また、回顧録形式を用いています。
番外編1 進示と杏子がいない地球1まで既読推奨。
とある未来の話も既読推奨。
時系列→トータス帰還から暫く。
第3視点
「とまあ、これがミリアとのファーストコンタクト」
「水の上を走ってたけど、あれは魔法かな?ミリアさん」
「え?普通に走ってただけですよ?なので、修行次第では体術だけで走れますよ!今度レクチャーしましょうか?」
「八重樫さんのところはともかく、僕は無理かなぁ…」
「ハウリアなら出来るのでないか?」
「やめてください杏子さん!これ以上バグウサギにしないでください!!」
「バグウサギ筆頭はお前だからな?」
榊原家にトータスに召喚された大半のメンバーが、映画館のようなスクリーンを視聴している。
そのよこで、ジール世界において当事者である、進示、杏子、ミリア、ゼロ、ガラテア、シュクリスがヘッドホンをした状態でいる。
このヘッドホンは、脳の記憶領域を読み取って、映像にできるもので、コードはパソコンと映写機に繋がれている。
多少編集はしているが、当時の状況を可能な限り忖度なく映像化している。
トータスであれば、現地に行って再生魔法でより臨場感あふれる映像を出せるのだが、残念ながらジールは既に消滅した世界だ。
残念ながら畑山愛子など、都合がつかなかったメンバーは何人かいたが、概ね当時の状況を観たいと思っているメンバーはいる。
勿論、オタクであれば興味を示すエリートオタク夫婦である南雲夫妻も含めてだ。
「あなたのセクハラ発言はもうこの時から既にあったのね」
優花が関心半分呆れ半分でミリアに言う。
「えへへ…」と、子供っぽく笑うミリアだが、残念な美女である。
「それにしてもゼロ…あの時から既に裏で助けてくれていたのか…」
「ええ…」
ゼロが少し顔を赤くして、俯いた。
ゼロとしては進示に虐待まがいの修行を課していたので少々気まずいのだろう。
「父さん…私を恨んでいないのはわかりますが、その精神性は常人ではありません。はっきり言って異常です。普通の人間は私がしたような仕打ちに対して恨みや憎しみを持つものです。
貴方達をドルゴラモンにするために怒りを抱かせたとは言え、一時の怒りはあれど、憎しみがない。ガラテアもそういった意味では情より責務を取ってしまう人間でしょう…エルフですが。人によっては…」
「誰か親しい人間が殺されても憎しみを持たない、情のない人間だと取られるか?んなこたぁわかってるんだよ。だが、俺はもうこの性質を変えられそうにない…変えられないほどに年を取りすぎた。だが、俺は責務で憎しみを抱かないわけじゃない」
進示は一度言葉を切り、
「恨みや憎しみは時に世界に変革をもたらし、ヒトの限界を超える人類史において歴史をも動かす力を持つ活力だ。だが、既に起きてしまったことは本来やり直してはいけないし、神側でありながら申請も許可もなく過去の世界に情報送信し(歴史改竄)、抹消された樹にだって思うところはある。だが、お前が俺にした仕打ちは後から必要な事だってわかったし、もう終わった事だ。いつまでも蒸し返して話が拗れて、またさらに災害を起こす気はない。面倒だからだ」
「…まったく、貴方は…」
「まあ、だからこそリカバリーに選んだのだが」
黙って会話を見守っていたシュクリスが割って入る。
「どういうこと?」
「優花。天之河光輝のように、積極的に物事に介入するタイプの人間では、社会のパワーバランスを必要もないのに大幅に崩したり、人間たちが依存して何もしなくなったりと弊害が多いのだ。まあ、彼のような人間それはそれで役割があるのだが、物ぐさな…しかし、重要なところは動く進示を選んだのは秩序と混沌のバランサーに相応しいからだ。中立・中庸がベストだったが、進示はまさにそれだ。…私の事も恨んでいないわけでないが、進示はそれを持ち出す気はないと言っている。前世のお前たちの命を奪った私達をだ」
「シュクリス、お前やあの女神が俺達の命を奪っていなければ、別の神に殺され、【世界を食料にするため利用されてたた】だろ?」
