清水君が4話の時点でハックモンをパートナーにしていましたが、まだ現実世界には出てこれない模様。
過去編に関して別途執筆してますが、本編を優先して更新するかもしれません。
気長にお待ちいただければ。
※作中何度か触れていますが、デジシンクロしている関係の人たちは、片方が死ねばもう片方も死ぬ設定ですが、死んでも直ぐパートナーが死ぬわけではなく、魂が消滅するまでは猶予があります。
杏子視点
「南雲君達がどういう思いをしてきたか…君たちが一番苦しい時に力になれなかった私が言うことは軽いかもしれません。でも、大切な人以外一切を切り捨てるような寂しい生き方はし欲しくないのです」
「…先生、言いたいことはわかるが、理想と現実は違う。進示は現実の厳しさを知ったうえでなお、最善の道を探そうとするが、…俺にそんな余裕はない」
「…南雲君」
それぞれが戦いの準備に動いたり休息をとったりするものがいる中、ハジメ君と先生の問答が聞こえてきた。
会話の内容から言って、先生は我々の人間関係…社会生活を営む上での対人関係を心配して言っているのだろう。
ちなみにデジモンたちは街の人間には見えないようにデジヴァイスに格納したが、エテモンが既にやらかしてしまっているので、彼だけは【着ぐるみの旦那】として外に出している。
おかげで神殿騎士からの目は白いが、彼がついた餅のおかげで街の住人には人気だったりする。
まあ、彼らしい歌声と共に餅をついていたが。
「先生」
「暮海さん…そう言えばその雰囲気が本来の暮海さんだと聞いていましたが」
「今ままでの私は記憶を失っていて、本来の私はデジモンでありながら人間社会に紛れて、探偵業を営んでいました…それは進示と出会う前の話ですが」
そう、私は進示と出会う前も複雑な経歴を持っている。
「私は目的のために社会のルールと折り合いをつけながら…しかし、時として人間を利用する行動をとっていました。…人によっては非常、非人道的と言われることもしていました」
その最たるものが、暮海杏子の体を利用したこと、半電脳体になった助手を利用し、命を削らせながらコネクトジャンプを使わせ…今思えば物凄く罪悪感が沸いてくる。
…やはり進示と魂が繋がっているから、私の心は大分人間に拠っている。寄っているではなく、拠っている。
イグドラシルやデジタルワールドではなく、進示の傍が今の私の帰る場所になってしまった。
…私はそれを恨んでいないが…助手は…進示から私の世界が架空の物語の一つであると知り、助手は恨んでいないと言っていたが…それでも不安になる。
ハジメ君は私のことを聞いていたが驚きはなかったが、先生は息を飲んだ。
「人の心は良くも悪くも移ろうものです。今のハジメ君が自分の大切や仲間、家族以外の人に関心がなくても、人間関係次第では興味を持つこともありますし、興味を失うこともあります」
「…」
「ですが、進示はハジメ君を見守るつもりでいます。デジシンクロで魂が繋がっている以上進示の考えは手に取るようにわかります。…まあ、進示も私の考えが分かるのですが。ともかく、密会の時に声をかけたもの全員、もう進示がいなくてもやっていけると、本人たちが言うまで、助力をしていくつもりのようです。進示がそう考えるならば、私も私の力が及ぶ範囲で力を貸します」
「暮海さん…!」
「~っ!!」
先生が感極まったように、ハジメ君が照れ臭いのか頬をかいている。
「そう言えば榊原君は?」
「進示なら怪我人のケアやこれからの戦いに必要なもののメンテナンスで疲れて仮眠をとっています。進示もこの戦いに参加する以上、休憩なしとはいきませんので。ハジメ君は準備ができたのかな?」
「ああ、俺もこれから仮眠をとる」
「では、ミリアが起きているつもりのようなので、襲撃警戒の見張りは彼女にやらせる」
私はそう言って、少し休憩するために車両に戻ろうとする。
「…なあ、暮海。あのミリアって女。二人の昔からの仲間って言ってたよな?」
「ああ、かなり複雑な事情があるのは大まかではあるが説明したとおりだ」
「死んだと思ってたやつと再会するってどんな気分だ?」
