真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第十二幕 姫体育祭<ひめと たいいくさい>

―――日曜 九鬼財閥極東本部―――

 

 

「川神百代が薫に負けた!?本当かヒューム!」

 

「鉄心から聞きました。間違いありません」

 

 

薫と百代が決闘した翌日のこと。

大扇島と呼ばれる人工島にある巨大ビルの中で、紋白はヒュームからの知らせに驚愕した。

武士道プラン進行と紋白の通学のために川神市内の警備を行っている九鬼従者部隊は、百代が起こした事件や薫との決闘についても当然知っている。

決闘の監視は川神院側から禁止されたが、情報を九鬼の外部に漏らさないという約束の上でヒュームは鉄心から結果を聞いていた。

 

 

「松永燕についてはどうされますか?」

 

 

同じくその場所にいたもう一人の執事、クラウディオ・ネエロが紋白に問う。

燕と紋白は、密かに『百代を倒す』という契約を結んでいた。

燕は松永の名を世界に広めるため、紋白は姉である九鬼揚羽を倒した百代を敗北させるために。

だが薫が先に百代に勝ってしまったため、紋白が燕と契約している意味がなくなってしまった。

 

 

「契約は果たせなくなったが、燕のような優秀な人材を手放すのも惜しい。正式に九鬼財閥に入るか、誘ってみようと思う」

 

「分かりました。後日、松永燕を本部に呼び出しましょう」

 

「うむ。しかし、川神百代に勝ったか。薫はそれほどの猛者だったのだなぁ。益々欲しくなったぞ!」

 

 

初めて会った時以上に薫に期待感を抱く紋白であった。

 

 

「…時に紋様。『シンケンジャー』というものをご存知ですか?」

 

「む?なんだそれは」

 

 

本格的に薫を勧誘しようかと考えていると、ヒュームが問いかけてきた。

聞いたこともない単語に首を傾げながら紋白が聞き返すと、ヒュームとクラウディオが説明を始める。

 

 

「今年の一月ごろまで、川神市とは別の街を中心に正体不明の怪物が現れる事件が頻繁に起きていました。その怪物と戦い、討伐してきた侍らしき者たちがいたらしいのです」

 

「侍…」

 

「各メディアが何度かその事件を取り上げようとしましたが、何者かによる情報規制や妨害によって、一連の事件の詳細な情報が外部に広まることはありませんでした。我々従者部隊も実際に襲われた方々から聞き込む程度のことしか出来ませんでした」

 

 

怪物とはすなわち、シンケンジャーが戦っていた『外道衆』のことである。

シンケンジャーと外道衆との戦いについては、実際に外道衆に襲われていない街にも噂程度は広まっていたが、新聞やテレビで大々的に報道されたことはなかった。

これは志葉家に仕える黒子たちが外道の現れた場所から人々を避難させ、シンケンジャーの戦いに近づけないよう対処していたためである。

もっともヒュームやクラウディオには、その事実を知る由もないが。

 

 

「それで、そのシンケンジャーとやらがどうしたのだ?」

 

「市民から聞いたシンケンジャーの特徴と、鉄心から聞いた志葉薫の戦い方に多くの共通点がありました。もしかすれば、志葉薫は…」

 

 

紋白はヒュームの言わんとすることを察した。

口角をより大きく上げて言う。

 

 

「ふむ、益々興味が湧いてきたぞ。今度の体育祭で、薫の力を見定めようではないか!」

 

 

より期待感を強めた彼女の言う通り、川神学園のイベントの一つ、体育祭が迫っていた。

 

 

 

 

 

―――数日後 川神学園グラウンド―――

 

 

―――ワアアアァ!!

 

 

徐々に近づいてきた期末考査を一時だけ忘れることを許された生徒たちの歓声が響き渡るグラウンドで、川神学園体育祭が行われていた。

 

毎年六月の上旬になると通常の体育祭、球技大会、海で行われる水上体育祭の三種の中から

一つがルーレットによって選ばれる。

今年は通常の体育祭となり、女子たちの水着姿を期待していた一部の男子たちが不満の声を漏らしたが、一番残念がっていた鉄心の一喝で静まったという。

 

そして、現在行われている競技は―――

 

 

『さあ、午前中の目玉競技『カオス障害物競走』二年の部はいよいよクライマックス!他のクラスが次々と脱落し、S組代表の英雄とF組代表の風間の一騎打ちだぁ!!』

 

「うおおお!やるじゃねぇか九鬼!!」

 

「フハハハ!王たる我が民に負けるわけにはゆかぬわぁ!!」

 

 

二年生たちによるクラス対抗『カオス障害物競走』。

この競技は、一般的な障害物競争で扱われている数種類の種目を一回のレースの中に取り入れた競技である。

 

スタート

 ↓

麻袋に入りながらパン喰い競走

 ↓

ぐるぐるバットで目を回し、両手にピンポン玉を乗せたスプーンを持ったままハードル越え

 ↓

三輪車に乗りながら借り物競走

 ↓

ゴール

 

 

普通に一つずつやってもつまらないという実行委員の誰かの意見が採用されたらしいが、ここまで混ぜる必要が果たしてあったのか。

最初のパン喰いでジャンプ力不足だった者、目を回してハードルに激突した者、三輪車に手こずった者といったように次々と脱落者が発生し、最後に残ったのは翔一と、S組の代表である九鬼英雄だった。

