真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第七幕 街行姫<まちゆくひめ>

―――夜 島津寮―――

 

 

放課後の学園巡りを終えて島津寮に帰宅した薫は今、寮の自室にいる。

既に夕食も済ませ、その日の授業内容を復習しているところだ。

人里離れた家で丹波や黒子たちから教わっていた頃とは違い、多くのクラスメイトたちと一緒に授業を受け、休み時間に分からないところを教え合うというのは薫にとって新鮮だった。

もっとも今は誰かと教え合うことは出来ない。

何故なら、現在島津寮にいる学生は薫だけだからだ。

忠勝は今夜も夜勤らしく、夕食を終えると出かけてしまった。食後のお茶をしっかり人数分入れてから行くあたりは流石の一言だった。

そして、大和たちは――

 

 

「皆、今頃は秘密基地とやらに集っているのだろうな」

 

 

今日は金曜日。

風間ファミリーが秘密基地に集まる金曜集会のある日だ。

 

 

 

 

―――風間ファミリー秘密基地―――

 

 

多馬川付近にある廃ビルの一室。

電気が通っていないため、ファミリーが持ち込んだランプで照らされたその部屋に、大和たち風間ファミリーの九人が揃っていた。

金曜集会の主な目的は集まったメンバーで雑談したり遊ぶことだが、休日の予定などについて話し合うこともある。

本日の場合は後者だ。そして、議題は薫についてだった。

 

 

「学園内の案内は今日やったってことで、明日は川神市内を回るぞ」

 

「七浜の方は行かないのか?」

 

「観光目的ならそれでもいいけど、これから住む街だからな。時間かけて回った方がいいだろ」

 

 

相手が観光客ならば有名スポットだけ回ればいいが、薫は少なくとも学園にいる間は川神市に住むのだ。

生活する上で必要になる場所や便利な場所も教えておくべきだ。

下校中、薫にそう説明すると彼女も納得していた。

 

 

「明日か~。あたしとお姉様は川神院で稽古があるわ」

 

「薫ちゃんともっと絡みたいなぁ。サボるか?」

 

「学長に怒られるんじゃない?」

 

「むぅ。それはそれでめんどくなるな」

 

 

薫の街巡りに参加できないことを残念がる一子。

堂々とサボタージュ宣言する百代に、ファミリーのツッコミ役である卓也からの鋭い一言が炸裂する。

 

 

「川神院にも寄る予定だから、それで我慢してよ姉さん」

 

「んーまぁいいか。その時にベッタリしよう」

 

「今朝の薫さん、随分と戸惑っていましたけど…」

 

 

勝負を断られた百代が登校中に薫に抱きつきながら歩いていた光景を思い出す由紀江。

日頃からファンの女子たちを侍らせている百代にとっては当たり前のスキンシップだったが、耐性のない薫は顔を赤らめていた。

 

 

その後、各自の予定を聞いたところ大和以外の全員が何かしらの予定を入れていたため、薫の案内役は大和一人となった。

 

 

「薫ちゃんと二人で街巡りだとぉ!?妬ましいぜぇ」

 

「ぐぬぬ…もし急接近されたら…」

 

「いや、別にデートとかじゃないからな?」

 

 

脳内に『男女二人でお出かけ=デート』という式が出来上がり嫉妬する岳人。

そして大和が女子と出かけることに危機感を抱く京であった。

 

 

 

―――翌日―――

 

 

「では大和。今日もよろしく頼む」

 

「お任せあれ」

 

 

寮生たちが出払った後、大和と薫も寮を出た。

ちなみに本日の薫の服装は学園の制服ではなく、着物である。

彼女曰く、実家から持って来た私服は全て和服だそうだ。

本人が着慣れている物なので問題はないが、一応洋服屋の紹介も予定に組み込まれつつ、大和による川神市巡りが始まった。

 

午前中はまず島津寮周辺を案内し、昼頃には金柳街に移っていた。

食品店や日用品店が並ぶ商店街であり、そこにある丼物チェーン店の梅屋で昼食をとった。

薫はそこで働く中年店員にやや警戒の目を向けていたが、注文した牛飯の味は気に入ったようだ。

休日ということもあってか客の多い梅屋を出た大和が薫に商店街の店を紹介していると、二人に声をかける者がいた。

 

