真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第十幕 燃姫<もえるひめ>

 

 

結界の中が炎に包まれる中、薫と百代の決闘は続いていた。

開始から既に数十分経過しているが、互いに一歩も譲ろうとはしない。

 

薫は烈火を纏ったシンケンマルで幾度も斬りかかる。

百代は最初こそ薫のモヂカラに動揺していたが、今は想像を超える薫の強さに歓喜の笑みを浮かべながら戦っている。

 

未だかつて見たことのない激闘に風間ファミリーが言葉を失う中、鉄心とルーはその戦いを冷静に観察していた。

 

 

「百代の決闘がここまで長引くのは初めてですネ…」

 

「モモが手加減をしておるわけでもない…薫ちゃんの力は底が知れぬな」

 

 

百代は実力者と戦う時、戦闘を長引かせる為にわざと手加減して戦う場合がある。

それは、例え攻撃を食らっても瞬間回復ですぐに治せるという驕りの表れでもある。

 

しかし鉄心の目から見ても、今の百代は紛う事なき全力だ。

100%の力で戦う百代と数十分に及ぶ激闘を繰り広げられた人物は未だかつていない。

かつて武道四天王の一角を担っていた九鬼揚羽でさえ成し得なかったことが、今目の前で起こっている。

 

鉄心もルーも、一人の武道家としてこの決闘の結末がどうなるかを見届けようとしている。

 

 

そしてここで、長く続いた薫と百代の攻防に、変化が訪れた。

 

 

「はぁ…はぁ…くっ…」

 

「っ!お姉様が…膝をついた!?」

 

 

炎の結界の中で薫と睨み合っていた百代が、その場に膝をついたのだ。

無敵の強さを誇っていた百代が今にも倒れそうな体を地面についた腕で支え、息を荒げているその姿を一子を含むその場にいる全員が初めて目の当たりにした。

 

 

「い…一体、何が…」

 

「百代。お前の強さの要因の一つは、瞬間回復という技だったな」

 

 

自分が膝をついていることに最も驚いていたのは、百代自身だった。

原因のつかめない百代に、薫が冷静に言う。

 

 

「あらゆる傷を瞬時に治癒する…確かに敵にとっては脅威となる技だ。しかし、実際に見れば気を著しく消耗する技らしいな」

 

 

薫の言う通りだ。

瞬間回復は傷の治癒と同時に大量の気を消費する。

どんな手練であろうと、一度使えばまともに立てなくなるほどだ。

百代は人間離れした莫大な気を持つからこそ、戦闘中に使い続けることができる。

薫はこの決闘の中で何度も百代の瞬間回復を観察する内に、その事実に気づいていた。

 

 

「ならば、その身に絶えず傷を与え、回復を持続させればどうなる?」

 

「はぁ…はぁ…何?」

 

 

それが、薫が見出した瞬間回復の打開策だった。

今、結界の中には薫の放った炎が広がっている。

その中に入った人間は、恐らく火傷どころでは済まないだろう。

それは百代も例外ではないが、今の彼女は常に瞬間回復を使い、火傷を負うと同時にそれを治癒し続けている状態だ。

その状態が、薫が炎を放ってから今までずっと続けられているのだ。

結果、百代はこの戦闘中に大量の気を消耗し続けており、既に気の大半を失ってしまっていた。

 

 

「絶えず攻撃を浴びせ続けル…百代の瞬間回復にそんな打開策ガ…」

 

「うむ。だが、驚くべきは薫ちゃんの力じゃ」

 

 

百代の持つ気の大きさは、それこそ天井知らずと言っていいほどに莫大だ。

それを、この決闘の間にあそこまで消耗させるとは、どれだけ強力な炎なのか。

そしてその炎を生み出しながらも、平静を保っている薫には、どれだけの力が秘められているのか。

 

 

「言っただろう。この炎がお前の傲慢を焼き尽くすとな。この結界が張られている限り、お前が炎から逃れる道はない」

 

「はぁ…くっ、くくく」

 

