真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

14 / 20
第十四幕 姫対英雄<ひめ たい えいゆう>

 

 

真剣サムライチャンバラ騎馬合戦の舞台であるグラウンドの中央では、二組の騎馬が向かい合っていた。

試合開始早々、クラス対戦リレーの時のようにA~Eの五クラスからの集中攻撃を受けたFとSの二組が、瞬く間にその五クラスを蹴散らしたのだ。

一年の部で猛威を振るった由紀江と同じく卓越した剣士である薫と義経の前に、一般生徒たちはなす術もなく敗退した。

そして勝ち残ったFとSの二組は、互いの刀を向け合ったままに相対している。

試合開始からわずか数十秒。二年の部は早くもクライマックスを迎えていた。

観客たちが息を呑んで見守る中、実況である準の声が響く。

 

 

『さぁ、正に最初からクライマックスな展開になったかと思いきや、両者向かい合ったまま動きません。これはバトル系漫画なんかで見られる『真の実力者同士は一見戦っていないように見えて、頭の中ではすでに何千回と斬り合っている』という例のアレですか、解説のモモ先輩?』

 

『解説する前に全部言ってるじゃないかハゲ。まぁ、お互い相手が強いことは知ってるからな。相手の出方を見ているんだろ』

 

 

解説を持っていかれた百代は不満タラタラだったが、現状はまさに彼らの言うとおりだった。

対峙している薫と義経は相手から視線を逸らさず、騎馬である一子たちも同様だった。

しかし時間が過ぎる中で、義経の額にわずかな汗が流れ始める。

 

 

(すごいな薫さん…なんて鋭い気だ…)

 

 

義経は、かつてクリスも感じたことのある薫の研ぎ澄まされた気を目の当たりにしていた。

川神学園に来てから数え切れないほどの挑戦者と戦ってきたが、その中でも薫は別格だ。

手にしている刀はレプリカであるはずなのに、まるで本物の刃を向けられているかのような感覚に、義経は戦慄していた。

しかし、それに屈するわけにはいかない。なぜなら―――

 

 

(義経は…『源義経』なのだから!)

 

 

現代の若者たちを優秀な人材にする武士道プラン。

義経は、周囲の者たちの模範となり導くことに強い使命感を抱いていた。

それこそが、英雄のクローンとして生まれた自分の役割だと信じている。

 

レプリカの刀を握り直し、自分を奮い立たせるように叫ぶ。

 

 

「行くぞ!薫さん!」

 

 

その言葉を引き金に、騎馬である小雪、マルギッテ、弁慶の三人が駆け出した。

 

 

「…F組、参る!」

 

「「「おー!!!」」」

 

 

応えるように薫が言うと、一子、京、クリスの三人も一斉に走り出す。

二組の騎馬が互いの左側を通り抜け、すれ違いざまに二人の騎手の刀が激しくぶつかり合った。

騎馬はすぐさま反転し、今度は真正面から相手に突っ込む。

至近距離まで接近すると、薫と義経による高速の剣戟が始まった。

 

 

「「はああああ!!」」

 

 

雄叫びを上げながら目にも留まらぬ速さで斬り結ぶ二人。

互いの刃がぶつかり合うたび、甲高い金属音が周囲に響き渡っている。

その様子を、観客たちは茫然としながら観ていた。

義経の場合は学園で度々決闘を行っていたため、その実力は全校生徒に周知されていた。

しかし薫の場合、過去に行われたクリスとの決闘を一撃で終えていたため、彼女の剣捌きを生徒たちがじっくりと見るのはこれが初めてだったため、誰もが驚きを隠せないでいる。

 

 

「はわ~、薫ちゃんすごいですねぇ」

 

「クリスに一発で勝ったのもすごかったけど…侍って、みんなこんなに強かったのかしら?」

 

 

F組の待機スペースで観戦している真与と千花は唯々驚嘆していた。

一方で翔一、岳人、卓也の三人は既に百代との決闘で薫の実力を知っていたため、ほかの生徒たちよりも落ち着いた様子で観戦している。

 

 

「こりゃマジで優勝狙えるんじゃねぇか、軍師?」

 

「…それはどうかな」

 

 

翔一たちがもはや勝利を確信している中、大和は冷静だった。

何せ今の相手はあのS組である。

S組の軍師である冬馬が、何も仕掛けてこないとは思えなかった。

 

大和が2-Fのすぐ隣にある2-Sの待機スペースに目を向ける。

すると、S組の最前列で試合を見ていた冬馬は視線に気づいて大和の方を向く。

 

 

「おや、どうしました大和くん?そんなに熱い視線を向けられるとムラムラしてきちゃいますよ私…今夜、暇ですか?」

 

