進示君のいない日常。
言わば、裏話的な回ですね。
※不自然な箇所があったので修正しました。
榊原進示達が召喚されてトータスに召喚されて暫く、初めてトータスから通信が来る前。
樹は行方不明になった生徒の親族を呼び出していた。
家は流石に狭いため、南雲愁が社長を務めている会社の会議室を借りてではあるが。
愁としても、消えた息子が心配ではあるし、社員の樹は働き者で、息子のハジメとも交流している彼女の被扶養者である(不定期ではあるが、社員に顔を覚えられるくらいにはバイトにも来ている)進示と杏子も心配だった。
見慣れない高校生くらいの子も何人かいるが…彼らの傍らに控えている生物はどう見ても彼女が企画したゲームの生物、デジモンではなかろうか?
尽きない疑問はあるが、生徒の親族が集まるのを待って、樹が口を開いた。
「警察に押収されたら、少しまずいことになってましたが、警察が召喚の現場に来る前に回収できました」
「えっへん。褒めてくださいね?」
転生者である出口浩二と契約している守護天使、シュトースが進示が召喚される直前に投げた小さな物体、ビーコンを取り出す。
因みにシュトースは階級は中級天使、系列は創造神、管轄は自然エネルギーだ。
さらに加えて言うなら、現在は天使の姿を隠し、人間の女性として振舞っている。
樹がに皆に見せているビーコンは進示の手製。地球の技術で出来ていないため、解析するにしてもかなりの時間がいるだろう。
樹としてはまあ、公安に回収させても良かったが、あまり強権を何度も使わせるのはよくない上に公安に借りを作りすぎるのも良くないので、(基本、公安は真面目に仕事してくれるが、全員が全員ではない)今回は自分たちでビーコンを回収した。
「このビーコンを用いて先ほど確認した記録映像から、恐らくクラスの皆さんと畑山先生は異世界に召喚されたものと思います。この後すぐ皆さんにこの映像をお見せしますが。先ほどから地球中に生体反応のサーチを行っていますが、進示様と杏子ちゃん及び、クラスメイトの皆さんの反応がありません」
「…アンタは何故そんなに冷静なんだ?被扶養者が神隠しにあったってのに」
クラスメイトの一人の父親が樹にそんな質問をする。
「ここにいる関原さん、小山田さん、大和田さん、出口さん、岡本さんの5人、そして進示様と杏子ちゃん。全員が最低一度は異世界召喚されています。公安の方針もあって情報は隠蔽しているので、表向きはただの行方不明事件として扱われていますが、実際はそれぞれ全員が別々の異世界に飛ばされていたのです。進示様と杏子ちゃんは今回が3回目ですね」
「「「「「はああああっ!?」」」」」
ここにきてとんでもない爆弾を投下する樹。どうせ地球にいないことは捜査されれば分かることだ。
ただ、八重樫一家だけは「道理でな…」と得心が言ってた顔をしていた。
全員が何らかの武術は収めているか、実践で培った戦闘技術があるので、彼らからそういった達人にしかわからないオーラのようなものが出ていたのだろう。
「これまでの経験もあり、進示様が召喚される直前でこのビーコンを地球に残してくださったのでまだ繋がりが完全に途絶えたわけではありません。これは進示様たちが1回目に召喚されたファンタジーのような世界、ジール、2回目に召喚された地球よりはるかに科学技術が進んだ世界ハイネッツ。その二つの世界の技術を複合させたハイブリット型のビーコンです。まあ、二つの世界は既に消滅しています。特にハイネッツは惑星破壊ミサイルを撃たれたので粉微塵でしょう」
「い、樹さん…どういう経緯でそんなミサイルが撃たれたのかな?」
「デジタルハザード…バイオハザードのような生物災害が起きたのです…もっとも、以前の異世界の話は本題にそこまで影響はないので、今回は割愛します。今重要なのは召喚されてしまった彼らの現状です」
ここで、一部の保護者から、異世界召喚なんて信じられないとかの発言をする者もいるが無理もないだろう。
ここで千万の言葉を重ねるよりは、実際にビーコンの映像を見せた方が早い。
パソコンと映像プロジェクターに接続し、召喚された当時の召喚5分くらい前から再生する。
昼食を10秒チャージで済ませるハジメの様子を見て香織が一緒に弁当を食べようと言ってくるが、光輝が
