真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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念狼の方は今後の展開をもう少し練りたいので
しばらくこちらの更新が多くなるかもしれません。


第十一幕 姫先輩<ひめの せんぱい>

―――夜 川神院―――

 

 

「ん…ここは…?」

 

 

布団の中で目を覚ました百代は、自分のいる部屋を見渡した。

そこが川神院の稽古や試合で負傷した者を手当するための部屋であることに気づく。

窓の向こうはすっかり暗くなっていた。

さらに見渡すと、布団の傍に正座している薫の姿を見つけた。

 

 

「目が覚めたようだな」

 

「薫ちゃん…うっ」

 

「無理をするな。気を使いすぎたのだ」

 

 

百代は上体を起こそうとしたが体に上手く力が入らず、すぐにまた横になった。

薫との決闘でかつてないほどに気を消耗してしまったのだ。

それでもその日のうちに目を覚ますあたりは、さすが武神である。

 

 

「私は、負けたんだな…」

 

「ああ。言ったろう?私は負けるわけにはいかないと」

 

「そっか…。あー、何かこう、悔しいなぁ。薫ちゃん怖いくらい強かったしなぁ」

 

 

言ってるうちに、百代の目から悔し涙が流れる。

生まれて初めての完敗だった。

それだけ薫は強かった。あまりにも圧倒的なその力や気迫に恐怖すら感じ、思わず逃げ出そうとしたほどにだ。

 

 

「あの男も、そんな風に感じてたのかな…」

 

 

思い出されるのは、二日前に戦った挑戦者のことだった。

勝負を中断されそうになったことに怒り、一方的に殴りつけた。

薫の言う通り、決闘ではなくただの蹂躙となっていた。

百代は『やられる側』の立場になったことで、自分のしたことの意味を理解した。

 

 

「薫ちゃんはなぜ、私と同じことを?私が許せなかったからか?」

 

「そうではない。お前に己の犯したことを自覚して欲しかったのだ。外道に堕ちぬためにな」

 

 

百代は薫の言葉を、単に他人に暴力を振るう非道な人間にならないようにするためだったと解釈したが、薫の真意は別にあった。

 

 

人の道を外れた者は、生きながらにして『はぐれ外道』という怪物となる。

 

かつてある武士が、人を斬ることに快楽を覚えて多くの人々を欲望のままに斬り殺し、自分に見合う腕の持ち主との戦いを求めて外道に堕ちた。

またある花魁は、自分を裏切った男が他の女と結ばれぬよう、その魂を永遠に縛りつけ苦しめるために外道となった。

 

そういったはぐれ外道たちと侍たちとの熾烈な戦いを、薫は家臣たちから聞き及んでいた。

もしも百代の暴走が続けば、いずれ彼女も同じ道を辿ってしまっていたかもしれない。

だからこそ、薫は自ら鬼となって百代に挑んだ。

百代を徹底的に追い詰めるつもりで刀を振るった。

そして、その結果――

 

 

「お前は己の過ちを自覚した。その時点で私の懸念は晴れたのだ」

 

 

もしも百代が過ちを否定して尚も戦おうとしていれば、薫は本当に百代の心を折ってでも止めただろう。

だが、そうはならなかった。

元々、百代は他者に戦いを強制させるような人間ではなかった。

自分の過ちを自覚すれば、もう同じ失敗を犯すことも、外道に堕ちることもないだろう。

現に今、百代は自分の失敗を反省し、敗北したことに涙を流している。

外道になるような人間であれば、決してそうはならないだろう。

 

 

「懸念がなくなったから、最後に決着をつけさせてくれたのか?」

 

「己を省みている者をさらに責めるようなことはせん。あのまま終わらせては、お互いに悔いが残っていただろうからな」

 

「そうか…あーでもやっぱり負けたのは悔しいなぁ」

 

 

百代は布団の中でゴロゴロと寝転がりながらそう言った。

まるで駄々をこねる子供のようだと、薫は思わず苦笑する。

 

 

「どうやら精神面での修行が必要なようだな。漢字の書き取りなどどうだ?集中力が鍛えられて中々いいぞ?」

 

「…そんな修行初めて聞いた」

 

 

予想外の修行法を薦められて動きの止まる百代であった。

薫は部屋の壁にかけてある時計を見て時刻を確認すると、その場から立ち上がった。

 

 

「さて、そろそろ私は失礼しよう。一子や鉄心殿にも百代が起きたと伝えて…」

 

「ああ、待ってくれ薫ちゃん」

 

 

部屋を出ようとした薫を百代が止めた。

幾分か回復したのか、上体を起こして百代は薫に問う。

 

 

「薫ちゃん、私に何かして欲しいこととかないか?」

 

「なんだ突然?」

 

「薫ちゃんのおかげで、私はあれ以上道を踏み外さずに済んだんだ。何か礼がしたい」

 

 

思いがけない申し出を受けた薫はしばし悩んだ。

礼が欲しくてやったわけではないが、百代の誠意を無下に拒むことも出来ない。

顎に手を当てて思案した末に、薫はあることを思いつく。

 

 

「では、今後は多少の慎みを持って接してもらいたい。これでどうだ?」

 

「…スキンシップは自重しろってことか?」

 

「そういうことだ。ああも抱きつかれると落ち着かんのだ」

 

 

編入二日目に初めて会った時や川神院に見学に来た時に百代は薫に抱きついた。

おまけに隙を見て体のあちこちをペタペタと触り始めるのだ。落ち着けるはずもない。

薫からの提案を受け、百代はあからさまに残念そうだった。

 

 

「むー、カワイコちゃんとくっつけないのは残念だが、薫ちゃんが言うなら仕方ない」

 

「そもそも何故同性にそこまで抱きつきたがるのだ?」

 

「カワイイ女子を愛でるのは私の趣味なんだ。周りには私のお眼鏡に適う男がいないんでな」

 

 

百代自身が常人離れした強さの持ち主なのだから、男性に対するハードルが上がるのも当然と言えた。

 

 

「そう言う薫ちゃんは?気になる異性とかいるのか?」

 

「さてな。まだ大和たち以外の男子とはそこまで接していないのでな」

 

 

薫が川神学園に来てからまだ一週間ほどしか経過していない。

風間ファミリーやF組以外の男子と交流を持つ機会はまだ少なかった。

 

 

「大和は積極的に薫ちゃんの面倒見てるって聞いたぞ?」

 

「大和か…確かに世話になっているが…」

 

「まぁ、もし恋に悩むことがあればお姉さんがいつでも相談に乗っちゃうぞ?」

 

「…自分は好ましい異性がいないと言っていたではないか」

 

「いいじゃんかよー。ちょっとは先輩らしく振舞いたいんだよー」

 

 

後輩に情けない姿を見せた上に救ってもらったため、少しでも頼りがいのあるところを見せたいらしい。

口を尖らせながらそう言う百代に、薫はまた苦笑しながら――

 

 

「そうだな。ではその時はよろしく頼む、『モモ先輩』」

 

 

生まれて初めて使う呼び方で、そう答えた。

 

 




薫としては百代が外道に堕ちる危険性がなくなればそれでよかったわけで、
百代を目の敵にしてたってわけではないのです。

さて、次回は体育祭の予定ですが、どうしようかな…。
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