 

百代を追い詰めた薫。

しかし、息を切らす百代は突然笑い始めた。

 

 

「それが、どうした?結界で逃げ場を失っているのはお前も同じだろう」

 

 

膝に手をつきながらなんとか立ち上がる百代。

怪しげな笑みを浮かべながら、目の前の薫にこう言った。

 

 

「知ってるか?爆風でも火は消せるんだぞ」

 

「っ!もしやモモ…!」

 

 

鉄心は百代の意図に気づいたらしい。

百代は己の体に残る気を膨れ上がらせ、叫んだ。

 

 

「川神流…大爆発!!」

 

 

直後、結界の中で巨大な爆発が起こった。

百代が放ったのは、その名の通り自らを爆弾に変える自爆技である。

爆風は周囲の炎を吹き消し、結界の中に煙が立ちこめる。

 

爆心地にいた百代は、残りの気を使って自爆した体を回復させた。

薫の姿は煙のせいで見えないが、閉鎖された空間内では爆発を回避できるはずもない。

 

 

「ハハハハハ!どうだ薫ちゃん!?こんな小細工じゃ私は倒せな…!?」

 

 

勝利を確信した百代。

しかし、彼女の言葉が最後まで続くことはなかった。

煙の向こうから、再び火炎が巻き起こり結界内に広がったのだ。

 

 

「ば、馬鹿な!?あれを食らってまだ…!?」

 

 

百代の自爆によって生じた煙が晴れ、その向こうにいる薫の姿が明瞭になっていく。

 

 

「よもや自爆とはな。だが、私が先ほどお前のリングとやらをどうしたか、忘れたか?」

 

 

薫の目の前に浮かんでいるのは、『防』の文字。

百代の爆発から薫を守る壁となったのだ。

 

 

「まさか、爆風まで…」

 

「今の技でまた気を浪費したようだな。では…反撃させてもらう!」

 

 

薫はシンケンマルから獅子ディスクを外し、最初に交換した黒い『共通ディスク』と入れ替える。

ディスクを回転させると、シンケンマルが赤い光に包まれ、そのシルエットを変化させた。

 

 

「烈火大斬刀!!」

 

 

薫の身の丈を越える紅の大剣『烈火大斬刀』。

突如現れた巨大な武器に、風間ファミリーや鉄心、ルーが驚愕する。

薫と対峙している百代は烈火大斬刀の放つ威圧感に気圧されてしまう。

 

 

「なんだ…これは」

 

「私はこうも言ったな。お前の心を折ると。そのためなら、容赦はせん!」

 

 

薫は立ち尽くす百代に向けて、烈火大斬刀を振り下ろした。

気を消耗している状態でこの大剣を食らえば、百代とてひとたまりもない。

疲労が溜まっていることと回避に慣れていないことが災いしてか、動きは少々ぎこちなかったがなんとか回避した。

 

 

「おおおお!!」

 

 

薫は下ろした烈火大斬刀を、下から振り上げた。

百代がその一撃もかわすと、烈火大斬刀はそのまま薫の背後まで回り、薫は大剣を大きく振りかぶるような体勢となった。

 

 

(チャンス!)

 

 

大型の武器は強力ではあるが、その分扱いが難しい。

大きければ大きいほど重量が増し、自由に振り回すことが困難になるのだ。

小柄な体格の薫であればそれはなおさらである。

薫の今の体勢ならばすぐに振り下ろすことは不可能だと判断し、百代は無防備となっている薫の懐に飛び込むために踏み出した。

 

 

「甘いっ!」

 

 

薫は百代の接近を狙っていたかのように、即座に行動に出た。

振りかぶった烈火大斬刀の峯を後ろに振り上げた右足で蹴り上げ、勢いをつけてその大剣を振り下ろしたのだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

予想以上に早い迎撃に焦った百代は、とっさに両腕でガードする。

振り下ろした勢いと重量を乗せた一撃の威力は凄まじく、百代は結界の壁まで弾き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐっ…あああ!!」