『香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?』
という一見すれば正論しか言ってないように聞こえる光輝の言葉だが、このセリフに違和感を感じたのは、天之河の両親、八重樫一家、そして白崎一家だけだった。
しかし、今の時点で感じたのは違和感だけで、「まあ、いつものことか」と流している。…とはいっても、人には人の価値観や考え方があると説明してもしても光輝が改めるどころか聞くそぶりも見せない点には頭を抱えていた。
だが、今の映像を見ていると、光輝から嫉妬心がにじみ出ているという違和感を抱いたのは数人のみである。
最も、白崎智一だけは、「ま、マイエンジェル~!!学校でも何て可憐なんだ!…マイエンジェルに近づく虫もおおいみtガフ!?」と言いながら倒れてしまった。
どうやら生徒を虫呼ばわりした智一の発言を問題視した白崎薫子が首に手刀を当ててのしたようだ。
一般人のはずなのにその手際の良さに何人かが戦慄した。樹も含めて。
『え? なんで光輝くんの許しがいるの?』
その光景に何人かが噴出した。
香織としては純粋にそう思っているが故の返答だったのだ。
確かにクラスメイトは香織がハジメに構っていいるのが気に食わないという態度を出しているのだが、香織がハジメに好意を持っているのは明らかだ。
なお、智一が気絶しているので、香織のこのセリフは聞けなかったようだが。
その瞬間、天之河光輝の足元を中心に魔法陣が展開される。
「「「「!?」」」」
職業柄、こういったことにすぐ気づける南雲夫妻だが、他のほとんどの保護者達は天界についていけない。映像の中の進示は、亜空間倉庫から龍の杖、赤龍杖を取り出し、召喚陣の破壊を試みる。
『クソッ!!術式を破壊できねぇ!!解読も時間が足りねぇ!!』
当時の進示の目から見ても未知の術式で構成されていて、力業で破れないし(魔力爆発で死亡者が出る可能性もある)、そうなった以上紐をほどくように術式を解くしかないが、それでも術式の解読から始めないといけない。
あと数秒で召喚されてしまう以上そんな時間はない。
物理学が地球と変わらない世界であれば、解読は難しくないが、それでも結果は同じ。
畑山愛子が教室から出るよう呼び掛けているが、普通の人間がこの魔方陣から逃れるのは不可能だ。
召喚拒否は不可能と悟った進示はポケットからビーコンを取り出し、投げ捨てた。
このビーコンは映像・音声記録媒体でもあるが、これがあれば世界間をまたぐ通信のアンテナにもなるからだ。
ハイネッツで強引に頭に刻み込まれた知識から作ったものだが、この場面では役に立つ。
『頼むぞ…樹』
そう呟いた進示の声を最後にクラスの生徒(+教員1名)は教室から消失した。
だが、消える直前。
『…エ…カ…』
「…アレは…デジモン…!?」
ピンク色の妖獣のようなデジモンが一瞬だけ見えたような気がする。
あれは進示達も気づいていない。
「…異世界召喚」
そう呟いた愁は菫は飲み込み早く、悟ったように項垂れる。
進示達と交流がある八重樫一家も比較的呑み込みが早かった。
裏で何回か怪異退治も一緒にしたことがある故に。
それ以外の面々は開いた口がふさがらない様だ。最も、
「彼らが高校入学前、4か所に不審な魔力反応があったので、それぞれ反応があった高校に彼らを分けて入学させたのです。不審な反応がないかの監視と有事の際の対応のために。…進示様と杏子ちゃんが入学した高校が当たりを引いたようですね。各高校で公安も含めて話を通しましたが、コレを知ってるのは極限られた人だけですね」
「だろうな。余計な人間が知れば暴動や混乱の種になる」
鷲三がそう呟く。最も、向こうでハジメは話を聞いてすぐに悟ったあたり、こういう事態への適正は高い。
「そ、そうだ!そのビーコンというものがあれば通信が出来るんじゃないのか!?」
いつの間にか起き上がっていた白崎智一が樹に聞く。
「彼ら転移させられた世界がどこまでの文明レベルか分かりません。あるいは文明レベルに合わない通信技術を人目に付かない用に掻い潜る必要もあるでしょう。
そうなると向こうからの連絡を待つしかありません。世界をまたいで通信できるとなれば、それを知った現地人が彼らを拘束・利用する可能性も捨てきれませんから」
