真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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ストックが切れたと言ったな。あれは本当だった(過去形)!

一晩の間に今後の展開が閃いたので、書いていきます。

念狼は土日に時間作って書こう…。




第五幕 姫武神<ひめと ぶしん>

 

 

「うおお!このサバ味噌超うめぇ!」

 

「味噌汁も中々…薫殿の黒子たちはすごいな!」

 

「本当に美味しいです…これでは、料理で自分をアピールしている私の立場が…!!」

 

「落ち着くんだまゆっち!黒子たちは毎日来るわけじゃないんだ。逆転のチャンスはあるぜ!」

 

 

丹波が去った夜の島津寮にて、薫たちは夕食を食べていた。

いつもなら麗子が作るのだが、この日は麗子から料理を任され、寮に残っていた黒子たちによるサバ味噌定食だった。

メインのサバ味噌に肉じゃが、ほうれん草のおひたしなど完全に和食で固められ、翔一もクリスも大絶賛し、料理を得意とする由紀江は寮における自分の立場が危ういのではと戦慄していた。

 

 

「確かにおいしい…でも辛さが足りない!」

 

「だからってサバ味噌にデスソースぶっかけるやつがあるか!」

 

「薫もどう?おいしいよ」

 

「…まあ、そう言うなら…」

 

「勧められたからって受け取っちゃダメ!断る勇気も必要です!」

 

 

一方、大和はツッコミで大忙しだった。

薫にとっては初めて見る調味料だったので、危険だとは思いつつ試してみたかったのだが、大和が必死に止めてきたので手を引いた。

大和としても、薫に何かあったら本当に丹波が刀を持って襲って来そうなので気が気でなかった。

 

一同が騒がしく夕食を進めていると、玄関の方から新たな人物が入って来た。

 

 

「ん?何だ、志葉もここに住むのか?」

 

「おかえりゲンさん!ツッコミ手伝って!」

 

「縋り付くな暑苦しい!」

 

 

ゲンさん、もとい源忠勝。寮生最後の一人である。

彼も2-Fに在籍しているため、薫のことは知っていた。

 

 

「今日からここで世話になる。よろしく頼む」

 

「おう。つっても俺は夜勤であんまいないけどな」

 

「働いているのか?」

 

「親父の手伝いでな」

 

 

忠勝は自分の養父である宇佐美巨人が経営する宇佐美代行センターでバイトをしている。

将来的には父の後を継ぐため、現在色々と叩き込まれているところだ。

 

 

「ゲンさんもメシ食わねえ?めっちゃうまいぞ!」

 

「俺は次の仕事まで少し時間があるから寄っただけで、また出なきゃなんねぇんだよ」

 

 

翔一からの誘いを断った忠勝は、手に提げていた袋をテーブルに置く。

中を見ると、菓子詰めのようだった。

 

 

「さっきの仕事の依頼人がくれたんだ。メシの後にでも食ってくれ。俺はもう行くからな」

 

 

そう言って、忠勝はさっさと寮を出て行った。

 

 

「わざわざ仕事の合間に菓子を届けに来るとは…」

 

「ゲンさんいい人だよ。ツンデレだけど」

 

「つんでれ?」

 

 

忠勝の行動に感心する薫だったが、大和の言うツンデレの意味は分からなかった。

忠勝は見た目こそ不良のようだが、実際は気遣いのできる善良な人物である。

だからこそ、大和と翔一はゲンさんという愛称で呼び、彼に懐いているのだ。

 

 

 

夕食を終え、忠勝の土産を食べながら食後の茶を飲んだ薫は、京ら女子グループと一緒に入浴していた。

 

 

―――カポーン

 

 

桶を床に置く音がよく響くそこは、島津寮の一階にある浴場である。

大勢で入ることのできる浴槽で、薫は湯に浸かっていた。

 

 

「ふぅ、いい湯だ。立派な風呂があるのだな」

 

「元々ここは男湯で、二階には女湯があったんだけど、ちょっと前にモモ先輩が壊しちゃったの」

 

「だから今は男子と共有なんだ。気をつけないと裸で男子と鉢合わせるから注意するんだぞ」

 

