真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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書いてて自分でビックリするぐらいの超展開。




第十六幕 姫武士道計画<ひめと ぶしどうぷらん>

桐山鯉から緊急の呼び出しを受けた義経、弁慶、与一、清楚。

四人は会議室で待っていたマープルから武士道プランの真相を聞かされていた。

 

 

「よ…義経たちが、現代の支配者に…!?」

 

「で…清楚さんの正体が西楚の覇王、項羽だって?」

 

「…マジかよ」

 

「そんな…私が…?」

 

 

誰もが武士道プランの本来の目的に驚く中、最も動揺していたのは清楚だった。

クローンの中で唯一の三年生である彼女はその名の通り清楚な文学少女のイメージを形にしたような人物だった。

図書館で静かに読書する姿からはとても武人を連想出来ず、本人も自分のオリジナルは清少納言ではないかと予想していた。

しかし、マープルから告げられたのは予想とは真逆の人物だった。

 

 

「自分たちが生まれた意味が分かったかい?これからは英雄(えいゆう)として、堕落した現代人を導くんだよ」

 

 

後ろに桐山を控えさせているマープルはそう言うと、今後の計画について説明し始めた。

川神院を始めとする武士道プランの障害となり得る存在を排除し、その後全世界にプランの実行を宣言するという。

それを受けて、義経は苦悩していた。

武士道プランのために生まれた自分たちにとって、マープルは生みの親も同然。

ならば、彼女の望み通りに行動することで恩返しをするべきだ。

マープルから話を聞いた直後はそう考えたが、心の中でそれを結論とすることをためらった。

本当にそれでいいのか、と。

義経は自分と並んで立っている他の三人を見た。

弁慶や与一は不満に満ちた表情を浮かべ、清楚は自分が王になることを聞いてショックを受け、顔を俯かせている。

三人はマープルの命令に従うことを良しとしていない。

自分たちが支配者になることを誰も望んでいないのだ。

そして、それは義経の本心も同様だった。

 

 

(義経は…どうしたら…)

 

 

マープルに生み出された英雄のクローンとして、プランに従うべきか。

それとも―――

 

 

≪重要なのは、それをお前自身がどう捉えるかだ≫

 

(あ……)

 

 

思い悩む義経の脳裏に、その日の夕方に聞いた薫の声が響いた。

 

 

≪過去の英雄『源義経』ではない。今この時を生きるお前自身が、お前らしく考えればよいのだ≫

 

 

体育祭で敗北して思い詰めていた自分にかけてくれた言葉。

それを思い出し、義経の決意は固まった。

両の拳を握り、マープルに真っ直ぐに向き直って言った。

 

 

「…嫌だ」

 

「何だって?」

 

「嫌だ、と言ったんだ。義経は、そんなプランには賛同出来ない!」

 

 

義経の発言に、その場にいた全員が驚愕した。

義経の性格ならば絶対にマープルに従うと思っていたからだ。

 

 

「皆と切磋琢磨して、一緒に精進していくことが義経たちの役目だ!支配することじゃない!」

 

「それは表向きの話さ。英雄のクローンであるお前たちには、民を導く義務があるんだよ」

 

「クローンではあっても、義経たち自身は英雄じゃない!皆を力尽くで従わせるなんて出来ない!」

 

「…あはは。まさか義経が逆らうなんてね。ちょっと意外」

 

「全くだぜ…だが、悪くねぇ」

 

「義経ちゃん…」

 

 

マープルに睨まれながらも、義経は臆することなく反論し続けた。

その様子を見た弁慶と与一は笑みを浮かべ、清楚は俯かせていた顔を上げる。

 

 

「弁慶、与一、清楚…アンタたちも同意見だってのかい?」

 

「そうだね。何か面倒そうだし…そんなことしたら、だらけ部行けなくなるし。ま、遅れてきた反抗期ってことで」

 

「所詮、俺は闇の者…光の世界の支配なんかに興味はねぇ」

 

「私も反対です。私は王になんてなりたくない」

 

 

義経だけでなく、残る三人もマープルに対して反抗の意を示した。

それを聞いたマープルは、深いため息をつく。

 