「それに、こちらから通信可能だったとしても、不自然な呼び出し音で警戒させてしまうこともある」
事実、凡そ2か月近く経ってから初めての通信が来た時に送られてきた記録映像によると、教会や国の重鎮と、不自然なシスター相手への会話は最大限の注意を払っていた。
特に、不用意に核心に踏み込まず、探り合う形になったが。
因みにこの探りあいに関しては進示が「2度とやりたくない」と下手るレベルであった。
しかし、プロの探偵であるはずの杏子は(探偵であれば探り合は慣れているだろうが)記憶喪失かつ精神年齢がかなり低いため、当時の杏子にさせるわけにもいかなかったため、進示の人生でも上位に入るほどかなり気を使ったようである。
迂闊なことを言って戦闘になったら、巻き込まれた生徒や愛子をかばいながら戦える自信はないからだ。
「少なくとも進示様と杏子ちゃんは生きています。私が現実世界にいられるのがその証左。裏を返せば進示様が死ねば私は人間界にいられなくなります。まあ、魂が消滅するまでのラグは猶予がありますが」
「樹さん、それはどういう意味かな?それに、普段は【進示君】って呼んでるのに彼を様付で呼んでいる。映像の進示君も貴女を呼び捨てにしていた」
「私も特に気にしてはいなかったが、時折彼は貴方を呼び捨てにしていますな」
このメンツで付き合いの長い愁が尋ねる。
鷲三も疑問には思っていたが、指摘しなかっただけで週に便乗する形で聞く。
普段表社会では進示は樹を【樹さん】と呼んでいるところしか目にしてない。
樹の方も進示を君付けしている。
「プライベートでは御二人は私の事は呼び捨て、進示様には…丁度いいですね。隠し通すのは難しいでしょうから、私の正体を明かしましょう。ですが、他言無用に願います…あなた方もマスコミには付きまとわれたくないでしょう?」
そうして脅しギリギリの忠告を入れた後、彼女は胸の前で祈るように手を組み、体を発光させる。
その事に驚く一同。
八重樫家もこれは知らなかったようで、驚愕に目を見開いている。
すると黒髪黒目だった目と髪はライトグリーンになり、背中から4枚の翼が現れ、女性用のビジネススーツはギリシャ神話のような法衣に変わる。
どうでもいい話だが、ビジネススーツや私服にパンツスタイルが多いのは進示の趣味である。スカートもあるが。
法衣はワンピースに近いので、実質パンツスタイルは不可だ。別の意味のパンツは猥褻に分類されてしまう。
さらにどうでもいい話だが、この法衣は戦闘でも扱う衣装で、パンクラチオンの使い手である樹はこの格好で戦う。組手の際は下着が見えてしまうことも多々あるが、戦闘でいちいち下着や肌が見えるのを気にしていたら戦えない。
上品な性格をしているトレードはしかし、自分の容姿や体が人間の男の(一部女も)性的関心を向けられることは承知しているので、何人か前かがみになっている男性諸君にも突っ込まない。男性の目線を戦術に使うこともあるからだ。
男性の妻からは冷たい目で見られるのだが、蔑みの目で夫を見る彼女たちにこっそり神術で軽い鎮静をかける。
騒がれたら話が進まないからだ。
人間の宗教感覚では天使は純潔をイメージする場合が多いがそれはあくまで人間のイメージでしかない。
「我が名はトレードであり、双葉樹でもあります。榊原進示と契約する守護天使。階級は大天使、系列は維持神、管轄は情報管理警備。以後、お見知りおきを」
改めて自己紹介をする樹。彼女はこの後南雲夫妻がどういう反応をするかを予想しているので翼を触られてもいいように少しだけキュッと翼に力を入れる。
翼は何気に性感帯でもあるのだ。少なくとも神経は通っている。
だが、今回は話を信じてもらうために止む無く触られる覚悟をする。
因みに1年後に進示が帰還した後「そこまで体を張る必要あったか…うううううむ…」
と、認識の違いの理解と、樹への独占欲の狭間で暫く葛藤していたが、進示も駄々をこねるほど子供ではないため、数分で納得した。
もし必要以上のセクハラを受けていたら、加害者を新薬の実験台にしてたかもしれない。
と言ったら樹は苦笑いしたが、同時に愛されるってこういう事かと再認識することになる。
