とあるオタク女の受難(ゴブリンスレイヤー編)。 作:SUN'S
そいつは不穏な気配を発する女だ。速く殺さなければいけない。斬り殺せ、殴り殺せ、刺し殺せ、絞め殺せ、そんな言葉が頭の中で反響する。
少し意識が飛び掛けているが、俺の成すべき事はゴブリンを殺す事だ。何者かは知らん。俺は英雄でもなければ勇者でもない。世界を救うために女を殺せ?そんなもの知ったことではない。
俺はゴブリンを殺すだけだ。
「あの、どうかしたんですか?」
そう問い掛ける声に意識を戻される。
俺は女神官と魔術師に気遣われながら森人の捨てた砦の前に佇んでいた。さっきの呼び声はゴブリンシャーマンのものか…。
「他者の精神を操る呪文だよ、数秒とはいえ君は意識を混濁させられていた訳だ。まあ、何にせよ。ずいぶんと悪趣味な呪文を使ってくる」
俺は運良く呪文を跳ね返せたらしい。あのまま意識を呑まれていれば、この二人を惨たらしく殺していたということか。
「えと、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、多少の吐き気はあるが問題ない。それより裏手や脱出路はあったか?」
「いあ、そう言った物は無かった。付け加えるとすれば呪文遣いの悪足掻きは見れたよ」
「そうか」
あの呼び声はゴブリンの物だと魔術師は納得させるように言っている。俺もゴブリンの物だと言われて納得はしているが、微かに聞こえた賽子の音は何だったのだろうか…。
なぜか、それを上手く思い出す事が出来ない。
「ふんぐるい、むぐるうなふぅ!」
ふと視線を魔術師へ向ける。
壮大な手振りで呪文らしき言葉を発しているところを女神官に捕まって「昨日の祝詞も駄目ですが、その祝詞はもっと駄目です」と叱られている。
ゴブリン共は二人のどちらかを警戒していたようだが、あの二人を警戒していたのではなく、俺を使って一網打尽を狙っていただけか。
そう考えれば納得できる。
「ゴブリンスレイヤーさん?」
「いや、なんでもない。そろそろ火も消える頃合いだ。どこかに潜み、生きているかもしれないゴブリンを探す。なんとかという短剣は残っているか?」
「何度言えば覚えてくれるんだ、これは恐ろしき一刺しの短剣だって…」
「いくら魔法を付与したところで短剣は短剣だ。数回使えば脂で斬れなくなる」
「あ、あはは…」
深い溜め息を吐く魔術師は雑嚢を開き、ハバキに六芒星の刻まれた短剣を手渡してくる。作った本人の前で言うのはあれだが、こんなもの松明の代わりに使える短剣と思えば良いだけの事だ。
「炎の精よ、付き従え」
「その呪文は覚えてくれたのか…」
「ああ、短くて覚え易かった」
そう魔術師の問い掛けに答えると苦笑いを浮かべながら女神官の近くに寄り添い、辺りを警戒して俺の後ろを着いてくる。
ずいぶんと話し込んでいたが、その間に襲ってきたゴブリンは一匹もいなかった。俺たちが帰るのを待っている可能性もあるが、このまま探索を続けるのは白磁の二人に掛かる負担が大きすぎるか…。
「今日は、これで十分だ」
また、どこかで賽子を転がす音が聞こえた。