「そんなことまで知っているのか!?…何故?…そうか未来のトレードが送信した情報…それがあったか。お前は受け取れなかったが、ミリアが受け取っている。そしてトータスでミリアが実体化した際にデジシンクロで記録を同期したのか…未来の奴はそんな情報まで送信したのか」
進示の心を読んだのか、納得いったシュクリス。
トータスでエヒトに神に振り回されたミレディは、シュクリスを非難するように見ているが、俺を慮ってか、俺達の会話を見守る。「ミレディちゃんあんまそういうの好きじゃないけど、それで助かったのも事実だし…」呟いている。
あのクソヤローを一度は消してくれた相手でもあるし。
ゼロが呆れたように溜息を吐くと、過去の記憶の話の続きを促す。リミッター付きのシュクリスの力は単純武力ではX抗体が完全に馴染んだルーチェモンやグランドラクモン以下だ。ロイヤルナイツ5体相手に単騎で勝ったとはいえ、ロイヤルナイツ13体とそのパートナーであるチート転生者たち26名を単騎で屠っているジールの魔王アルカディアはまだ生存しているし、不気味な沈黙を守っていて、トータスの戦いには一切干渉してこなかった。ハイネッツは消滅したものの周辺惑星はまだ健在な上に、いずれ地球へ報復攻撃…というか侵略にやってくる。自分たちが地球や他の世界から人間を拉致して人体実験をしているというのに、いざ、情報を盗まれたらこっちを攻撃してくるのだ。身勝手なことこの上ない。
樹やシュクリス達8柱の守護天使は契約者に従うが、契約者がいなければ地上で活動できないし、契約者無しで地上活動が出来たとしても絶対中立である。しかも特殊な事情から清水幸利と契約しているアパルはブランクが長くて戦力にはできない。
デジタルワールドの侵略もしようとしているらしいが、盗み出した杏子の遺伝子情報から、少なくともアルファモンのデータは取られてしまっている。
「ガラテアもあの場所にいたけど、何で3人に会わなかったの?ゼロが言っていた以上の理由はないの?」
雫が疑問をガラテアに投げかける。
「それは…後でわかることですが、当時の二人が知るのはマズい情報があったのと、進示が転生者殺しの毒に侵されていたからです。ジールは転生者を拒絶する世界であると同時に、世界中の人が転生者にこれ以上依存しないために、惑星そのものが出していた毒なのです。デジモンである杏子には効果がありませんが、私はジールの住人でありながら、転生者殺しの毒を自力で解毒できない特異体質でもあるのです。より正確には、私はジールの空気や食物を取り込んでも問題ありませんが、転生者の中に入って変質した毒を私が吸収すると、解毒できない毒になってしまいます」
「「「「「「なっ!?転生者殺し!?」」」」」」
「私の元契約者である、神童竜兵がこの世界に一切近づかなかったのもその毒のせいだ。私であれば体内の毒を破壊出来たが、竜兵は短時間でも毒に侵されるのはマズいからな。ガラテアには…空気感染はないが、飛沫で毒が移ることがある。故に観察のみに止めたのだ。だろう?」
「はい、貴女の言う通りです」
「そして、食事や水を始め、あらゆるものが進示にとっては毒なのです。元々虚弱だった進示が、気丈に振舞っていたとは言え、かなり衰弱していたでしょう?杏子」
「ああ。人工呼吸をした時から溺れただけにしてはあり得ないほど顔が青かったしな」
「ミリアさんには本当に感謝ですね」
進示はジール脱出後こそ、ミリアが残した魔法論文をもとに解毒の魔法を覚えたが、今となっては体内にミリアの龍の因子があるので魔法は不要である。
いや、より正確に言うのならば
他の転生者がこの毒に侵されたら使用機会があるかもしれない。
「あのままミリアと出会わなかったら…あと2週間で死んでたな」
「結構ヤバい綱渡りだったんだな」
進示の言葉にハジメが顔を引きつらせる。
ハジメ自身も秘かに死んだ後の異世界転生には憧れていたが、転生者を殺すえげつない毒があったとは予想外だったからだ。
(そう言えばジール…日本語で魂って訳せるよな?確かオランダ語だっけ?)
