真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第四幕 姫家老<ひめと かろう>

決闘を終えた薫は、現在下校中である。

彼女と一緒にいるのは、大和、翔一、京、クリス、由紀江の五人だ。

 

なぜこの五人かと言えば、今日から薫は島津寮に住むことになったからである。

薫の家は川神市からかなり離れた位置にあるため、通いやすいように入寮することにしたそうだ。

一子は放課後の修行のために川神院に帰り、岳人と卓也は新作のマンガを買うと言って途中で別れた。

薫たち六人が寮に向かって歩いていると、大和が携帯を取り出しながら言った。

 

 

「そうだ薫さん。よかったら連絡先教えてくれない?」

 

「早速女に手を出したッ!結婚して!」

 

「もはや脈絡がねぇ!お友達で!そうじゃなくて、同じ寮に住むんだし、川神に来たばっかだから何か助けになれることもあるだろうしさ」

 

「…そうか。少し待ってくれ。今携帯を…」

 

流れるような二人の求婚&ツッコミに驚きながら答える薫。

大和にとってはこれも人脈構成のための行為だが、新たな環境に慣れないこともある薫としてはありがたい申し出だった。

そして、薫が手に提げたカバンから携帯…らしきものを取り出すと、一同はまたしても首を傾げた。

薫が出した携帯は、表面が赤と黒で塗装されている。

折りたたみ式のようだが、開いてみると裏面にはまっすぐな円柱状のパーツがある。

シンケンマルに続き、またしても変わったアイテムの登場だった。

 

 

「お~。なんか変わった携帯だなそれ」

 

「そうだろうか?志葉家では300年前から使われているのだが…」

 

「江戸時代から既に携帯を!?流石は技術大国ニッポンだな!」

 

「真に受けるなクリス!冗談に決まってるだろ!」

 

「む…そうだな。今のは冗談だ」

 

 

ちなみに、薫が持っているのは『ショドウフォン』。

侍戦隊シンケンジャーの変身アイテムで普通に携帯としても使え、ワンセグやアプリにも対応している優れものである。

薫が言ったことが事実とは思われなかったようで、薫もすぐに冗談ということにした。

彼女自身、幼い頃から普通に使っていたので疑問に思っていなかったが、よくよく考えれば江戸時代に携帯電話があるなどありえない話だ。

 

 

(シンケンジャーのことはあまり公言すべきではないというのに…肝に銘じておかなければ)

 

 

薫は内心決意を固めながら、大和を始めその場にいる風間ファミリーの面々と連絡先を交換する。

由紀江とも交換しようとすると、泣きながら「ありがとうございます!ありがとうございます!」と頭を下げていた。アドレス帳に新たに名前が増え、大層嬉しそうだった。

 

 

「これでよし、と。明日、ワン子達とも交換してやってよ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 

その後も話しながら歩いていると、島津寮が近づいてきた。

よく見れば、入口の前に誰かがいる。

 

 

「お~いアンタたち。帰ってきたかい」

 

「麗子さん?なんかめっちゃ上機嫌だな」

 

 

彼女は島津麗子。岳人の母親にして、島津寮の管理人兼寮母である。

かつては川神の鬼女と呼ばれ、屈強な岳人でさえ頭が上がらない。

 

麗子は満面の笑みを浮かべながら、薫を見た。

 

 

「アンタが新しく入る薫ちゃんだね?」

 

「はい。今日からお世話になります」

 

「うんうん、礼儀正しい子だね。それにしても、あの黒子ちゃんたちすごいね。薫ちゃんの荷物運ぶだけじゃなくて、寮の家事も全部やってくれたよ。動きもテキパキしててね。おかげで今日は楽だったわ~」

 

 

麗子の後ろを見れば、黒子たちが玄関先の掃き掃除をしていた。

一同が寮に入ってみれば、廊下は余すところなくピカピカである。

麗子が上機嫌なのは、彼らのおかげのようだ。

 

 

「もしよければ、これからもちょくちょく来てくれないかねぇ?」

 

「…毎日とは行きませんが、必要であれば手伝いに来させましょう」

 

「ホントかい?いや助かるよ~」

 

 

麗子は黒子たちをいたく気に入ったらしく、ちゃっかりそんなお願いをしてきた。

薫としては、寮に入る以上はあまり黒子たちに頼った生活はしたくなかったが、これから世話になる人の頼みということで了承した。

 

 

「そんじゃ、京ちゃんたちは薫ちゃんを二階に案内してあげな。荷物は全部黒子ちゃんたちが運んでくれたから」

 

「ラジャー」

 

 

京、クリス、由紀江は薫を連れて二階に上がった。

島津寮では一階に男子部屋、二階に女子部屋があり、男子が二階に上がるには女子の許可が必要になる。

 

大和と翔一は許可が出なかったため、荷物を自室に置いて食卓の方へ向かった。

 

 

「あ…」

 

「む、若造どもか」

 

「んお?家来のじいさんじゃん」

 

 

入ってみると、そこには椅子に座って茶をすする丹波の姿があった。

厄介な人物に会った、と辟易する大和に対し、翔一は平然と丹波の向かいの席に座った。

 

 

「アンタも来てたんだな」

 

「麗子殿への挨拶と、黒子たちへの指示のためにな」

 

 

丹波はしかめっ面でそう答えた。

朝から薫に何度も咎められて不機嫌なのだろうか。原因は自分だというのに。

 

 

「お前たち…」

 

 

丹波は大和と翔一を細めた目で睨む。

今度はどんな暴言が出るのかと大和が思っていると――

 

 

