと、試してもお嬢以外には早々はならないかと……』
「ぬ、再現性が無ければ意味はありませんね。狐花さんが特殊か……或いは我々とは違う種類の付喪神であると言う前提条件が加味されているのかも知れませんね」
ケーニヒスベルクはそうぼやきながらブツブツと考察を頭の中で広げている。勢い余って他の付喪神を使って実験を起こそうかと考えているかも知れない。
「……所でご用件は何でしょう?」
「ボーイズ改修して〜」
狐花は何処から取り出したボーイズ対戦車ライフルを明石に見せて改修する様に頼む。
「え?コレを改修するんですか?」
「んにー。5連装バルジを貫通する位の火力が欲しい」
彼女は一体何と戦っているのか。超大型生物をブチ抜くつもりなのだろうか?
「え、えーと……つまり大火力に耐えられる構造と?」
「んにー。弾は自分で造れるけど、銃器の本体は無理〜。出来たらThundeとMG42みたいなモノを回し撃ちしたい」
いや、本当にナニと戦うつもりなのだろうか? と言うかジェノサイドオーバーキル前提の戦術が好みなのだろうか?
「……き、狐花さんの体格だとボーイズ自体も大き過ぎるのでは……?」
持ち上げる以前に運ぶ事も覚束ないであろう体格に、更に重量追加するとはコレは如何に。
「うー、ダメ……?」
「駄目……と言いますか何と言いますか。無茶と言いますか……」
何処の世界に対戦車ライフルにマシンガン機構を備える開発者が居るのだろうか……普通に無茶過ぎる。と言うかお互いの長所を見事に潰してしまう産廃と化するだろう。
「……コレ、あげるからお願い」
そう言い狐花が取り出したのは何時ぞやの蛇悪魔の右腕(骨と皮+黒いヘンナノ)の残骸であった。捨てたと見せて、実は残していた様だ。捨てたのは肉の部分だった様である。ソレを見たケーニヒスベルクは眼光を滾らせながら迫る。
「何ですか、ソレは?もっと良く見せて下さい‼︎ 残骸でも貴重なサンプルです‼︎」
「ん、転生悪魔の腕とヘンナノ……」
「転生悪魔の⁉︎ 良いでしょう、明石さん。改修費はコレで手を打ちましょう‼︎ いやぁ、裏幕府に運良く現れる悪魔は皆さんがグズグズの黒泥に変えちゃって調べようが無いのでヤキモキしていた所です‼︎ 皮と骨だけでも研究素材としては有用‼︎ さぁさぁ、早速始めますよ‼︎」
「な、何と言うか……勝手に話を進められた気がするわね……」
『……何処の世界にも見境なく暴走する方は居るんですね。手段と目的が入れ替わると言うか、そんな感じの人が』
研究したい欲を満たす為に材料を求める、と言う事だろうか。
「……フフフ、流石にマシンガン機構とまでは行きませんが……満足の行く出来に仕上げて見せましょう‼︎ こうしてはいられません。速やかに仕上げて研究せねば……‼︎」
『あのー、アレ……大丈夫なのでしょうかね?』
「うーん、多分、かな? 危ない所は私が改修し直して置くから……こうなったらやるしか無いわね」
明石は呆れながらも研究欲により暴走するケーニヒスベルクのフォローに入るのであった。
ケーニヒスベルク ブラックサージナイト