「クリ吉、結構大和と鉢合わせて裸見られてるよなー」

 

「こ、こら松風」

 

 

薫に風呂の現状について説明する京とクリス。

水面に浮かぶ盆の上に置かれた松風がクリスの恥ずかしい過去を晒し、由紀江に注意される。

ここで、薫は京の説明の中に覚えのない単語が出てきたため、彼女らに聞いた。

 

 

「すまんが、『モモ先輩』とは?」

 

「モモ先輩は、川神学園の三年生。私たちの仲間の一人だよ」

 

「本名は川神百代と言って、一子さんのお姉さんなんですよ」

 

「川神百代…『武神』か」

 

「おお、流石に名前は知っていたか」

 

 

薫も話だけは聞いていた。

圧倒的な力で世界の武闘家たちをねじ伏せる、世界最強クラスの人物。

武神の異名を持ち、一部の世界からはもはや人間ではなく『MOMOYO』という災害レベルの存在として認識されているという。

 

 

「モモ先輩は強い者と戦いたがっているからな。もしかすると勝負を申し込まれるかもしれないぞ、薫殿」

 

「…戦いたがっている?」

 

「モモ先輩はいろんな人から挑戦を受けるけど、みんな自分より弱くて満足できないんだって」

 

「…」

 

 

京の説明を聞き、薫は顔をしかめる。

自分の欲求を満たすために、戦いを求める人間。

それではまるで――

 

 

「…由紀江も挑まれたのか?」

 

「わ、私ですか?」

 

 

薫は、初めて見た時から由紀江が力を隠しているのに気づいていた。

意図的に隠しているのなら何かしらの事情があると考え、深くは追求しなかったが、武神と呼ばれる百代ならば由紀江の真の力に気づき、挑んでいてもおかしくないと思ったのだ。

 

 

「一度、戦ってみたいと言われましたが、お断りしました。私は真剣に戦う時、相手を斬るつもりで挑みますから、親しい人と戦うというのは…」

 

「…そうか」

 

 

由紀江の答えを聞き、薫は少し安心した。

百代は相手が断れば無理強いをすることはない。

つまり理性は保っていると、そこまで考えたところで薫は自分の考えが行き過ぎていることに気づく。

 

 

(会ってもいない人間のことを決めつけて考えるなど…)

 

 

表情を暗くし、黙りこくってしまった薫。

クリスが心配して声をかけると、すぐに表情を戻して何でもないと言った。

薫の懸念。それが現実になってしまうと考えるのは、あまりにも早計だった。

 

 

 

 

―――翌朝―――

 

 

朝食を終えて、薫は大和たちと共に寮を出た。

玄関には卓也と岳人が待っており、途中でタイヤをロープで引きながらランニングする一子とも合流し、現在は九人で多馬大橋へと向かっている。

 

多馬川に沿う土手の上を歩いていると、目の前に人だかりを発見した。

そのほとんどは、自分たちと同じく登校中の川神学園の生徒たちのようだ。

 

 

「いったい何が…?」

 

「ああ、きっと姉さんだな」

 

 

朝から何の騒ぎかと薫が思っていると、大和が答えた。

しかし、大和の言葉は薫に新たな疑問を抱かせた。

 

 

「姉さん?姉がいるのか?」

 

「本物の姉弟じゃなくて、姉貴分と舎弟だけどね。川神百代って人なんだけど」

 

「川神百代が…」

 

 

昨夜懸念を抱いた人物と大和の関係性を聞いた薫だったが、それ以上に気になったのは、今ここに川神百代がいることだった。

 

 

「しかし、川神百代はここで何を?」

 

「この時間帯、ここら辺で挑戦者が姉さんを待ち構えていることが多くてさ。姉さんとしても断る理由がないからその場で戦うんだ。生徒たちにとってはいつものことで、よく見学してるんだよ」

 

「今日はどんな挑戦者が来てんだろうな?覗いてみようぜ」

 

 

翔一を先頭にして、薫たちは人だかりをかき分けていく。

やがて、観客たちの最前列に達した薫は、目の前の光景に驚愕する。

 

 

