真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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お久しぶりです。


第十三幕 姫騎馬戦<ひめと きばせん>

 

 

カオス障害物競走の後も体育祭は滞りなく進んでいた。

現在行われているのは、午前の部最後の競技である『クラス対戦リレー』。

レース中の他クラスへの攻撃・妨害が認められており、それが『クラス対抗』ではなく『クラス対戦』と呼ばれている所以である。

スピードだけでなく攻撃面も重視されることもあって、大和は一子、クリス、そして薫の三人を選抜した。

翔一も十分な戦力ではあったが、生徒一人が出場できる競技数は限られているため、今回は除外されている。

対してS組は、忍者のあずみ、脚力自慢の小雪、そして義経の三人。

 

いざリレーが始まると、A~E組の五クラスは総合点で他を大きく離しているF組とS組を潰そうと、終始F組とS組に集中攻撃を仕掛けてきた。

が、F組とS組の出場者たちは逆に他クラスを次々と倒し、最終的にはカオス障害物競走の時のような一騎打ちの形となった。

 

そして―――

 

 

『ゴール!!他クラスの妨害を蹴散らし見事一位を取ったのは、S組の義経だァ!!』

 

 

準の実況が結果を知らしめた。

並走していた薫と義経だったが、先にテープを切ったのはゴール直前で一気に加速した義経であった。

 

 

「ふぅ…完敗だ。見事だったぞ義経」

 

「薫さんこそ。危うく負けるのではと、義経はヒヤヒヤした」

 

 

息を整え、額に流れる汗を拭いながらお互いを賞賛する二人。

互いに高い実力を持つと知っているからこそ全力で駆け抜けた二人の姿に、観客席からちらほらと拍手が上がっていた。

 

 

「しかし、最後の加速は少々無理があったのではないか?下手をすれば脚を痛めるぞ」

 

 

薫が義経に言った。

義経がゴール直前に行った、全力疾走からの更なる加速のことだ。

無理な挙動や急なペース変化は肉体に大きな負担をかける。

薫は少し心配そうに聞いたが、義経は気にした様子もなく答えた。

 

 

「このくらい平気だ。義経は英雄(えいゆう)として、皆の手本にならなければならないからな。そう簡単には負けられない」

 

 

それは、義経の信念であった。

九鬼財閥が提唱した武士道プランは、偉人と共に切磋琢磨させることで、現代の人々をより優秀な人材に育て上げようとする計画である。

その計画のため、歴史上の人物である『源義経』のクローンとして生まれた義経は、周囲の人々の手本となるような『英雄』であることに強い使命感を持っていた。

 

 

「英雄…。なぁ義経」

 

「何だ薫さ…あっ!弁慶が川神水飲んでる!?」

 

 

薫が何か言おうとしたところで、義経が2-Sの待機スペースで飲んでいる弁慶の姿を目撃した。

酔って競技に支障が出ないよう、体育祭の間は飲まないように言っておいたのだが、どうやら我慢できなかったようだ。

 

 

「ごめん薫さん!話はまた後で!」

 

「あ、ああ…」

 

 

義経は薫に頭を下げながら駆け出す。

取り残された薫は少々呆然としたが、一子たちに声を掛けられ、2-Fの待機スペースへと戻っていった。

 

 

 

―――正午 2-F待機スペース―――

 

午前中の競技が終了し、昼食の時間がやって来た。

2-Fでは熊飼満を中心としたバーベキュー大会が始まっていた。

 

 

「うんめー!やっぱクマちゃんのメシにはハズレがねぇな!」

 

「美味しそうに食べてくれると僕も嬉しいよ」

 

 

学園一の食通である満の振る舞う肉は絶品で、周囲の生徒達から羨望の眼差しが集まっていた。

 

 

「志葉さんもどうぞ。よく焼けてるよ」

 

「……」

 

「志葉さん?」

 

「…ん?ああ、すまない。頂こう」

 

 

皿を持ったまま佇んでいた薫に、満が焼けた肉を勧めた。

何事かを考えていたのか、薫は少々反応が遅れながらもその肉を受け取る。

その様子を見ていた大和は、薫に話を聞いてみることにする。

 

 

「薫さん。なんか悩み事?」

 

「いや、悩みというわけではないのだが…義経のことで少しな」

 

「義経のこと?」

 

 

義経のことで気になっていることがあるらしい。

今後の競技に集中できなくなるかもしれないため、大和は続きを聞いてみることにした。

 

 

「彼女は人の手本になろうとしている。それは立派だと思うのだが、その理由が気になる…」

 

「理由って、そりゃ武士道プランのためじゃない?」

 

 

クローンたちは武士道プランのために生み出された。

その役目を全うしようと日々頑張る義経の姿は、健気な子供のようで学園の生徒たちの大半から好意的に見られている。

大和からすれば、薫が何を気にしているのかいまいち分からなかった。

二人が話していると、背後から声が掛けられた。

 

 

「まあ、あそこまで真面目なのは義経ちゃんだけだと思うけどなぁ」

 

「そうなのか?モモ先輩」

 

「いやちょっと待って。なんで姉さんがここにいるのさ?」

 

「いいだろー。私も肉食いたいんだよ肉ー」

 

 

ちゃっかり満から皿とバーベキュー数本をもらっている百代だった。

百代は肉を頬張りながら薫と大和に近寄り、会話に加わる。

 

 

「三年の清楚ちゃんはそもそも誰のクローンか知らされてないし、弁慶ちゃんは川神水飲んでダラ~っとしてるだろ?」

 

「まあ、だらけ部でよく一緒にだらけてるけどさ」

 

 