進示はふっと沸いた思考に耽る。
皆が何事かと進示を見るが、デジシンクロで同期しているミリアが進示の思考を代弁する。
「はい、魂はオランダ語でジールですね。世界に名前を付けたのはオランダ人かどうかは知る術はありません。あるいは外国語に詳しい日本の転生者が世界に名前を付けた可能性はありますが、いくら星にアクセスしても情報が取れませんでした」
「星にアクセス…ミリアから習ってたやつだな。未来視こそできないが、リアルタイムまでなら惑星の情報を閲覧できるんだったよな?今の俺のレベルでは一度にとれる情報はそんなに多くないし、取りすぎると概念魔法得たときに気絶したハジメ達のようになりかねん」
「そう言えば進示だけは片膝ついて頭抱えただけで、気絶しなかったよな」
「あの情報量をたくさん脳に書き込まれる奴か。気絶できた方が頭痛を感じずに済んだかもな」
「デジモンの私でも少々頭痛を感じたほどだしな…もう一人の私も「あれ、情報量で殴りつけるって表現がぴったりだよ!」と言ってるな」
杏子がが頭を抑えながら呟く。しかし、彼女はデジモンであるため神代魔法を習得したという扱いにはなっているが、魔力がないため使えない。但し、
「昇華魔法を会得してからデジモンに魔法干渉できるようになったのはでかいな。デジモンの怪我も回復プログラムが不具合起こしたら魔法でどうとでも出来るし」
「ん、私も出来る」
「俺は出来ねーぞ…出来るようにして見せるが」
「私も出来ないわ。昇華魔法の明確な定義は【情報に干渉できる魔法】だけど、デジモンが情報体だからって、人間のそれとは大きく異なっているのだから、デジタルネットワークや物理学、数学の知識が必要になるわね」
進示の言葉に賛同するユエと、出来ないというハジメと優花。デジモンへの魔法干渉は進示の見立てでは、ハジメはあと半年もしないうちに出来るようになるとのこと。
優花の数学知識は、高校レベルなら十分な点は取れるが、根本に突っ込んだ知識はないため、まだまだ時間がかかりそうだ。
進示は進示で物理学やネットワークの深い知識はズルに近い方法で会得したが、ハイネッツの住民に紛れ込む生活を余儀なくされたため、ある男に強引に脳に刻まれたのだ。
人間の脳に直接情報を書き込めるほどに文明が発達しているのだが…健康診断で採決された血を悪用されたために悲劇が起きたのだが、それは別の機会に語ろう。
進示達の心を読んだシュクリスは空を見上げ、亡き息子を悼むように目を伏せた。
神童竜兵より前に契約していた男の間に出来た息子。
神の世界を離れ、自分の道を歩んだ彼はしかし、進示と杏子と出会ったことに後悔はなかったのだろうか。
進示と契約している今、天界に行く暇はなく、転生したのか天界ににとどまっているのか確かめたいが、私情で動くことは出来ない。
進示は優しいから行ってきていいよと言うだろうが、まだ、己自信に課した責務がある。
故にシュクリスは自信を厳しく律する。
後輩である樹(トレード)が心配そうに見ているが、彼女に手で「大丈夫だ」と制する。
「当時はゼロの正体が分からなかったし、ジールの住民は一部除いてめっちゃくちゃ民度が低いし、ミリアと出会ったこと以外はロクな思い出がない気がする」
「姉さんは?…聞くまでもありませんね」
進示のつぶやきにガラテアが言うが、気づいて目を伏せた。
「おまえ、あらかじめ未来視をしたフェーに自分はどうあがいても死ぬって聞かされてたんだろ?最初はお前にイーターに取りつかれて戻れなくなった自分を殺すように言ったが、お前は逃げた。まあ、唯一の肉親である以上殺せない、殺したくないという感情が出るのは当然だ」
「…はい。姐さんを生かした場合、…少なくとも3万通り以上の並行世界をシミュレートしたらしいのですが、全て宇宙が全滅すると言ってました。姐さんを殺すのに失敗した場合、宇宙を生き残らせられるルートは、私の知る限りはゼロです」
フェーはミリア同様生まれつき超常的な力を持つ代わりに、ジールの消滅の際は死んでしまう星に紐づいた存在だ。
ミリアは、自分の魂を進示に繋げ、自分の体をデジモン化することで消滅を免れているが、フェーにそんな離れ業は出来ない。
どのみち、ジールは進示と杏子が召喚される前から消滅が確定していた世界だ。
(あれ?じゃあアルカディアは…何故生きていられる?)
