この作品は、現在私が投稿中の「真剣で念狼<NERO>に恋しなさい!」の息抜きとして
書いたものです。
なので、気が向いたら更新といったスタイルでいきます。
第一幕 姫高校生<ひめは こうこうせい>
―――六月―――
世界最大の財閥である九鬼財閥が生み出した偉人のクローンたちが川神学園に編入した頃、ある場所で二人の人物が会話していた。
一人は十代半ばの少女。
一人は少女の後ろに控える老人。
「姫、本当によろしいのですか?」
「丹波、今更なんだ?すでに編入試験も終え、明日から登校するのだぞ?」
姫と呼ばれた少女はその老人――丹波からの問いに答えた。
過去に何度も似たような問いをされたため、少しウンザリしたような顔で。
それでも、丹波は止まらなかった。
「しかし、姫が一般の庶民たちと共に学び舎に通うなど…勉強ならばこの丹波や黒子たちがお教えしますぞ!」
「何度も言っただろう。私は勉強だけではなく、年の近い者たちと過ごしてみたいのだ」
「しかし…」
「外道衆との戦いは終わり、丈瑠や侍たちは各々の道を歩んでいるのだ。私も自分の望むことをやってみたい。それに今になって取り止めてしまっては、編入を快く受け入れてくれた鉄心殿に失礼であろう?」
純粋に自分の望みを話す姫に、丹波はようやく折れたようだ。
「…わかりました。ではこの丹波、学び舎においても姫を懸命に支えますぞ!」
「いや、学園には来るな。お前がいては“普通の”学生生活が出来んからな」
「そんな!」
「いいな?」
丹波を睨みながら姫が言う。
昔から、丹波は姫に対して過保護だったため、強めに言わなければ聞かないのだ。
「…わかりました。ではどうかせめて明日だけでも!姫を学び舎の者たちにご紹介する役目をお任せください!どうか、どうかあぁぁ!」
「わ…わかったからそんな泣きそうな顔をするな…」
普段なら姫が丹波に押し負けることはなく、丹波が姫に逆らうこともない。
しかしあまりにも必死な表情で懇願してくる丹波に、姫は珍しく折れてしまうのだった。
―――翌日 川神学園―――
仲間たちとともに川神学園の2-Fの教室に登校してきた大和に、すでに登校してきていたクラスメイトである小笠原千花が話しかけてきた。
「ねぇねぇナオっち知ってる?このクラスに編入生が来るって!」
「編入生?またか?」
大和が「また」と言ったのには理由があった。今年の春にこのクラスに編入し、自分や仲間たちのグループ『風間ファミリー』に加わったクリスティアーネ・フリードリヒを始め、九鬼財閥が生み出し話題となった源義経らクローン達、九鬼家の次女である紋白、その護衛である九鬼家従者のヒューム・ヘルシング、さらには納豆小町という呼び名で有名な松永燕と、ここ最近の川神学園には多くの生徒が編入してきているからだ。
「編入生かぁ、面白いやつが来るといいなぁ!」
「美人なら大歓迎だぜ」
大和と一緒に話を聞いていた翔一や岳人はまだ見ぬ編入生に期待していた。
「きっとまた強い人がくるわ。来たらさっそく決闘よ!」
「うむ!手練れの編入生が多いからな!」
一子とクリスは編入生に強者が多かったことから、次もきっと強い人が来ると考えていた。全く根拠になっていないが。
「でも有名人とかすごい人がすでにたくさんいるし、どんな人が来ても驚かないんじゃないかな?」
「それには同意。女子だったら警戒するけど」
期待する面々に対して、卓也は素直な感想を述べた。想い人である大和や仲間たち以外は割とどうでもいい京も彼の意見に同意するが、最近大和は編入生の一人である武蔵坊弁慶と仲良くなっているので警戒心を強めていた。
そうして2-Fの生徒たちが話していると、朝のSHRの開始を告げるチャイムが鳴り、クラスの担任である梅子が教室に入ってきた。
「皆おはよう。さて、SHRを始める前に、今日からこのクラスの一員となる編入生を紹介するぞ」
「先生!編入生は男子ですか?イケメンですか?」
「先生!編入生は女子ですか?エロいですか?」
「何を堂々と聞いとるか福本ぉ!」
「あひぃん!」
イケメンに目のない千花と、エロを追求する福本育郎が梅子に質問する。
一切のためらいなく下品な質問をした育郎に対し、梅子は容赦なく鞭をたたきつけた。
やられた育郎は相当なダメージを負ったはずだが、机に突っ伏す彼の顔はとても幸せそうだった。