 

「仕方ないね…桐山ボーイ、やりな」

 

「…かしこまりました」

 

 

マープルの命令を受けた桐山は、後ろ手に持っていた紙を正面に回し、そこに書かれている文章を読み始めた。

桐山が読み進めると、清楚は頭を押さえよろめいた。

 

 

「清楚さん?どうしたんだ!?」

 

「うぅ…知ってる。私、この詩を…」

 

「詩?」

 

 

桐山が読み上げているのは、歴史上の項羽が虞美人に贈った垓下の歌。

そしてそれは、清楚の中に眠る項羽を呼び覚ますためのカギだった。

 

 

「反抗期の子供には、しっかり教育しないとね。起きな、項羽」

 

 

マープルの言葉と共に、桐山による垓下の歌が終わる。

 

 

 

そして、覇王が目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

義経たちがマープルと話している一方、九鬼極東本部の上階にある大部屋には、久方ぶりに九鬼家が全員そろっていた。

その中で元武道四天王である揚羽、同じ部屋にいたヒューム、クラウディオ、あずみたち武に長けた面々が階下から発せられた巨大な気を感じ取っていた。

ヒュームとクラウディオはあずみと従者たちに九鬼家の護衛を任せ、気の発生源へと急いだ。

 

 

「この尋常ならざる気の大きさ…もしや!」

 

「項羽が目覚めたらしいな。だが何故このタイミングで!」

 

 

ヒュームとクラウディオはかつてマープルが密かに造っていたクローン研究施設を発見し、武士道プランの全容を知っているため、当然清楚の正体についても知っていた。

しかし計画では清楚の正体を明かすのは彼女が25歳になってからのはずだ。

今、本当に覇王が目覚めたのだとしたら、それは何故か。

事実を確認するべく、ヒュームとクラウディオは気の発生源である会議室へと突入した。

 

 

室内には、惨状が広がっていた。

粉々になったテーブルやイスの破片が周囲に飛び散っており、床には傷を負った弁慶と与一が倒れ伏している。

そしてヒュームたちの正面には、清楚によって壁に押さえつけられている義経の姿があった。

 

 

「ぐぅ…清楚、さん…」

 

「違うぞ義経。今の俺は…覇王、項羽だ!」

 

 

苦しみながらも清楚の名を呼ぶ義経に、清楚は…いや、項羽は高らかに己の名を宣言する。

間違いない。清楚の中の項羽が目覚めてしまったのだ。

 

ヒュームは室内にいたマープルに向けて叫んだ。

 

 

「マープル!これはどういうことだ!」

 

「見て分からないかい?反抗期のガキにお仕置きしてるのさ」

 

「何を訳の分からないことを…そもそも、何故項羽が目覚めているのですか?」

 

「本当の武士道プランを始めるためだよ」

 

「まだ様子見の段階だったはずだが?」

 

「あたしのプランだ。いつ始めたってあたしの勝手だろ?」

 

 

さも当然のようにそう言い放つマープルに、ヒュームとクラウディオは困惑した。

自分たちが暴くまで極秘裏に計画を進めていたマープルが、突然こんな暴挙に出るはずがないのだ。

だが、今はそれを考えている場合ではない。

一刻も早く項羽を押さえ込むため、ヒュームは義経を拘束している項羽に向かおうとする。

しかし――

 

 

「邪魔はさせないよ、ヒューム」

 

 

会議室に、突然若い女性の声が響いた。

ヒュームはかつて聴いたことのあるその声に驚き、振り向いた。

 

ヒュームとクラウディオが項羽に視線を向けた一瞬の間に、マープルの姿が老婆から若々しい美女に変わっていたのだ。

彼女の突然の変身にヒュームとクラウディオが驚愕したその隙を突いて、若返ったマープルは瞬時にヒュームの背後に回って彼の背を踏みつけ、あろうことかそのまま床に叩き伏せた。

 

 

「ぐお…!?」

 

「情けないねぇヒューム?序列零番が聞いてあきれるよ?」

 

 