(あー…それはアルカディアが転生者を狩るための調整を受けているからですね…多分)
(あー、いるよね。味方キャラの時は弱くて敵キャラの時はチートな奴って)
(アルカディアは一度も仲間になったことはないがな。だが、恐らく…いや、推理にはまだ材料が足りないな)
デジシンクロで繋がっている進示、二人の杏子、ミリアが心でそんな会話をする。
「進示君…ガラテアさん…」
「愁さん、どうかお気になさらず。折り合いをつけるには十分な時間が経っています。エルフにとって数年は短い時間ですが、いずれ彼らがトータスに召喚されるのはわかってました。イヤリングでエルフ耳をごまかして、リリアーナ王女に拾われてメイドの仕事をしているうちに心の整理と考察をしてましたので。進示も私もこの苦悩を生涯抱え続けるのでしょうが、人生とは苦悩あってのもの。悩まないという事は思考停止でもありますので。勿論時に悩まず前に進むことも必要でしょうけど、【姉さんは何があっても大丈夫】と、思考を止めてしまった私も回りも悪いのでしょう。私達のためにゼロとミリアの母娘も奔走してくれましたが…」
「フェーと世界、両方生かす手段は結局見つからなかった」
「そういうことです」
「ガーちゃん…」
「ガラテアさん…」
俯くガラテアの心情を一番理解できるのは、数多くの仲間を失ったミレディだろう。
シュクリスも大切のものを失い続けているが、シュクリスは神だ。それも、トレード達と違い、人類誕生前から存在している神。精神の強度がこの世のものと違いすぎる。
そしてバグウサギと化しているシアだが、彼女の姉は自分とは比較にならないレベルの未来視を持つ人でも変えられない運命がある。自分達であればどんな困難も粉砕して進むと豪語するが、ここまで深く込み入った事情を聴くのは初めてだった。だが、ある疑問がわく。
「そう言えば、フェーさんは自分がイーターに取りつかれる未来は見えなかったんですかぁ?」
「当然の疑問ですが、イーターは過去・現在・未来という時間の概念にとらわれることはありません。未来視、過去視は結局のところある種の時間操作です。時間に関係ないイーターの未来を見る事は出来なかったのでしょう」
ゼロがシアの疑問に回答する。
「フェーがイーターに寄生されたのは彼らが召喚される2年ほど前。ジールに召喚される前も日本でイーター騒ぎがあったのですが、表向きはただの怪異事件として処理されています。この事件を解決したのは、父さん、関原さん、小山田さん、大和田さん、出口さん、岡本さんと、その契約している守護天使達ですが、フェーがイーターに寄生されてる状態でこの世界を観測したために、イーターが出現してしまったのです」
「そうだったのか…杏子が呼び水になったのかと思ったが、逆だったんだな。イーターが出現したからこそ対抗するためのカウンターとして俺達と杏子を巡り合わせたのか。…そうなると岸部…ロードナイトモンも滅びにあらがう側のカウンターなのか。…彼女はロイヤルナイツでも過激派だが、奴がいなければデジモンの世界の修復は出来なかった」
「そのようです」
「…全く、つくづく数奇な運命の巡り会わせに会うらしいな、私は」
杏子はかつての面々を思い出しながら感慨に耽る。
(だが…もしそうならそもそもジールに何故イーターが現れた?)
(そこだよなぁ…)
そう、ジールを脱出してから数年、未だに解けていない謎。
フェーが観測してしまった世界にイーターが出現したのはわかる。
しかし、その大本となった元凶、【ジールにイーターが出現した要因が不明】なのだ。
だが、今これを考察しても仕方ないし、材料が足りない。
あらゆる世界を見渡せる千里眼を持ったフェーを失ったのは家族や友人の感情抜きに痛すぎる。
「この世界の話は鬱展開が多いですが、3人の日常くらいが癒しのシーンでしょうか。召喚組はまだしも、あなた方では吐き気を催したりするかもしれません。精神保護は常に行いますが、気分が悪くなったら言ってください」
ゼロはそういいつつ、モニターに注目するように促した。話が脇道に入りすぎたからだ。
ミリア視点 7年前ジールにて。
お魚さん(マンイートシャーク)を焼きながらケガ人の治療をします。
「魔王アルカディアはロイヤルナイツ13体をたった一人で圧倒し、全滅させただと!?」
「デジモンでもない存在が…魔王アルカディアってそんなに強いの?」
私に怪我の治療をされてる榊原進示君が驚きの表情でそう聞いてきます。
まあ、俄かには信じがたいですよね。
「嘘だったら私も苦労してません。働きたくないでござるって言えてましたが、「え、ソレ地球のネタ」あんな理不尽な存在何で生まれたー!!って言いたいですが、ぶっちゃけ、魔王アルカディアってある意味生まれて当然なんですよね」
「どういうことだ?」
「これは私の想像ですが、アルカディアは転生者を始末するために生まれたのかもしれません。そうであればあんな理不尽な強さも頷けます。ホラ、なろう系転生者って大体チートですから、それに対するカウンターが必要になったとか?転生者ってみんながみんな世界を平和にするわけじゃないですし」
「だから何で地球で生まれた言葉を当たり前のように話してるんだ…ゲホッ!ゲホゲホ!」
ふふふ、不思議ですよね?まあ、いずれ分かることですが今は閉口します。それに…
杏子さんは…記憶をなくしている情報はありましたが、…これ、記憶を無くしているというよりは別の人格が生まれてませんか?