 

「おー姫さん来たか!」

 

「翔一?なぜここに…」

 

「ああ、キャップはここの本屋でバイトしてるんだ」

 

 

薫の目の前には翔一のバイト先の一つである川神書店があった。

店長のこだわりでマニアックな書物が多いが、正直に言えば一般受けは悪い。

店先で翔一と話していると、店の奥から店長がやってきた。

 

 

「バンダナが誰と話してんのかと思えば大和のバッキャローじゃねえか。そっちの嬢ちゃんは見ねぇ顔だな」

 

「最近ウチのクラスに編入してきたんだ。今川神市を案内してるとこ」

 

「よっしゃ。せっかく来たんだから見てけよバッキャロー」

 

「…この御仁はいつもこうして他人に暴言を?」

 

「あー、バッキャローはこの人の口癖みたいなもんでさ。本人にそんなつもりはないんだ」

 

 

店長とは大和たちが小学生の頃からの付き合いであるため、大和は彼の人柄をよく知っている。しかし薫にしてみれば、いきなり初対面の人間にバッキャローと言われればいい思いはしないだろう。

顔をしかめる薫だったが、店頭に並ぶ古書を見つけ、手に取った。

 

 

「ふむ…これは面白そうだな」

 

「おお!そいつに目をつけるとは分かってるじゃねぇかバッキャロー!」

 

「……」

 

 

褒められているのか貶されているのか。

本人に侮辱の意思がないとは分かっていても、どこか納得のいかない薫。

逆に店長の方は自分と趣味の合う客が現れたことが嬉しいらしく満面の笑みだ。

志葉家の古文書を読んでいた薫には、最近の小説などよりもこうした古い書物の方が親しみやすいのだ。

薫は興味の湧いた三冊の古書を購入し、街巡りを続行するべく書店を後にした。

 

 

「また来てくれよなバッキャロー!」

 

「…えーと、薫さん」

 

「もう気にしていない。本当に癖のようだからな」

 

 

喜びに満ちた笑顔で手を振りながらこちらを見送る店長の姿を見れば、彼に罵倒する気がないことは明白だった。

 

 

 

その後も川神市巡りは続く。

川神駅の後は金柳街に並ぶ地下商店街アゼリアを見物。

仲見世通りでは千花の実家の和菓子屋で名物きなこ飴を堪能し、土産として購入した。

 

そして二人は、川神市で最も有名であろう川神院に到着する。

すると、開放されている門から胴着姿の一子がやって来た。

 

 

「いらっしゃい二人とも!入って入って」

 

「いいのか?」

 

「じいちゃんには薫が見学に来るって昨日の内に言ってあるわ。お姉様も会いたがってるし」

 

「川神百代か…」

 

 

入るのを少々ためらう薫。

心の中にある百代に対する懸念や昨日の朝の出来事から、薫は百代に会うのを避けたがっている。

とは言え、一人の武人として川神院の稽古に興味があるのも事実ではあるし、ここで帰っては自分を招いてくれる一子たちにも悪い。

薫は大和と共に門を潜り、一子の案内を受けて川神院に入った。

大勢の門下生たちが稽古に励んでおり、川神院の中は活気に満ちていた。

門下生たちを見ていた川神院総代、鉄心が薫たちに気づき歩み寄る。

 

 

「おお薫ちゃん。よく来たの」

 

「見学をお許しいただきありがとうございます。鉄心殿」

 

「かまわんかまわん。かわいい子の頼みはなんでも聞いちゃうぞい」

 

「じいちゃん…」

 

 

年甲斐も無く女好きな鉄心であった。

 

 

「ようこそ薫ちゃーん!!」

 

「コラー!まだ稽古の途中だヨ!」

 

 

門下生に混じって稽古していた百代がすっ飛んできた。

後ろにいるルー師範代からの注意も聞かず、百代は薫に飛び付きハグする。

 

 

「は、離してくれ!」

 

「んー顔赤くしちゃってカワイイなー。ほーれグリグリ…」

 