「何故そんな質問を?」
ハジメ君はまだ誰も失ったことがないゆえの質問だろう。
「…私も気になる」
「ミレディたんも気になるかな」
「いつの間に」
「俺はさっきから気づいてたけどな…ユエだけは」
「もう、ハジメさんのセンサーは私にも発揮してほしいです!」
「シア、落ち着いて」
愚痴を垂れるシア君をパタモンが落ち着かせる。…ドンマイ。強く生きてくれ。
「…色々騒がしいし、下ネタも多いが…やはり生きていてくれて嬉しかったよ。彼女なりに私たちのために残してくれたものも多いしな」
そう、私はある程度事情を知らされていたが、ミリアが生きてて嬉しかったのは私の…そして進示の本音でもある。
…ただ、師匠は…。
「そして、ミリアはある意味進示の精神に一番より添えている人物だ」
「進示のやつハーレム構築してってるが…暮海や園部よりもか?」
「…」
ハーレムという単語に先生が複雑そうな顔をするが、とりあえず理由を聞くつもりで黙っている。
「進示はハジメ君と同じで趣味を人生の生きがいにしているタイプの人種だ。私がその手のカルチャーに手を出し始めたのも進示と出会ってからだったし、優花も全く違う趣味嗜好をしていたからな。優花も進示の趣味に合わせようとしているが、好きになった人を理解したいが故だろう。ミリアは人に対しての距離感のはかり方が上手い。しかもそれを悪用しようとは一切考えていない」
ミリアに下心がないのはデジシンクロでわかる。
私とミリアが直接魂を繋いではいないが、そこは進示を中継器にしてミリアの心を読めばいい。彼女も同じ考えで私の心を読むはずだ。
「しかも、進示へのからかいもワザとだろう。蹴られるとわかってやっている。…そうやって一人で背負いがちな進示の心をガス抜きさせるために」
「…あの女、ただの変態じゃないんだな」
「ハハハ、まあ、ミリアは仲間には優しいから、ハジメ君の行動に対してもハジメ君が故郷を思い出せるようにコマン〇ーのネタをやっていたのだろう」
「ああ、あのきっしょい騎士を置き去りにしたときか」
「な、南雲君…きっしょいって…」
「いや、実際『愛子~!!俺だ~!!』みたいな感じであの気色悪い顔で『さあ、俺の胸に飛びこんでおいで!』みたいに手を広げてどう思った?」
ハジメ君の質問に先生は顔をそらした。
…うん、あまりいい気分はしてなかったようだ。
今更ながら進示が転生者だと知っているのクラスメイトは進示と一緒に地球と通信をした者たちのみ。
進示が転生者といったタイミングは、オルクスの隠れ家にいた時だつまり、転生者を知らないのは、迷宮に潜っているグループだけだろう。城に居残っている生徒もいるかもしれないが。
玉井君達がリアル転生者の出現に色々言っていたものの、『転生者になることはあまり勧めない』とも言っていた。
ジャンルにもよるが、この世界もどこかの観測世界では物語になっていると仮定すると、物語を盛り上げるための困難は付き物であるからだ。
…そして、この世界における転生者の基本的な使い道はその世界に本来存在しないはずのイレギュラーを排除すること。サブカルチャーではよく使われる設定、タイムパトロールや抑止力などが転生者の位置づけに最も近いものだ。その過程で人間関係が変化した場合は、世界にとって誤差範囲であれば咎められることは少ないが、その裁定は転生させた神の裁量にも左右される。
そして、進示たちが…いや、【進示】が選ばれた理由は、未来の樹から送信された情報とそれを受け取ったミリアからもたらされた情報(デジシンクロで盗み見たが)、そして、前回の歴史ではいなかった神童竜兵とその男と契約している大天使、破壊神大天使シュクリス。…まだ確証は持てないな。
…恐らく、神童竜兵に関しては6人の転生者達とこの世界でハジメ君達を始めとする人間たちだけでは対処不可能の事態になったため、急遽派遣された転生者という可能性が浮上した。
…ん?そもそもそれ以前にオリジナルの世界が消滅すれば…転生者が活動するこの世界も消滅するはず。…どうやってこの世界を維持しているのだ?
