とあるオタク女の受難(ゴブリンスレイヤー編)。   作:SUN'S

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このお話で最終回です。

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第20話(蜥蜴僧侶(シャーマン))

拙僧の同胞を模すものは真の名で呼ぶことすら危うく、近くにいるのかも曖昧な夢幻だ。なにより異教の神なれど彼の者たちがいる。それを知る事が出来たのは彼女のおかげだ。だが、拙僧の借りた宿舎へと取り入るのは解せん。この蜥蜴人の血脈を欲するならば小細工などせず参れば良いものを。

 

「鱗の、どうしたんじゃ?いつもより悩んどる時間が長いぞ」

 

「拙僧も中々に未熟と痛感しているのだ。術師殿は悩みなどありますかな?」

 

「儂の悩みか。そうじゃなあ、無形のが持っとる蜂蜜酒の製造法を知れんことさのう……」

 

鉱人と蜥蜴人の違いと言えば簡単な事なのだろうが、拙僧の悩みとは別物だ。彼女の剥き出す姿を見た瞬間、あれは忌むべきものだと感じた。しかし、それと同時に何と美しく猛々しい者なのだと心を奪われ、先日の百腕巨人の封印を解かれた時に放たれた極光は拙僧を虜にした。

 

あれほど強く気高い者の心の臓ともなれば恐ろしき竜へと至るのは容易いだろう。ただ、拙僧の子を産みたいと言い寄られた時は何者かの天啓を受けたのは事実であり、拙僧も彼女との子なら吝かではない。されど、拙僧と彼女の種族の溝を越える事は難しい。どれだけ武功を立てようと拙僧は一介の蜥蜴人にしか過ぎず、彼女は邪神の御息女である。

 

拙僧が大金を出そうと子を成すなど出来る筈が無い。否、その様な世迷い言を繰り返すだけで彼女と親しく接する事を避けるのは男としてあるまじき行為だ。そう考えていると術師殿が「それだけ悩んどるなら、いっそのこと当たって砕けるのはどうじゃ?」という有り難い助言をされた。

 

そう、そうだとも初めから悩む必要はない。邪神と言えど四方の神々の定めた掟を破ることは出来んのだ。拙僧は悩むどころか彼女の言葉を肯定し、新たな宝を育むでも良かったのだ。

 

「術師殿、先程の言葉は有り難く」

 

「よいよい、その代わりと言ってはなんじゃが、無形のから蜂蜜酒を貰ってきてくれんか?」

 

「おお、そのぐらいであれば何度だろうと」

 

ゆっくりとギルドの食堂を抜け出し、巫女殿の引き歩く「あいすくりん」の屋台を手伝う彼女を探して人混みを掻き分ける。はやく、はやく、この高ぶる想いを彼女へと届けたい。

 

「神官ちゃん、そろそろ冬だぜ?」

 

「ソフトンさんのアイスは冬でも食べれます!」

 

「えぇ、そうかい?」

 

「はい!」

 

やっと彼女を見付けた。あまり人々を驚かさぬように小走りで二人のいるところへ歩んでいき、巫女殿と笑い合っている彼女を強引に振り向かせ、この想いの丈をぶつける。

 

「拙僧と夫婦の契りを結んでくださらんか!」

 

「はい、喜んでッ!!」

 

あまりにもあっさりとした幕引きだが、拙僧の溢れるあ好意を吐き出すことは出来た。なんともいえぬ、高揚感を感じるせいか。どこかでからん、ころん、という賽子を転がす音が聴こえた。

 

「ふふっ、一生離さないからね」

 


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