真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第十八幕 姫下集<ひめの もとに つどえ>

 

 

川神院の境内での戦闘は続いていた。

百代とヒュームは未だ空中戦を展開し、あずみはクラウディオの糸をかわし続けている。

マガツ軍団はその数を着実に減らされていた。

由紀江、京、クリスの三人に、鉄心の救出を終えた一子が川神院の中から持って来た薙刀を携えて参戦したのだ。

百機以上あったマガツは、既に残り十数機となっていた。

そして――

 

 

「おおおおお!!」

 

 

項羽の雄叫びと共に横薙ぎに振るわれる方天画戟を、薫は一歩退くことで回避する。

最初の激突以降、薫は項羽の攻撃を観察していた。

項羽の腕力は百代に匹敵するほどで、一撃でもまともに食らえばひとたまりもないだろう。

しかしその力に、技術が追いついていなかった。

先ほどから放たれている項羽の攻撃はどれも動作が大振りで、回避するのは容易だった。

当然と言えば当然だった。

葉桜清楚はこれまで自身の正体を知らされず、勉学に励めと指示されていたのだ。

項羽としての隠された力が目覚めたからと言って、たった一晩で高度な技術が身につくはずもない。

 

 

「ちっ…ならこれでどうだ!!」

 

 

攻撃が当たらず、業を煮やした項羽は方天画戟の矛先に気を集め、縦一文字に振り下ろした。

凝縮された気の力は境内の地面に激突すると同時に爆裂し、周囲に衝撃波を放った。

衝撃波は地面を抉ってクレーターを作り、薫の体を吹き飛ばす。

 

 

「んはッ!どうだ志葉薫!これが覇王の力よ!」

 

 

確かな手ごたえを感じて笑う項羽。

それに反して、吹き飛ばされた薫は空中で体勢を立て直し、しっかりと地面に着地した。

シンケンマルの刀身で衝撃を受け止めることで、ダメージを抑えたのである。

 

 

「何においても力か…浅はかだな偽の王」

 

「お…俺が偽物だと!?力ある者が上に立つのは当然だろうが!!」

 

「それが浅はかだと言うのだ」

 

 

激昂する項羽に対して、薫は冷静に言う。

 

 

「よいか?誰かの上に立つこと…それは即ち、誰かの全て(・・)を預かるということだ」

 

 

外道衆と戦って来た歴代のシンケンジャー。

一人の『殿』と四人の『家臣』の間にある物は対等な仲間同士の絆(・・・・・・・・・)ではなかった。

家臣たちは殿を守るため、己の命を懸けて戦う。

そして殿は、己に尽くす家臣たちの命を背負って戦う。

自分の命を預け、相手の命を預かる。

彼らの間にあったのは、『殿への忠義』と『家臣への信頼』だった。

これは王と民にも当てはまる。

王は自分の国と民のために尽力し、民はそんな王の下に集い、王を支持する。

 

 

「お前はただ力で全てをねじ伏せ、従わせようとしているだけだ。そのような王には誰もついて行きはせん。お前に、民の全てを背負う覚悟があると言うのか?」

 

「な…」

 

「何度でも言おう。覚悟もなく力を振りかざすだけのお前に、人の上に立つ資格などない!」

 

 

真っ向からぶつけられた薫の言葉に、項羽はたじろいだ。

昨夜、マープルの命令に反した義経、弁慶、与一の三人を叩きのめしたことを思い出す。

川神院に来る前にマープルから聞いた話によれば、三人は今朝目を覚ましてからも計画に賛同する気がなかったため、現在は九鬼極東本部の地下に閉じ込めているらしい。

時が経てば三人もこちらの味方になるだろう、とも聞いた。

しかし、項羽の力を見せつけられてもなお続く義経たちの反抗は、まさに薫の発言が正しいことの証明ではないのか。

項羽の心に迷いが生じ、方天画戟を掴む手が緩む。

 

 

「何をしてるんだい項羽?」

 

 

その時、一つの声が境内に響いた。

余りにも冷たく、背筋が凍るようなその声は、本堂の上で戦況を眺めているマープルが発したものだった。

 

 

「マ、マープル…」

 

「そんな小娘の言葉なんか鵜呑みにすることはないよ。お前はただ、力を振るっていればいいのさ」

 

「だが…」

 

「…うるさいわね(・・・・・・)

 

 

項羽の言葉を遮るように、これまでとは異なる口調でマープルは言った。

 

 

「いいから、その志葉の小娘(・・・・・)をさっさと()りなさい」

 

「…!!」

 

 