「…暮海さん?」
先生が私の顔を覗き込む。…いかん、考えに没頭しすぎた。
「いえ、大丈夫です」
世界の仕組みについての考察は後にするしかない。
一応報告書に書いて待機している地球組に送るつもりだが。
記憶が戻ってから、通信設備の整備や報告書の作成などは完全に私の役目になったが、私は記憶が戻る前は報告書なども全て進示に任せきりだったからだ。
そう考えると進示の今までの負担が大きすぎたのだ。
そもそも、医療設備付きの車や医務室の医療器具や薬、人間だけでなくデジモン用の医療設備に通信設備を造ったのも進示だし(ハジメ君のブリーゼはいささかロマンと武器に傾倒しているので、生活面の整備を進示の車に搭載した)、ついさっきもミリアに彼女からまだ教わってない魔法の足りない知識を口頭で聞いていたりしていた。
彼女が残したノートだけでは賄いきれない部分を聞くためだろう。
「私は…進示と魂が繋がる前は同胞のロイヤルナイツが行方不明になった時もそれに対する一時の危機感はあっても、後悔と実感したことはそこまでありませんでした。
私の探偵事務所でかつての助手と別れることになったとしても、【寂しい】とは思っても、顔に出すことは一切なかったと思います」
「どうしてですか?」
「先生…私の助手とはそれなりに親しくはありましたが、デジモンテイマー的な正規のパートナー関係でもありませんでした。彼とはトモダチ…と言ったこともありますが、その時私は本当の意味で人間の心を実感してなかった。まあ、探偵業を営む以上、ポーカーフェイスは必須ですが」
…私の心に明確な変化があったのは…進示と魂が繋がってから。いや、進示に【暮海杏子】という名前を付けられたときか。
『暮海…杏子?』
『そうだ。今日からお前は暮海杏子だ。人間の姿で目撃されたから、デジモンのままじゃ過ごしにくいからな』
『戸籍は私が何とかします』
『お前の記憶が戻るかどうかはわからないが、その名前なら可能性はあるだろ』
『…わたしは今まで二人と一緒に過ごしたの楽しかったよ?これからも一緒にいるから』
『…そうか』
「私は、進示がいた世界ではとあるコンテンツの架空の登場人物でした」
「「はっ!?」」
私の言葉に反応したのはハジメ君と優花君だ。この部分はまだ話していなかったな。
「く、暮海…それっていや、予想はしていたが」
「先に断っておくが、私が架空の人物と知ったのは進示と出会った後だが、それ以前に私は私が元居た世界は作り物ではないか?と仮説を立てたことがある。…進示と出会ってそれは立証されたが」
「ま、マジかよ…」
「と、いうことはだ。白痴の魔王も実在してるかもしれないぞ?」
「うああああ!?聞きたくねぇ!?」
「ハジメ!?」
「ハジメさん!?」
おっと、ハジメ君の余計なアイデアロールが成功してしまったか。
「そして、進示を絶対に失いたくないと思ったのは…彼が処刑された時でしょう」
「「「えっ!?」」」
進示の処刑についてはオルクスの隠れ家にいたメンバーはすでに知っているが、先生たちは初めてだな。あ、シア君やミレディ君も初耳だったか。
「進示は日本人だから、日本で培った価値観や倫理観を捨てきれずに、自分に襲い掛かってくる人間を攻撃できなかった。…それが仇になって捕まったの」
「シンちゃん…」
優花の言葉に反応したのはミレディだ。俯いている。
思い当たることがあるのだろうか。…いや、あったな。
「まあ、ジールでどうなったかは時間がに余裕のある時に話すが、優花、起きてたのか」
「目が冴えちゃって…確かあの世界は転生者を召喚しすぎて、滅亡が確定した世界なんでしょ?」
「正確には、転生者にばかり働かせて自分たちで何もしなかった世界だからな。…私と進示が召喚されるまで、世界の意志そのものが転生者の召喚をブロックしていたが…私たちは召喚された」
するとハジメ君は「なんでだ?触媒でもあったのか?」と聞いてくる。
…フフフ、すぐにその発想に至るあたり、さすがはエリートオタク南雲家の子息だ。
召喚に触媒というのは、サブカルチャーで割とポピュラーではある。
「その通り。ミリアの記憶を見て推理し、確信した。あの世界には私と進示、そして間接的にはミリアを親とするまだ生まれていない娘があの世界にいたのだ。それが接点になり、私と進示は召喚された」
ええええええええええええええ!?
