SHRと一時間目の授業が終わった後、薫はF組のクラスメイトたちに囲まれていた。
編入生というのもあるが、あれだけインパクトの強いデビューを果たせば、興味を持たれるのも当然と言えよう。
「うわー、髪も肌もきれいね。ぐぅっ、うらやましい!」
「そうだろうか?あまり気にしたことはないが…」
「学校に通ったことがないと言ってましたが、本当ですか?」
「ああ、家の事情でずっと人里から離れたところで暮らしていたからな」
「分からないことがあったら言ってくださいね。お姉さんが教えてあげるのです」
「そうか。それは助かる」
千花は薫のサラサラな髪や、きめ細かい肌に羨望の眼差しを向け、お姉さんキャラを自称する甘粕真与は、クラス委員長らしく接していた。
「可愛いな~薫ちゃん。大人びてて俺様好みだぜ」
「ガクトの場合、ただの節操なしって感じがするなぁ」
「でもさっきのすごかったよなー!時代劇のまんまじゃね?」
「時代劇に黒子は出てこねえよキャップ」
女子グループから少し離れた位置で鼻の下を伸ばしながら薫を見ている岳人と、今朝の丹波や黒子たちに興味津々な翔一に、卓也と大和が冷静にツッこむ。
と、そこで女子グループの方が騒がしくなった。
「薫殿!侍の末裔だというのは本当なのか!?」
クリスが興奮気味に薫に質問していた。
その気迫に目を丸くしながら、薫は返答する。
「ああ、本当だが…」
「あのご老人や黒子たちは、本当にあなたの家臣なのか?」
「あ、ああ」
「そうか!まさか本物の侍に出会えるとは!日本に来てよかったー!!」
クリスのテンションが最高潮に達した。
なぜそこまで騒ぐのかと薫が疑問に思っていると、大和が薫に近づいて説明する。
「あー、クリスは日本の時代劇に影響されててさ。典型的な『日本を勘違いしてる外国人』なんだ」
「ほう、そういうものか」
大和のさり気ないフォローを受け、薫もなんとなく納得したようだ。
未だ興奮冷めやらぬクリスは、新たな質問に移った。
「侍ということは、剣術をやっているのではないか?」
「まあ、幼い頃から剣の修行はしている。それが?」
「そうか!ならば話は早い!」
質問というより確認と言える内容だったが、薫は素直に答えた。
するとクリスは、制服のポケットから川神学園の校章の入ったワッペンを取り出す。
そしてそれを、薫の机に叩きつけて、言った。
「志葉薫殿!このクリスティアーネ・フリードリヒが、歓迎の意味を込めてあなたに決闘を申し込む!」
その宣言が教室中に響き渡り、静寂を作った。
そしてそれは、新たな人物の発言によってすぐに破られる。
「あー!ちょっとクリ!あたしも申し込むつもりだったのに!」
「文句を言うな犬!自分が先に申し込んだんだぞ!」
クリスと同じく薫に決闘を挑むつもりだった一子が騒ぎ出し、クリスと口論を始めた。
その一方で、薫は机の上のワッペンを静かに見つめている。
「決闘…」
「決闘のシステムについては知ってる?」
「ああ。編入する前に説明は聞いている」
大和の問いに、薫はワッペンから目を逸らさないまま答えた。
『決闘』は、川神学園の独自のシステムの一つだ。
挑戦者とその相手が互いに合意した時、教師の立会いの下で対決し、雌雄を決する。
勝負の内容は戦闘やゲームなど、対決する者たちで自由に決められる。
基本的には腕試しや、生徒間で問題が生じた場合の解決策として実施されるが、今回は編入生である薫を歓迎するという意味合いが強い。
薫としてもそれは理解していたが、受けるかどうか少々迷っていた。
先ほどクリスは、薫が剣術を使えるかを聞いてきた。
つまり、決闘の内容は戦闘ということになるのだろう。
ならば自分は、どの程度の力で戦えば良いのか。
薫が思案していると――
「な…ななな何を言い出すのだ貴様ァー!!」
教室の入口から、今朝聞いたばかりの大声が轟いた。
F組の面々がその方向を見れば、帰ったはずの丹波が鬼のような形相で立っていた。
「黙って聞いていれば、姫に決闘を申し入れるだとぉ!?なんたる無礼な!立場を弁えんかぁ!!」
どうやら、廊下で一部始終を聞いていたらしい。
自分の主君に勝負を挑んだクリスに、激しい怒りをぶつけていく。
「じ、自分はドイツの騎士として、日本の侍と手合わせがしたいと…」
「やかましいわ!ドイツだの騎士だの知らんが、姫に勝負を挑むなど不届き千万!この丹波が許しはせんぞぉおお!!」
なんとか反論しようとするクリスを気迫で圧倒し、なおもヒートアップする丹波。
しかし――
―――ズババアンッ!!
いつの間にやらハリセンを握っていた薫の、目にも止まらぬ二連撃によって強制的に止められた。
「ぐうう…姫、少々加減を…」
「やかましいのはお前だ丹波」
右手に持ったハリセンを左手でパシパシと鳴らしながら、薫が言う。
「丹波。今日は私の紹介を済ませたら速やかに帰るように言っただろう?お前もそれを了承したはずだが…」
「も、申し訳ありません。しかし、この者があまりにも無礼な真似を…」
「無礼なものか。決闘はこの学園で認められている行為であり、なによりこの者たちは私を歓迎してくれているのだ」
丹波を叱りながら、薫は答えを出していた。
そうだ。これはこの学園の生徒なりの歓迎の儀式なのだ。
ならば全力でそれに応じなければ、こちらの方が無礼ではないか。
薫は制服のポケットから自分のワッペンを取り出し、クリスに問う。
「フリードリヒ、と言ったか。あなたはどんな武術を使うのだ?」
「自分は、レイピアを使った剣術で戦うぞ!」
「レイピア…西洋の剣か。おもしろい」
薫は、机の上にあるクリスのワッペンに、自分のワッペンを重ねた。
「その決闘を受けよう。志葉薫、全力でお相手する」
「ああ!自分も全力だ!」
薫の了承により、薫対クリスの決闘が決まった。
その後、二時間目の授業に来た梅子に話が通され、決闘は放課後のグラウンドで行われることとなった。
勝つのは若き侍か、それともドイツの騎士か。
第三幕に続きます。
シンケンジャーのナレーション的なしめ方にしてみました。
次回はクリスとの決闘。