原作とそう変わらないので
雫視点。
迷宮の探索を続けて早4ケ月。
もうそれだけの時間がたってしまったのかと、4人が行方不明になった時間、地球から離れてしまった時間…その他様々なストレスから私たちの中から顔色の悪いものが出始めている。
しかし、これからのことを考えると泣き言を言ってられないのもまた事実。
私、香織、遠藤君、永山君のスマートフォンにいるデジモンたちの話を聞くと、専用の端末なしで現実世界に出てくることはできず、(永山君のちっちゃいオメガモンは例外だが、今デジモンを表に出して騒ぎを起こすわけにもいかないのでスマホにいる)何故スマホの電池が切れないのかしら?
それはそれとして、迷宮の90階層に辿り着いた私達は、異常事態に頭を悩ませていた。
異常事態と言っても、魔物が大量発生しているとか、トラップが大量に仕掛けられてるとかじゃない。
その逆で魔物が一切見当たらない。…魔物が出てきてくれるほうが精神的に楽だったかもしれない。
その事実に、私は嫌な予感が拭えなかった。
トータスにあるサーベルでは使いにくいだろうと私に配慮された、南雲君と榊原君が作った試作型の刀は思ったより手に馴染む。
『本格的なやつを作るにはしばらく時間がいる。しかも八重樫陽に合わせるとなればハジメの技量向上も必要だ。時間をくれ』
と、榊原君に言われていたが、刀の完成前に彼らが奈落に落ちてしまった。
彼らが奈落に落ちた後も、榊原君が倒したベヒモスは光輝が倒したことになっており、檜山君のトラップ発動と、彼らが奈落に落ちるきっかけになった檜山君のそったいは彼自身の土下座した謝罪を光輝が受け入れたことによって、お咎めなしとなってしまった。
まあ、色々とあったものの、私たちは90層に来ていたが、ここには魔物の気配がない。
不気味に思いながら探索を続けていると、夥しい、しかしまだ新しい血が大量にあった。
「光輝…一度戻らない?メルド団長なら何か知っているかもしれないし、ここは未知のそうだから慎重になってなりすぎるという事はないわ」
私はそう提案するが光輝は迷うそぶりを見せる。恐らく、光輝にとって撤退以外の選択肢は罠だろうと進むという事だろう。即決しないだけありがたいが。
「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」
「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」
あとを継いだ私の言葉に永山君が頷く。光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山君と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。
「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」
「ここが終着点という事さ」
突如、第3者の声が響いた。
コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。
座学で学んだ特徴と一致する。
「魔人族…」
「その通りさ」
そして、魔人族の女がこちらを勧誘する。
狙いは勇者が魔人族に付いたとなれば人間族側の士気が絶望的になるからでもあるのだろう。
私は会話を少し引き延ばして情報を得ようと思ったが、光輝が即決で断ってしまった。
光輝の性格から魔人族に付くとは疑っていなかったが、会話を引き伸ばそう伸ばそうと思ったのは密会の時に榊原君から
『図書館の歴史書は明らかに情報操作されてるな。魔人族の生態や文化が書かれていない。恐らく教会にとって魔人族は人扱いされてないんだろうな。これは先行き不安だぞ』
という話を思い出していたからだ。
結局魔人族と戦闘になったが、光輝の限界突破は通じず、クラスメイトの何人かも魔人族が引き連れていた魔物によって石にされてしまった。その中には鈴も含まれている。
私は撤退を進言するが、光輝は仲間をやられて引き下がれないと言った。
だが、石になってしまった皆を放置すれば戻れなくなる可能性もあるので、ここは引くしかない。
…こんな状況でも忘れそうになるが遠藤君は無事にこの情報を持ち帰れるかしら。ホントごめんなさい遠藤君…。
第3視点。
「ち、逃げられたね」
「まあ、君ならすぐ
カトレアに声をかけるのはフードを被った、背丈はカトレアの腰元ぐらいしかない少年の声だった。
フードのせいで顔は見えないが。
「アンタは戦うのかい?」
「まあ、君が負けそうなら手を貸してもいいかな。一応君の力を見るのも目的なんだし、ここで手を貸したらそれはできないだろう?」
「そうだけどさあ、いまいちアンタが強そうには見えないんだよ」
「やだなぁ。見た目で判断しないほうがいいよ?」
少年はフードの中で笑っているようだが、カトレアはその笑いが一瞬恐ろしい【何か】に見えた。
幻覚だろうか?