私は爆弾を投下してしまったようだ。
私たちに娘がいることは私と進示とミリアの3人だけ。樹すらまだ知らないのだ。
「どどどどどどどどどどどういうことですかぁ!!?」
そんなまくし立ては先生だ。
他のメンバー、優花たちも驚いている。そしてどういうことかと目で訴える。
「先生、もし貴女が貴女のご両親がまだ結婚していない時代にタイムスリップしたとします。
…そうなった場合、貴女はご両親にご自身が娘と名乗れますか?」
「………名乗れませんね。だってお父さんとお母さんの関係が気まずくなったら…私が生まれなくなります」
「…そういうこと。ジールでは最後まで名乗らなかった女がいたって聞いたけど…その師匠が」
「…彼女が私たちの娘。それも、ハイネッツでとある男が私たちの血液を盗み、それを使った生命操作技術で生まれた半デジタル生命。進示はジール時代に師匠に大けがをさせられて、その治療にミリアの龍の因子を使ったので、遺伝子学上は彼女も母親です」
「ま、まるでSFみたいな話ですが…」
「…するとアレか、娘の方はタイムスリップしたのか…でもどうやって娘だってわかった?」
もっともな疑問を投げてくるハジメ君。
「我々3人は実質魂が繋がっているから、お互いの記憶を視れる。師匠はいつも左腕だけ長袖だったが、ミリアの記憶に師匠の腕に製造コードのような焼印があった」
「…」
「そして、ハイネッツで培養カプセルから出てきた女性の左腕の製造コードとミリアの記憶の製造コードの番号が同じだったのだ」
因みに娘は生まれた時は赤い髪に私と同じ目の形、進示にはあまりになかったが、おそらく似たのは精神性だろう。
それが、娘の主観では何千年も生きたのか、すっかり髪の毛の色素は抜け落ちて、肌も病的に白くなったので、一瞬推理が外れたのかと思った。
「それでか…」
「無論ハイネッツで初めて会った時も直ぐに遺伝子データを見たが、間違いなく我々が親だったのだ。まあ、その割とすぐあと、娘は別世界に召喚されてすぐに離れ離れになるのだが…そうして娘は気の遠くなる時間を過ごし、まだ何も知らない我々と再会する。そうだな?ガンクゥモン」
今更だが、ガンクゥモンは表には実体化せず、私や進示のスマホを介して移動している。電波が届くのならば、比較的自由に移動できるらしい。
この世界もデジタルウェイブが発生しているのだろうか。
…本格的に調べる時間はなかったが、できれば調べたい。…が、それは進示にさらなる負担を強いることになる。
先ほどミリアから聞いていたのは死者蘇生の秘法である。
進示が処刑された時にミリアのコレで事なきを得たのだ。
まあ、首をはねられた後に、ミリアが覆面を被っていたとはいえ、怪盗のショーじみたことをして、進示の死体を回収したのだから、目立った目立った。
まあ、あまり首と胴体が離れている時間が長すぎると組成が出来なくなるので、あんな大胆な方法をとらざるを得なかったのだが、それは過去編で語るとしよう。ん?メタい?気のせいだ。
死者蘇生を早く完成させて有事に備えるのも正しいだろう。
まあ、その能力に群がる輩も出てくるだろうが。
ハジメ君はハジメ君でアーティファクトの制作にかかりきりであるため、頼みづらい。睡眠時間を削らせるほどの依頼は出来ない。
『いやいや、さすがの推理力。ゼロのことだから今もどこかで暗躍していると思うぞ?…そしてしれっと我がゼロのパートナーであると見抜いたか』
ガンクゥモンの持っている情報量が不自然だったので、カマかけの意味もあったが、どうやら間違ってはいなかったようだ。ガラテアを知っている時点で8割そうだと思っていた。しかし、暗躍だと!?
