異世界転移先に選ばれた   作:森野熊漢

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感想を残してくれた方がいてくださったからちょっとやる気出た


山で倒れてたらいいというわけでもない。

「……えぇと……」

 

そんな言葉しか出なかった。

穴の中に明らかに真っ黒な何かがいる。何かが落ちてきたのだからこれはまあ、わかる。

それが何かしらの生き物だった。……落ちてきた何かに巻き込まれて運良く生きていたと考えたら、まああり得ないレベルではあるけど理解はできる。むしろ喜ぶべきである。

明らかに周りが「何があった!?」とか騒いで入るものの、穴の中にいる何かに気づいていないような反応をしていること。

これは本気でわからない。なんで?

 

「う、ぐぅ……」

 

ほら、何か呻いているし。穴の淵からのぞき込んでいるから聞こえるっていう説もあるが、それなら俺の横にいるおじさんも何かしら反応をしているはずなんだよな。

 

「……っつう」

 

人の目はあるだろうけど、かといってあのまま放っておくのも、なあ。

見た限り本当にボロボロに見えるし、苦しそうだし。

 

(仕方ない、か)

 

ゆっくり、出来るだけ音を立てないようにして斜面を滑り降りる。

もう一度上を見上げるとがっつりおっさんと目が合った。

が、特に何も反応をされなかった。それどころか、俺が横から消えたことに気づいていないようである。

……どう考えてもおかしい。何かしら異常が起きているのだが、それに気づいているのが俺だけというのがおかしい。

……嫌な予感しかしないけど、おそらく元凶と思われるやつに接触するしかないか。

 

「……大丈夫か?」

「っ……誰だ……?」

 

俺の声に反応して顔をぐりんと向けたそいつ。

さっきまで低いうめき声しか聞こえなかったから今気づいたけど、女だったのか。

ちなみに姿かたちで判断できなかったのかと言われると、頭の先から足の先まで真っ黒な布で覆われていたからである。近くまでいってようやく布だったとわかったレベルで真っ黒だった。

 

「私は……まあ、通りすがりの者だが」

「通りすがり……? お前のようなやつ通りすがりがいるか」

「いや、通りすがりなのは事実なんだが」

 

様子を見に、ここを通りかかったのは間違いないから通りすがりなんだが。

女性は座り込み、俺の顔をじっと見る。

 

「他にも気配は感じるが……お前と違い、私のことに気づいていない」

「ああ、さっきからそれは気になっていたんだが、どういうことだ?」

 

ここの穴には気づいているのに、中心のこやつに気づいていないからなあ。

 

「それに関しては、私が落ちる直前に視認できないよう、簡単な結界を張っただけだ。気にするほどではない」

「……そうかー」

 

なんだか最近、日常的に聞かない言葉をよく聞く気がする。

 

「しかし、お前には私を視認できていたようだが……どういうことだ」

「それは私が教えてもらいたいくらいなのですが」

 

最近自称勇者と喋る聖剣がうちに転がり込んできた理由についても、もっと詳しい説明をもらいたい。

 

「ふむ……こうして話しているのは何かの縁だ。貴様にいくつか尋ねるから答えよ。拒否は認めぬ」

「初対面でこんなに厚かましい人初めてなんですけど」

 

なんでこんな偉そうなんだろう。なんというか、あの聖剣と雰囲気が似てる。

 

「なに、知らないなら知らないで構わないのだが……最近、アルフという勇者がここに来なかったか?」

「ええ、いますね。ちょうど同じ名前の自称勇者が居候に」

「そうか、やはりいな……今なんと言った?」

「え、だからアルフという勇者を自称している人がうちにいるって話ですが」

「本当か!?」

「……というか、さっきから聞き逃していたんですが、あなたは誰です?」

 

大変大事なことを聞き忘れていたことを思い出したよ。

 

「む? そういえば名乗っていなかったか」

 

女性はそう言うと立ち上がった。さっきはわからなかったが、立ち上がると俺と同じくらいの身長だった。

 

「私はリュエル。勇者を探してここに来た者だ」

 

恥ずかしがることもなく、堂々とそう言い放ったのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ただいま……」

 

あの後、勇者に会いたいというリュエルさんを引き連れて家まで帰ってきた。

あの格好だと人目に付くのでどうしたらいいかと悩んでいたのだが、どうやらあの布には人の目に映らなくなる術式とやらがあるとのことだった。なら結界の必要性がなかったのでは、とも思ったのだが、墜落によってあまりに大きな影響を及ぼしてしまったため、念のために張っていたとのこと。

……まあ、そのおかげで俺も虚空に向かって話しかける人物として認識されなかったので良しとしよう。

ちなみに、何故か俺にはやはり布の効果が表れていないらしい。がっつりリュエルさんの姿が認知できているため、周りからあまりに浮いている格好の彼女が気になって仕方なかった。

 

「ふむ、ここがお前の住処か」

「住処て」

 

