とあるオタク女の受難(ゴブリンスレイヤー編)。 作:SUN'S
儂らも大概は化け物と言われとるが、あの無形のは常軌を逸してしまっとる。普通、対多数の戦いと言えば陣形を組み、確実な勝利を得るために無駄を削るのが当たり前なんじゃが、無形のはかみきり丸に気を取られた小鬼の足を掴み上げ、正しくフレイルの如く振り回しちょった。
ありゃあ、相当な鍛練を積まんと無理じゃわいのう。けんども、無形のじゃと「見たら出来た」あるいは「やろうと思えば大抵の事は出来る」と宣った。いくら儂より高齢とはいえ些か冗談も度が過ぎると言うもんじゃよ。
「ちょっとゴブリン来てるわよ!!」
「分かっとるて、騒いでも仕方無かろう!」
まったく二千年も生きちょる癖に喧しい娘っ子じゃ、少しはす無形のを見習って無駄な事を言わず、自分の出来ることに集中せんか。そんなんじゃから金床みたいな身体になるわけよ。
そう密かに心の中で考えた瞬間、目の前をゴブリンの作った矢が横切った。そういう悪口を聞き逃さん耳は羨ましいが、今は無駄撃ちしとる場合じゃなかろう。このままじゃと無形のとかみきり丸に、ほとんどの良いところを持っていかれるぞ。
「鉱人導士さん、火酒を借りてもいい?」
「おう、構わんぞ!」
儂は後ろ腰に持っとる酒瓶を無形のに放り投げると、あいつは口の中に蓄えた酒を吐き出しやがった。いくら辛くとも吐き出さんでも良いじゃろ!と叫び掛けた。次の瞬間、チャンピオンの足元に溜まり込んどったゴブリンの死体は勢い良く燃えた。
いったい、なんの魔術を使ったのかと聞きたくとも近寄るわけにもいかず、儂は無造作に吐き捨てられる酒を見ることしか出来んかった。
「ほんと、辛くて火を吹きそうだ」
いや、お主の文字どおり火は吐いとるぞ。
それも鉱人秘蔵の酒を使ってな。
もう少し加減することは出来んのか?と聞けば「それは状況的に無理だ」と断言され、かみきり丸はチャンピオンの首を掴み、大きく抉じ開けられた口の中に筒を放り込んだ瞬間、チャンピオンの頭と鎖骨辺りが弾けおった。
今のは魔術の一種かのう。それとも錬金術の類いと考えるべきか。これは、なんとも難しい。ほんの数秒で爆発する筒、どういう仕組みなのか。鉱人として、導士として、なんとしてでも知りたい。
「ねぇ、最初に何て言ったか覚えてるかしら?」
「確か『毒攻め、水攻め、もろもろをするな』だったか。だが、あれは爆破だ。お前の注意には入っていないだろう」
「爆破も『もろもろ』に入ってるわよっ!」
耳長の、そりゃあ言いがかりにも程があるぞ。しかし、お主の言うとおり威力と音は凄いもんじゃったが、あれで倒せたのはチャンピオンだけじゃ、実戦で使えるとは思えんよ。
「火酒無くなったけど、蜂蜜酒でもいい?」
「おう、ちょっくら説教じゃ」