クローン唯一の三年生である葉桜清楚は、正体が明かされる25歳になるまで勉学に励めと指示されているらしい。

義経の家臣である弁慶は学園で川神水を飲むために、試験で学年三位以上を維持しなければ退学という条件こそあるが、基本的にはだらけていて主君である義経を弄って遊ぶなど、『武蔵坊弁慶』らしからぬこともしている。

そして、クローン最後の一人である与一は――

 

 

「与一に至っては中二病だしなぁ」

 

「ちゅうに病?何か病を患っているのか?」

 

「その辺は大和に聞いた方が…」

 

「知る必要ありません!病気でもないから!!」

 

 

ニヤケ顔で大和に説明させようとした百代だったが、大和は全力で拒否した。

大和たちは時折薫の知らない単語を使うため、薫は彼らの会話について行けなくなることがある。

が、大和が必死に嫌がっていることだけは察したため、追求しないことにするのだった。

 

 

 

―――数十分後―――

 

 

『さあ、腹ごしらえは済んだか生徒の諸君!いよいよ午後の部の始まりだ、キバって行こうぜ!!』

 

 

準の放送と共に午後の部が始まった。

大玉の代わりに丸く削った岩を運ぶ『大岩転がし』では岳人のパワーが遺憾なく発揮され、雑学クイズに答えながらゴールを目指す『トリビアの競い』では、卓也や大串スグルのオタク知識が役立った。

午前の部に負けない風変わりな競技が続く中、大和が種目に合わせて出場者を的確に選定したこともあって、F組は現在の二年トップであるS組に迫る勢いだった。

 

 

そしてついに、最後の競技が始まろうとしていた。

 

 

『川神学園体育祭もいよいよクライマックス!本日最後の競技は『真剣サムライチャンバラ騎馬合戦』だ!!』

 

 

真剣サムライチャンバラ騎馬合戦。

四人一組となり、一人が騎手、三人が騎馬となるのは通常の騎馬戦と同様である。

異なる点は、通常の騎馬戦が相手騎手の帽子や鉢巻を奪うのに対して、この競技では相手騎手の背中に指してある旗をレプリカの刀で折るのである。

ちなみに発案者は、先日の薫と百代の決闘に感化されて時代劇にハマっている鉄心である。

 

 

最初に行われたのは一年の部。

伊予の強い推薦もあって、由紀江が1-Cの騎手として出場した。

未だに伊予や大和たちなど、特定の人の前では緊張しがちな由紀江だったが、刀による勝負となれば話は別。

騎馬の三人との連携に不安はあったが、あまり派手に移動せず、向かって来た相手を由紀江が迎え撃つという形でその問題をクリアした。

圧倒的な実力で他クラスを撃破し、武蔵小杉が騎手である1-Sにも圧勝。

ちなみに紋白は体格の関係で、ヒュームの場合は能力が高すぎて他の生徒が彼について行けないという理由で参加しなかった。

それはともかく、今回の活躍を経て、由紀江とクラスメイトたちの距離は少しだけ縮まった。

 

 

「松風!皆さんが認めてくれましたよ!」

 

「やったぜまゆっち!このままクラスメイト全員と友達になろうぜ!」

 

(((だからそれが怖いんだって!!)))

 

 

本当に、少しだけだった。

しかし由紀江にとっては、大きな前進と言えるだろう。

 

 

 

 

一年の部が終わり、続いては二年の部。

2-Fの待機スペースでは競技の準備が進められていた。

 

 

「本当にいいのか?私が騎手で」

 

「もちろん。というか、薫さんしかいないって」

 

 

大和が騎手に選んだのは薫だった。

クリスを一撃で倒し、百代にも勝った薫の剣の腕を考えれば当然の判断と言えよう。

 

 

「あたしは刀使えないしね。薙刀なら自信あるんだけど」

 

「レイピアと刀では扱い方が違うしな。だが、薫殿ならば安心して任せられる」

 

「大和からの指示だしね。しっかり支えるよ」

 

 

騎馬に選ばれた一子、クリス、京の三人を始め、F組の全員が薫を騎手とすることに同意していた。

 

 

「頼むぜ姫さん!ビシッと決めてくれよ!」

 

「この競技で勝てば、S組に逆転できるしよ!」

 

「ここまで来たら、総合優勝したいよね」

 

「ま、あまり気張らずにな」

 

 

翔一に岳人に卓也、そして忠勝も応援の言葉を送った。

それを受けて、意を決した薫は大和から模擬刀を受け取る。

シンケンマルとは長さも重さも異なるため、その場で軽く振るって感触を確かめる。

 

 

「F組の騎手、拝命した。必ず勝って来よう」

 

「ああ、頼むぜ薫さん!」

 

 

クラスメイトたちに勝利を約束し、薫は一子たちと共に待機スペースを出た。

 

 

「姫のご出陣!!」

 

「うおっ!?ジイさんいたのかよ!?」

 

 

後ろが何やら騒いでいたが、とりあえず無視した。

 

 

二年の各クラスの出場者たちがグラウンドの中央に集まり、騎馬を組んだ。

F組の騎馬は先頭が一子、右後方が京、左後方がクリスだ。

 

そして薫たちの正面には、2-Sの出場者たちが立っていた。

騎馬は先頭が小雪、右後方がマルギッテ、左後方が弁慶。

そして騎手は―――

 

 

「…義経か」

 

「こんな形で戦うとは思わなかったぞ、薫さん」

 

 

 

 

侍の末裔と、英雄のクローン。

全校生徒が見守る中、二人の剣士が相対した。

 

 




私生活が忙しくなり、前回の投稿から大分間が空いてしまいました。
次回の更新がいつになるか分かりませんが、気長に待っていただけると幸いです。
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