「姫を…くれぐれもよろしく頼むぞ」

 

 

そう言って、丹波は大和と翔一に頭を下げた。

二人は驚愕し、固まってしまった。

朝から言いたい放題で、常に他人を見下していた彼が自分たちに頭を下げて頼んでいるという状況が、あまりにも予想外だったから。

 

 

「姫は…薫様は、今までずっと人から隠されながら育ってきた。全ては、志葉家に生まれた者に課せられた宿命のために…」

 

 

辛そうに、しかし真剣に、丹波は二人に語る。

 

 

「今、薫様はようやくその宿命から解放され、自由になられた。そして学び舎に通い、年の近い者たちと共に過ごしたいとおっしゃられたのだ。しかし、わしは…」

 

「心配なんだな。姫さんのことが」

 

「当たり前じゃろう!わしは、薫様が生まれた時から仕えてきたのだ!薫様が新しい道を歩まれることは喜ばしいが、心配せずにはいられん!」

 

 

翔一に指摘され、丹波は自分の中にある不安をぶちまけた。

丹波にとって、薫は主であると同時に孫にも等しい存在なのだ。

彼女の成長が嬉しくもあり、同時に不安でもあった。しかし――

 

 

「薫様が、そうしたいと願うのならば、わしはそのお背中を押して差し上げなければならん。じゃから、薫様が何かお困りになられたら、力を貸してもらいたい。頼む…!」

 

 

再び頭を下げる丹波。

その姿を見て、大和は考えを改めた。

丹波がしかめっ面だったのは、薫に怒られたからではない。

自分の手を離れていく彼女のことが心配で頭がいっぱいだったのだ。

その姿を言い表すなら、まさに――

 

 

「全く、親バカもいいとこだな」

 

「な…何じゃと!?」

 

「褒め言葉だよ。そんだけあの子が大事なんだろ?」

 

「う…うむ」

 

「分かったよ。ここに来る前も、何かあったら助けになるって言ったばかりだ」

 

「おう!俺たち風間ファミリーが、アンタの大事な姫さんをしっかりサポートするぜ!」

 

「…かたじけない」

 

 

涙目になる丹波の頼みを快く引き受けた二人。

いい雰囲気になったところで、突然丹波の気配が変わる。

 

 

「それはそうと若造ども。姫に対して何か下心はあるまいな?」

 

「え?せっかくいい雰囲気なのにそういう話する?」

 

「言っておくがなぁ!姫はまだ恋も知らない清らかな女子(おなご)なのじゃ!もしも邪な考えで姫に手を出そうものなら、この丹波がキサマらの首を取りに来るからな!!それをよく覚えておけい!!」

 

「あ…」

 

 

一人で熱くなり、どこぞのドイツ軍中将を思い出させる発言をする丹波だったが、その熱はすぐに冷えた。

 

 

「ほう…。誰が誰の首を取るだと…?」

 

 

丹波の背後に立った薫の、絶対零度の言葉によって。

 

 

「ひぃ!!ひ、姫!いつの間に」

 

「二階の次は一階を案内してもらおうと来てみれば、随分と面白そうな話をしているなぁ丹波」

 

「い、いえ!わしはこの者たちに姫をくれぐれもよろしくと…」

 

「それがなぜ首を取る話になるのだろうなぁ?」

 

「そ、それは…」

 

 

薫の気迫に、どんどんへっぴり腰になる丹波。

その姿を見て、薫は呆れたようにため息をつく。

 

 

「もうよい。運ばれた荷物は全て確認した。黒子たちと共に帰ってよいぞ」

 

「は、ははあ!」

 

 

丹波は薫に頭を下げ、一目散に出口に向かう。

 

 

「よいなお前たち!確かに頼んだぞ!」

 

 

出て行く直前に大和たちに振り返って言うと、廊下にいた麗子に一礼してから黒子たちを引き連れて帰っていった。

その後、大和が薫に先ほどの丹波の頼みについて教えようとした。

 

 

「なあ、薫さん。あんまりあの爺さんに辛く当たらないでやんなよ。あの人、本当に薫さんを…」

 

「分かっている」

 

「え…?」

 

 

丹波たちが去った玄関を見ながら、薫は大和の言葉を遮った。

 

 

「丹波が私を気にかけてくれているのは分かっている。何せ、昔からずっと仕えてくれているのだからな」

 

 

幼い薫が泣きじゃくっている時。

食事の時。

勉強をする時。

剣の修行をする時。

丹波はいつも薫の傍で、彼女を支えていた。

過保護なところはあれど、生まれる前に父親を亡くした薫にとって、丹波は親も同然なのだ。

 

 

「丹波には感謝している。だからこそ、いつまでも甘えるわけにはいかん」

 

 

笑顔で言う薫の瞳には、強い決意が表れていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――その夜 川神院―――

 

 

「ほう。侍の末裔か」

 

「そう!クリを一発で倒しちゃったの!」

 

「そうか、私がカワイコちゃんたちと遊んでる間にそんな楽しそうなことが…」

 

 

街から帰ってきた百代は、一子からその日あったことを聞いていた。

侍の末裔である薫の編入。

そして、放課後のクリスとの決闘。

それを聞いて、百代は楽しそうに笑う。

 

 

 

「志葉薫ちゃんか。ちょっと興味あるな~」

 

 

 

本当に、心底楽しそうに笑う武神が一人、そこにいた。

 

 

 

 

 




『火』のモヂカラを司るのに絶対零度とはこれいかに。


そして忍び寄る武神の影…!


さて、ストックが切れたぞ(汗)
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