「喝ッ!!」

 

「ぐおわ!?」

 

 

薫の反応を面白がってさらにスキンシップを激しくする百代だったが、危うくセクハラに発展しかねないと判断した鉄心によって阻止された。

気の放出のみで、しかも抱きしめられている薫を避けて百代だけを吹き飛ばす技はさすが川神院総代と言ったところか。

 

 

「いててて…何すんだジジイ!人がせっかく楽しんでる時に!」

 

「バッカモン!薫ちゃんがいやがっとるじゃろうが!」

 

「嫌よ嫌よも好きの内と言うだろが!」

 

「その理屈だと姉さんは学長に邪魔されたことも好きってことになるけど?」

 

「弟なら私の味方しろよー!」

 

「ギャーとばっちり!!」

 

 

舎弟に指摘されたことが気に食わず、大和にアイアンクローをかます百代。

なにやら状況がカオスになりつつあったが、鉄心の喝が再び飛んだことで百代もようやく落ち着いた。

その後、薫がしばらく稽古風景を眺めていると百代が放り出していた自分の稽古を終わらせて薫に近寄る。

薫はやや警戒するが、百代はもう抱き付くつもりはないらしく、薫の目を見ながらこう言った。

 

 

「なぁ薫ちゃん。私と勝負してくれないか?昨日は断られたけど、やっぱり薫ちゃんとは一度戦ってみたいんだ」

 

 

再び、薫に勝負を挑んだ。

百代にとっては真剣(マジ)な申し出だった。

しかし、薫は確かに感じた。

百代の中にある、貪欲なまでの戦いへの渇望。

長年求めてきた自分を満足させられるだけの戦い。

薫ならば、それを実現出来るかもしれない。

そんな百代の思いが分かったからこそ、薫は真剣(シンケン)な面持ちで首を横に振った。

 

 

「…どうしてもダメか?強いやつと戦いたいとは思わないか?」

 

 

百代は尚も尋ねるが、その問いは薫の決意をより強める結果を生んだ。

今の百代は自分が楽しむことしか頭にない。

戦いを自分の欲求を満たす手段としか捉えていない。

そんなある種危険な考えを持つ人間とは、勝負するわけにはいかない。

 

薫が黙って首を振ると、百代は暗い表情のままその場を去った。

そんな二人の様子を、大和は黙って見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

薫と大和が見学を終えて川神院を出る頃には、既に日も落ちかけていた。

ここで、この日の川神市巡りはお開きとなった。

 

 

「まだ紹介してない所はあるけど、明日は俺も用事があるからな。また次の休日に続きをやろう」

 

「分かった。その時はまた頼む…ふふっ」

 

「ん?どうかした?」

 

 

突然薫が笑ったことに首を傾げる大和。

対して薫は、笑顔のまま言った。

 

 

「いや、今日だけで色々あったが…大和と出歩くのは楽しいと、そう思ってな」

 

「…ッ!」

 

 

川神院では少々問題もあったが、薫は今日の街巡りを本当に楽しんでいた。

晴れやかな表情で言われた薫の言葉に、思わず大和は赤面した。

 

 

「む、どうした大和?」

 

「い、いや!なんでもない!」

 

 

顔を背けながら何とか取り繕う大和。

先ほどの言葉を言った時、大和には薫も若干顔を赤らめていたように見えた。

果たしてそれは夕日の仕業か、それとも…。

 

結局その後、大和は寮に戻るまで薫に顔を見せられなかった。

寮には用事を終えた京が先に帰っており、まだほんのり赤い大和の顔を目撃して今日何があったのか必死に問い詰めたそうな。

 

 

 

 

―――その夜―――

 

 

「ふうっ…ふうっ…!」

 

 

川神院の自室にて息を荒げ、己を抑えようとする武神が一人。

 

 

「戦いたい…戦えないっ…!!」

 

 

『理性』という名の枷が軋み、悲鳴を上げる。

その限界の時は、もうすぐそこまで近づいている……。

 

 

 




由紀江ルートでは大和を性的に襲うことで
紛らわそうとした百代。

しかし今作の彼女は、さらに危険な状態です。
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