これはアルファモンではなくむしろ…その影?新しいアバター?
「そうだ!進示、召喚初日からずっと咳が止まらないの!お城の人たちには隠してたけど、昨日喀血もしちゃった!」
杏子さんが泣きながら私に縋ってきます。
「あー…それ多分転生者殺しの毒がこの世界中に蔓延してるからでしょう。食事どころか空気を吸うこと自体が致死行為です。このままでは君は10日くらいしか生きれません」
「…!」
自分の余命があと10日しかないことに泣きそうになる二人。
進示君の中身が40代後半くらいなので、騒いだりはしないでしょうが…いや、普通の人なら発狂しかねませんね。冷静に受け止めようとしてるだけでもメンタルが強いですね。
でも、大丈夫。私がいる限り死なせませんから!
「私がこの場に居合わせたことは幸運でしたね。私であれば、毒を中和できます」
「本当!?」
「ええ、でも、この世界にいる間は私の傍を離れないでくださいね?定期的なケアがいりますから。それから転生者殺しの毒を中和する魔法も教えます」
そういう私に進示君は「ちょっと待て」といい、私に向き直る。
「お前当たり前のように転生者って言ってるけど、俺が転生者だってわかるのか?」
「ええ、魂を視れば一発です。私の魔法を伝授しますから、鍛えれば眼力だけで相手が人間か神か転生者かデジモンかなんてわかるようになりますよ!」
私の答えに「そうか…」という進示君。
「もう一つ。転生者殺しの毒はアルカディアが撒いたものなのか?」
「違いますね。
「…何だと」
人間が恐れる魔王アルカディアが実は世界の意思が生み出した精霊ならばこの世界の仕組みそのものが争いからは逃げられないという事です。
転生者に依存しきったこの世界では事実上の死刑宣告でしょう。
「…なるほど、異世界召喚は何度も行われてきたって話だから…多分この世界の人間にも戦わせようと…転生者の依存から脱却させるための魔王と毒なのか」
「お、聡明ですね」
やはり、
「それから、魔王を【アイツ】って言ってたけど、知り合いなのか?」
「直接会ったのはこの1000年でも数えるくらいです。何度か戦闘もしましたが…正直宇宙空間でも戦闘出来て、必殺技でも神の術でもないのに、ただの拳のぶつけ合いで周辺惑星を揺らすほどの力を持っています」
私の言葉に顔を青ざめる進示君。
アルファモンは勿論グランドラクモンでもそこまでの力を持っているか怪しいですからね。
彼のお仲間の究極体でもブルムロードモン、カオスドラモン、クーレスガルルモン、ベルゼブモン、カオスデュークモンとかなりの粒ぞろいですが、正直その程度の戦力ではまず返り討ちでしょう。
何といっても転生者殺しに特化した存在ですから、神の能力も一切効きません。
ぶっちゃけ神様が惑星を両断する神剣振り回すよりは、人間がナイフ1本で暗殺する方がまだ殺せる可能性があります。まあ、そんな容易い相手ではありませんが。
「他にも聞きたいことはあるが、解毒の手段があるんだろう?何とかして…いや、対価がないな」
「進示…そう言えばお金も流されちゃったね」
ああ、そっちの問題がありましたか。…貴方が考えてるような対価はいりません。
この先ずっと一緒にいてくれるだけでいいですよ。人間の恋愛的な意味で愛してくれなくても構いません。
私はまだ死ぬわけにはいかない。
私の命を…貴方と杏子さんの命と繋げます。
その代わり、貴方の望む道を切り開き、貴方の障害を排除します。
まあ、万が一の事も考えて魔法のお勉強や、体術の訓練もしましょうか。
「対価はいりませんし、中身大人でもあなたはの外見は11歳の子供。理不尽な世界の攻撃にさらされている子供を見捨てるほど鬼じゃありませんよ」
そもそも私からすれば人間は皆坊や、お嬢さんですし。
私は龍の杖、赤龍杖を進示君に向けます。
杖から出る光が、進示君を包みます。
「…これは…あったけぇ…体が軽くなるようだ」
「油断は禁物ですが、一先ず最悪の事態は免れました」
「進示!」
がばっと杏子さんが進示君に抱き着きます。