「「リアル天使キターーーーーーーーーッ!!!!!!」」
その後予想通り何人かが翼を触りに来たが、一応神経は通っているので羽は毟らないで下さいと忠告し、天使の実在を納得する程度には触らせる。
翼が性感帯かは個人差はあるが、性感帯であることは伏せ、堪えていた。
何人かの女性陣は気づいたようだが。
「どこから紛れてきたのかしら?…あの大きさと色からいって成長期?」
「あのデジモンらしきものについては解析を進めよう。…デジモンに関しては批判する人もいるだろうけど、いずれ宇宙から侵略が来るから、デジモンを排斥できないしね」
そもそも関原達も彼らのパートナーデジモンも杏子はすっかり戦友であるため、排斥などしない。
1年後、記憶が回復した杏子はデジモン組のまとめ役になる。人間社会に当たり前に溶け込んでるデジモンは杏子といつの間にか行方不明になった岸部リエだけなのだ。
「デジモンの存在否定は暮海杏子の存在否定でもある」
「ちょっと待ってくれるかい?…杏子ちゃんがデジモンて言ってるように聞こえるんだが?」
「その通りです。彼女だけはある事情で人間の体を借りて行動していたデジモンであり、ロイヤルナイツと呼ばれるデジモンの騎士の一角であり、この世の全デジモンの中でも上から数えた方が早い強さを持つ騎士であり、探偵でもあります。最も、記憶喪失によって探偵業は現在休業中ですが」
アルファモンはロイヤルナイツでありながらロイヤルナイツの暴走を止める抑止力であり、最強ではないが、器用万能に近い戦闘能力を持つ(杏子は謙遜するが、パッシブスキルにロイヤルナイツ特攻があるので、オメガモンにもタイマンで勝てるし、並大抵の究極体ではアルファモンには勝てないだろう)。
杏子となっている個体は性格もあるのか、戦闘せずに解決できるのならそちらを選ぶことが多い。
…しかし、記憶回復後も現状のスタンスでは限界があると感じた杏子は修行のペースを上げることにしたのだが、それはまたの機会に。
修行のやりすぎでぶっ倒れるのも余談である。
「ロイヤルナイツ?」
「デジモンたちの世界、デジタルワールドのセキュリティの中でも最高峰の防壁である13体の聖騎士デジモンの事です。
デジモンという性質上、この世に1個体しかいないというわけではありませんが、杏子ちゃんはロイヤルナイツの中でも特別な位置づけにいます。
ただ、野生のロイヤルナイツも1枚岩ではなく、人間と共存する側、人間を破滅させる側、中立の派閥があります。
杏子ちゃんは共存派です」
「樹さん、野生のってどういう言い方?ポケ〇ンみたいに…」
今度は菫が質問している。
言い方が乱暴すぎたが、要は人間のパートナーがいないデジモンの事という。
因みに世界観によってはアルファモンへの進化は全能力高水準(特に知力)高く要求される。
進示の認識ではドルグレモン、グレイドモン、サイバードラモンから進化できる認識でいるが、ドルグレモンルートが一番ラクと言っている。
グレイドモン、サイバードラモンだと知力のみならず、防御力にもテコ入れがいるからだ。
スタンスは移ろうこともあるし、マグナモンのように迷うものもいる。
デュークモンは人間の善き面も悪しき面も見た結果中立になったりもした。
ここまで事の様子を黙って見守っていたデジモンたちが自己紹介をし、人間と変わらぬ知能、感情を見せて会話をするなど、保護者達には賛否両論あったものの何とか受け入れられることになる。
この日、結局連絡は来なかったため、暫く要点を話し合った結果お開きとなった。
余談ではあるがこの日を境に、異世界召喚を食らったことがある5人は、愁や菫から取材をさせてもらえないかという話を聞くこととなった。
進示は現在トータスにいるので話は聞けないが(通信時間と環境の都合もあり)、帰ってきたら聞くつもりでいるらしい。
取材料を払うからと言われて即首を縦に振った彼らも中々に現金である。
(まあ、進示様でも首を縦に振りはしたでしょうね)
その様子を微笑ましそうに見守る樹は、少し休憩するかとコーヒー(ダークマターではない)を買いに行った。
(あのピンク色のデジモンは…恐らく…あのデジモンね。…それも、杏子ちゃんというよりは岸部リエの方に間接的に接点があった個体のようね。何故この世界に?)
