真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第十七幕 覇王怒姫懸念<はおうの いかりと ひめの けねん>

 

 

薫たちが川神駅から駆け付けた時、川神院は惨状と化していた。

川神院に残っていた十数人の門下生たちが、傷だらけの状態で倒れている。

その周囲には、境内を埋め尽くさんばかりに黒い人型の群れが並び立っていた。

 

 

「何だあれ…黒いクッキー!?」

 

 

大和の言葉が示す通り、その人型の群れはクッキー2と同型だった。

 

 

「ありゃ、『マガツクッキー』。クッキー2を基にして戦闘用に開発された量産型だ。本来なら警備ロボットとして使われるはずだったってのに…!」

 

 

あずみが大和たちに説明していると、マガツクッキーの軍団は新たに現れた薫たちに向かってレーザーブレードを構える。

その向こう側に、薫たちは対峙している二人の人物を発見した。

 

一人は川神院の総代である川神鉄心だが、疲労がたまっているのか呼吸が荒くなっている。

もう一人は黒い長髪の少女だった。

容姿は薫たちの知る葉桜清楚そのものだが、琥珀色だった瞳は真紅に染まっており、右手には方天画戟と呼ばれる巨大な武器を握っていた。

少女は薫たちの存在に気づき、笑みを浮かべながら振り向いた。

 

 

「ほう、もう来たか。百代に風間ファミリー…そして、志葉薫」

 

「随分イメチェンしたなぁ清楚ちゃん」

 

「違うな!俺は項羽!この世界の覇王の名だ、覚えておけ!」

 

 

名乗り、高笑いする項羽。

その口調も態度も普段の清楚とは似ても似つかないものだった。

あずみの言っていた通り、清楚の中に眠っていた項羽が目覚めたということだろう。

彼女の豹変ぶりに風間ファミリーの面々が衝撃を受けている中、薫は項羽に問い出した。

 

 

「では問おう。王を名乗る者が、なぜ川神院を襲うのか?」

 

「武神・川神鉄心を倒すことで、俺の力を世界に知らしめるのよ!」

 

「…こちらにいる忍足殿から、義経たちがお前に倒されたと聞いた。義経たちはお前の仲間ではないのか?」

 

「確かに義経たちは俺の妹分弟分だが、あいつらは俺が王になることを否定したからな」

 

「…だから、力でねじ伏せたというのか?」

 

「そうだ!力で全てを制してこその覇王だ!そうだろうマープル!」

 

 

項羽が頭上に向かって声を上げた。

その視線の先、川神院本堂の屋根の上には、二人の老執事を従えた妙齢の女性の姿があった。

 

 

「うおお誰だあの美しいお姉様は!?色っぽいぜ!!」

 

「ガ、ガクト!今は美人に興奮してる場合じゃ…」

 

 

年上好きな岳人が女性に見惚れ、卓也がツッコむ。

 

 

「あれはやめとけ島津。見た目は若いが、中身はしわくちゃのババアだぞ」

 

「本人を前に堂々と言うじゃないか忍足。まあ、否定はせんけどね」

 

「なん…だと…」

 

 

妙齢の女性――マープルがあずみの言葉を肯定したことで、岳人は膝から崩れ落ちた。

期待を裏切られて落胆する彼を置いてけぼりにして、一同は話を進めていた。

 

 

「マープルってことは、彼女がこの反乱の首謀者ですか?」

 

「ああ。しかしヒュームやクラウディオを連れてるとはな…最悪だ」

 

 

大和からの問いに苦い表情で答えるあずみ。

ヒュームがかつての鉄心のライバルだったことは大和も知っている。

クラウディオがどの程度の強さを持つのかは分からないが、一切気配を感じさせることなく現れることもあるので只者でないのは確かだ。

どう対処するべきか、大和が思考を巡らせていると、マープルが言った。

 

 

「ここでは鉄心を潰せれば十分だったけど…不穏分子を一気に片付けられるというのなら好都合だ。ヒューム、クラウディオ」

 

 

マープルからの指示を受けて、彼女の後ろに控えていたヒュームとクラウディオが屋根から降り立った。

二人は先ほどから一切言葉を発しておらず、その表情はどこか苦しそうだった。

 

 

「項羽。鉄心はひとまず置いて、あのガキどもの相手してやりな。そんな疲れ切ったジジイと闘ってもつまらないだろう?」

 

「む…それもそうだな。全力の武神を倒さねば意味もないしな」

 

