真剣で姫に恋しなさい!   作:常磐

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第九幕 姫文字力<ひめの もぢから>

 

 

―――夜 秘密基地―――

 

 

「ねぇみんな。なんか空気が重いよ?」

 

 

九鬼財閥製のお手伝いロボット、クッキーは珍しく暗い雰囲気の金曜集会に戸惑っていた。

大和たちは、放課後に起きた出来事があまりにショックだったのだ。

 

戦意を失った挑戦者を容赦なく叩きのめした百代。

その百代に、怒りを露わにしながら決闘を挑んだ薫。

 

挑戦者が現れたことで百代の機嫌が直り、状況が改善されるかと思っていたのに、真逆の結果になってしまった。

ちなみに百代はこの場にいない。

あの後鉄心によって川神院に連れて行かれ、散々説教された挙げ句に今夜は外出禁止となったのだ。

もっとも、一子が出かける前に見た百代は明日の薫との決闘が待ち遠しいのかニヤニヤと笑っており、反省の色は見えなかった。

 

 

「お姉様があんな風になっちゃうなんて…」

 

「薫さんがモモ先輩と戦わなかったのって、ああなることを予感してたからなのかな…」

 

「恐らくはそうでしょう。確かに言われてみれば、最近のモモ先輩は精神的に危うかったと思います」

 

 

武道家として尊敬していた姉の豹変ぶりにショックを隠せない一子。

卓也の言葉を由紀江が肯定する。

 

 

「でも、今更決闘したってモモ先輩が喜ぶだけだと思うよ?」

 

「んー、そればっかりは姫さんの考えが分からんことにはなぁ」

 

「んで、肝心の薫ちゃんは今どうしてんだ?」

 

「島津寮にはいない。一度実家に戻って支度をするそうだ」

 

 

京の意見ももっともだった。

戦闘欲求が解放されてしまった百代と戦ったからといって、解決できるとは言い難い。

むしろ戦闘を楽しんで悪化しかねないのだ。

 

 

「……」

 

「大和?さっきから黙ってるけどどうかしたの?」

 

「…ここに来る前に、薫さんと話したんだけどさ」

 

 

唯一会話に参加していない大和にクッキーが問い掛けた。

大和はファミリーのメンバーに、薫との会話の内容を教えた。

 

 

『薫さん、本気で姉さんと戦うのか?』

 

『ああ、すまない大和。私は、本気でお前の姉の心を折るつもりで戦う』

 

『なんでそこまで…』

 

 

京が言うには、薫も壁を越えるレベルの強者らしい。

しかし、今の百代と戦うのは危険すぎる。大和は薫を心配するが、薫は続けてこう言った。

 

 

『これは必要なことなのだ。彼女を、“外道”に堕とさぬために…』

 

 

 

「外道に堕とさないって…どういうこと?」

 

「モモ先輩がそんなひどい人間になるかもってこと?いくらなんでもそんな言い方ないんじゃない?」

 

 

外道とは道理に背く者、または邪悪な者を罵った言葉である。

確かに今の百代は異常だが、仲間を罵る言い方をした薫に対して、京や卓也は少々顔をしかめる。

 

 

「俺にも、薫さんの考えは分からない。でも、薫さんの目は真剣(マジ)だった」

 

 

大和はそう言った。

彼の言う通り、風間ファミリーのメンバーは薫の言った『外道』という言葉の本当の意味を理解してはいなかった。

 

 

 

 

 

―――翌日 川神院―――

 

 

薫と百代の決闘の準備が行われ、定められた開始時刻の十分前。

百代は既に胴着を纏い、薫の到着を待っていた。

決闘場の周りには、大和たち風間ファミリーがいる。

本来川神院で決闘が行われる際、部外者の観戦は許されていないが、大和たちの懇願を受けた鉄心が特別に許可した。

大和たちはどうしても、この決闘の行く末を見届けたかったのだ。

 

 

「薫ちゃん早く来ないかな~♪」

 

 

百代は心配そうにしている大和たちの視線に目もくれず、相手の登場を待っていた。

 

 

そして、決闘開始の一分前。

風の吹く音だけが響いていたその決闘場に、変化が起きた。

 

ドン、ドンという和太鼓の音が響き、薫の従者である黒子たちが現れた。

陣幕を百代の前に広げ、志葉家の家紋の入ったのぼり旗を掲げる。

その光景に、百代や鉄心、ルーが目を見開いた。

 

やがて、和太鼓の終わりと共に黒子たちによって陣幕が開かれる。

 

 

そこには丹波を傍に控えさせた、袴姿の薫が立っていた。

彼女の瞳は、正面にいる百代を力強い眼差しで睨んでいる。

 

 

「川神百代!ようく聞けぃ!」

 

 

その場にいる皆が注目する中、丹波が口上を始める。

2-Fに在籍する者にとっては、薫が編入した時にも聞いたもの。

しかし、その時とは気迫が違った。

まるでこれから本当の戦に赴くかのようだ。

 

 

 

「こちらにおわすのは、300年の昔より、この世を脅かす外道どもを葬ってきた侍の末裔!