時間は飛んで進示達がウルで魔物の対応をしている頃。(豊穣の女神に愛子が祭り上げられている頃)
すっかり行方不明の保護者たちの拠点となった南雲家の会社の会議室。
イーターについてわかっていないことはあまりにも多い。
だが、デジタルウェイブの制御により、誘導は何とか可能であることはわかっているものの、それも絶対ではない。
そもそも人間には知覚できないはずの存在が、知覚できるようになり、下界に惨事を起こすのか。
イーターがいるからデジモンが現れたのか、デジモンがいるからイーターが出てきたのか。
そもそもイーターですらないだったものが、現実世界とデジタルワールドが繋がったことにより、イーターという形で視えるようになったのか。
人間破滅派のロイヤルナイツはイーターは人間の原罪と言っていたが、人間の性質に触れて精神捕食体に進化したのであれば、あながち否定できない存在である。
海生物のような形状からヒト型のイーターまで様々いるが、今回はヒト型ではない。
「関原さん、小山田さん」
樹が名前を呼んだ二人に街に現れたイーターに対し、対応を求める。
関原は既にフルフェイスの近未来的パワードスーツ(ホワイトシルバーを基調とし、黒いラインのアクセントがある。形状はメトロ〇ドを意識しているが)を着用し、傍にアルラウモンを控えさせている。
山田と呼ばれた男はどう考えても着ぐるみにしか見えない(本人は鎧と主張)虎のアーマーを着用し、傍にアルマジモンを呼ぶ。右手には刀身のない薙刀があるが、ビームサーベルのような刃を出せる仕様である。
過去に関原はなんとなくSF世界に飛ばされたのが分かるが、小山田の装備からは世界観の想像がしづらい。
「お二人と、そのパートナーには池袋に現れたイーターの対処をしてほしいのです。進示様と杏子ちゃんがいない現在、皆様の負担が大きいことは承知していますが」
「撤退は許可できない!戦闘を続行せよってか?まあ、いつもの事だけど」
「…まあ、地球防衛という意味では間違っていないのですが…」
「住民の避難は?」
「コーロスのおかげで退避は出来ています。情報規制は何とかなるでしょう。イーターに攻撃され、EDEN症候群にかかった患者も、治療は可能です。…御島エリカさんの功績は大きいですね。裏工作は我々天使にお任せを。まあ、公安の力も借りるのですが。大和田さん、出口さん、岡本さんは後詰です。まあ、お二人がいれば出番はないと思いますが、休めるときは休んでください」
「あいよー」
「特に大和田さんはトータスに送り込む増援の予定ですので、なるべく彼の出番がないようにお願いします」
「まあ、今回の規模ならデジモンだけで言っても、ブルムロードモンとムゲンドラモンで十分オーバーキルだし。ベルゼブモン、クーレスガルルモン、カオスデュークモンまで行ったら被害が増すんじゃねーか?」
「あ、しかし…」
しかし、と声を張り上げたのはインプモンを抱えた大和田友騎だった。
彼がトータスに派遣される予定の増援である。
「いずれ来る宇宙からの侵略に対する【アレ】の建造に遅延が出てるんだよなぁ、榊原がいないから」
「アレですか…地球より文明が進んだ世界に行ったことがあるメンバーは、部品作りの自動化にも成功していますが、手作業が必要な部分もありますからね」
大和田は依然行ったことがある世界は、中世レベルの世界だったが、彼も手先は器用で、兵器も含め機械では出来ない部分を担当している。
オートメーションは兵力の底上げには便利ではあるが究極の決め手には欠けるのだ。
因みに大和田だけなのは、ベルゼブモンのテイマーであるかどうかは分からないものの、送られてくる映像から、シア・ハウリアと、清水幸利が巻き込まれた空間の中にバアルモンがいるのだ。
ベルゼブブとバアル。どちらもカナンの神にして同一神の別側面。
だからだろうか。彼等だけ、トータスへの侵入難易度が緩いのだ。
…まるで誘われているようでもある。
彼らは今回と今後の打ち合わせを軽く行い、準備を進める。進示の悪友の彼らも何だかんだで表向きの学校生活もあるので、事件が起きたかららすぐ出撃というわけにもいかない。
学校への欠席連絡(公安の協力もあり、話はすんなり通る)もある。
一応、ホントに一応表向きは民間人なのだから。
また、樹も樹で表向きのゲーム会社に勤めている。それに公安との連携の対応、人知を超えた事態の対応と忙しいはずなのに、ゲーム会社の仕事もしっかりこなしている。
愁は彼女だって進示と杏子が心配でたまらないだろうに、おくびにも見せない様子に秘かに尊敬していた。
関原の守護天使、コーロスの能力で、空間移動をする。
現状では使える力の制限でトータスまで繋げることが出来ないし、地球とトータスでは光年レベルで離れているので、世界間を行き来出来るのは極めて限られた方法になる。
デジモンの究極体レベルの力で世界の壁を強引に突破する方法はあるが、現在テスト段階である。