 

項羽は完全に薫たちに向き直った。

鉄心は消耗が激しいのか、その場から動けずにいる。

 

項羽、ヒューム、クラウディオ、そしてマガツクッキーの軍団が薫たちの前に立ちふさがった。

薫たちが身構える中で、大和はあずみに問う。

 

 

「あずみさん。あのマガツってのはどれだけ強いんですか?」

 

 

対策を立てるためには、相手の戦力を知らなければならない。

あずみが言うにはオリジナルのクッキーのような変形機能こそないものの、マガツの戦闘用AIには義経たちクローン組の戦闘データが組み込まれている。

流石に本人たちには及ばないが、川神院の門下生たちが倒されていることから、かなりの戦闘力を持っているのは確かだった。

 

 

境内の状況、敵味方双方の戦力を頭の中で整理して、大和は仲間たちに指示を出す。

 

 

「姉さんはヒュームさんの相手をして。クラウディオさんの方は、あずみさんにお願いします」

 

「あいよ。任せな弟」

 

「クラウディオの相手か…仕方ねぇ、紋様を頼むぞ」

 

 

鉄心に並ぶヒュームの相手には百代が最適だ。

クラウディオの力はファミリーにとっては未知数なので、その実力を知っているであろうあずみに任せることにする。

 

 

「ワン子は学長を助けに行ってくれ。京、まゆっち、クリスはマガツの相手だ」

 

「オッケー!」

 

「未来の旦那様のご命令とあれば」

 

「承知いたしました」

 

「了解した。任せてもらおう!」

 

「キャップ、ガクト、モロは倒れてる門下生たちを安全な場所に運んでくれ」

 

「了解だぜ軍師!」

 

「……おう」

 

「ちょっとガクト!いつまで凹んでるのさ!」

 

 

戦闘は武士娘たちに任せ、男たちはサポートに回ることになった。

翔一や岳人も一般人に比べれば強いが、マガツが相手では厳しいだろう。

大和自身は紋白を連れて後退し、戦況全体を見ながら指示役となる。

そして、大和は最後の一人に指示を出す。

 

 

「薫さんには、清楚…いや、項羽の相手を頼む」

 

「…うむ」

 

「薫さん?どうかした?」

 

 

薫が返事するまでに少し間があったことが気にかかる大和。

大和が仲間たちに指示を出している間、薫はずっとマープルを凝視していた。

今回の反乱の首謀者である彼女から、薫は歪な妖気を感じ取っていた。

かつて、それに似た邪悪な気配を持つ怪物たちと、薫は戦ったことがあるのだ。

 

 

(よもや、外道衆が再び…?)

 

 

外道衆。

あの世とこの世の狭間にある三途の川に棲み、長きにわたって人々を苦しめてきた異形の怪物たち。

志葉家の歴代当主たちは、家臣である池波、白石、谷、花織の四家から一人ずつ選ばれた侍たちを従え、侍戦隊シンケンジャーとして外道衆と戦って来た。

そして数か月前、決戦の末に外道衆の総大将・血祭ドウコクを討つことに成功したのだ。

それ以来、外道衆がこの世に襲来することはなくなり、侍たちは各々の日常へと戻っていった。

 

にも拘らず、外道特有の妖気を宿したマープルが今、薫の目の前にいる。

恐らくは妖術によって操られているのだろう。

外道の目的は分からないが、侍としてその野望を食い止めなければならない。

そのためにもまずは――

 

 

「私は項羽の相手をするのだな…承知した。お前の指示に従おう、軍師よ」

 

 

今この場で戦うのは自分一人ではない。

百代たちにはそれぞれ戦うべき相手がいるのだ。

ならば、まずは自分も役割を果たさなければ。

 

 

「よし…じゃあ頼むぜ皆!!」

 

 

軍師たる大和の声に、仲間たちは行動によって答えた。

百代は上空へ向かって跳躍し、追って来たヒュームと激しい空中戦を展開する。

 

 

「川神流・鳥落とし!」

 

 

百代の放った斬撃のごとく鋭いサマーソルトキックを、身を反らすことで回避するヒューム。

すかさず百代に急接近し、電撃を帯びた神速の蹴りを叩き込んだ。

電撃によって百代の体を麻痺させることで、彼女の瞬間回復を封じようとしたのだ。

 

 

「ぐう…!!」

 

 

百代は気を纏わせた腕でその蹴りを防いだ。

気によって電撃を弾いた上に、直撃の瞬間に後退することで蹴りの威力を抑えることに成功した。

以前の百代であれば回避行動をとろうとはせず、瞬間回復に頼っていただろう。

しかし薫に敗北した経験から、百代は回復に頼らず戦うための修行を始めていた。

まだ始めてから日は浅いが、その成果はこの戦闘の中で確かに出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

地上では、あずみはクラウディオ相手に苦戦を強いられていた。

 

 

(序列三番との一騎打ちなんざ、もう二度とやらねぇ!)

