『……訳分からんモンやしな。俺様も神器の細かい所はよー分からん。それに死ぬ運命ちゃうんやから、死なせる訳にも行かんかもな。モノは試しや、やって見よか』
五七は浮遊する神器を彼女の身体に押し込む形で叩き込んだ。
「……ッ……?」
その数秒後、死んだと思われていた少女の瞼が動き始め、目を開いた。息を吹き返したと思われる。
『……仮死状態、って奴やったんかも知れんな。神器を摘出しても即死にはならず、仮死状態となる、って訳かも知れんな』
「…………えと、此処は……私、確か……?」
「記憶の混濁。仮死状態ともなれば記憶の前後は曖昧になる」
『詳しいな、おまはん』
目の前の金髪の少女は翡翠の双眸で周囲を見渡す。ダンボール箱位しか無い。殺風景な部屋、そして視界に入るのは巫女服の少女と狐の姿をした幽霊の様な存在。
「えっと、貴方達は……?」
『おっと、俺様が見えんのかい?じゃあ、話は早ぇな。狐花、自己紹介しろよ。何事も経験や、経験。まぁ、昼間の姉ちゃんは例外としてな』
「ん。皓咲 狐花。貴方は廃墟と化した教会で堕天使に殺害?された。違う?」
『おまはんなぁ……いきなり核心にツッコむ事ァ、無いやろ』
狐花の躊躇無い言葉に五七は呆れを隠せない。前置き無しにいきなり核心に入る馬鹿が何処に居るのか、と。
「は、はい……」
「「…………」」
『おい、話が続かんぞ。取り敢えず、其方はんの、事情聞こか。話せる範囲でええし、堕天使の事も理解してんやったら、俺らも三大勢力の事も知ってっから、其処は遠慮せんでええよ。俺らはその三大勢力に属してる訳やないし』
一方的な会話になりがちな狐花に代わり五七が取り次いで話を進める事となった。
彼女の名前は『アーシア・アルジェント』。元々、教会前に捨てられた孤児で其の儘、教会でシスターとして育った。そしてある時に神器が目覚めたと言う。それは『聖母の微笑み』と呼ばれるモノであり、他者の傷を癒す力を持つと言う。その素質が目覚めて間もなく大きな教会に移されて数多くの人間の傷を癒す仕事に着いた。本人もそれが役目であり誇りと思っていたそうだ。だが、その日々は唐突に終わりを迎えた。
その神器は教会に取って敵である悪魔をも癒す事が出来る事が発覚(生き倒れていた人間を癒したが、それが悪魔であった事が判明)し、一転してアーシアは『魔女』の烙印を押されて教会から追放された。追放された彼女は庇護を求めて堕天使の勢力に身を寄せるべく日本に来日(この時点で五七は『巫山戯んな』と言う顔)した。その際に猛勉強して日本語を覚えたと言う。来日、したのは良いのだが、その堕天使が庇護を受け入れた理由は自分に宿る神器が狙いだった。その為、廃教会にて神器を抜かれ殺された(此処は直前の為、曖昧だが、狐花の見立てでは恐らく間違いない)。コレが彼女の顛末である。
『ほーん。大体、おまはんの状況は分かったわ……しっかし、災難やなぁ。尼僧の格好しとったから少なくとも三大勢力絡みやと思ったんやけど、ガチ入りやな。思いの外、一般人ってのは少ないのやも知れんで……ほんま、嫌なんで』
「え、えと……気分を害しましたか……?」
『いやいや、俺様の話や‼︎ 気にせんで、ええで。でや、おまはん、コレからどないする?つってもなぁ、行くアテ無い一文無しで生きていける程、扶桑は甘ないし……それが、未成年で異邦人やと尚更やな……身請け人なんてこの国に居らんやろ?』
「はい……」
『しっかし、悪魔に加えて堕天使の連中までも扶桑に根を張ってんのか、やってられんわな。かと言って、どうすっかね〜……狐花も知り合いが多い訳、ちゃうしな』
アーシアの処遇を巡って思考を巡らす五七。彼女が『裏』……即ち神話絡みの勢力に心身的に無関係であったのならば然るべき所に委ねるつもりであったのだが、完全に三大勢力関係を知っている存在。その上に神器持ち……放り出すのも無責任な事だろうか。
『独断で『日本神話』の庇護を決めんのはマズいしな……三大勢力の所為で殆どのお上が荒神化してて、最悪のデスコンの厭魅で縊り殺されるやろしな……かと言って狐花のお上である経津主神は基本的にそう言う事に関しての発言権無ぇと言うか、興味無ぇしよ……』
三大勢力が荒らしてくれたお陰で日本神話の神格が怒りに任せて荒神化している。その為、独断でアーシアに日本神話の庇護を決めとそのとばっちりを喰らう羽目になる。
『『裏幕府』の連中に任すか?彼処は異邦からの面子を受け入れているしな。だが、彼処は『護国鎮護』を是とする付喪神達の勢力だ……日本人ならば兎も角、外来の人間を受け入れてくれるかどうか……』
「長門様やクイーン・エリザベス陛下は御人柄は良いけれど……ドイツ側の客艦達はキレるかも知れないよ。だって、金髪だもん」
『あー、そりゃマズいかもな。バラバラの肉塊にされて、海に流されるやも知れんな……』
「ひ、ひぇぇぇ……‼︎」
『裏幕府』と言う日本神話と番を成す扶桑の国に於いて一大勢力の名を出すも、狐花はその勢力と知己な為に『難しい』と告げた。最悪、バラバラに解体される可能性があると予測を立てた。
「……三鈴。探したぞ?よもや、この様な馬小屋に居るとはこの
その時、狐花の背後に長身の美丈夫が堂々とした立ち振る舞いで立っていた。青髪の長髪を靡かせた和装の美丈夫。その人物がこの場に現れるまで、全くの気配を感じる事が出来なかった。狐花も五七も、アーシアもその声を聞いて初めてその人物の存在に気付いた。そして、五七はその姿を見て驚愕した。
『な、な、な、な、な、なななななな……‼︎⁉︎』
「え、えっと今度は何方様でしょうか……?」
『待てい‼︎ 待って‼︎ 嘘やろ、何で、どうして⁉︎ いや、マジで何で‼︎』
「狐。己が此処に居る事がそんなに不満か? どれ、一度、作り直してやろう」
『いやいやいやいやいやいやいやいや滅相も御座いません‼︎ 素直に驚きました故に‼︎ お許しを、お許しを‼︎』
「何、冗談よ。己は物作りは得意だが、命を作るのは別の者の役目よ」
美丈夫に頭を鷲掴みにされた五七は必死の弁明をする。本当にこんな形で遭遇するとは思っても居なかったからである。
「えっと、し、皓咲さん?この方は……?」
「…………」
騒乱する部屋で狐花だけは、沈黙を保っていた。驚いている訳では無い、ただ目の前の存在と相対するに相応しい態度を整えているだけであった。そして、口を開いた。
「御久しゅう御座います。伊弉諾尊様」
「うむ。息災で何よりだ、三鈴。暫く見ない間に……さほど変わっておらんな?」
「んにーっ‼︎ うっさい‼︎」