しかし、そもそもそれ以前に【神に連なるもの】を通さない結界があるのだ。
進示や杏子を含めても今まで異世界に飛ばされたものが守護天使に救助された例は無い。
…結界の質、大きさから言っても貼っているのはかなり高位の破壊神であると予想される。
何故破壊神がそのようなことをするのかは謎だ。
世界をどうにもできない状態になったときにしか現れないはずの破壊神が何故。
…考えても仕方ないと割り切り、樹は今の現状の対処に思考を割く。
そう言えば、出口さんといい関係になっているガンマニアの彼女も究極体になっていると聞きましたねと、樹は思考する。
そうなればジョグレスも出来るのではないかと。
「申し訳ないが、その仕事、我々も同行させてもらっていいかな?」
と、声をあげたのは八重樫鷲三…雫の祖父だった。
「構いませんが、どうして?」
関原が理由を尋ねる。
樹は心の中で「アレを試すにはちょうどいいですか」と考えている。
「私もいいかな?」
さらに言ったのは雫の父、虎一だった。
困惑する関原達に霧乃が答える。
「娘、孫娘の雫やその友達…門下生の光輝君もいなくなって…何かしてないと落ち着かないと思うの」
と答えた。
関原達は八重樫一家の実力派知っているので、デジモンなしでも対応できる仕事を思いつく。すでに何回か手合わせをしているのだ。
「ああ、なるほど。イーターに混ざって変な妖怪とか異形とか出てくる場合もあるので、そっちの相手をお願いします。イーターは…どんなに強くてもデジモンなしでどうにかできる相手ではないので」
「わかった。」
「ああ、待ってください。進示様たちがオルクス大迷宮で通信したときのことを覚えていますか?その時のデータを参考にして作った装備があるのです」
そこで樹が取り出したのは腕輪だった。
「デジモンのデジタル理論から作り出した腕輪です。これを装着した状態でイーターを攻撃してみてください。デジタルワールドや電脳空間では人間は一般人並みに能力が低下する問題と、デジモンの攻撃しか通用しない相手への対策の一環として今までのデータと、進示様が送信してきたデータを基にして作った【デジタルリング】です。これを装着すれば、人間の攻撃もイータに通る筈です。…ただ、イーターを捕獲して操った例はあるのですが、今の我々では再現できません。なので十分なテストは出来ません…故に」
「今回がそのテスト、というわけですね」
と、虎一は腕輪をはめながら聞く。
転生者たちも腕輪を嵌めながら準備をする。
「はい、ですが、危なくなったら無理をせず、帰還してください。EDEN症候群を治療できるとは言っても、簡単には治せないのですから。月単位のリハビリが必要になる可能性も高いので」
「ですが、警察や自衛隊も手に負えないのでしょう?市民が被害にあう可能性もあるのでは?」
「そのためのチーム分けでもあります」
出来れば後詰の出番がないのが理想だが、彼らであればそう心配はいらないだろう。
最初の内はパワードスーツや鎧の力で戦いつつも、マトリックスエボリューションの必要がない(厳密には完全体から感覚の共有が行われる)…融合の必要がない完全体までに進化させ、アルマジモンとメタルティラノモンが出現する。
因みに進示以外の転生者は龍の因子のようなドーピングはしていないため、装備無しで常識を超えた身体能力を持つも、全員普通の人間の肉体である。
防具もなしで戦闘に出たりは滅多にやらない。
「これは…何とも大きい」
初めてデジモンの進化を見た八重樫一家が、呟く。
モニター越しの南雲夫妻も興奮し、他の家族も驚きの反応である。
トラック台の大きさのイソギンチャクのようなイーターの群れが現れる。
「あれが…」
「まずは一閃」
八重樫鷲三が刀を一振り、常人では視認困難な剣戟でイーターを斬る。
化け物とは言ってもデジタル体のイーターに果たして効果はあるのか。
…見事に真っ二つになり、消滅した。
その横では、パワードスーツの射撃や、ビームサーベルのような薙刀を振るい、イーターを消滅させている関原と小山田がいた。
『デジタルリングの効果はあるようですね。輝明さんも攻撃を受けましたが、オルクス大迷宮の時の進示様と杏子ちゃんのように一撃でデータを分解されることはありませんね。…最も、関原さんのパワードスーツは一部しかクロンデジゾイドが使われていませんし、魂の繋がりがあるわけではないので、単純比較はできませんが。捕獲は考えなくて構いません。殲滅してください』
そもそも進示達が体を張って収集したデータだ。
進示は転生者にしてはあまり戦績がいいとは言えない。
ヒュドラ・イーターもサイバースゥルース世界のイーターや、6年前のイーターより分解能力が強く、ハジメ達に決着を託すしかなかった。
戦い始めてから数年経つとはいえ、経験不足からか初見殺しのギミックにも不覚を取ることが多いものの、生きてさえいればすぐに分析し、対応装備を作れてしまうのが進示の強みだ。