妖艶な笑みを浮かべながら、マープルはヒールの先端をヒュームの背にグイグイと押し込む。

ヒュームがマープルに押さえられたことに驚くクラウディオだったが、すぐに冷静さを取り戻し、マープルを項羽ごと糸で捕縛しようとする。

 

 

「動くんじゃないよクラウディオ」

 

「む…!?」

 

 

しかし、マープルが言葉を発した直後、まるで時間が静止したかのようにクラウディオの体が動きを止めた。

 

 

「ぬ…ぐぅ…!?」

 

「どうしたクラウディオ?自慢の糸であたしを縛ってごらんよ。簡単なことだろ?」

 

 

身動きの取れないクラウディオに対して、マープルは挑発するように言った。

クラウディオは必死に体を動かそうとするが、指一本すら言う事を聞かない。

床に踏みつけられているヒュームは、それが言霊による暗示だと気付いた。

ヒュームはマープルが自分をねじ伏せるだけの力を有し、さらにクラウディオの動きを封じられるほどの言霊を操る能力を備えていたことが信じられなかった。

マープルのことは若かりし頃から知っているというのに、見抜けなかったのだ。

 

 

「マープル…こんな力を、一体…?」

 

「どうやって隠してたかって?あたしは『星の図書館』だ。力を隠す方法だって、当然心得ているさ」

 

 

マープルはその異名の通り、莫大な量の知識を保有している。

その中には特定の家柄などに伝わる術や秘技も含まれており、マープルはその一部を習得しているのだ。

今の若返りも、ドイツのフリードリヒ家に伝わるメフィストフェレスと呼ばれる技である。

 

 

九鬼従者部隊の最高戦力である二人が、マープル一人に敗れた。

そんな絶望的な状況の中、義経は必死に項羽を説得しようとしていた。

 

 

「止めてくれ…清楚さん、こんなこと…」

 

「…」

 

 

苦しみながら発せられる義経の声に、項羽は一瞬口を閉ざす。

 

 

「何をしてるんだい項羽?そいつは、お前が王になるのを否定したんだよ?」

 

「…俺の覇道を邪魔するヤツは、誰であろうと許さん!」

 

「うああ!!」

 

 

マープルに唆され、項羽は義経の体を掴んでいた腕を一旦引き、再び壁へと叩きつける。

その衝撃で、義経は完全に意識を奪われ、力なく崩れ落ちた。

 

 

「寝覚めはどうだい、項羽?」

 

「上々…と言いたいが、妹分弟分を痛めつけるのはあまりいい気分ではないな」

 

「逆らう者には力による粛清が必要なのさ。それでこその覇王だ」

 

「覇王…そうだ、俺は覇王だ!この力で、俺は世界を手に入れる!」

 

 

項羽は自分自身を鼓舞するように宣言する。

その様子を、マープルは満足そうに見ていた。

 

 

「さて、次は九鬼財閥内の反乱分子の拘束…明日は川神院に奇襲をかけるかね」

 

「…お言葉ですが、マープル」

 

「ん?何だい桐山鯉」

 

「当初の計画では梁山泊の傭兵部隊を雇う予定でした。しかし、まだ根回しが済んでおりません」

 

「警備強化って名目で、技術部に量産させていたアレがあるだろう?アレも十分戦力になるさ」

 

 

笑みを崩さないまま、マープルは淡々と桐山に指示を送る。

その様子を見上げながら、ヒュームは彼女から異常な気配を感じていた。

長い人生の中で、様々な敵と戦って来たヒュームでさえ感じたことのない、この世のものとは思えない邪悪な妖気だ。

 

 

(こいつは…本当にマープルか!?)