そこには、山がそびえ立っていた。

しかし、それを形作っているのは、土ではなく人間だ。

川神学園の制服とは違う学ランを着ていて、ピアスやタトゥーのある者もおり、端から見れば一発で不良と分かる連中ばかりだった。

その全員が、残らず気を失った状態で積み上げられている。

 

 

「…何だ、これは」

 

「ありゃー他校の不良たちだな」

 

「あの制服、前にも見たことあるよ。仲間集めて仕返しに来たんだろうね」

 

「懲りない連中。しょーもない」

 

 

険しい表情でそう言う薫に対し、岳人、卓也、京は当たり前のように言った。

そして、不良の山の傍では、腰の引けた不良が一人、黒髪の少女に追い詰められていた。

 

 

「ち、ちきしょう!俺の部下たちが…」

 

「残念だったなぁ。数だけ揃えても私は倒せない…ぞ!」

 

「ぐべらッ!」

 

 

楽しそうに笑みを浮かべる少女の放った瞬速の拳を受けた不良は、奇妙な断末魔を上げながら吹き飛ばされ、不良の山の頂上に落ちた。その瞬間、観客たちから歓声が上がる。

 

 

「キャー!モモ先輩かっこいー!」

 

「人間をパンチだけで積み上げるなんて、俺たちにできないことを平然とやってのける!」

 

「そこに痺れる!憧れるぅ!!」

 

 

湧き上がる歓声を聞き、上機嫌になった少女――百代は、不良の山に一気に近づき――

 

 

「仕上げだ!まとめて吹っ飛べぇ!」

 

 

回し蹴り一発で、全ての不良を蹴り飛ばした。

 

 

「モモ先輩サイコー!抱いて!!」

 

「ハハハ見ろ!不良がゴミのようだ!」

 

 

百代と不良グループの勝負が終わり、観客たちの歓声がさらに大きくなった。

 

 

「相変わらず容赦ねーなモモ先輩は」

 

「ま、相手は一人相手に集団で挑んできたんだし、自業自得じゃないか」

 

 

翔一や大和は、不良たちに少々同情しながらそう言った。

川神市に住む人間にとって、挑戦者が百代に完膚なきまでに敗北するのはいつものことで、人間離れした彼女の繰り出す技が敵を圧倒する様子は、一種のエンターテイメントとなっていた。

だからこそ、百代が勝利すればこうして歓声を上げて皆が盛り上がる。

 

 

しかし、その中でただ一人、薫の表情だけは曇っていた。

 

非があるのは、勝負を吹っかけてきた不良たちなのだろう。

百代はその不良たちの勝負を受け、勝利したに過ぎない。

 

だが薫の目には、不良を殴っていた百代がただ力を振るうことを楽しんでいるようにしか見えなかった。

 

昨夜懸念していたことが、再び薫の頭をよぎる。

下手をすれば、彼女は本当に()()なってしまうのではないかと。

そう考えていた薫の耳に、突然声が入ってくる。

 

 

「おー、お前たち見てたのか。で、その子がワン子の言ってた薫ちゃんか?」

 

 

観客の最前列にいた大和たちを見つけた百代の声だった。

百代は大和たちの中に混ざっている薫の姿を見ると、駆け寄って来て彼女の顔を観察する。

 

 

「ふむ。聞いてた通りカワイイじゃないか。でもちょっと眉間にシワが寄ってるのがもったいないなぁ」

 

「……」

 

「おっと、まずは自己紹介だな」

 

 

薫が黙っていると、自分が自己紹介をするのを待っているのだと解釈した百代が、薫に笑顔を向けながら名乗った。

 

 

 

「私は川神百代。川神学園の三年生だ。好きな言葉は“誠”。得意とする武器は乙女らしく拳だ。よろしくな、薫ちゃん♪」

 

 

 

 

これが、姫と武神の出会いであった。

 

 

 

 

 




まじ恋原作では大抵ギャグシーンとして描かれる百代と挑戦者の勝負を
薫が見ると何を思うのか。

この世を守るために修行してきた薫にとって、まじ恋のキャラ達とは”戦い”に対する考え方が
根本的に違うのではないだろうか。

そう思って書いたのがこの第五幕です。

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