 志葉家十八代目当主!志葉薫様である!」

 

 

 

「…ははは。話に聞いた通りだな。どれだけ時代がかってるんだ」

 

「笑うでないわ!戦の前に名乗るのは侍としての礼儀なのだぞ!」

 

「にしてもなぁ…」

 

 

丹波の口上に思わず笑いをこぼす百代。

百代とて決闘の際には名乗るが、ここまで演出に力を入れたものは初めてだった。

怒る丹波を控えさせ、薫が言葉を放つ。

 

 

「川神百代!」

 

「モモ先輩って呼んでくれよ~」

 

「いや、今の私は川神学園の生徒としてではなく、一人の侍としてここにいる」

 

「へぇ、それで?私がそのジイさんの言う外道だって?」

 

「そうなるやもしれん…と言うことだ。だから私は、侍としてお前を止める」

 

「ふーん、まあいいや。私は戦えるなら何でもいい」

 

 

百代は両手の指をポキポキと鳴らす。

既に臨戦態勢に入っていた。

 

 

「丹波、下がれ」

 

「ははぁ!」

 

 

丹波は薫に一礼し、黒子たちと共に決闘の舞台から離れた。

薫は最後に残った黒子からシンケンマルを受け取り、真っ向に構える。

 

 

「志葉薫…参る!」

 

「川神百代!いざ勝負!!」

 

 

侍は刀。武神は拳。

両者が己の武器を相手に向ける。

審判の鉄心が両者の間に立ち――

 

 

 

「いざ尋常に…始めぇ!!」

 

 

 

決闘の開始が宣言された。

その直後、薫が百代に肉薄した。

 

 

「はぁ!!」

 

「おお!?早いな!」

 

 

神速の一太刀を、百代は両腕を交差させてガードした。

骨にひびが入るほどの一撃を食らったにも関わらず、期待以上の技を見せた薫に歓喜の声を上げる。

 

 

「だが残念だな。この程度のダメージはすぐに治る!」

 

 

百代は瞬間回復によって、両腕のダメージを即座に治癒した。

渾身の攻撃が一瞬で無意味になったとなれば、普通の人間ならそれだけで大きなショックを受けるだろう。

しかし、薫はひるむことなく百代に対峙する。

 

 

「お返しだァ!」

 

 

百代は薫に向かって高速のラッシュを放つ。

常人からすれば百代の両手が消えて見えなくなるほどの速さだが、薫はその連撃を時に回避し、時にシンケンマルで弾いていく。

 

 

「…何だありゃ?全然見えねえ」

 

「すごい…お姉様のラッシュを全部いなしてるわ」

 

「あれだけの速さで全く食らわない…なんて反応速度だ」

 

「姫にとってはあの程度造作もないことじゃ」

 

「うお!ジイさん!?」

 

 

薫の戦いぶりに驚嘆するファミリーの傍に、いつの間にやら丹波が立っていた。

 

 

「戦においてはたった一つの負傷が死に繋がるのじゃ。敵の攻撃をかわすのは当然のこと」

 

「死って、大げさだなぁ。確かにこれは決闘だけど戦じゃ…」

 

 

卓也は丹波の解説を否定しようとする。

しかしその言葉を遮って、丹波は続けた。

 

 

「戦じゃよ。これは、外道に足を踏み入れかけている武神を止めるための戦じゃ」

 

 

 

 

 

 

「ははははは!!強いな薫ちゃん!期待以上だ!」

 

 

ラッシュの他、蹴りや背後に回り込んでの奇襲も仕掛けたが薫は全ての攻撃をかわして見せた。

その間にも、薫は隙を見て百代に斬撃を浴びせたが、百代は受けたダメージを全て瞬間回復させている。

どうやら傷を負ったら即座に治るよう常に瞬間回復を使える状態にしているらしく、薫の攻撃が当たるのも気にせず攻め続けていた。

 

ダメージを受けたそばから回復する敵など、脅威以外の何物でもない。

風間ファミリーは薫に勝機があるとは思えなかった。

そしてここで、百代の攻撃はさらに激しくなる。

薫から距離をとった百代の掌に気の力が収束される。

 

 

「こういうのはどうだ?川神流、致死蛍!!」

 

 

百代の掌から強烈な気弾が放たれた。

薫はこれまでとは異なる遠距離からの攻撃を、冷静にシンケンマルで払い落とす。

 

 

「やるなぁ!じゃあ今度はこれだ!!」

 

 

薫が自分の技を防ぐのを楽しむように、百代は次の技を放った。

先ほどの致死蛍よりも小さい気弾を複数作り出し、薫に向けて連射する。

 

 

