「悪魔と人間に対する惜しみない憎悪だよ。
黄昏時、夕暮れの日の光を浴びて狐花はそう告げた。それは狐花が悪魔を燼滅させる理由の淵源。
「……悪魔は分かりますが、何故……人間をも?」
「……
あの人は分かる。どんな人物から分からないが……。だが、『あの人達も』は分からない。
「えーと……狐花さん。あの、良く分かりません」
「狐花ちゃんが悪魔を憎むのは何となく分かったけど……本当に何となくね。そのスタンスが分からないわ。敢えて言うなら受動的と言うか」
——狐花ちゃんは自分の事を話そうとしない。
狐花の抽象的な説明ではアイラ達には伝わらない。最も狐花は
「あの人は神を悪魔を、そしてあの人達を呪い願った。あの人達は彼女を呪った、恨み願った」
だから狐花は曖昧にしか伝えようとしない。
「最期はこう、願った」
「皆死ね、と」
「「「……」」」
「抽象過ぎる説明だけど、要は……狐花ちゃんはその人の為に動いている。その目的は悪魔と人間に『死』へと至らしめる。そう言う事?」
アイラが狐花の曖昧な説明を纏める。狐花は『あの人』の悪魔と人間に死を願い、その願いを成就させる為に行動している……。しかしその説明だけでは起承転結の『結』しか見えない。何故、悪魔のみならず人間までも死ねと願ったのか……どうして狐花がその行動を起こす決意に至った理由が全く見えて来ない。
「ん。そう言う事。軽蔑したり拒絶するなりして構わない。貴方達は人間……本来、関わり合う必要の無い関係……此処で縁を切りたいと言うのなら……それも良いと思う。神秘の存在は
其処で狐花はアイラ達にある事を委ねた。それは『自分との関係を終わらせるか?』と言うモノ。即ち自分自身の目的と本性を明かした。自身は悪魔は愚か人間からも害悪たる存在。或いは偽悪者。そして人間とは違うモノ。
人間は人間としか本当には分かり合えない。故にお互いが一緒に居るのは好ましくは無い。
悪魔が仲間を増やす為に同化行為とも言える眷属化させる理由の一例。
——マズい、狐花ちゃん。此の儘放置すると1人で飛び出しかねない。多分、もう目の前に現れないかも知れない……‼︎
「あのね。本当にそう思うのだとしたら視野狭窄よ、狐花ちゃん」
「?」
狐花は頭が良い。それはアイラも理解して居た。少なくとも見た目の年齢とは思えないし銃火器や爆弾を使った戦術。更には聖典の言葉も理解している……。
しかし頭は良いが……自己完結してしまっているきらいがあった……簡単に言えば人の話を余り聞かないと言う事。全部、自分で判断して行動してしまう……それはつまり、初めから他人を信じない個別主義。
「どうして何でもかんでも1人でやろうとするのかしら? 本当に1人で悪魔や人間を絶滅させる気?」
「出来る出来ないは言わない。やる、それだけ。道半ばで絶えるならばそれも現実であり事実。その前に1匹でも多く道連れに虐殺するだけ」
本当に頑なである。本気で絶滅に追い込もうと考えている。出来るや出来ないと言う理念は無い。やると決めたからやるだけ。
「……荒唐無稽、無謀、好きなだけ言えば良い。殺すだけ殺したら後は散り果てるだけ。殺戮を是とするモノを生かす必要はない」
得物を手にした時、結末は無残な亡骸と化すのみ。幸福なぞ、要らないし望むべくモノでは無い。殺戮を是とするならば殺戮に沈むもまた道理。他の命を蹂躙する者、即ち蹂躙する者に屠られる。即ち殺戮、殺し合いの連鎖なり。
「……狐花ちゃん。悪魔を滅ぼす事には同意致しますわ。人々を葬る行為は……止めて頂けませんでしょうか?」
「わ、私からもお願いします‼︎ その人達にもき、きっと理由があった筈です……‼︎」
静香とアーシアはせめて人間達への鏖殺行為だけは止めて欲しいと頼む。そして狐花はその果てに死ぬつもりなのだろう。願いが叶った暁に待つのは自身の『死』。世界に自分は必要ないと言う闃寂たる現実視。
「……それが私の存在理由。殺す為に生まれた、それだけ」
「ほ、本当に意固地ですわ……‼︎」
「狐花ちゃん。それだと、私達も殺すつもりなの?」
「………………………………………………」
狐花の目的を思案しアイラはそう質問した。狐花は『人間』と『悪魔』の死を願った『あの人』の願いを叶えるべく行動している。だとすると、その願いは遠大なる規模を誇る。それこそ全人類を滅ぼさなければ達成されない。そう考えると自分達を狐花が殺さなくてはならなくなる。
「………………………ぁ、ぅ…………‼︎」
——自己矛盾し始めている。五七達の会話でこの子は今迄、独りぼっちだったし、神様と一緒に居ても心は変わらなかった。だから誰かと常に居ると言うのは変化を齎した筈。
『願い』とコレまでの皆との生活を天秤にし狐花は生まれて初めて心が動揺した。殺さなきゃ行けない、殺さないと『願い』が叶えられない。でも……と言う思い。その矛盾に震えている。
「狐花ちゃんがその人の為に行動しているのは分かるわ……。でも、だからと言って悪魔に関しては情緒酌量の余地は無いと思うけど、幾らなんでも無関係な人達も纏めて死ねなんて短絡的過ぎるわ……‼︎」
——それに狐花ちゃんの話だと最後しか分からない。本人が話したがらない内容なのは分かる……でも、此の儘放っておく訳には行かない。
「静香やアーシアもそう思うし、私も思う。敵と無関係なモノを纏めて壊すのはダメ‼︎」
「…………」
訓練の時でも味方と敵の区別が全くついて居なかった。それは今も変わって居らず纏めて葬ってしまっている。今回は銃火器を使用して居た為に難を逃れているが広域……霊術を使った殲滅だと、アイラ達も纏めて消炭にすらならない黒泥へと還る事になるだろう。後に残るは狐花だけとなる。
「……ねぇ、どうして……そんな願いを引き受けちゃったの? 其処までやろうとするの?」
——『願い』の為、と言っても……余りにも荒唐無稽過ぎる。普通、やろうと思っても限界ってモノがある。それに、絶対に報われないし救われない結末しか見えない。それでも、やろうとするのは何故?
狐花は躱しても追求されると理解して口を開いた。
「それは……私があの人の——」
そろそろ、狐花の正体に辿り着く方が居られる事でしょう。そして、その行動の心理も含めて……。