闇を駆けるヒーローアカデミア   作:シロロ少尉

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学生の皆さん、今頃は持久走で死にかけている最中でしょうか。私は足が死にました。
今回は戦闘無しのお話です。


神野事件編
第三十一話:目前


ーーーー ??? ーーーー

 

 

(何だ…俺は、奴と戦って…ここは…?)

 

 

赤ん坊の泣く声と、二人の影が見える。狩迅は走馬灯か何かと考えたが、その可能性は低い。目の前にいる男女二人はこれまでの人生の中で見たことが無い。

 

 

(誰だ………ん?)

 

 

奥からもう一人の影が出てくる。声をあげず、すすり泣いているこの女性は…

 

 

(母さん…?)

 

 

昔他界した狩迅の母親がそこにいた。1歳にも満たない子供を抱きかかえているこの男女は抱いていた赤ん坊を狩迅の母親に渡すと、少しずつ涙を浮かべ始めた。

 

 

『この子を、お願いね…』

 

 

『……………』

 

 

そう言うと、その女性は赤ん坊の額に額をくっつけ、小さな光が放たれる。それは本当に豆電球程の小さな光、だが狩迅はその光がどこか、とても温かく感じていた。

 

 

『……………』

 

 

『ず……あ……………らね、私……………い……や』

 

 

(今…なんて………)

 

 

女性の声は少しずつ遠くなっていき、やがて聞こえなくなってしまった。視界が白から黒に変わっていく。

 

 

 

 

 

ーーーー ??? ーーーー

 

 

(ここは…?)

 

 

目を開けると、今度は昔母親と二人暮らしで住んでいた家が目の前にあった。夢だとしても、まるで意味が分からないと狩迅は内心思っていたが、家のドアを開けずにはいられなかった。

 

 

(あの時と全く同じか、懐かしいな…)

 

 

あまりの懐かしさに、少し涙腺が崩壊しかけた狩迅。泣きたい思いをグッと堪え、中を見ていく。すると、どこかから二人の声が聞こえてきた。

 

 

(この二人は…)

 

 

リビングのような所ですすり泣く少年を、母親が抱いて慰めている。恐らく小さい頃の狩迅と他界した母親だろう。

 

 

『お…がァ…さんっ……』

 

 

『……………』

 

 

狩迅の母親は、何も言わずに黙って小さい頃の狩迅を抱きしめていた。

 

 

(……不覚にも、もう夢から覚めたくないって思ってしまったな……)

 

 

狩迅は拳をギュッと固めて、少し歯を食いしばった。その瞬間だった…

 

 

『………』

 

 

(ッ!?)

 

 

狩迅の母が、まぐれかもしれないがこっちを見て、微笑みを浮かべた。狩迅はその事に戸惑いながら、心臓がギュウッと締め付けられる感覚に襲われる。

 

 

(母…さん………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー 病院 ーーーー

 

 

「あ………」

 

 

目が覚めると、白い壁が目に写った。壁というよりも天井だろう。

 

 

(病院か……腕が治ってる。リカバリーガールが治していてくれたのか)

 

 

(思うように体が動かないな。ん?)

 

 

妙に体が重いと思ったら、横にはベットに上半身だけ乗せて、うつ伏せで寝ていた耳郎だった。恐らくずっと看病していてくれたのだろう。

 

 

「怪我が無くて良かった…。ありがとよ、耳郎。」

 

 

寝ている耳郎に小さくつぶやく。

 

 

「時間的には夕方らへんか。ッ!そういえばあの後どうなったんだ。被害は…」

 

 

狩迅が慌てていると、むくりと耳郎が起き上がった。寝ぼけているのか、滑舌が悪い。

 

 

「ん…かひ…?……………狩迅!?」

 

 

「随分と、待たせたみたいだな。悪い」

 

 

安心したかのように泣きじゃくりながら狩迅に抱きつく耳郎。しばらくして落ち着いたあとに、林間合宿の後の事について色々と教えてもらった。まず一つとして、爆豪が敵連合に連れ去られたこと、ラグドールが行方不明になった事、などなど…

 

 

(思った以上に深刻な状況だな。チッ…)

 

 

「俺が寝ていた間に、色々と起きていたみたいだな。そういや、他の奴らは?」

 

 