「気になるのはわかるが、自分の目で確かめろ。入って来なさい」
梅子が教室の外にいるであろう編入生に声をかける。2-Fの面々は期待の眼差しで入口の方を向くが、入口を開けてまず入ってきたのは…
「く…黒子!?」
黒装束に黒頭巾、そしてなぜか裃を身に着けた黒子たちだった。
彼(?)らは教室に入ると、梅子に頭を下げつつ窓側へと移動させ、教卓をどかし、大きな家紋の描かれた陣幕を広げる。
黒子たちがセッティングを終えると、今度は和服姿の老人が入ってきた。
「おいおい、まさか編入生ってあの爺さんかよ?」
「違うと思うけど、この学園だからねぇ」
老人の姿を見て、岳人と卓也が小声で話していた。
川神学園では明らかに十代ではない人間が学生として在籍していたりするので、卓也は岳人の懸念を否定しきれなかった。
しかし、老人は黒子たちの準備した陣幕や教室の様子を確認すると入口に向かって声をかける。
「姫、どうぞお入りください!」
姫?と生徒全員が疑問に思いながら再び入口を見ると、黒子の叩く和太鼓の音をBGMに、新たに一人入ってきた。
入ってきたのは、少女だった。
これまでの老人や黒子とは違い、和服ではなく川神学園の制服を着ており、ほとんどの生徒たちには普通の女子高生に見えた。
しかし、一子や京、クリスといった武道に通じる者たちは、歩む少女の動きやその体から発せられる強い気から、彼女が相当な手練れであることに気づいていた。
少女は静かに陣幕の前へと歩み、中央のあたりで立ち止まって生徒たちの方を向く。
すると、少女の隣に先ほどの和服の老人が着いた。
「若造ども!よおく聞けぃ!」
老人は、高圧的な声で、どこかで聞いたようなセリフを言い放った。
「こちらにおわすのは、300年の昔より続く侍の末裔!志葉家十八代目当主!志葉薫様である!」
まるでどこぞの副将軍の正体を明かす時のような口上に2-Fの面々は唖然とした。
川神には武士の血を受け継ぐ家系というのは割とあるが、ここまでもっともらしい人間というのはなかなかいない。そんな生徒たちを無視して、老人の口上は続く。
「ええい!頭が高いぞ貴様ら!控え控えーい!」
(席に座ってるのに頭が高いって…ん?)
あまりにもテンプレな口上に内心呆れる大和は、少女が後ろに控えていた黒子に手を差し出しているのを見た。すると黒子はどこからかハリセンを取り出し、少女に献上する。少女は受け取ったハリセンを大きく振りかぶり…
―――ズバアン!!
姫の動作に気づかずに口上を続ける老人の頭を思い切りひっぱたいた。
「あいたたた…。姫,何を!?」
「丹波。編入した以上、私もこの者たちと同じ学生だ。頭を下げさせる必要はない」
「し、しかし姫!」
「もういい。黒子たちと共に下がれ」
「しかし…」
「下がれ」
「…ははあ」
少女からの冷たい言葉を受け、丹波と呼ばれた老人はトボトボと教室から出ていった。
周りに控えていた黒子たちも陣幕をテキパキと片付けて去っていく。
それを確認し、少女は2-Fの面々に軽く頭を下げる.
「皆の者、私の家臣が無礼な真似をしてしまい、すまなかった。あれも悪い人間ではないのだが、考え方がいささか時代錯誤でな」
自分の家臣の無礼を詫びる少女。そんな彼女の言葉を聞き、2-Fの面々は共通の感想を思い浮かべる。
(((いや,あんたも相当時代錯誤なんだけど…)))
そんな皆の考えに気づかないまま、少女は姿勢を正し、言葉を発する。
「改めて自己紹介しよう。私の名は志葉薫。生まれてこの方、学校に通ったことがないため至らぬ点は多いと思うが、よろしく頼む」
静かながらも力強さを感じる声、凛とした立振る舞い。
そして、「
その姿は、まさに「姫」と呼ぶにふさわしいものだった。
生まれる前から戦う宿命を負い、戦うために生きてきた少女、志葉薫。
宿命から解放された彼女の、新たな人生が始まるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
改めまして、常磐です。
この二次創作は実は「念狼<NERO>」を投稿する前から考えていたものですが、
第一幕以降のエピソードがいまいち思い浮かばなかったので投稿していませんでした。
実際、今回の薫と丹波のやり取りを書きたかっただけですので。
なので、次回以降は話を思いついたらその都度更新といったスタイルで行きたいと思います。