放送席に座る準と百代がレースの模様を実況している。

 

 

『さあ両者借り物を抱えてゴールに向かって疾走中。勝利の女神が微笑むのは果たしてどちらでしょう、解説のモモ先輩?』

 

『スピードならキャップの方が上回っているだろうが、幼児用の三輪車に加えて借り物が結構重いからな。いい感じに互角と言ったところか』

 

 

百代の解説の通り、単純にスピードを競うのであれば翔一の方に軍配が上がるだろう。

しかし、翔一は普段乗り慣れない小さな三輪車に加え、借り物である『ライン引き(石灰満載)』の重量に邪魔をされて思うようにスピードを出せていない。

対して英雄の借り物は『日の丸弁当』で、重量差は歴然であった。見つけるのに少々時間はかかったが。

ちなみに、英雄は体育祭が始まった時はただの余興としてあまりやる気を出していなかったのだが―――

 

 

「兄上―!頑張ってください!!」

 

『おおっとここで我らが紋様の声援だー!!精一杯の大声で兄を応援するその健気な姿がたまらん!!うらやましーぜ英雄コンチクショウ!!』

 

『おい、ちゃんと実況しろハゲ』

 

「紋に応援されては勝つしかあるまい!今日の我は、韋駄天すら凌駕する存在だ!!」

 

「こんなモン丁度いいハンデだぜ!俺を誰だと思っていやがるっ!!」

 

 

互いに決め台詞を叫びながら、翔一と英雄はゴールに向けて爆走する。

その二人の様子を見る全校生徒たちは―――

 

 

(((((三輪車だから締まらねぇ~!!)))))

 

 

全力で幼児用三輪車を走らせる高校生というシュールな光景に対して、心の中でそう叫んでいた。

 

激走の末、翔一と英雄はほぼ同時にゴールにたどり着いた。

そしてなぜか用意されていたハイスピードカメラによる判定の結果、僅差で翔一が勝利を収めたのだった。

 

 

―――2-F待機スペース―――

 

 

「いやーあぶねぇとこだったぜ」

 

「つーかキャップ。律儀にライン引きを背負わないで転がして行った方が楽だったんじゃないか?」

 

「ハンデがでかい方が燃えるんだよ!『リスクやマイナスなら起爆剤』って言うだろ?」

 

「さも誰かの格言みたいに言わないでくれ。ただのアニソンの歌詞だからそれ」

 

 

競技を終えた翔一は2-F用の待機スペースに戻り、大和のツッコミを受けていた。

川神学園の体育祭は基本的にクラス対抗形式であり、各クラスには待機場所が用意されている。

その中で、2-Fは少々目立っていた。

待機スペースが志葉家の陣幕で囲まれ他クラスと区切られており、のぼり旗を持った黒子が数名いる。

まるで、時代劇の中で戦の時に武将がいる本陣のようになっていた。

そしてその中で騒ぐ者が一人。

 

 

「これ娘よ!そこは姫のお座りになる場所であるぞ!なぜお主が座っておる!?」

 

「ひゃうぅ!ごめんなさい!!」

 

 

待機スペースの奥には、上に赤い座布団が敷かれた台座が置いてある。

本来なら薫が座るために丹波が用意したものだったが、座っているのはなぜか真与だった。

怒鳴りつける丹波を薫が止めた。

 

 

「やめろ丹波」

 

「しかし姫!ここは味方の軍を率いる者、すなわち姫こそが座るべき場所ですぞ!」

 

「率いる者というなら、新参者の私よりもクラス委員長である真与の方が皆も納得するだろう。と言うか、旗や陣幕を準備するよう言った覚えはないが?」

 

「何を申されますか!体育祭も一つの戦!侍たる者、己を誇示することも重要で…」

 

「もういいから早く観客席の方に戻らんか」

 

 

ヒートアップしてきた丹波の頭を叩いて、薫は丹波を追い出した。

丹波がしっかりと観客席に戻ったことを確認した薫は、F組の面々に頭を下げる。

 

 

「すまない。丹波が性懲りもなく…」

 

「気にするな薫殿。みんな丹波殿にも慣れてきたしな」

 

「そうそう。キャップも時代劇みたいって喜んでるわよ」

 

 

編入初日の態度のせいか、丹波はF組の生徒からあまり良く思われていなかった。

しかしそれから一週間以上が過ぎた現在まで、学生生活を送る薫を影から見守る丹波の姿が度々見られるようになり、F組の中で丹波のイメージが『頭の固い年寄り』から『孫離れできない祖父』へとシフトしていた。

薫と丹波のやり取りも一種の漫才のようになっていて、それを見て面白がっている者も何人かいる。

元々一風変わったメンツの多いF組に、薫も丹波も徐々に受け入れられているのだった。

 

 

 

―――1-S待機スペース―――

 

 

「あそこまで堂々としていると、隠す気がないようにも思えてくるな…」

 

「全くですなぁ…」

 

 

薫の正体を見極めようとしていた紋白とヒュームは、あまりにも堂々と侍らしさをアピールしている様子に呆れていた。

 

 





本編の中でシンケンジャーや外道衆の存在は世間にどれだけ広まっていたのでしょうか。
今作では黒子たちが裏工作してたため、川神市には噂程度しか流れていないという設定ですが。

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