進示を敵に回し、彼を倒すならほぼほぼ初見がチャンスなのだ。
ただ、八重樫一家は戦闘記録や組手の記録を見て「進示君は確かに強いし、並大抵の相手では敵わないが、動きが合理的過ぎて、ある程度のレベルの使い手ならば逆に動きが読みやすい、悪く言えば遊びがない。身体能力が同等なら雫でも勝ち越しを狙える」と、結構厳しい評価を受けてしまった。
だが、機械工学やデジタル全般、人間(医師免許はないので、地球では出来ないが)や異種族、デジモンの医者も兼任しているので、多忙さを含めればこれ以上はない出来とも言われた。デジタルに関しては杏子が全盛期の力を取り戻しているため、負担は軽くなるだろう。
ただ、射撃に関しては天性のセンスであるためか、虎一がキラキラした目で見ていたが。
「ビル大の大きさが出てきました!」
「むう、流石にあれを一息では斬れないな」
順調にイーターを狩っていた一同は、大きい個体(イーターの性質上個体と言えるかは怪しいが)が出てきた。
関原と小山田はデジヴァイスをかざし、マトリックスエボリューションを行い、パートナーと融合する。
関原はブルムロードモン。小山田はムゲンドラモンを通り越してなんとカオスドラモンになった。
『おい!?オーバーキルだろう!?』
『上空に打ち上げよう。【牽制】にもなるし』
『それもそっか』
『…戦闘記録を視られるリスクはありますが、まだ切ってないカードもあるので、いいでしょう。ですが、街に被害を出さないようにしてください。コーロスの能力で空間の位相をズラしているとはいえ、現実空間に被害が出ないとも限りません』
小山田はおっけーおっけーと言うと、ブルムロードモンに上空に打ち上げてもらう
ビルほどの大きさはあるが、質量は大したことはない。
必殺技無しでもイーターを上空に投げ飛ばせる。
『ハイパームゲンキャノン』
小山田とカオスドラモンのややダウナー気味な声で放たれた技に上空で大爆発が起こる。
「ふー、今回は楽勝だったな」
「時間かかって怠いだけだけど」
「お疲れさまだ、関原君、小山田君」
と、それぞれ戦闘に出たメンバーを労っていた。
その様子を見ていた英国人が半分現実逃避をしていたのは気づかれていたがスルーされていた。
小山田が言っていた【牽制】とは彼のような人たちに対してである。
それからしばらくして、
行方不明になった被害者たちの親族もいつも集合していられるわけではない。彼らも社会人だからだ。
トータスにいる進示達の様子を映像は常にではないが、送られてくる。
世界を跨ぐ生命のやり取りは難しいが、通信は比較的通るようになった。
樹は表向きは南雲愁の会社に勤めながら、時折愁の許可を取っては、会議室でトータスにいる進示から送信されてくるモニターのチェックをしている。
愁もハジメ達の事が心配なので、樹への仕事の割り当てを減らし、ハジメ達の様子を視させている。
どうやら彼らが【奈落の底】と呼ぶ迷宮があるホルアドへと戻ってきたようだった。
ティオ・クラルスという仲間も増え、そして5年前に進示と杏子を護って死んだはずのミリアが自分の体をデジモンに改造するという離れ業をやってのけて復活した(但し、大幅な弱体化を余儀なくされたうえに、魔法能力の全てを失った、未来からの情報もあるから、初めから自分の力を進示に継承させるつもりだったのだろう)。実際はずっと進示の体の中にいたらしく、これまでの5年間、自分の体の改造と、進示の脳の保護、そして進示と魂が繋がっている杏子の記憶復活の調整など色々やっていながら進示を通じて外の世界の様子も見ていたらしく、事情に詳しいのも納得だが、並行世界の未来から情報を受信していたというのは流石に想定外であった。
送信主は樹とのことなので、恐らく自分は消滅していると考えている樹であった。
神が承認なしで歴史改竄を行っては、かなり重いペナルティが課されるからだ。最悪、消滅もありうる。
仮に改竄するにしても厳重な審査と手続きが必要だ。
そうなると以前の自分は神の世界にいる討伐対象がどうなったかを知りたかったが、通信先のミリア曰『「以前の歴史の情報は恐らくもう当てに出来ません。私の推理が正しければ【彼はもう別人に挿げ変わっています】』とのことだ。
ただ、確証はないらしく、憶測に憶測を重ねても混乱するだけというのが彼女の主張だ。
ただ、前回の歴史との差異は進示の女性関係や、誰彼の生存死亡など細かいところは多いが、これもミリア曰く最大の問題点は前の歴史では杏子の記憶が戻っていないとのことだった。
忘れがちではあるが、現在進示や樹たちがいる世界は、【消滅候補】の世界である。
一次創作が無ければ2次創作が存在しないのと同じで、何者かがデジモンの世界の1次創作を消去してしまったか、あるいは事故で消えたかという存在だ。
進示達は知らない情報だが、この世界もとある世界の元にあるオリジナルが存在する。
消滅したオリジナルのそのまま放置すれば派生世界であるこの世界もいずれ消える運命にある。