 

 

両腕に受けたダメージに、たまらず声を上げる百代。

治癒しようにも気を使いすぎたために、瞬間回復も上手く働かない。

窮地に立たされた百代をさらに追い詰めるように、薫はゆっくりと歩み寄る。

百代は後ずさろうとしたが、すぐ後ろには結界があって逃げ場はない。

 

 

「私が怖いか?百代」

 

「何…!?」

 

 

薫に言われ、百代は自分の手が震えていることに気づいた。

圧倒的な力を見せつける薫に、百代は確かに恐怖している。

 

 

「今の私は、お前と同じだ。己の思うがままに力で相手をねじ伏せる。お前は昨日の男に同じことをしたのだ」

 

「……」

 

「こんなものは最早決闘ではなく、ただの蹂躙だ。お前はこんなものを求めていたのか?こんなもののために、お前は戦っているのか?」

 

 

薫の言葉は、百代に幼い日のことを思い出させていた。

物心ついた時から、鉄心や両親の下で修行に明け暮れた日々。

武道家として強くなりたい。それこそが百代の初心だった。

 

しかし、生まれながらの才能がそれを歪めてしまった。

強くなるために戦うことではなく、戦いを楽しむために戦うことが目的となってしまったのだ。

だがどれだけ戦っても、百代を本当に満足させられる相手など、ほんのひと握りしかいない。

その相手も、自由に戦える者ではない。

 

それでも戦いを求める百代の心がついに限界に達し、暴走した。

その結果が昨日の挑戦者の惨い姿と、恐ろしい物を見るかのように自分を見ていた風間ファミリーの仲間たち、そして今薫に追い詰められている百代自身である。

欲望のままに力を振るった末に、得た物など何もなかった。

自分の仕出かしたことを自覚し愕然とする百代を見た薫が、百代に声をかける。

 

 

「お前の行いは許されることではない。だが、私はこのまま決闘を終わらせるつもりはない」

 

 

結界の中央に立つ薫は、烈火大斬刀を構えながら叫ぶ。

 

 

「立て、川神百代!武道家として、最後まで戦い抜いて見せろ!!」

 

「…!私を、武道家と呼んでくれるのか?」

 

 

その言葉は、絶望していた百代の心を奮い立たせた。

百代のしたことは決して許されることではない。

それでも薫は百代を一人の武道家として認め、決着を望んでいる。

 

 

「心は未熟でも、お前の強さは武神の名に違わぬものだ。それほどの強者が、勝負を放棄するなど許さんぞ?」

 

「…そこまで言われて、退くわけにはいかないな…!!」

 

 

―――パァンッ!!

 

 

百代は両頬を強く叩いて己に喝を入れ、二本の足でしっかりと大地に立つ。

 

武神は拳。侍は大剣。

相対する二人は、己の武器にありったけの力を込め、駆け出す。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「はああああああ!!」

 

 

激突の瞬間、両者の技が炸裂した。

 

 

 

「川神流、無双正拳突きィ!!」

 

 

「烈火大斬刀・百火繚乱!!」

 

 

 

残る全ての闘気が込められた拳と、燃え盛る紅蓮の刃。

二つの力がぶつかり合った瞬間、爆発が生じた。

 

 

「姉さん!薫さん!!」

 

 

大和を始め、その場にいる者たちが二人の名を呼んだ。

 

 

やがて結界と煙が消え――

 

 

 

 

 

 

 

倒れ伏す百代と、シンケンマルを握りながら立つ薫の姿がそこにあった。

 

 

 

 

「…勝者、志葉薫!!」

 

 

 

鉄心が高らかに勝者の名を呼び、決闘の幕を下ろした。

 

 

 

 





相手が回復魔法ばかり使ってくる→先にMPを削ってしまえ

という考えから生まれた対百代戦術でした。


改めて考えてもモヂカラって便利すぎです。
強力な文字ほど消耗が激しいとはいえ、他人の夢にまで入り込めるわけですし。

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