「あー……やってしまったか」
私は炎に包まれた男を見ながらそんな感想を浮かべていた。
ここまで連れてきて、勇者に会わせてもらった。恩はあるといえど、所詮人間。
そこまで大きな感情が動くわけではない。
「大丈夫かい! くっそ、リュエル!」
「あー、安心しろ勇者。私の力で戻してやるから」
魔王の私にとって、人一人の治癒など容易い。蘇生も今ならまだ十分間に合うから特に焦る必要はない。
「一般人を巻き込むことは……まあ想定しなかったと言えば嘘になるが、私の力をお前も知っているだろう。だから問題はない。」
「……焼かれる前から記憶も改ざんしておいてくれ。トラウマを残してしまうのはよくない」
なるほど、脆弱な人間らしい。まあ私にも非はあるから今回は勇者の言う通り、記憶改ざんまできちんとしておくことにしよう。
未だに燃える業火の中から人の形をしたそれを引っ張り出す。
「やれやれ……すぐに元に戻して……なんだと?」
もう一度言っておくが、私は魔王だ。
そこにいる勇者、アルフと何回も殺し合いをしてきた仲だ。
お互いに殺し殺され、その度にとある理由から復活を強いられてきた。それにより、自然と力量は上がっていっている。
つまり、私たちの殺し合いの巻き添えを食らうとなると、一般人が無事で済むはずがないのである。
だというのに、だ。
「なぜ、なぜこいつは何事もないままなんだ?」
業火に飲まれたというのに、傷ひとつ、火傷一つ負っていない姿で倒れているのだ?
「……まあ僕としては彼が無事ですごく安心してるんだけど」
勇者はほっとした様子でいるが、私としては納得がいかない。
出力が弱かった? いや、手ごたえで言えばいつもと変わらなかったはずだが……。
「……君の炎はいつも通り……いや、いつも以上だった。手元が狂ってあらぬ方向に飛ばしてしまうくらいにはね」
「……そうか」
私の表情を読んでか、勇者がそんなことを漏らしてきた。それに対して簡単な返事しか返せない。
というか、燃やした私が言うのもなんだが、この男冷静過ぎないか?
勇者だからこうなのか、私に影響されたのか。
はたまた、これがこいつの本性なのか。
「さて、無傷だとはいえ、火に包まれたというのはトラウマになるだろう」
「まあ、そうだね。彼は少なくとも一般人と言っているわけだしね。」
まあ疑わしいところはあるけれど、と勇者は言っていたがそれには私も同意だ。
何をどうしたら一般人が魔王の業火を受けて無傷でいられるのだろうか。
「魔王、頼んでいいかい?」
「……仕方あるまい」
ため息をつきつつ、記憶改ざんの術をかける。
頭に手をやり、手から術を流し込む。緑色の光が流れ込んでいく。
「……!」
「……大丈夫かい?」
「ああ、問題ない」
一瞬何か引っかかるような感じがしたが、特に問題なく術が通った。
まあ久々に使ったのもあるから、感覚を忘れていただけなのだろうな。
少し時間をかけ、勇者が業火を跳ね返すあたりからの記憶を書き換える。
まあなんとかなるだろう。私たちがうまく口裏を合わせれば問題ないだろう。
さて、あとはこの部屋は……このままでいいか。
こやつを別部屋に運び出して様子を見ておくことにしよう。
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「ん、んん……?」
目を開けばそこは知らない天井……ではなく、勝手知ったる俺の家の天井だった。
『ようやく起きたか』
「……アーク?」
姿は見えないのに声だけが近くから聞こえるなんて怪奇現象はアークしか引き起こせない。
あとは完全にアークの声という判断である。
『貴様にこんなことを頼むのも癪だが、一つ頼みたい』
「癪だと感じるなら別に無理して言ってくれんでもいいが」
なんでこんなに無機物に嫌われているのかをそろそろ誰か教えてほしい。
『このベッドの下から我を出してくれ』
…………。
「はい?」
『もう一度言うぞ! 我を! ベッドの下から! 出してくれ!』
「……なんでこんなところに入ってるんだ」
Q.こんなところに何故入っているのか。
A.変態だから
QED.証明完了。
「うわ、引くわ……」
『貴様、今我に対してかなり失礼なことを考えなかったか!?』
「考えてないですよ。引いてるだけで」
『十分失礼してるんだが!?』
「いくら俺のことが好きだからって、ベッドの下に入り込むなんて……」
『貴様のことなど好きでもないし、男のベッドの下に潜り込みたくないわ!』
「若い美人のお姉ちゃんならいいと」
『…………………………………………………………よくないわ』
おい、今たっぷり考えてたよな。絶対想像してたよな。
想像していたけどなんとか誤魔化そうとして声を絞り出してたよな。
こやつ、女性の人格を持った剣とかいたら口説き始めたりしないかな。
某運命の物語に話す剣が5人ほどいたし、そのうちの一人が女性だったよな確か。