そうなる前に消えた世界を修復し、世界の存続を図る。
榊原進示はそういう世界のリカバリーのために派遣された転生者だ。
最も、進示は転生当初は知らなかったらしく、樹の方も進示の精神が落ち着くまで話さないつもりだったが、戸籍上10歳の時にジール召喚という想定外の事が起きてしまった。
故に、帰還時に詳細情報の開示をせざるを得なかった(並行世界の未来の存在である樹から情報をキャッチしたミリアからある程度聴かされていたためか、進示はすぐに受け入れた。【慰め】も効いたのだが)
そうであったからこそ、面倒くさがりの進示が自分から戦技指導を乞うたのだろう。
ジール召喚以前もこの街でイーター騒ぎがあったのだが、それはまた別の機会に。
「ままならないものね」
樹としては本来平和に暮らすはずだった人物に修羅の世界に身を投じさせることに申し訳なさを感じていたし、可能な限り彼の手を煩わせないつもりだったが、進示を戦わせないとタイムパラドックスも発生する上に、世界を消滅させないように戦う時は戦い、引く時は引くという調整もしなくてはならない。
だが、全ての出来事をそっくりそのままなぞるのは不可能だし、何もしなくても【この世界の】園部優花や、中村恵理のようなイレギュラーが発生することもあり得る。
宇宙の存続がかかっている以上、進示を含む一緒に転生した6人だけではこの仕事は不可能だ。
守護天使のサポートや現地協力者、デジモンのような高次生命体との協力、共存が不可欠だ。
それに、樹が進示の女性関係を増やすのに肯定的なのは、役目の都合上、普通の人間では永すぎる時間も過ごさねばならなくなったからだ。
人間の精神など、100年かそこらでも簡単に摩耗する。
肉体寿命の問題は龍の因子で解決したが、精神は別問題だ。
不老の生命でありながら摩耗を防ぐために人の温もりがいるからだ。
だが、人間の女性では平均寿命から言っても100年持たないし、寿命を延ばせたとしても人数が少なすぎては価値観のバランスが偏る可能性がある。
それに、進示の性格とある程度成熟した精神上可能性は低いが、身内が殺された場合、進示が憎しみで暴走しないための抑止力も進示と関係を深めた女性が勝手に担うことになるからだ。無論樹は自分も尽力するつもりではいるが、天使の自分では人間の進示と価値観をすり合わせられない可能性もある。
「ん?これは…!?」
樹はモニターを見て驚愕し、すぐさま八重樫家に連絡を入れる。
八重樫雫が遺体で映し出されたからだ。
進示がすぐに蘇生体勢に入るが、状況は芳しくない。
雫が自分の本心を抑えているからか、死んだ反動で現実への拒絶心が出てしまっているようだ。
その解決のために白崎香織を雫の精神世界に派遣するが、きちんとした設備もなしで、死者蘇生と香織の存在証明の同時行使など廃人確定レベルでの脳の酷使が必要だ。
いや、進示の脳の保護を行っているミリアがいるからできた決断か。
下ネタで進示を後押ししているが、彼女の目は進示の心が救えそうな人を救えなかった罪悪感で押しつぶされないように、進示のやることを死に物狂いで補佐する構えだ。
「精神性においては私や記憶回復後の杏子ちゃんよりも進示様のパートナーに相応しいかもしれませんね、ミリアさんは(公序良俗の問題は置いておく)。進示様に従順に見えますがああ見えてただのイエスマンではないですし、全てを見定めたうえで従っている。そして何より修羅の環境に共に身を置いた実績もある」
自分と違って…と、自嘲する樹。
「…記憶喪失状態の杏子ちゃん…は人格形成中だったから判断はまだできませんが…今でも杏子ちゃんの中から客観的に世界を視ていますね…■■■モンは」
樹も記憶喪失の杏子の正体に感づいているらしい。
そして映像の中の戦いは予想外の激戦となるが、予想外の形で戦闘終了となる。…予想外の人物との再会も含めて。
その後、迷宮から外に出て、白崎香織の南雲ハジメへの告白や、天之河光輝の…恐らくは嫉妬による暴走などの悶着もあったが、進示が熱で倒れ、杏子がこちらへの通信の準備も行い、送られてくる映像から解析、対応も考え、準備を行う。
神代魔法の取得は2/7。
あと5つ。
記憶喪失の杏子の正体。
作中から感づいた人もいるかと思いますが、これについては初めからこの設定でした。
ピンク色のデジモン=これが成長するとデジタルワールドの生態系を壊すと言われている。
八重樫家との交流。
進示達は雫との接点は学校以外ではほぼ皆無。鷲三達が雫に裏側を知られたくないので、進示達に口裏を合わせるようにお願いしていた。
但し、非常事態が起きた場合、八重樫の裏事情を開示して構わないとも告げている。
修行のやりすぎ=娘に遅れは取れないと張り切りすぎた結果。娘に看病されるが同時にジールで行った仕打ちを考えると怒るに怒れない。
英国人=アフター既読の人であれば凡そ察せるかもしれない。名も無きエージェント。