 

 

クラウディオは縦横無尽に糸を張り巡らせてあずみを拘束しようとするが、あずみはスピードを活かしてそれを掻い潜っていた。

風魔の里出身のくノ一であるあずみには、糸を用いた術に関しての心得があった。

従者同士で行われる訓練の中でクラウディオの技を何度も見ている。

そういった経験があずみの力となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

一子は鉄心の下に向かうために駆け出していた。

目の前にはマガツの軍団が立ちふさがるが、一子は一番手前のマガツの前で跳び上がり、その頭を踏み台にして再び跳躍する。

 

 

「奥義、列島渡り!」

 

 

そのまま、他のマガツの頭を次々に踏みつけ、鉄心に向かって移動していく。

それらしい技名を叫んではいるが、川神流の技ではなく即席で考えたものである。

踏み台にされたマガツ軍は一子を追おうと振り向くが、今度は刀を携えた由紀江が接近して来た。

 

 

「一子さんの邪魔はさせません!」

 

 

由紀江がマガツたちの間をすり抜けた直後、マガツのボディはバラバラに分解された。

すれ違いざまに放たれた由紀江の斬撃によって切り刻まれたのである。

一子が無事に鉄心の下に到着したことを確認し、由紀江は次のマガツに立ち向かう。

 

その一方で、クリスはマガツの攻撃を回避しながら由紀江に斬られたマガツの残骸に向かって走った。

ロボットであるマガツ相手に素手では分が悪いが、クリスの愛用するレイピアはこの場にないため、破壊されたマガツの落としたレーザーブレードを使うつもりなのだ。

残骸の中からレーザーブレードの柄を発見し、拾い上げる。

その隙を突いて、一体のマガツがクリスに向かってレーザーブレードを振り上げた。

しかし、その刃がクリスを襲うことはなかった。

突然二つの小石が飛来し、マガツのカメラアイに直撃したのだ。

視界を奪われたマガツはクリスの持つレーザーブレードによって頭部を貫かれ、機能を停止する。

クリスは小石の飛んで来た方向に向かってサムズアップした。

 

 

「ナイスサポートだ京!」

 

「ぶい。援護射撃ならお任せ」

 

 

クリスのサムズアップにVサインで応える京の手にはパチンコが握られていた。

京が弓矢を持っていない時の戦闘のために常に携行している切り札である。

地面に転がっている小石を拾い上げ、マガツのカメラアイに向かって次々と放つ。

クリスは京の援護を受けながら、マガツをレーザーブレードの刺突によって仕留めていく。

 

 

 

 

 

 

 

仲間たちが激闘を繰り広げる境内で、薫と項羽は対峙していた。

薫はその手にシンケンマルを握っているが、それを構えたまま動こうとしていない。

 

 

「おいどうした?かかって来ないのか?」

 

 

方天画戟を構える項羽は、まったく攻めて来ない薫を挑発するように言った。

 

 

「それとも、俺に恐れをなしたのか?はははは!」

 

「…先ほどの問いの続きなのだが…」

 

「ん?」

 

「力で全てを制してこその覇王と、そう言ったな。それが、お前の考える王の在り方だと言うのか?」

 

「何もおかしくはないだろ?強い者が勝つ!そして、勝った者が世界を制するのだ!」

 

 

当然のことのようにそう答える項羽の様子に、薫は呆れたように溜め息をついた。

その態度が癇に障り、項羽は青筋を立てて怒鳴った。

 

 

「おい、何だその溜め息は!?」

 

「余りにも短絡的な思考だったのでな」

 

「ああ!?」

 

 

さらに怒りを増していく項羽に、薫は構うことなく言った。

 

 

「お前のような者に、人の上に立つ資格はない」

 

「ぬかせぇ!!」

 

 

項羽は怒りに身を任せて方天画戟を振り下ろし、薫はシンケンマルで迎え撃つ。

 