まあその18年後の話である続編で、人間時代に前作の主人公の剣の人とすごく良い仲だったのがきちんと描写されてたから勝ち目ないだろうけど。
「んで、なんでこんなとこにいるわけ? 男の尻のにおいを嗅ぐのが趣味なの?」
『そんな特異な趣味があってたまるか! アレフに押しやられたに決まっているだろう!』
「いや、喋るくらいだから自力で走って潜り込んだのかなって」
『我にそんな力があれば貴様を刺しておるわ!』
「よしわかった、今から貴様を叩き直してやる。安心しろ、峰打ちだ」
『その手に持った金づちに峰という概念はないだろう! 絶対にやめろ!』
せっかく刃と一緒に根性を叩きなおしてやろうと思ったのに、残念だ。
「アレフさんに入れられたってことだが、なんで?」
『うむ、それがな……』
十分溜めて、溜めて。
『……なんで、だろうな』
おかしい。剣なのにどこか遠い目をしているのをひしひしと感じる。剣なのに。
同情の念を込めながら引っ張り出してやった。
アークは声を殺して泣いていたように見えた。
あくまで見えただけだから実際はどうかわからんが。
「んで、変態の剣を差し置いて持ち主とよくわからん奴はどこいったんだ」
起きてからずっと気になっていたことを口に出す。
そういや俺ってなんで寝てたんだっけ。
確かアルフさんとあの人……何て名前だっけか。リュなんとかさんだったような気がする。
なんかあの人たちが来てからのことをよく覚えていない。
すっごい衝撃的なものを見た気がするんだが。
『あの二人なら貴様に無理をさせたことを反省して今買い出しに行っておる』
「……大丈夫なのか?」
アルフさんはまあここに来てから多少時間が経っているから大丈夫……と言い切れるかは怪しいがまあ良しとして、問題はリュなんとかさんだ。
あの人も何やら自分がアルフさんと同じところ出身みたいな話をしていた気がするんだが。
『主がいるからな。大丈夫……いや、大丈夫だろうな、うん』
「自分に問い直してる時点で大丈夫じゃなさそうなんだが」
何ならアルフさんよりも剣のアークの方がまだこちらの生活の仕方の順応やら良識が高かったからな。
ソースはアルフさんたちが初めて来たときに俺の部屋で行われようとした勇者行為。
まさか剣が『主!ここで我らの世界でも良識を疑う行為はまずい! 待て!ステイ!』と持ち主を引き留める場面を目にするとは思わなかった。なんならもはや犬扱いだった。
「……苦労してたんだな、お前」
『貴様!……まあ、その通りだから何も言えんが』
存外、勇者というのは元の世界でも常識が欠如していたらしい。これに関してはアルフさんの育ってきた環境のせいかもしれないから憶測にしかすぎんが。
「まあ最悪何とかなるだろ。犯罪とかやばいことに足を突っ込んでなきゃ助けてやる」
『貴様っ……いや、まあ当然か』
アルフさんには伝えてるからまあ頑張ってもらうしかない。
そんなことを考えていると『……で、本題だが』とアークが切り出してきた。どうやら先ほどまでの軽いノリを霧散させているあたり、割と真剣な内容であるらしい。剣だけに。
『貴様は気を失う前のどこまでのことを覚えている』
「どこまで、と言われてもな。リュなんとかさんと帰ってきて、なんか二人が話し始めたあたりからよく覚えてないんだよな」
確か部屋が増えて、あり得ないくらい広くなったように思うのだが、そこもなんとなくそうだったくらいの記憶である。若年性健忘症か?笑えんのだが。
『ふむ、覚えているのはそのくらいか?』
「ああ、そうだが……あの後一体どうなったんだ。何となく剣呑な雰囲気だった気がするが」
『ああ、それは「まさか実はリュなんとかさんがアルフさんの世界の魔王で、勇者と魔王の激突が起きてたとかなら笑えるんだが」貴様、覚えているのか!?』
「え? 本当にそんなこと起きてたの?」
『そんなわけあるかたわけ! 勇者と魔王の激突など起きたらこの辺りが無事で済むか!冗談もほどほどにしておけ!』
「お、おう? なんかすまん」
だろうな。だからこそあり得ない話として例を挙げただけなのに、そんなガチギレしないでも。
『とにかく、貴様は起きた! あの二人が帰ってきたら今後のことを話すぞ!』
「いやなんでお前が勝手に今後の予定立ててんの?」
『そうしないとまお……リュエルを早めにどうするか決めないといけないだろう!』
「まあ確かに。俺もそうしようとは思っていたし」
『なら問題ないだろう! 何故我の言葉に異を唱えた』
「別に異は唱えてないが。なんとなく気に入らなかっただけ」
『貴様ぁ!』
とりあえず二人が帰ってくるまでアークをいじり倒すことにした。
タイトルは某剣の心の叫び
あ、以前コメントで頂いていてずっと考えてましたが、タイトルを変えました。
異世界転生→異世界転移になりました。
確かに誰も転生してないもんね。
また進めていけたらと思いますので見ていただけたら幸いです。