「…!だが、あの時師匠…ゼロは暴走した私と進示が殺してしまったはずだ。どうやって生き延びた?」
『なぁに、ある意味彼女にしかできない芸当よ…ゼロは人間ではあるがデジモンでもあるが故にな』
「…?」
『ほう、アルファモンでもわからないか?まあ、ヒントはもう十分出てるから、分からなければ本人に聞くがいい』
ガンクゥモンめ…だが、探偵である以上はぜひとも自分で推理したいが…。
脇では本日何度目かもわからない驚きの声が上がっているが、一度に情報を与えすぎたか。
…思えば、ハイネッツのことをあまり思い出さなかったのは…娘と離れ離れになったことと、そうとは知らずに殺してしまったことから無意識に逃げていたのかもしれない。
…もういい加減に向き合うか。進示が起きたら記憶は自動共有されるだろうが…、直接口に出して話せば進示は絶対に泣いてしまうだろう。だから自動共有の手段をとったのだ。
彼の泣き顔を見て彼の弱さを隠す鎧は私たちで十分だ。
…私は彼の弱さを隠す黒き鎧となろう。
「まあ、色々言いましたが、記憶喪失の間の時間が長く、記憶喪失の間に過ごした時間が私に改めて【人間の心を育む】時間となったのでしょう。…記憶喪失になっていなければ、ここまで人間らしい心に近づけなかったかもしれません」
…私の心がデジモンのままでは辿り着けなかった、【後悔】、【恐れ】、【悲しみ】。これがなければソウルマトリクスも出来なかったかもしれない。
デジヴァイスを介さずカードも使わない。魂のみで融合進化をするソウルマトリクスの使用は私が【人間の心を持つ】ということが必須だったのだろう。
と、
「あれ、ミリアさん?」
ミリアが見張りの高台からやってきた。
「…まったく、その話を進示が寝てるときにするなんて…。進示に心理的な負担を与えたくないのはわかりますが…、いや、話したら話したでますます進示が気負ってしまいますね…おっと、魔物の群れが…あと2時間もしないうちに来てしまいますね。戦闘準備をしなければ!…多分清水君は進示たちに任せて大丈夫でしょう…優花さんに動いてもらいますか」
もう来るのか。進示を起こさなければ。
「!そうか。先生、段取り通りに頼むぜ」
「あわわわ…神輿なんて本当にやるんですか!?」
「俺達に戦えっつう以上それぐらいはやってくれよ」
「ミリアさん、私に動いて欲しいって?」
「多分清水君には人質がいます。人質の奪還さえなれば清水君は攻撃しなくなるはずです…まあ、裏で動いている人物まではわからないので、警戒は必要ですが」
「人質…そういう事ね」
ミリアの言葉に優花君は得心が言ったように行動を開始した。
「さあ、せっかくなのでやりたいネタがあります!ハジメ君はメツェライでしたよね?進示にもガトリングを使わせます!私、メガホン持ってますので。出来ればヘリコプターも用意したかったんですが、さすがに無理ですよね」
「…ああ、そういう事か…しまった、サングラスも用意すべきだったか…!」
「グレネードはシアさんたちに持たせるミサイルランチャー…オルカンで代用しましょうか!」
???視点。
そこには、1体のデジモンがいた。
清水幸利を引き込んだ魔人族の男はそのデジモンに対し、告げる。
「できれば全員を始末すべきだが…まあそれは理想だろう。人間の戦力は大きすぎる。
最悪、畑山愛子を殺せば最低限の仕事は果たせるだろう」
戦争において重要なのは食糧だ。補給がなくては生き物である限り戦えない。
「その死神のような容姿、魔人族にふさわしいな。この仕事が成功したらこちらに来ないか?」
「…考えておこう」
デジモンは返事を保留にして、これから戦場になるであろうウルとその近辺を見渡す。
「…このデジモンとやらの器では俺のスペックを十全には発揮できない。しかし…俺の別側面の派生物もあるとはな。オリエントでもないのに」