川神院での死闘は激化の一途を辿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――九鬼極東本部―――

 

 

紋白を除く九鬼家の人間や、マープルに従わない従者たちが捕らわれているこの極東本部の地下には、マープルが密かに作ったクローン研究施設が存在する。

そこには計画が外に漏れることを防ぐため、侵入者用の監禁部屋が用意されており、今その部屋には三人の少年少女が捕らわれていた。

義経、弁慶、与一である。

昨夜、マープルの命令に背いた三人は、覚醒した項羽によって叩きのめされた後にこの部屋に入れられていた。

 

 

「何が現代人を導く英雄だ!クソが!」

 

 

与一はいらだちを込めた拳で壁を殴りつける。

部屋の扉や壁は特殊合金で出来ており、武器のない義経たちでは破ることも出来ない。

 

 

「与一、落ち着きなって。手を痛めるだけだよ」

 

「こんな時にまで怠けてんじゃねぇよ姉御」

 

「仕方ないでしょ~昨日から川神水飲んでないんだから~」

 

「……」

 

 

そんな弁慶と与一のやり取りの最中、義経は壁際で体育座りしながら俯いていた。

弁慶は義経の隣に座り、話しかける。

 

 

「ねぇ義経。マープルに逆らったこと、後悔してる?」

 

「…そんなことはない。昨日言ったことは、義経の本心だから」

 

「私はさ、正直かなり驚いたんだよ。義経ならきっと、生みの親のマープルに逆らったりしないって思ってたからさ」

 

「驚いたって言や、体育祭の後もだぜ?騎馬戦の後かなり凹んでどっか行ったくせに、戻って来た時にはピンピンしてたしよ」

 

 

長い付き合いだからこそ、二人は義経の変化に素直に驚嘆していた。

義経は二人に体育祭の後に薫と会っていたことを話した。

その時、自分が英雄そのものではないことを自覚し、使命感に囚われ過ぎず自分なりに頑張っていくと決心したという。

 

 

「確かにマープルは義経たちの親も同然で、大事な人だ。でも世界を支配するなんて、絶対に間違ってる」

 

 

そう思ったからこそ、義経は確固たる信念をもってマープルに反論したのだ。

 

 

「なるほどね。で、今の義経はどうしたい?」

 

「どうって…」

 

「今頃清楚…じゃなくて、項羽は川神院に乗り込んでるんじゃない?放っておいていいと思う?」

 

 

義経は川神院の現状を想像する。

百代や一子はもちろん、もしかすると薫も戦っているかもしれない。

きっと彼女も、武士道プランを良しとはしないだろうから。

 

 

「放っておいていいわけがない!マープルも項羽さんも止めなくちゃ!」

 

「だよね。私もそれに賛成。与一もそうでしょ?」

 

「手をアイアンクローの形にしながら聞くなよ!俺だってこのままここに閉じこもってるつもりはねぇ」

 

 

家族同然の者たちが犯そうとしている過ちを止める。

義経たちの意志は一つになった。

 

 

「問題は、ここからどうやって脱出するかだけど…」

 

 

目的は定まったものの、この監禁部屋から出られなければ果たすことも出来ない。

何か方法はないかと義経が考えていると、弁慶が徐に背伸びした。

 

 

「ん~!さて、昨日のダメージもやっと抜けたし、そろそろやる気出しますか」

 

「え?」

 

「姉御…まさか…」

 

 

義経と与一を尻目に、弁慶は扉の前に立った。

深く大きく呼吸すると、彼女の中に眠る気の力が徐々に大きくなっていく。

 

 

「武器はなく、脱出も困難…こういう絶望的状況でこそ、私の全力が出せるってもんだ!」

 

 

それは弁慶の切り札とも言える技。

絶望的な状況であればあるほどに力を増す、奥義の域にまで昇華された『火事場の馬鹿力』。

 

 

「金剛…纏身!!」

 

 

限界を超えた弁慶の剛拳が扉に炸裂する。

その一撃は扉のみならず、扉のある部屋の壁一面を跡形もなく消し飛ばした。

弁慶は唖然とする義経と与一に振り向いて――

 

 

「かわいい主のためならば…ってね」

 

 

その顔に笑みを浮かべながら、そう言うのだった。

 

 

 

 





仮面ライダー剣のドラマCDが出るそうな。
シンケンジャーも2019年に何か10周年企画をやってくれないかな~と思う今日この頃。

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