「暇だとしてもお前にゃ付き合わねぇよ!!…今回はどんな策を用意してんのかと思ったんだよ」

 

「いえいえ、今回は大した策などありませんよ。薫さんの実力も未知数でしたし」

 

 

冬馬は爽やかなスマイルを崩すことなくそう言ったが、大和は嘘つけ、と内心思った。

この男が何の考えもなしに動くわけがない。

そんな大和の心情を察したのか、冬馬は笑いながらこう付け足した。

 

 

「まぁ、ちょっとした助言はしましたよ…ねぇユキ?」

 

 

 

 

二人の軍師が会話している一方で、観客たちがオオ、と歓声を上げた。

 

 

『おおっとここで志葉の一閃が義経の刀を払ったぁ!義経大きく体勢を崩す!!』

 

 

準の実況が示す通り、義経は薫に刀を弾かれ大きな隙を作っていた。

薫はその隙を逃すことなく、義経ののぼり旗に狙いを定める。

勝負あったか、と誰もが思った時だ。

 

 

「させないよ~♪」

 

 

S組騎馬の先頭を担当する小雪が笑みを浮かべながら言った。

彼女は勢いよく右足を振り上げ――

 

 

「ウェーイ!!」

 

「がふっ!?」

 

 

F組騎馬の先頭、一子の腹に蹴りを叩き込んだ。

騎手の薫を乗せるために両腕を封じられている一子は、ガードすることも出来ずに直撃をくらう。

 

 

「ワン子!」

 

「京、クリス!持ちこたえろ!」

 

「くぅ…!」

 

 

一子が大ダメージを受けたことで崩れたバランスを京とクリスが支え、何とか転倒することを免れた。

しかしその隙にS組騎馬に後退され、攻撃のチャンスを逃してしまう。

薫はS組から目を離さないまま、一子に声をかける。

 

 

「一子、大丈夫か?」

 

「けほっ…うん。流石に、強烈だったわ…」

 

 

せき込みながら答える一子。

小雪は蹴り技において達人の域を超えており、東西交流戦では天神館の巨漢、長曾我部宗男を空高く蹴り上げた挙げ句、海に叩き込んだほどだ。

そんな彼女の蹴りをくらってしまっては、立っているだけでも辛いだろう。

 

予想外の展開に、観客はどよめき始めていた。

騎馬による攻撃は反則ではないのか?という声も上がったが――

 

 

『さぁ、まさかの騎馬による攻撃に観客は戸惑っている様子。反則では?という声も上がっていますが、そのあたりはどうでしょう解説のモモ先輩?』

 

『反則かと聞かれれば、答えはNOだな。競技前のルール説明じゃ、騎馬が攻撃をしてはいけない、なんてルールはなかったしなぁ』

 

「トーマが言ってたよ~。騎馬は騎手と一緒に戦うんだって」

 

「うむ。ルールに抵触しないのであれば、何の問題もありません。文句を言う前に対処して見せればいいのです」

 

「うぅ…義経としては、少し複雑だ…」

 

「まぁまぁ、ピンチを抜けたんだからいいじゃん主」

 

 

薫と一騎打ちで戦っているつもりだった義経としては横槍が入ったように感じてしまったが、そんな彼女を弁慶がフォローする。

 

 

(素直な義経が戦意喪失しないようフォローするために弁慶を騎馬にしたのか…)

 

 

義経たちの様子を見ながら、大和はそう考えた。

単純に主従だから組ませたのかと思えば、しっかりと役割があったらしい。

 

 

(とはいえ、ワン子のダメージはデカそうだ…くそっ)

 

 

一子は何とか立っているが、痛みのせいかまともに動けそうにない。

状況は明らかに不利だが、今の大和には打開策が浮かばなかった。

薫たちを信じて見ていることしか出来ないのが、ひどくもどかしかった。

 

 

『さぁて、反則疑惑も晴れて競技再開。S組が攻勢に出たぞ!』

 

 

まともに移動できないF組に対して、S組の騎馬が一気に仕掛ける。

防戦一方となってしまった薫だったが、義経の猛攻を見事に防いでいた。

しかし、ここで小雪が再び蹴りの体勢に入る。

 

 

「もう一回いっくよ~♪」

 

「一子…!」

 

 

義経の攻撃を捌きながら、薫は焦った。

もう一度くらえば一子は確実に倒されるだろう。

しかし、振り上げられた小雪の蹴りに対して一子は――

 

 

「川神流を…なめるんじゃないわよ!!」

 

 

気合の叫びと共に、渾身の蹴りで迎え撃った。

 

 

「うあ!?」

 

 