進示君も無下にはせず、杏子さんの背中に手を回して頭を撫でています。
ただ、まだ顔色が青いですね。
「一先ず食事にしましょうか。マンイートシャークは内臓はマズいですが、お肉の部分は美味しくて歯ごたえがありますよ!ラム肉に近い触感でしょうか?」
「ラム肉…ジンギスカン?…魚なのに!?」
そう言うと二人のお腹から可愛らしい音が。
食事はしてなかったんですか。まあ、状況から考えてそんな暇はなかったでしょう。
私は風の魔法で焼き魚になったマンイートシャークを切り刻み、携帯していたお皿に切り分けます。
「おっと、本当なら焼く前に塩をかけるべきでしたね」
「調味料の類も地球に比べて種類が少ないから不安だったが、転生者が持ち込んだ文化がある以上、期待しようか」
「期待していいですよ。なんなら醤油…一昨日使い果たしてましたね…」
「お醤油!じゃあ、お味噌も!?」
「ありますよ!」
よかった、味噌はまだありました!
マンイートシャークがジンギスカン感覚で食べられると言っても、味に飽きちゃいますから…そうだ!お肉だけじゃ栄養が偏りますし、保存してた野菜も焼きましょう。
「おい、その王の〇宝みたいな空間なんだ!?」
「金色の波紋じゃないけどね」
「ああ、コレ?特に呼び名はないのですが、【亜空間倉庫】とでもいいましょうか。〇の財宝と違って中身が勝手に増えたりはしませんが、ほぼ無尽蔵に物を収納できる便利なものですよ。勿論X線にも引っかかりませんし、試したことはないのですが、この中でイヤンウフンなモザイク代わりに…」
「股間を覆うように展開するな…。あと、何で王の財〇って言われて性能即レス出来るんだ?」
進示君があきれ顔をしながら肉を咀嚼しています。進示君は人参、ピーマン、玉ねぎなどバランスよく食べてますが、杏子さんはお肉が多いですね?多分生まれたばかりで味覚が幼いんでしょうか。
…あ、進示君割と甘やかしてますね?
「進示君、杏子さんを甘やかしてますね?さりげなく押し付けられた人参も普通に食べてますし、杏子さんにお肉取られても見逃してますし」
「ひうっ!?」
「…ああ、杏子には戦ってもらってばかりだから、あんまストレス与えるのもアレかな…って」
「ああ、そういう理由ですか…塩分が少し多くなりますが、このソースを使いましょうか」
私は転生者が
「ソースもあんのか?」
「ええ、これで味付ければ食べられるでしょう?」
「ああ、ただ食わせるんじゃなくて、味も考えての案か。子育て経験あるのか?」
「育児と言うよりは一時期、孤児院の子供たちの面倒を見ていた時期がありますのでなんとなくは」
それにしても【ひうっ!?】ていう杏子さん可愛いですね。見た目11歳の女の子ですから余計に。…なんかイケナイ扉開きそうです。
「そう言えばお前エルフなのか?耳がとんがってるけど」
「ああ、コレ?私は龍何です」
「…ドラゴン!?」
「人の姿になれるんだ!」
お二人のリアクションが面白いですねぇ。
「はい、龍の姿はもう人間達に忘れ去られた…龍の私を覚えてる世代はもういません」
だからミリア何てこの世界でもありふれた偽名を使っています。
「そ、そうか…だが、伝説になってるんだよな?」
「まあ、一応は」
それでも必要な時が来れば使うのは躊躇いませんが。
「ああ、食った食った。」
「お腹いっぱいだね!」
「腹ごしらえも済みましたね…では」
私は進示君と杏子さんを抱えてジャンプします。
いきなり抱えられた二人は何事かと下を見ます。
「あ、アースドラゴン!?さっきは10メートルくらいなのに15メートルくらいになってないか!?」
「水質調査に来たのは正解でした。魔物を強くする魔素が湖に広がってますね!?」
私は難なく着地すると、進示君のほっぺを掴み、彼の唇に自らの唇を押し当てます。…ちょっと舌も入れちゃいました。
「な…何を!!?」
「あわわわわわ…/////」
二人の反応が面白いですが、私はアースドラゴンに氷の塊をぶつけながら