「爆豪以外みんな大丈夫、緑谷とヤオモモは狩迅とは違う部屋で休んでるよ。あの二人の怪我、結構酷いからさ」

 

 

「そうか…」

 

 

冷静に見える狩迅だが、内心は酷く焦っていた。狩迅は直感していた、このままでは爆豪が危ないと。オールマイトが中心となって様々な名のあるヒーロー達で奪還しに行くことは想像がつくが、それでも嫌な予感というものはする物。

 

 

「少し、緑谷達と会話したい。」

 

 

「ちょっ…ちょっと!!まだ安静に…」

 

 

「大丈夫だ、体はなんとか動く。」

 

 

「なんとか、だったら駄目なんだって!!」

 

 

立ち上がろうとする狩迅を無理矢理ベットに戻す耳郎、疲れたような表情で狩迅に怒る。

 

 

「あんたはまだ安静にしてなきゃ駄目なんだっての!ジッとしてろ!!押し合いでウチに負けるぐらいなんだから!!」

 

 

「悪かった悪かった、もうしねぇよ」

 

 

頭をバシバシと叩かれながら説教をされた。

 

 

ーーーー 夜 ーーーー

 

 

「と言うことでね、君のその腕、綺麗に真っ二つになってたのが唯一の救いだね。轟って生徒が冷やして持ってこなかったら今頃君の左腕は無い物になってたよ。」

 

 

「えぇ、ありがとうございます。」

 

 

「あまり動かずに、絶対安静ね。毒も回ってたんだから、常人ならとっくに死んでいたよ?正直、もう手遅れだと思っていたんだけどね。驚いたよ君の再生力。」

 

 

「昔から体は丈夫なモンで」

 

 

「リカバリーガールにも感謝しときなよ。それじゃこれで」

 

 

「あぁそうそう、伝え忘れていたよ。君の友達から、助けてくれてありがとうって」

 

 

医者は狩迅に注意すると、扉を開け出ていった。一人残された狩迅は静寂の中で、一人ぼっちでいるのが少し心細く感じていた。

 

 

(助けてくれて……耳郎か………ん、手紙?)

 

 

しばらく気が付かなかったが、狩迅のベットの横にある机に小さな書き置きメモが置いてあった。

 

 

ーーーー 今夜、爆豪を助けに行く。一応みんなには伝えているけど、お前は眠ったままだったからな。腕失って、身体に毒が回って苦しいし、痛ぇかも知んねぇけど、それでも聞きたいんだ。お前はどうする、どうしたらいいと思う。         【切島】

 

 

「体は……動く。少し行ってみるか。」

 

 

狩迅は立ち上がり、体を捻らせたり腕を伸ばしたりして準備体操のような事をする。その後壁をつたっていきながらゆっくりと歩いていき、緑谷達の元へ進んで行く。

 

 

 

 

 

 

ーーーー 病院前 ーーーー

 

 

飯田が緑谷を殴り飛ばし、涙を浮かべながら必死に問いかけていた。何故自分と同じ過ちをしようとしているのか、その責任は誰が取るのか、そして思い浮かべる兄の姿と傷だらけになっても戦おうとする緑谷の姿が同じように見えてしまう…と

 

 

「俺は学級委員長だ!クラスメイトを心配するんだッ!!爆豪君だけじゃない、君の怪我を見て床に伏せる兄の姿を重ねた!君達が暴走した挙げ句、兄のように取り返しの付かない事態になったら……僕の心配はどうでもいいって言うのかッ!?」

 

 

緑谷の肩を掴み、そして小さく、無力にも等しいかすれた声で緑谷に問う。

 

 

「僕の気持ちは………どうでもいいっていうのか…………………」

 

 

「………飯田君」

 

 

「飯田、俺達だってなにも正面きってかちこむ気なんざねぇよ。戦闘無しで助ける」

 

 

「要は隠密活動、それが俺ら卵にできる、ルールにギリ触れねぇ戦い方だろ!」

 

 

「私は轟さんを信頼しています。が、万が一の事を考え、私がストッパーとなれるよう、同行するつもりで参りました。」

 

 

八百万の言葉に、飯田は度肝を抜かれる。切島はその言葉に、頼り甲斐を感じていた。

 

 

「僕だって…自分でも分からないんだ。手が届くと言って、居ても立っても居られなくなって、助けたいと思っちゃうんだッ!!」

 

 