「まあ、ともかく、サタンモードは無理だけど、フォールダウンモードならなれるかな。もし本格的にあちらの戦力が拡充したら使わざるを得ないけどね?」
ミリア視点。
現在特にデジヴァイスのメンテやミレディさんの治療など必要ないのですることがない進示…のはずでしたが、この空き時間を使って私から魔法に関する授業を受けています。
現在はホルアドに向けて車を走らせている我々。
車の運転はハジメ君や杏子が交代で行っていますが、シアさんだけは
私の授業はおよそ5年ぶりの進示。ティオは500年ぶり、それ以外にも優花さんやユエさん、車の運転をしていないときのハジメさん、それに異界の魔法に興味があるミレディさんも。
…え?シアさんは授業を受けてないのかって?
現在車のすぐそばでハジメ君制作のバイク、【シュタイフ】で自転車の立ち漕ぎみたいになったりそれでお尻を振ったり、バイクの上でガイナ立ちをしたりかなり危ないことをしてますね。
「進示は私の記憶から知識を引っ張れるはずですよね?」
「そうだが、知識と実践はまるで違う。【死者蘇生】もまだ完璧じゃない。それに、お前は俺やティオに教鞭を振るうのが楽しいだろ?お前の顔、いつものにやけじゃなくて、…何というか心底楽しそうだ」
「…フフフ…。嬉しいことを言ってくれますね!今夜はスッポン…」
「息をするように下ネタをする。それに、この世界スッポンあったか?」
そこでスッポンとは何かユエさんが質問をしてハジメ君が真っ赤になったりしたりもしましたがそれはそれ。
「それに、今はミュウが一緒なのだ。下ネタは自重してくれ」
「杏子に言われたらしかたありません。自重しましょう。…ところで、シアさん止めなくていいんですか?」
「パパ!ミュウもあれやりたいの!」
「絶対ダメだ!!後で俺が一緒に乗るからそれで我慢してくれ」
「わかったの」
「そうなるとチャイルドシートも必要か…素材は…構造は…ブツブツ…」
「…南雲ってかなり親バカ?」
「ハジメ…紙とペンいるか?設計図を描きたいだろ?」
「頼む!」
「フフフ…では、授業は切り上げましょう」
ハジメ君の親バカにほっこりしつつ、私はホワイトボードを片付けます。
「八重樫たちの親御さんたちに、次は通信させてほしいって言われてるよな。ホルアドはまだしも城には近づけないよな。…特にミレディ」
「そうだね、シンちゃん達が王国にいたときには銀髪碧眼の女がいるって聞いてたからね」
そう、それがこの世界の歴史の転換期に要人に介入し、人間たちを弄び滅ぼしたエヒトの使途だそうです。
ミレディさんはエヒト一味に顔バレしてるので、外を歩くときは変装が必須です。
ミレディさんは悪戯好きですが、自重してるのはそういう理由もあるからでしょう。
まあ、進示に嫌われたくないというのもあるんでしょうね。フフフ。
え?進示がほかの女を作るのに嫉妬とかしないのかって?
私はそもそも龍ですし、一夫多妻の世界で育ちましたし、そもそも多彩な恋愛関係、同性愛も否定しませんよ?
…唯一許さないのは進示と杏子に害をなす存在です。
進示と杏子を悪意で苦しめる存在です。
そいつらの排除にはこの命に代えても…と昔は思いましたが、今私はデジシンクロで魂が繋がっているので、私が死んだら進示と杏子も道連れです。
「お前…意外と愛が重いな…。ミリアは俺に女が増えること自体は問題視してないが、俺と杏子を苦しめる存在はどんな手を使っても消そうと考えている」
「…え!?」
優花さんは自分からハーレム道に飛び込みましたが、やはり日本の倫理感かとかはまだ抜けきってないようですね。まあ、それが普通ですが。
しかし、優花さんはそれ以上に私の愛の重さに驚いています。
…普段からふざけている私に対して想いの重さに驚いているようですね。
「進示は女性を増やそうと思って増やしているわけではないですからね」
「ああ。進示が初対面の女性に自分から一緒にいてほしいと言ったのは後にも先にも樹だけだろう」
「そうなのか?」
「それ言っちゃう!?」
ああ、転生の時のこともバッチリ知ってるので、その時の心情も手に取るようにわかるのです!