言葉とは不思議なもので、意味が同じでも言い方が違うだけで印象が変わるんだなあ。

 

「そして勇者もここに帰ってくると」

「まあ、そうですね。何故かそうなったので」

「……うむ、まあ、なんというか、すまんな」

 

なんでこの人が謝るんだろうか。

 

「ところで、聞くタイミングを逃してたので今更なんですが、リュエルさんはアルフさんとどういう関係なんです?」

「む……関係、か」

 

スッ、と。

リュエルさんの目が細くなった。

同時に周りの空気も心なしか重くなった、ように感じる。

そしてその変化に俺は心臓が握られたかのような感覚を得たりすることはなかった。

 

「え、そんな答えに困るような関係性だったんですか」

「……いや、今割とプレッシャーをかけたんだが? 何もないかのように振舞われていることに驚いているんだが?」

 

知り合いだと思って連れてきてしまったけど、本当に良かったんだろうか。

何やらリュエルさんが若干焦った様子で何かつぶやいているけど、自分の判断が間違っていたのではないかということが気になり、それどころではなかった。

 

「……ただいま」

 

あ、アルフさんが帰ってきた。

玄関から奥についたところでおかえりなさい、と返したところで。

 

「……本当にこんなところにいたのだな、勇者よ」

「な……リュエル……!?」

 

何やらリュエルさんとアルフさんの間に不穏な空気が流れ始めた。

だが、俺にとってはそんなことはどうでもいい。

アルフさんが急にアークを右手に握り始めたことも気にしない。

何故なら。

 

「リュエルさん? こんなところってどういう意味です?」

 

賃貸とはいえ、立派な我が家をこんなところ扱いは少々ムカッと来るものがあった。

 

「……! いや、すまん。決してこの家を馬鹿にしたとかそういうことではない!」

「……え? 今、俺たちが気圧されるくらいの圧を感じなかった?」

『聖剣たる我も一瞬震えたぞ……?』

 

なんだ、それなら良かった。

 

「……こほん、探したぞ勇者アルフ」

「……魔王リュエル。こんなとk……ゲフンゲフン、まさかお前にこの世界で会うことになるとは思っていなかった」

「ふん、お前を追いかけてきたのだ。感謝するんだな」

「……っく、やる気か」

「……『空間拡張』、そして『空間隔絶』」

 

なんか、あれよあれよという間にやりとりが進んでいっている。

うわ、周りの空間が急に広くなった上に、家具の一切がいつの間にか消え去ってる。

あと気のせいか外の音とかそういったものが全く感じられなくなったんだが。

え、何? 二人の間にすごく不穏な空気が流れているんだけど?

あとリュエルさんのこと魔王って言ってなかった?

え? 何? 今から勇者と魔王の一騎打ちでも始まるの?

 

『貴様、生意気とはいえ一般人の前でやり合おうというのか!?』

「……まあ仕方ないわね? 勇者を匿ってしまったことが不運だったということね」

『……貴様ァっ!』

 

アークが急に光輝いたかと思うと、電撃がリュエルさんに向かって走っていった。

が、リュエルさんはそれを左手を振るだけで軌道を逸らした。

 

「あら、相変わらずマナーのなってない聖剣ね? 持ち主に似たのかしら?」

「いや、さすがにアークに似てるとか言われるのは心外なんだが」

 

軽口を叩きつつ、アルフさんがアークを叩きつけるが、先ほどと同じように左手をかざし、それを受け止めた。よく見ると、手のひらから先に壁のようなものが出ているのが見える。

 

「やっぱり似ているじゃない。話をしているときに斬りかかってくるなんて」

「……っく」

「さて」

 

リュエルさんが右手を突き出した。

次の瞬間、燃え盛る炎がアルフさんを襲う。が、アルフさんは自分に到達する一瞬前に後ろに飛び下がり、アークを自身の前に構えた。

炎に飲み込まれたかと思った瞬間、障壁がアルフさんを包み込み、炎を遮断した。

 

 

そこから二人の攻防は更に苛烈を極めていった。

切り裂いたかと思えば躱し、反撃に雷を放つ。

黒色の玉を跳ね返し、お返しとばかりに斬撃を飛ばす。

そんな闘いを俺は、現実味のないものと感じていたからか、ぼうっと眺めていた。

何故ずっと眺めていたのか。

おそらく少し距離があるところで見ているから、と高を括っていたのが少しはあるのかもしれない。

しかし、いつこちらに危険が飛んできてもおかしくないというのに、全く頭の中にそんなことは浮かばなかった。

それ故に、危険性というものを感じられていなかった。

 

しかし。

 

「獄炎!」

「っく! 反……射ァ!」

『押され……しまった!』

 

アルフさんが炎を跳ね返そうとしたが、威力に押され、体勢が狂ったからだろうか。

今まで見た中でも一番の威力の炎が一瞬で俺の身体を包み込んだのだった。




聖剣さんとの軽口のたたき合いパートやりたかったのに、あれ?
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