緑谷のその覚悟の前に、飯田はもはや頷くことしかできなかった。だが、それでも心配は治まらない、当然だろう。飯田は行かせる代わりに自分も連れて行ってほしいと言う要求をだした。勿論緑谷達は驚くが、飯田の覚悟が十分に理解出来たのだろう、同行を許可した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー ??? ーーーー

 

 

「楽しみになって来たね、そう思わないかい?」

 

 

「十中八九、ヒーロー達が救出に来るでしょう、それも精鋭中の精鋭が。やはり、貴方はオールマイトが目的ですか?」

 

 

誰もいない薄暗い空間の中、二人はその時を待っていた。

 

 

「昔の様には動けなくなってしまったからね、勿論それはオールマイトも同じだろうさ。僕は確実性を持って、彼を殺したい。」

 

 

A「君は僕の為に、戦ってくれるかい?」

 

 

狂気じみたその笑顔を、牙剥を向ける。オールマイトが平和の象徴ならば、さしずめ恐怖の象徴と言ったところか…

 

 

「俺の心臓は既に、貴方が握っている。その言葉を裏切るつもりは、毛頭ない。」

 

 

「期待しているよ牙剥、君は僕の最高傑作だからね。」

 

 

不気味に笑うその巨悪、悪意はもう、目前だった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー 病院前 ーーーー

 

 

「飯田も加わった事だし、さぁ始めようぜ!爆豪救出作戦!!」

 

 

切島の言葉に共鳴するかのように声を上げ、病院を後にしようとする。その時、後ろから声が聞こえてきた。

 

 

「随分と、揉めていたみたいだな。」

 

 

全員が後ろを素早く振り向く、そこにいたのは重症でまだ動けないはずの狩迅だった。

なにもないかのように平然と立つその姿に、5人は驚愕していた。

 

 

「狩迅君!?まだ寝ていたんじゃないの!?」

 

 

「いや、俺はどうやら回復が早いらしくてな、完治した。」 

 

 

「説得力が無ぇぞ。お前は一度腕を失っていたはずだ。それがたかが数日や数時間で…」

 

 

「だから言ったろ、俺は再生力が早いってな。それよりもだ切島。」

 

 

狩迅の目線が切島に移り変わる。狩迅と目があった切島は、まるでこれから戦場に赴く兵士の様にどこか震えていた。

 

 

「あぁ、言いたい事は分かってる。本気だ、爆豪を助けに行く。」

 

 

「飯田に言われたかも知れないが、それがどれ程無謀な事か理解しているのか?」

 

 

狩迅の言葉が最もだろう。切島は黙って狩迅の話を聞いていた。緑谷達には怪我のことは完治したと伝えたが勿論嘘である。例えどれだけ嘘を言っても体は正直な為、少し蹌踉めきながら壁に手を置き、緑谷達に話しかける。

 

 

「ハッキリ言って、お前達全員殺される可能性だってある。大袈裟じゃなく、本気でだ。彼奴等はまだ本領を発揮していない。俺が林間合宿で戦ったやつにオールマイトに匹敵するほどの戦闘力を持っていたやつもいる。」

 

 

「それにそいつだけじゃない。憶測だが、俺は裏にとんでも無い化物が隠れていると見た…。そうだろ、緑谷」

 

 

(オールフォーワン……)

 

 

「そんな事分かっております!!ですから、私がみなさんが暴走した時のストッパーの役割を…!」

 

 

「ストッパー程度で足りると思っているのか?仮に全員無事帰還できたとして、相澤先生から除籍処分を下されるのがオチだ。後先の事を考えろ」

 

 

狩迅の言葉に、5人は無意識に一歩後ろに足を引いていた。狩迅は疲れたかのようにその場に座り込み、目元を抑えた。そして弱々しい声で、最後の忠告を流す。

 

 

「俺達は、まずここにいること自体が奇跡に等しいんだ。だが2回連続でそんなデカい奇跡なんて起こりはしない。今度は本当に………死ぬかもしれないんだ。」

 

 

『………………』

 

 

あまり感情を表に出さない狩迅が必死になって自分らを呼び止めている姿に、緑谷達は心臓を握られている様な感覚に陥った。しばらくの沈黙が流れる、時間にしておよそ10秒程だろうか、その沈黙を緑谷が断ち切る。

 

 