「だが、その時の進示の心情は愛や恋ではなく、恐怖だったな」
「「「「恐怖?」」」」
「転生の時に樹様に名前を付けたときも、進示の心境は恐怖が大きかったですね。おそらく転生者ともなれば必ず厄介ごとに巻き込まれますから、命がけの戦いを怖がる進示には一層怖かったはずです。面倒ごとが嫌いなハジメ君ならわかるのではないですか?」
「…そうだな」
ハジメ君はこの手の知識は豊富ですので、転生するときの弊害も何となく察したようです。
「でも、やり直しはできない。ミリアから受け取ったこの世界の歴史の知識もあまり当てにできない。
ミリアの知識は、杏子の記憶が戻ってない、優花が奈落に落ちていない、ティオは…ハジメにケツの穴にパイルバンカーを食らって性癖開花。ハジメをそのままご主人様呼びにして強引に旅に加わり、ミレディが仲間になっていない、清水は死亡、ミリアも復活していない…トータスに召喚されたメンバーで俺以外にデジモンテイマーがいない。」
「……何かムズムズするのう。ハジメに尻に杭を突っ込まれるのは」
「あくまで別世界の俺だからな!?その時の俺は鱗がついていない部分を攻撃しただけだからな!?話を聞く限り!」
…ティオは何かもじもじしてますね。
…え?ドМの素質はあるんですか!?私みたいに!?…って今更でしたね!
「そういえばこの世界では召喚直前に通信端末を樹から渡されたんだよな。そのおかげで地球と通信できてるけど
ミリアが知ってる世界の俺は、トータスで通信していなかったよな」
…不自然なのはそこです。
もしかして樹様はトータス召喚を知ってた?
未来のご自身から知識を受け取ったのでしょうか。
それにしては…
(いずれにしても、天使は契約者の質問に虚偽の回答はできない。
…もし、樹がトータス召喚を知らなかった場合、誰かが樹に入れ知恵をしたという事)
…そうですね。
未来から過去への情報送信は樹様の管轄が情報管理警備…つまり情報を扱う管轄だからできたこと。
何度もしつこいようですが、進示は杏子と私とデジシンクロで魂が繋がっているのでお互いにリアルタイムで考えていることや見聞きしたことが伝わります。
私と杏子は直接繋がっていなくても進示を中継器にすればそれで伝わってしまいますね。
私たち3人は誰か一人でも死んだら残りの二人も道連れになってしまいます。
なので、以前のように死んでしまうことは避けないとですね。
「…」
進示がデジヴァイスをいじりながら私を通じて知ってしまったこの世界の【前回の歴史】に思いを馳せます。
この後はホルアドのギルドで遠藤君がクラスメイトの危機を救ってほしいと頼みに来るんですよね。
…ウルの時のバアルモンも本来は現れなかった存在なので、知識にない展開が起きる可能性もあります。
あ、記憶喪失状態の杏子って天之河君に苦手意識を抱いていましたね。
もしかしたらこの世界そのものも創作の大本の世界がある可能性がありますが、それは今考えても詮無きことですね。
「そら、デジヴァイスのメンテとアップデートが終わったぞ」
進示が全員分にデジヴァイスを渡しながら言います。清水君のデジヴァイスはバージョンが上のデジヴァイスに近づけば無線で自動アップデートするようにしたようですね。
それから、デジヴァイスで魔力を用いない通話ができるようになったこと。これなら魔法を用いた念話を傍受されないのだとか。
スマホやパソコンにも接続できるようになったり、必要な条件がそろていればワープ進化も出来るようになったり、一度でもジョグレス進化したら、いちいちジョグレスしなくてもなったことがある形態に進化できるとか。
「但し、ジョグレス進化は普通のデジモンの進化よりも精神的つながりを重視する。同じジョグレス形態でも、元のテイマーやデジモンが融合しているほうが強い」
つまり、オメガモンの場合はウォーグレイモンとメタルガルルモンの融合形態ですが、融合なしでオメガモンになると融合状態よりもやや弱体化してしまうのは避けられなかったそうです。
世界線によってはジョグレスした場合、素材のデジモンが消滅してしまう場合もあることを何とかしようとした結果だそうです。
「それにしても、あれから4か月か」
「お主たちはやり直したいと思ったことはないか?クラスメイト達も全員が全員お主たちを傷つけたわけでもあるまい?」
ティオがそのように聞いてきます。
「クラスメイトは守らないと帰ったとき家族…は通信してるからいいとして、何よりマスコミやその他の相手がめんどい。特に一番マスコミの被害を被るのは先生だろう…まあ、それを踏まえてもやり直そうとは思わないが」
「右に同じ」
「私もだ」
「同じく」
進示の言葉にハジメ君、杏子、優花さんの順で答えます。
まあ、進示や杏子の記憶の限りでは、嫉妬によるいじめや嫌がらせが多くて、二人にはクラスに特別いい印象はないでしょうね。
進示も授業中は寝ていることもありクラスメイトや先生からあまりいい印象はありませんので、『何で暮海さんが榊原に構うのか』という空気になってしまうのです。
まあ、進示と杏子は一つ屋根の下の上、二度に渡って異世界を共に旅した中(そのうち一度は私がお供しましたが)、さらに政府や公安の依頼で割と頻繁に怪異退治に駆り出されたり、よその国からちょっかいかけられたり、来たるべき時に備えて数々の兵器や宇宙空間、次元空間、虚数空間を越えられる戦艦を建造したり、さらには樹様や仲間内で戦闘訓練とかなりハードな生活をしています。学校で報告書なんて書けませんしね。
進示やお友達が望んでいるスローライフとは真逆の生活ですね。
私もスマ〇ラとかモン〇ンとか楽しみたいですね。
「樹にお前の分も抑えさせてやるよ」
ありがとうございます!