その言葉を聞いた項羽の目から、光が失せた。

緩んでいた手は方天画戟を再び強く握り、その体から発せられる気が徐々に膨れ上がる。

 

 

「オ゛オ゛オオオオオ!!」

 

「くっ…!」

 

 

荒々しく絶叫を上げながら、項羽は薫に襲いかかった。

まるで枷を外されたかのように、攻撃の速度が先ほどよりも遥かに速くなっている。

身体への負担など一切度外視したような、余りにも無茶な動きだ。

薫は項羽からの猛攻を避けながら、先ほどのマープルの様子を思い出していた。

マープルが薫のことを『志葉の小娘』と呼んだ時、マープルに宿っている外道の妖気が強くなり、口調にも変化が生じていた。

マープルを操っている外道が、完全に彼女の体を乗っ取ったということだ。

項羽もマープルに操られているようだが、こちらからは妖気は感じられない。

マープル自身が持つ催眠能力によるものだからだろう。

早急にマープルを止めなければならないが、今の項羽を野放しにも出来ない。

薫が項羽と戦っている間に、マープルは次の動きを見せた。

 

 

「カラクリ人形の方も押されているようね。なら…」

 

 

マープルが右手に持つ端末を操作すると、残り十機となったマガツが一ヶ所に集まった。

その中心に立つ一機のボディから無数の触手のようなアームが伸び、周囲の九機に絡みつく。

 

 

「な…何あれ!?」

 

 

一子が顔を青ざめながらそう叫ぶのも無理はなかった。

中心の一機はアームで捕らえた九機を自機の中に取り込み、その形状を変え始めた。

 

九鬼のロボット開発プランの中には、『クッキーIS製造計画』というものがあった。

クッキーが持つ全108形態の各能力を向上させた108機の量産機『クッキーIS(アイデアル・サポート)』の開発。

現在この計画は実現されてはいないが、その108号機には他の機体を取り込んでその機能を得る能力が組み込まれることになっていた。

警備用に開発されたマガツには、強敵に対処するために他の機体と合体して自機を強化するため、この吸収能力が実装されていたのだ。

 

合体したマガツは昆虫を髣髴とさせる六本脚の下半身と、両腕にカニのハサミのようなクローを備えた人型の上半身を有する全高約三メートルの大型機となった。

 

 

「大きくなったからどうだと言うのだ!」

 

 

クリスは臆することなく正面から立ち向かおうとしたが、合体マガツの六本脚の表面装甲が開き、その中からレーザーブレードを持った腕が一本ずつ現れる。

合体マガツは六本脚の腕を真っ直ぐに立て、腕に仕込まれたモーターによって柄を強く握ったままレーザーブレードを風車のように回転させるという、人間には真似出来ない動きを見せながら前進して来た。

回転するブレ―ドはクリスたちの接近を阻む壁となり、四人は徐々に追い詰められていく。

 

 

「クリ!私を飛ばして!」

 

「何?…よし、来い!」

 

 

突然の一子の発言だったが、クリスはすぐに彼女の意図を読んだ。

自分の持っていたレーザーブレードを一旦捨て、一子と向き合う。

一子はクリスに向かって走ると、クリスの重ねられた両手に足をかけた。

 

 

「飛べ、犬!」

 

 

一子の足が乗った両手を、クリスは思い切り振り上げた。

クリスの腕力によって一子は高く跳躍し、合体マガツのレーザーブレードの壁を跳び越えた。

 

 

「いっけぇえええ!!」

 

 

一子はその勢いのまま、合体マガツの頭部に向けて薙刀を振り下ろした。

このスピードなら確実に命中する。

そう確信した一子だったが、薙刀は合体マガツの背中に隠されていた二本の腕に掴まれてしまった。

合体マガツの頭部、口に当たる部分の装甲が左右に開き、中から小型のビーム砲が露わになる。

薙刀を掴まれ動きを止めた一子をターゲットに、チャージが始まった。

 

 

「ワン子!」

 

「犬!」

 

「一子さん!」

 

 

三人は何とか合体マガツの攻撃を止めようとするが、回転するレーザーブレードのせいで近づけない。

合体マガツからやや離れた位置で戦っていた薫も、一子の危機に気づいた。

 

 

(一子…!!)