そのデジモンは左腕に赤い本を携え、一見すると包帯にも見える白いマントに青いターバンを巻いている。そして僅かに除く青い肌。
「この世界の神も人間も魔人も興味はない。せいぜい俺を楽しませてくれよ?」
彼はそう呟くと空高く飛び上がった。
シュクリス視点
「がふっ!!」
喀血し、苦しそうに胸を押さえている我が契約者に応急処置を施しながら、私は考える。
…私は破壊神の系列故に、治癒に使える神術は少ないし、権限もあまりない。
戦闘管轄である破壊神。転生者に様々なサービスと補助をしながら人間の世界を見守る守護天使になったことは後悔していない。
いや、人間の空想の世界を見たいから天使の力に制限をつけてまで現場で働く守護天使になったのだ。
他の天使からはそろそろ引退して後進に任せては?と言われるが、私はまだ現役でいる。
「竜兵。いくら転生者であるお前であっても、これ以上命を削ってこの世界を維持するのは難しいのではないか?」
しかも現在は思わぬイレギュラーをエヒトごと消去せねばならず、竜兵はエヒトが使っていた【神域】の維持にも力を割いている。
「そのくせ、イギリスに行ってまで持ち帰ってきたこの竜の鱗、何をやろうとしているかは大体想像がつくが」
「これを彼らに見せれば、これをサンプルとし、榊原進示がこの先の領域を完成させるだろう。後必要なピースは概念魔法だ…いや、概念魔法は必ずしも必要ではないが、あったほうが有利という程度か。いずれにせよ、■■■を誰かが見せれば、ほかのデジモンテイマーたちも続くだろう」
「…榊原進示は極限の意志を持てないのではなかったか?」
「持てないとも。【独り】ではな」
「…そういうことか。ゼロを生かすように呼び掛けたのもそのためか。榊原進示は面倒くさがりのくせにお人よし、護るものが出来れば本来の実力以上の力を発揮する……!?」
そう言いながら私は神域の異変に気付く。
「…おい、我々の留守中に何者かが神域に入り込んだな。…エヒトの概念の残骸が一部盗まれている?」
「なんだと!?…しまった…俺も焼きが回ったか…!」
「…私も油断した。残骸も消去すべきだった…!!」
「…エヒトの力を誰かに使わせる気か…!候補は…搾れるが思い込みの激しい人間の誰かだ」
おまけ
戦の準備中
「アチキはもち~つき~でもナンバ~ワ~ン!」
「何をやってるんだね?エテモン」
「んもう、ミレディちゃんが今医務室付きの車で治療中でしょう?だからせっかくここにあったもち米を使ってお餅をついてるのよ!栄養付けないとね!」
杏子が歌いながら餅をつくエテモンに話しかける。
エテモンは外見だけなら着ぐるみ来た人間に見えなくもないので、そのままで通してる。
以外にも子供たちに人気だったりする。
しかし、餅つきの返し手は…先生だ。
「え、エテモンさん!早すぎます~!!」
「先生の手を潰す気か…」
「今度は私につかせてくださいよー!」
「シアくん、ドリュッケンは使わないようにな?」
エテモンの姿を見たシアは、自分もつきに参加しようと、ドリュッケンを持ち出す。
ユエは餅つきの様子を興味深そうに見ている。
見かねた杏子が、普通の杵を用意しようとしたが、ハジメは今戦いの準備中なので、
「もち米を作った先生のおかげで、日本の味を思い出せるのは日本人メンタル的にいい傾向ね。エテモン、今南雲に頼んだら片手間で杵と臼錬成してくれたから、アンタはこっち」
優花が別の杵と臼を持ってきたので、先生の方はシア君に任せる。
…進示はミレディや怪我人の治療で動かせないから私が監督した方がいいな、と杏子は思った。
この様子を見ていた神殿騎士は
「獣風情がついた食べ物など汚らわしくて…」
ドゴン!!!