「今のあなた達はドルモン→ドルガモン→ドルグレモン→アルファモンという進化の流れを辿っていましたが、龍の私の因子を少しだけ入れました。本格的に移植するにはちゃんとした設備を使いたいし、今の粘膜接触だけではデジモンをアジャストすることしかできませんし、因子事態すぐ消えます。まあ、龍の血の移植は強制しませんし、想像以上の苦痛を伴いますので」
「どういうことだ?」
「つまり、今のでラプタードラモン→グレイドモン→ドルゴラモンと言う進化ルートを辿れるようになりましたし、アルファモンルートへの進化も従来通り可能です」
まあ、獣竜型のデジモンは私の生存のための出汁にさせて頂きますが。
「今の状態で可能だったとしてもドルゴラモンへの進化はやめてくださいね?出来ないとは思いますが。それからデクスドルガモンとかへのアンデッド型も論外です。貴方の精神が持ちませんから」
「お、おう…」
そう言うと進示君はカードをスラッシュさせます。
「おお!ほんとにラプタードラモンになった!」
成熟期ではありますがクロンデジゾイドで固められたサイボーグのような竜。
ラプタードラモンになった杏子さんは奴の足元目掛け、突撃します。
「クラッシュチャージ!」
足にダメージを負ったアースドラゴンは悶絶し、
「アイス!」
進示君が放った初級の氷魔法で、アースドラゴンの目を潰します。
「ギャアアアアアアアッ!!」
「え!?」
目を潰したのはいいですが、暴れてしまいましたね。アンバランスな下半身に異様に長い腕で進示君を狙いますが、私は進示君を抱えて回避します。
「す、すまん…」
「いいですよ。でも、後で体術も教えましょう。目を潰す発想も悪くないです。杏子さんをグレイドモンにしてください」
「あ、ああ…出来るかな?」
ブルーカードを取り出し、スラッシュすると、今度は青いマントを纏った竜人型の剣士になります。
「杏子!違和感ないか!?」
「大丈夫!いけるよ!」
グレイドモンになった杏子さんは、アースドラゴンの拳の振り回しで、気配を頼りに杏子さんを狙いますが、大振りなせいかちっとも当たりません。
杏子さんは余裕で避けていきます。
「食事をしたので私の魔力も万全ですね!」
杏子さんが両手の剣を構え
「グレイドスラッシュ!」
上段よりアースドラゴンをたたき切ります。
再生されては面倒なので私も魔法の詠唱を終え、
「コキュートス!」
バラバラになったアースドラゴンを凍らせます。
「杏子さん!バラバラに切り刻んで!」
「うん!」
杏子さんが神速の剣捌きで凍ったアースドラゴンを切り刻みます!
「アースドラゴンをかき氷にしたよ!」
「…マズそうだな…ファイア!」
進示君がアイスより強い火の魔法でかき氷を溶かします。
ここまでやってしまえば流石のアースドラゴンも再生できませんね。
「回復魔法はまだ会得してないから、怪我できねーしな」
そうなんですか。でも教えるので問題ありません。
「進示~終わったよ~」
無邪気に手を振りながら人間体に戻り、駆け寄ります。
駆け寄ってきた杏子さんを進示君は無下にせず、抱きしめて頭を撫でます。
杏子さんは尻尾があれば振ってそうですね。幻視出来ます。
「進示君、杏子さん、これから長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いしますね」
「進示でいい。敬語もいらん」
「私も杏子でいいよ!」
「敬語は元からですよ。…ですが分かりました。進示!杏子!私とともに地球へ帰る術を探しましょうか!この世界にいてもいいことはないですし。…願わくは末永く一緒にいられることを願います」
「え?」
「そ、それって…」
進示と杏子が顔を赤くします。逆プロポーズですよねコレって・
「杏子、私と…それから一緒に暮らしてた女性と一緒に進示のお嫁さんになりましょう!…あ、私はペットでもいいですよ!何なら首輪付けます?」
「地球は一夫多妻はだめだし…抜け道がないとは言わんが、それから記憶或る杏子はまだしもこの杏子に変なこと吹き込むな!」
う、うわああああああああ!進示からのココナッツクラッシュ!私の頭を押さえつけて自分の膝におでこをぶつけられました!?