思いがけない反撃を受け、今度はS組の方がバランスを崩しかけた。

二組の騎馬はまたも距離を置く。

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

「一子、無理をするな!」

 

 

薫は息を荒げる一子に声をかけた。

ダメージを受けた身で反撃すれば体への負担も大きいはずだ。

それでも一子は苦しそうに、しかし笑いながら答える。

 

 

「はぁ…無理なんかじゃ、ないわ…」

 

「何?」

 

「だって、榊原さん、言ってたじゃない…騎馬は騎手と一緒に戦うんだって…なら、アタシだけ黙って立ってるわけには、いかないでしょ?」

 

「……」

 

 

息を切らしながらも話す一子の声には、確かな闘志が宿っていた。

後ろにいる京とクリスもその声に応える様に言った。

 

 

「必ず勝つって、みんなに言って来たもんね」

 

「そうだな。我々も一丸になって戦おうではないか!」

 

「…分かった。では行くぞ、皆の者!」

 

「「「おー!!」」」

 

 

全員で気合を入れるF組。

S組のマルギッテは冷静にそれを見ていた。

 

 

「士気を上げましたか…榊原小雪、足はどうです?」

 

「ちょっとビックリしたけど、大丈夫だよ~」

 

「よろしい。士気は高まっても、まともに動けないのは変わらないでしょう…一気に仕掛けます」

 

「はいよ。いいよね、義経?」

 

「うん!」

 

「では…駆けなさい!」

 

 

マルギッテの指示によって、S組はF組へ向けて疾走する。

そのスピードは騎馬とは思えないほどに速かった。

普段は怠けている弁慶も、その気になればかなりの速度を出せるのである。

 

薫は真っ向からの攻撃に備えて刀を構えるが――

 

 

「回り込みなさい!」

 

 

薫たちの目の前でS組は急激に進行方向を変え、F組の左側面へと回り込んだ。

 

 

「もらったぞ、薫さん!」

 

 

義経は薫の背中に指されているのぼり旗に向かって右薙ぎに刀を振るう。

待機スペースにいる冬馬は勝利を確信して笑みを浮かべ、大和はもうダメかと歯噛みする。

 

しかし――

 

 

「甘い!」

 

 

義経の刀は薫の旗に届かなかった。

薫は刀を持つ右手を素早く腰の後ろに回していた。

薫の背中に添うように立てられた刀身が、義経の斬撃を受け止めたのである。

 

 

「なっ…!?」

 

 

思いがけない防御に、義経が一瞬動きを止めた。

F組は、その隙を逃さなかった。

 

 

「クリス!」

 

「くらえ!これは犬の分だ!」

 

 

クリスは左側面にいる小雪に対して、蹴りを叩き込んだ。

先ほどの一子と同様、小雪はガードできずにくらってしまう。

 

 

「イッタァーイ!」

 

「京!」

 

「ワン子、回るよ!」

 

「押忍!」

 

 

小雪がクリスの蹴りで怯んだことで。S組の騎馬がバランスを崩した。

その隙に、F組の騎馬は一子を中心にして反時計回りに回転する。

薫はその勢いを利用して義経の刀を弾き、背中に回していた刀を正面へと回す。

 

そして、回転の勢いを加えた薫の横一閃が、体勢を崩した義経の旗を斬り倒した。

 

 

『一・刀・両・断!長い激戦を制したのは、F組だぁあああ!!』

 

 

準の実況が、競技の終了とF組の勝利を告げる。

会場は、観客たちの大きな歓声に包まれた。

 

 

「うおおお!やったぜ姫さん、みんな!!」

 

「やったぜ!F組の総合優勝じゃねぇか!」

 

「姫ぇええええ!!お見事でしたぞぉおおおおお!!」

 

「うわぁ!?丹波さんいつの間にこっちに!?」

 

 

F組の面々+1が待機スペースで歓喜の声を上げる。

すると、競技を終えた一子たちが待機スペースに入って来た。

 

 

「おい一子、大丈夫かよ」

 

「ありがとタッちゃん。まだちょっと痛いけど、でも勝ったわ!」

 

「うむ。今回の一番の功労者は犬だな」

 

「大和、私頑張ったよ。結婚しよ」

 

「最近唐突だな!?お友達で!」

 

 

一子たちを迎える大和だったが、ここで薫がいないことに気づく。

周囲を見回してみると、薫は待機スペースの入り口の前で、ある方向を見ながら止まっていた。

 

その視線の先には、競技終了後からずっと俯いている義経の姿があった。

 

 

 

 




丈瑠や薫がやってた、シンケンマルを背中に回して
背後からの攻撃を防御するのが好きでした。

シンケンジャーのアクションは何度見てもいい物です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。