「くっ…!」

 

「薫さん!」

 

 

同時に襲い掛かる十数発の気弾を捌こうとした薫だったが、数が多すぎたためか数発を打ち漏らし、ついに薫の腕や脚を掠めた。

とうとう被弾してしまった薫に、思わず大和が叫ぶ。

 

 

「そんな技もあるのか。…ならば!」

 

 

薫はシンケンマルを左手に持ち変えると、右手で懐からショドウフォンを取り出した。

 

 

「携帯?薫殿は一体何を?」

 

 

クリスと全く同じ疑問を、丹波や黒子を除く全員が抱いた。

薫はショドウフォンを開くと、縦の円柱パーツを軸に折り畳む。

すると、円柱パーツの先端の穴から毛筆の穂が現れた。

ショドウフォンの第二形態『筆モード』である。

 

 

「はっ!そんなおもちゃで何が出来るんだ?」

 

 

薫の行動を理解出来ない百代は、鼻で笑いながら両手を構え、その掌の間に気を集めた。

気の力は、チャクラムのような形状に練り上げられる。

 

 

「釈迦堂のリングじゃと!?いつの間に…」

 

「ま、見よう見まねだけどな」

 

 

それは元川神院師範代、釈迦堂刑部の得意とする技である。

かつて釈迦堂の弟子だった百代は、その技を一度見ただけで模倣していた。

 

 

「さぁ食らえ、リング!!」

 

 

百代の練り上げた気の輪が放たれた。

それに対して、薫はショドウフォンを使い自分の目の前に大きく文字を書いた。

 

書かれた文字は、『反』。

 

 

「はっ!」

 

 

薫が掛け声と共にショドウフォンを振ると、『反』の文字が180度回転する。

 

 

そして『反』の文字と激突したリングは、百代に向けて反射されてしまった。

 

 

「なっ!?」

 

 

百代はとっさに両腕でリングを防いだ。

ダメージはすぐに治ったが、文字が攻撃を跳ね返すという現象に百代は初めてその表情に戸惑いの色を見せる。

 

その間に、薫は自分の足元に新たな一文字を書いていた。

地面に書かれた『界』の文字は溶けるように形を変え、ドーム状になって薫と百代をその内側に閉じ込めた。

 

 

「今度は結界か?一体それはどんな技なんだ?」

 

 

次々と不思議な技を見せる薫に百代が笑いながら問う。

その問いに、薫が答えた。

 

 

「モヂカラ…我が志葉家に代々受け継がれし『文字の力』だ。本来なら人に対して使って良いものではないが、私は負けるわけにはいかないのでな」

 

 

『モヂカラ』。

かつてこの世に災いをもたらさんとした外道に対抗するべく生み出された、書いた文字の意味を具現化させる力である。

 

薫の言うように、本来モヂカラは人と戦うために用いられるべきではない。

しかし、人の域を超える力を持つ百代に勝つため、薫はその力を振るうことを決めた。

 

 

「面白いなぁ薫ちゃんは。もっと見せてくれよ!」

 

 

百代は薫に接近し、拳を放つ。

それを回避した薫はショドウフォンを一旦しまい、代わりに赤いディスクを取り出した。

シンケンマルの鍔になっている黒いディスクを外し、赤いディスクと交換する。

 

 

「鍔を変えたらどうなるんだ!?」

 

 

百代からのさらなる攻撃をかわし、薫はシンケンマルを右手で縦に構え、左手で鍔の赤いディスクを回転させる。

すると、シンケンマルのプラキシノスコープにディスクの表面に描かれた獅子が映りこんだ。ディスクの回転に合わせ、絵の獅子はまるで駆け抜けるように動いている。

そして回転する赤いディスクから紅蓮の炎が燃え上がり、竜巻のごとくシンケンマルの刀身を包む。

 

ディスクは『秘伝ディスク』と呼ばれ、シンケンマルの鍔に装着し回転させることで秘められた力を発揮する。

今使用された赤いディスクは火の力が込められた『獅子ディスク』である。

 

燃え盛るシンケンマルを構え、薫が叫ぶ。

 

 

「シンケンマル・火炎の舞い!」

 

 

刀の一振りと共に、灼熱の火炎が放たれた。

百代は気をバリアのように張ることで炎を防ぐが、薫の攻撃は止まらなかった。

 

 

「はあああ!!」

 

 

シンケンマルから放たれた炎は瞬く間に広がり、結界の中を火炎地獄に変える。

 

全方向から襲い掛かる炎の熱に、百代がわずかに怯む。

対して薫は、冷静に言い放った。

 

 

「覚悟しろ百代。この炎が、お前の傲慢を焼き尽くす!」

 

 

 

 

 

 

姫と武神の戦いは、さらに激化する。

 

 






お前の傲慢を焼き尽くす=おごや!

なんとなく『そげぶ』っぽいと思ったけどなんか微妙…。

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