あ、向こうではハジメさんとユエさんが桃色空間を作ってシアさんが暗黒ウサギになってます。
シアさんはバイクなので車内の会話は聞こえないはずですが、雰囲気を感じ取ったのでしょうか?
ハジメ君。自覚はないでしょうがシアさんがホレるようなことをした以上受け入れてしまっては?
「今の人間社会の倫理観で育った日本人的感性ではハーレムにあこがれはあってもそれを受け入れるかはまた別問題だ。お前は龍だからそこまで気にしないようだが」
「龍は自然界でもほぼ最強種ですからね。倫理より繁栄を重視します。デジモンでも本来の私を超えるものはそうそういないですよ」
「ルーチェモンとかは?」
「…まあ、手加減してでは勝てないでしょうがそれでもまず負けません。…ですがデジモンになって大幅に弱体化している今の私では逃げるしかないでしょう」
などと雑談しながらホルアドに到着しました。
あ、余談ですがエテモンの姿が見えないと思ったら、なんと【モンキー号】なるバイクを自作してシアさんと一緒に爆走しましたね。二人ともハジメ君に見せつけるようにお尻をフリフリしてたので、途中から杏子と運転を変わったハジメ君がアクセル全開してましたね。
ギルドで荒くれ者たちににらまれたミュウちゃんが怖がってそれに怒ったハジメパパが威圧したり…うーん、この親バカ。いえ、バカにはしてませんよ?
これじゃどっちみち子離れはできませんね?
残念ながらミュウちゃんが5歳以上の状態は知らないのですが、大きくなったら「パパと結婚する」って言ってミュウちゃんに食べられる(意味深)のではないですか?
あ、遠藤君がやってきました。
進示と杏子は遠藤君に気づくことはできるんですが、遠藤君の側は髪の色が変わっているハジメ君と優花さんに気づかなかったようですね。
それにしても、遠藤君。赤外線が気付かないほど影が薄いって可哀そうですね?話を聞く限り逃走には役立ったようですが、進示でも何んとも出来なさそうですね?
「ミレディちゃんも少し意識をそらしたら見失っちゃいそうだよ…こんな子初めて見たよ…」
まあ、紆余曲折ありましたが、結局はクラスメイトの救出に向かうようです。
オルクス大迷宮に魔人族が現れ、八重樫さんたちが自分を逃がし、騎士団たちが自分の撤退の時間を稼いだことでメルドさんたちが死んでしまったと叫んでいますが、進示が難しい顔をしています。
ただ、遠藤君の口からアルフォースという女性騎士名前を聞いたとき、進示が「そんな騎士いたか…?」と呟き、杏子が何やら思案顔になりました。
…え?まさかあのデジモンがこの世界にいるんですか?