 

 

ヒュームの心は疑念に満ちていた。

 

 

 

 

―――翌日―――

 

 

体育祭から一夜明けた日曜日。

川神市の駅前には薫と風間ファミリーの全員が集っていた。

 

 

「よーし、姫さんの街巡りin七浜のスタートだぜ!」

 

「来週には期末考査があるのにな~」

 

「おい大和!水差すようなこと言うんじゃねぇよ!」

 

「そうよ!今日はせっかく薫の街巡りの続きを皆でやるっていうのに!」

 

「空気の読めない弟にはお仕置きだ~」

 

「あだだだだ!!」

 

「モモ先輩、アイアンクローはダメ!大和の顔が崩れちゃう!」

 

「気にするのはそこなのか京!」

 

「お~っとここでモモ選手、アイアンクローからチョークスリーパーに切り替えた!大和選手タップするもモモ選手ガン無視!これはひどい弟イジメだ!」

 

「松風も実況してないで止めましょう!」

 

「体育祭の翌日だというのに、元気なものだ…」

 

「あはは…まあ、いつものことだよ」

 

 

ハイテンションな翔一によって本日のイベント開始が宣言されたが、大和の一言が成績不振な面々の怒りを買った。

イベントとは一子が言った通り、薫の川神市巡りの続きである。

寮や学園近くの案内の時は大和と薫だけだったため、七浜に行く時はファミリー全員で一緒に行くことになっていた。

そして全員の都合が合う日が、今日だったのだ。

流石に期末考査直前の土日に行くわけにはいかなかったというのもあるが。

 

 

「ふう。さて、お仕置きも終わったし早速…ん?」

 

 

数分ほど経ってようやく大和を解放した百代は、何かに気づいて振り向いた。

それと同時に、薫も何かが近づいていることに気づき、百代と同じ方向に目を向ける。

 

 

「おーい!待ってくれ、お前たち!」

 

 

二人が向いた先にいたのは、紋白と、彼女を抱きかかえながら駆けるあずみだった。

意外な組み合わせに風間ファミリーは首を傾げる。

普段なら紋白の傍にはヒュームがついており、あずみは英雄についているはずなのに。

よく見ると、紋白もあずみも焦ったような表情でこちらに向かってきていた。

 

ファミリーの前で止まったあずみの腕から降りた紋白は、薫の足に縋り付いた。

 

 

「助けてくれ!父上たちが、義経たちが…!!」

 

「落ち着け紋白。一体どうしたのだ?」

 

 

薫はその場にしゃがんで鬼気迫る様子の紋白に目線を合わせ、落ち着かせようとする。

紋白に代わって、あずみが薫たちに事態を説明した。

 

昨夜、マープルが九鬼家に対して反乱を起こしたこと。

清楚の正体が項羽であり、マープルに反抗した義経たちを倒したこと。

九鬼家の人間や、マープルに従わない従者たちが極東本部に囚われたこと。

 

 

「昨日の夜、妙にデカい気を一瞬感じたが、まさか清楚ちゃんだったとはな…」

 

「しかも、義経さんたちを倒すなんて…」

 

「九鬼くんも捕まってるの!?」

 

「アタイだって、英雄(ひでお)様をお助けしたかったさ。でも、英雄様が紋様をお連れして逃げろって…」

 

 

何が何でも妹を守れと命じられたと、あずみは苦い顔をしながら言った。

あずみにとって英雄は主であると同時に、憧れの男性である。

命令とは言え、英雄を残して逃げてきたことが悔しいのだろう。

 

 

「脱出出来たのは二人だけですか?」

 

「李とステイシー、他にも一部の従者たちが脱出して、今は英雄様たちを救出する準備をしてる。ただ…」

 

「マープルは、川神院を襲撃するつもりなのだ!」

 

 

落ち着きを取り戻した紋白が叫んだ。

それとほぼ同時、薫とファミリーの武士娘たちが、川神院の方向に強大な気を感じ取った。

 

 

「まさか、もう来たというのか!?」

 

「ルー師範代は用事で今いないし、日曜日で稽古もないから門下生たちもほとんどいない…じいちゃんが危ないわ!」

 

「ジジイが簡単に負けるとも思えんが、この気のデカさ…来たのは清楚ちゃんだけじゃないな!」

 

 

楽しくなるはずだった休日は唐突に終わりを告げる。

一同は川神院に急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 




書いてるうちにマープルがとんでもないことになっていた(汗)。
そして、この小説で清楚が初めてまともに登場したことに気づいた(大汗)。

第六幕のようなサブキャラと絡む話をもっと挟むべきだったか…。

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