神殿騎士の足元に大きな穴が開いた。
「何か言いましたか?」
シアがいい笑顔で言う。
「いや、何も…」
獣風情などと言わない方がいいぞ?と思った杏子だった。
「なあ、餅の味何にする?」
「醤油」
「きな粉がいいよ!」
「…マヨネーズ」
「ええ!?餅に合うの?」
玉井君達が味について議論している。私もワサビマヨネーズを試してみるか…と、【珈琲】を創るノリで考えている杏子。
すると下級(?)の神殿騎士が
「自分ははちみつとバターです!!」
などという。うむ…餅に合うのか…、いや、食わず嫌いはよくないなと考える杏子。
と、作業しながら聞いていたハジメは
「それ、全部採用!!」
意外とノリノリなハジメだった。
そして暫くして
たくさんある餅の中から進示も試食したのだが
「ぶっ!?」
進示が噴出した。
「あら、それアチキが作った餅ね」
「…何を入れた…?バナナっぽいのはわかるが」
「あらごめんなさいね~?それ、バナナスリップに使用済みの皮だったわ」
「地面に落としたやつだよな!?きたねぇ!?」
せめてきれいな奴にしろよ!エテモンの頭に拳骨を落としたが、エテモンに大したダメージはなさそうだった。
「まあまあ、進示、私とティオで作った抹茶餅はいかがですか?」
「この世界抹茶あるのかよ!?」
と突っ込んだ進示。ミリアとティオで作ったお餅を食べてみる。
進示はティオは知らないが、ミリアの料理はジール時代に何度も世話になったので何の疑いもせずに食べる。
「…アリだな」
「でしょう?」
「ああ、ティオと合作らしいが、美味いぞ…相変わらずな」
「!」
ミリアが嬉しそうな顔をする。
ミリアの乙女のような顔を見たティオは驚きに目を見開く。
「先生もこのような顔をするのじゃな…」
「いつか、馬肉鍋も食わせてくれ…」
「…はい!はい!もちろんです!!」
「今度は綺麗なバナナのすり身よ~」
しかし、空気を読まないエテモンがもう一度バナナ餅を勧めてくる。
進示は不安になりながらも口にする。
「…砂糖醤油餅だってあるぐらいだし…人を選ぶ組み合わせだが…アリかもしれん。後は加工の仕方次第だな」
「んもう!これでも完璧じゃないなんて…」
「まあまあ、エッちゃん。見込みはあるって評価だから改良しよ?」
ミレディのフォローでやる気が出たエテモンはさらに改良に闘志を燃やすのだった。
「私も優花さんやトレード様の料理食べてみたですね。進示の作る料理も。…杏子は…アレですが」
「ハッハッハ、ではミリアに八丁味噌クリームチーズわさびブレンドをご馳走してやろう」
「うえっ!?杏子いつの間に!?」
次回タイトル予告(変更になる場合があります)
誕生!テイマー清水幸利&剣のロイヤルナイツ
暗躍するデジモンは…わかる人はわかってしまいますか?
何度か言っていますが、本来デジモンであるはずの杏子が人の心を理解…実感の方が正確ですが、そういう思いもテーマの一つです。
師匠ことゼロの秘密が明らかになりましたが、どうやって生き延びているかはまだ謎です。ガンクゥモンとガラテアはタネを知っています。