進示のスマホにいるガンクゥモンも「まさか…」と呟きました。
ガンクゥモンの声はギルド支部長や遠藤君の耳には入りませんでしたが。
ハジメ君はめんどくさそうにしていましたが、何だかんだで筋は通す子ですので、「白崎に義理を果たす」って言って立ち上がりました。
「ミレディ、お前は立場上迷宮に入れないから、ミュウのお守りはお前がしてくれ」
「合点だよ!」
留守番はミレディさんとミュウとエテモン、クロアグモンですね。
クロアグモンは好戦的な性格をしてますが、さすがにこのような幼子を無理に戦わせないほどには分別はあるようです。
そしてミレディさんは迷宮の管理者なので、違う迷宮であっても迷宮内では助力はしないようです。
それに、まだ変装の必要がありますからね。ライセンの名前を知られなければ問題ないとか。
進示視点。
俺達(ハジメ)がパイルバンカーで穴をあけ、90層までショートカット。
俺達が飛び降りてついた先には。
浅黒い肌をした女魔人族。
倒れているクラスメイトや騎士団長メルド。
そして…
「雫!?」
優花が叫ぶ。
血を流して息をせず倒れている八重樫雫の姿だった。
息をしていないという事は死んでしまったという事。
白崎が八重樫の体にしがみつきながら泣いている。
それを見た俺は、亜空間倉庫から龍の杖と魔導書を取り出す。
八重樫雫本人とはそれほど接点は深くなかったが、彼女の祖父とは警察庁で何度も顔を合わせている。
孫娘が死んだとなればいかに彼でも泣いてしまうだろう。
八重樫家の家族も…あまり考えたくはないがソウルシスターズも。
一瞬で決めた俺はハジメたちに指示を出す。
「ハジメ、ユエ。魔人族は任せる。シアはメルドたちを診て、必要なら神水を使え。
杏子、ティオ、はこいつらを守りながら必要に応じてサポート。優花は戦場を俯瞰しながら迎撃態勢。ミリアは俺のサポートをしろ。…俺は」
倒れている八重樫雫に向かい合い、魔導書を広げ、龍の杖を向ける。
「ぶっつけ本番だがやるしかない。八重樫の魂を呼び戻す。ミリア。魔法が使えなくなっても感覚はわかるはずだ。サポートしろ」
「はい!」
「…え?ハジメ君…?」
白崎香織はここにきてようやくハジメの存在に気づいたようだ。
八重樫雫の状態が状態なので、無理もないが。
第3視点
今、フードを被った少年と肌が白く、ポニーテールの髪も白く、灰色の瞳を持つ女性が向かい合っている。
女性は右手に黒く、ドラゴンのフォルムをした杖を掲げている。それはまるで進示の龍の杖の色違いのようだ。
「やれやれ、カトレアが遅いから様子を見に行こうとしたけど、こんな混ざりものがいるなんてね」
「混ざりもので結構。お前の存在は想定内ではあるが、今彼らの邪魔をさせるわけにはいかない」
女性は杖を少年に掲げ、言い放つ。
「君、今はパートナーデジモンはいないんでしょ?君の戦闘能力はせいぜい完全体レベル。その程度で僕に勝てるかなぁ?」
「お前は十の魂を持つ少年たちが倒した個体に非ず、相羽タクミが見落とした個体であるな?」
「そうさ。神である神霊ルシファーに引っ張られたのか、それともデジモンの僕がいるから神霊ルシファーが出てきたのか…。まあ、卵と鶏に近いね」
少年は面白そうに笑う。
「それはそれとしてだ…。この世界と地球にデジモンが生活出来る基盤、そして見込みがありそうな人間にパートナデジモンを与えたのは君だね?」
「ティオ・クラルスだけは違うが…概ねその通りだ。
園部優花の行動は正直予想外だったが、あれくらいの精神力があるならロイヤルナイツ級のデジモンを持たせても問題はなかろう」
「ふーん。君は個の強さというよりは絆を重んじるタイプなのかな?人間に迫害され続けたキミが?両親から引き離され、記憶を奪われ、いいように使われ、犯されて、人間の都合が悪くなれば殺されて、世界の都合が悪くなれば泣きつかれる。復讐しようとは思わなかったのかい?」
少年に言われた女性は目を細める。
「私とて迷いはしたし、人間を恨んでもいる。我が父もまだ甘さを残すが…いや、父はあれでいいのかもしれない」
「その迷いも父親譲りかい?」
「結果としてお前はどの世界でも迷いと葛藤を持つ人間に倒される。【この世界】に起きる未曽有の危機を前にしてはお前を通過点にできるほどに強くなってもらわねば生存率は0だろう」
「…言ってくれるじゃないか」
フードの下の顔を少年は歪ませ手をかざす
女性はまずいと思ったのか、全力で防御魔法を展開する。
10個の超熱光球を、惑星直列の様に十字の形で放つその名は
「グランドクロス」
間が空いて申し訳ありません。
そして予想外?(一応伏線はありましたが)のデジモンが登場。
次回は香織に何があったかを聞くので、香織の回想シーンからですね。
つまり、主人公たちが駆けつける前のカトレアとの第二ラウンドからです。