 

「オオオオオオ!!」

 

 

薫の注意が一子にそれてしまったことで、隙が生まれた。

マープルに操られる項羽が薫の背後に回り込み、方天画戟による高速の突きを放ってくる。

もはや回避すら間に合わない。

直撃を覚悟し、歯噛みする薫。

一子もまた、合体マガツのビームが発射される寸前だった。

 

 

しかし、二人の体が貫かれることはなかった。

突如飛来した一本の矢がビーム砲に直撃し、合体マガツの頭が木端微塵に爆発する。

そして方天画戟の矛先は、薫と項羽の間に差し込まれた刀と錫杖によって阻まれた。

 

 

頭部が破壊されたことで合体マガツが動きを止めた隙に、一子は機体から離れた。

薫は振り向き、自分を守ってくれた二人の人物の姿を見る。

 

 

「義経!弁慶!」

 

「薫さん、間に合ってよかった!」

 

「急いで来た甲斐があったね」

 

 

義経と弁慶は、項羽から視線を離さないまま応えた。

さらに、川神院の門の屋根には弓を構えた与一の姿もあった。

 

 

「ありがとう与一!」

 

「勘違いするな!別にお前のためにやったわけじゃねぇ」

 

 

助けてくれた礼を言う一子に、与一はクールを装いながらテンプレなセリフを返す。

 

 

「項羽に倒されたと聞いたが、無事だったのだな」

 

「今朝まで閉じ込められていたけど、弁慶のおかげで脱出出来たんだ」

 

「九鬼本部に捕まってた皆も助けられたからね。後はここを治めるだけ」

 

 

九鬼極東本部には人質の他、マープルの命令で本部に残っていた鯉と残りのマガツ軍団がいた。

義経たちが脱出する際、弁慶が地下監禁部屋の壁を破壊した時の衝撃は九鬼極東本部全域まで届いていたのだ。

鯉がその衝撃に気を取られた隙を突き、人質救出のために潜入していた李が彼の持っていたマガツの制御端末を奪取した。

鯉は本来ならば梁山泊から傭兵を雇うはずだったが、マープルが武士道プランを強行したことで間に合わず、代わりにマガツを戦力としていた。

端末によって操られるマガツは、鯉から端末を奪うことで簡単に無力化出来たのだ。

さらにステイシーたちも本部に突入し、鯉の拘束と人質の救出を成し遂げた。

 

 

「そうか…では義経、弁慶。項羽を任せてもいいか?」

 

「薫さんは?」

 

「私は彼女を…マープルを止めねばならん」

 

 

本堂の屋根にいるマープルを睨みながら薫が言った。

止めねばならないという、まるでそれが自分の役割であるかのような言い方に、義経や弁慶は疑問を持った。

 

 

「私たちも項羽やマープルを止めるために来てるけど、薫はなんでそこまで?」

 

「…今のマープルは正気ではない。操られているのだ」

 

「操られている…?」

 

「彼女を解放出来るのは私しかいない。私を信じて、任せてもらえるか?」

 

 

昨夜からマープルの様子がおかしいことは義経と弁慶も気づいてはいたが、まさか何者かに操られているとは思わなかった。

一体誰が、と薫に問いたいところだったが、目の前に項羽がいる今はそんな暇もない。

義経と弁慶は頷き合い、薫を送り出すように言った。

 

 

「分かった。義経は薫さんを信じる!」

 

「こっちは引き受けたよ。だから、マープルを頼んだよ」

 

「承知した!」

 

 

薫はマープルの下へと駆け出した。

項羽は薫を追おうとしたが、義経と弁慶がそれを阻む。

 

 

「項羽さん。義経たちが相手だ!」

 

「昨日のようにはいかないよ」

 

「オオオオオ!!」

 

 

刀と錫杖、そして戟の甲高い激突音が響く。

その戦いの様子を、大和は紋白と共に離れた位置から観察していた。

あずみから紋白を頼まれたのもあるが、軍師として戦況を見なければならない。

先ほど、薫と一子が同時にやられそうになった時には冷や汗をかいたが、義経たちが駆けつけてくれたことで事なきを得た。

合体マガツは頭部を破壊されてもなお動き続けているが、与一の援護射撃が加わったことで一子たちが徐々に押し始めている。

 

 

(それにしても、さっきの項羽は…)

 

 

大和は、薫の言葉に動きを止めた項羽がマープルの命令を受けて暴れ出したことが気になっていた。

項羽だけではなく、ヒュームやクラウディオもだ。

彼らは百代やあずみと交戦している今も、どこか苦しげな表情を浮かべている。

まるで何かに抗おうとしているかのようだ。

あの二人も、項羽のようにマープルに操られているのかもしれない。

 

 

(言葉で人を操る…それなら!)

 

 

大和は自分の知る人物たちの中から、この状況を打開出来るかもしれない一人を割り出した。

人脈を活かしてピンチを乗り越えるのが、大和なりの戦い方である。

大和はその人物に助けを求めるべく、己の武器である携帯電話を取り出した。

 

 





あと二話ほどで一区切り。
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