…まあ、痛くないのですが。
ですが、進示のストレス発散にはいいかもしれません!…別に下半身的な意味で襲ってくれてもいいんですよ?(チラッチラッ)
「何だその目は」
「な、なんか変態さんの目だよ!?」
「そうです!私が変な変態さんです!!」
変なドラゴンったら変なドラゴン♪
あ、出来ればピンクの服と腹巻が欲しいですね。
「いや、何で地球のコメディアンのネタと振り付け知ってんだよ!?」
「禁則事項です☆」
「ドラゴンて正義の神か悪役か両極端なんだけど、コイツは測れねぇ…」
「私は多分、混沌・中庸ですお!」
「語尾が【お】になる台詞まで完備かよ…無政府主義者で個人主義。むやみに人を傷つけないが、陽気で自由。…格闘漫画の主人公とかに当てはまりやすい属性だな…赤い髪に黄金の瞳。黙ってりゃ美人なのに」
「イヤン!もう、美人だなんて!」
「ミリア、それって多分残念な美人の事だと思うよ?」
「おうふ!?(セルフ吐血)」
こうして、ギャグテイストから始まった私たちの旅ですが「俺死にかけたんだけど!?」、過酷な旅と長い戦いの火蓋が切って落とされたのです。あ、でもこの表現だと華々しく聞こえますから普通に始まったでいいですね。
ただ、進示君が深刻な目で遠くを見ていますね。
「正直戦いたくはないが…こういう世界に来ちまった以上遭遇戦もあり得るだろう。…前人未到の領域に到達する必要があるかもしれない」
…それは人間もデジモンも超えた存在になるってことですよね?
この星の滅びは確定しています。それはどうあがいても覆せない…恐らくは神ですら消滅させる以外の選択肢を持ちえないほど終わった世界。
その前にこの世界を脱出し、その過程で貴方を鍛え上げ、私の生存の器になってもらう必要があります。
本音を言えば中身40台と言えど私にとっては雛鳥に過ぎない人間の貴方を戦わせたくはありません。
でもそうせざるを得ないのです。
地球からはるかに離れたこの世界で貴方の無聊を慰めるためにいくらでも道化になります。杏子がいるとは言え、彼女は記憶を無くした幼子の状態…いや、新しく生まれたというべきでしょうか。
だって、コメディアンのネタを言ったりしたら貴方の魂、喜んでいました。地球から離れてさぞ不安だったでしょう?わかります。そして死にかけましたもんね?血を吐くほど苦しかったですよね?取り繕ってはいますが、貴方の魂はまだ恐怖に震えています。
まだ日本の倫理、道徳観から離れにくいでしょうが、私の事情に貴方を巻き込む以上、いくらでも癒しになりましょう。
ああ…でも、永い永い道程になりそうだ。私でも心が折れそうになる。
だから、貴方を護らせて下さい。
私達の人生は、重い責務になりそうだ。
だからこそ、仲のいい人と一緒にバカをやれる時間が必要です。
魔王アルカディア。混沌・善
転生者殺しの達人でもある。
過去、ロイヤルナイツ13体を単騎でまとめて屠った理不尽の権化。リミッター付きのシュクリスより強い。
が、そもそも相性の問題で神、もしくは天使に連なる樹やシュクリス達では、リミッターフル解除しても一切傷つけることが出来ない(シュクリスはその気になれば宇宙をなくすことが出来る)。
ナイフ持った一般人の方が勝ち目がある。暗殺という手段で。
また、一応デジモンも人間界の力であるため、デジモンの攻撃も通用する。
仮に神がアルカディアに攻撃するとしたら、人間界の武器で神の力を乗せずに戦うしかない。
また、皮肉ではあるが、トータスのエヒトルジュエも一応アルカディアを倒せる可能性がある。
神代魔法や、概念魔法は人間界の力の域を出ないためである。
アルカディアは神属性ではないため、友愛神殺剣の特攻対象外。
そもそもチート転生者を狩るために生まれた存在なので弱いはずがない。
因みにゲーム風にしてみると、アルカディアの攻撃は転生者は被ダメージが上がるパッシブスキルがある。