「それでも助けたい、行かないと…。考える前に、体が動いちゃうんだ。」

 

 

緑谷の言葉に、狩迅は深くため息をついた。全員の目を見た後すぐに緑谷へ視線を戻す。

 

 

「………………だと思ったさ。いつもそうだ…」

 

 

立ち上がり、愚痴を溢すかのようにして緑谷に話しかける。

 

 

「個性把握テストから戦闘訓練、USJでの事件も体育祭も職場体験も…、逃げようともせず必死に足抗って、知恵を振り絞って…足掻いて…足掻いて足掻いて足掻きまくって……子供らしくねぇな、本当に。だが実にヒーローらしい。」

 

 

「ついていかせてくれ、足手まといにはならない。」

 

 

『ッ!!』

 

 

「本当か!!?」

 

 

「だがまて、狩迅お前、相当無理してんじゃねぇのか?以前よりも若干痩せている気がするんだが…」

 

 

「関係無ぇよ、それに言ったろ。ストッパーじゃ足りねぇってよ、万が一の時は俺が盾にでもなんにでもなってやる。それが俺の覚悟だ、不満か?」

 

 

 

「不満なんか無いよ、寧ろ…」

 

 

顔を上げ、今の今まで暗い表情だった緑谷の瞳に光が宿る。拳を握りしめ、無理矢理に笑顔を作り出す。

 

 

「とっても、心強い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー ??? ーーーー

 

 

 

「今戻ったぞ。」

 

 

「うへぁ!?ビビったぁ!?」

 

 

何もない空間から、突如として現れた牙剥。使い勝手の良い個性は全て手の内に入れる性な為に強力、または便利な個性は数え切れないほど持ち合わせている。ちなみに今使ったのは瞬間移動である。

 

 

「貴方一体個性何個持ってるの?」

 

 

「知らないな、数えていない。いつも死ぬ寸前まで追い詰めてから貰ってるからな。道端にいたアリを何体踏み潰したかなんて覚えてないだろう?だが使い方は分かるんだ、人が手足を自由に動かせるみたいにね。便利なものだろう?」

 

 

「なんでもありだな…」

 

 

「完全記憶と完全理解の個性を取っておいて正解だったよ。それよりも、この少年」

 

 

牙剥が向いたその先にいたのは、以前林間合宿で襲撃した際に誘拐した爆豪である。

手足には錠がかけられており、現在死柄木は爆豪の性格に興味が湧き、連合の仲間に引き入れようとしていた。

 

 

(個性が?普通個性は一人一つのハズだ、クソが…ますます厄介になって来やがった…)

 

 

「まぁいい、荼毘拘束外せ」

 

 

「は?暴れるぞ、こいつ」

 

 

「いいんだよ、対等に扱わなきゃな。スカウトだろ?それに、この状況で暴れて勝てるかどうか、分からない男じゃないだろ?雄英生」 

 

 

しばらくの沈黙が続いた。その空間は謎の緊迫感に包まれており、誰も喋らずにいた。

そしてそれがほんの数秒経った時、荼毘が口を開く。

 

 

「トゥワイス、外せ」

 

 

「俺ぇ!?やだしィ!!」

 

 

「さっさとやれ」

 

 

「えぇもうやだぁ〜」

 

 

渋々と荼毘の要求を承諾し、爆豪の拘束を外す。その間、その場にいたMr.コンプレスや死柄木はこの組織の意味を伝えた。この敵連合は人やルール、そしてヒーローによって苦しめられた、いわば身勝手な社会から追放された者達の集まりだった。ただ闇雲に力を振りまく連中では無い、その事を理解してほしかったのだが…

 

 

「エェアアアアアアア!!」

 

 

拘束が外れた瞬間、トゥワイスを吹き飛ばし死柄木を攻撃する。

 

 

「黙って聞いてりゃダラッダラよぉ、馬鹿は要約できねぇから話が長ぇ…要は嫌がらせしたいから仲間になってくださいだろぉ…無駄だよッ」

 

 

「俺はオールマイトに勝つ姿に憧れたッ!誰が何言って来ようが……そこはもう曲がらねぇ!!」

 

 

爆豪は不敵な笑みを浮かべながらその場にいた全員に向かって威嚇する。死柄木は顔につけていた手が剥がれ落ち、何かを思い浮かべていた。

 

 

「お父さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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