僕たちの世界では、人間と魔族が存在している。
勿論、同じ種族ではないため、互いに敵同士という認識を持っているのが殆どであり、仲良く共存する、ということは実現は不可能と考えられている。
考えられている、というのはあくまで一般論。
魔物化した動物などは難しいが、一定以上の知能を持つ魔物は人間と共通の言語を用いることが出来るため、話し合いなどしようと思えば出来るはずなのだ。
では、何故仲良くできないのか。
それは種族の間におけるそれぞれの認識の違いだ。
人間は魔族を汚らわしい生き物、力で支配を考える野蛮な連中、人を家畜と同義と考えている等、僕がこれまで聞いた中でも特に多かったものがこれらだ。
確かに魔族は多種族にわたって存在しており、力が強いもの、空を飛べるもの、素早く動き回り仕留めるのを得意とするものなど、人よりも強力な身体能力を有することが殆どだ。
更には魔族全体が「力こそ正義」という風潮があるというのも大きい。
純粋な身体能力としては人間は魔族に劣るため、魔族からしたら人間は狩られるべき対象であるのだろう。
だが、人間としてもそれを黙って受け入れるはずがない。
知恵や技術力、魔族と違い大きな種族間の違いというものがないため、結束しやすいという点で魔族の侵攻を何度も止めてきた。
魔族からすると、「力無き弱者の寄せ集めが生意気にも歯向かって来た」という認識に取られているわけだが。
さて、ここまでの話だと、魔族の全てが人間を見下し、敵対しているようにも感じてしまうわけだが、そういうわけでもない。
人間ですら力で従えられる関係があるのに、力を重視する魔族の中でその関係がないはずがない。
虐げられる側に回った魔族は、魔族より劣る人間がなぜ対抗できるのかを知り、技術や知識の提供を得るため協力関係を結ぶようになった。
人間からは知識や技術、魔族からは労働力や戦闘力を。
それぞれの得意分野を持ち寄り、身を寄せ合い力を合わせて暮らし始める集団が徐々にだが増えていった。
勿論だが、魔王や人間の各国の王の耳にも入るわけだが、人間の王はもちろん、意外なことに魔王も力なき者に寄り添う形を取り、特に咎められることはなかった。
これがずっと続けば特に問題はなかったんだ。
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「んで? 何か申し開きすることは?」
リビングにて。
俺は正座する二人の前に仁王立ちする。
おかしい。おかしいよな。
なんで俺はほぼ初対面の人たちに俺は説教しているんだろうな。
「はい……」
「いや、私は悪くないぞ。きちんとやるべきことをしようと」
「え? 何か言いました?」
にっこりと優しい笑顔を浮かべながら、優しい言葉をかける。
「……いえ、何もないです」と俯きながら返された。
優しく接しているのに、目を逸らすなんて失礼な。
フライパン片手ににっこりしてる程度なんだけど。
『明らかに発している殺気と顔が不釣り合いすぎるからだと思うんだが』
そこの聖剣(笑)が何かよくわからないことを言っているんだけど、溶かして包丁に仕立て直してもらおうか。
「で、アレフさん。何があったか教えてもらっていいです?」
「な、何がというと?」
「やだなあ、周りをきちんと見てくださいよ」
顔を横に向けキッチンを見る。
焦げた天井。水浸しという言葉で表すには生易しいレベルの床。いまだに水を噴き出し続ける水道。
「なんでほんの30分ほどで台所が再起不能レベルの惨状になってるんですかねえ?」
「再起不能とは大げさな。少し天井や床が焦げたり水が止まらなくなった程度ではないか」
「天井や床が焦げたり水が止まらなくなったのを大げさと表現できるのは一体どういう育ちしたらそうなるの?」
「魔王だからな」
「なら、貴様の城の調理場や水回りはいつもそうだったというわけだな」
「そんなわけはなかろう? 貴様と一緒にしないでもらいたい」
「たった今お前のせいでそういう環境にされたんだが?」
ほんとどうしてくれようか。この惨状も魔王(笑)も。
「えっと、とりあえず現状どうするかって話なんだけど……」
「どうぞアレフさん」
おずおずと手を挙げるアレフさん。
異世界民ではあるが、自称とはいえ勇者だしきっと良い意見をくれるに違いない。
「もうこの部屋はもうこのまま捨て置いてしまったらいいと思うんだよね」
少しでもまともな意見を貰えると思った自分を殴りたい。
「うむ、それが一番良いだろうな」
「いや、同調するなそこのアホ」
「貴様! 誰に向かってそのような口を」
「この惨状を生み出した奴が無責任なことを言ったからだが? 何か?」
どうしよう、自称異世界民から真っ当な意見が聞けるはずないのに、少しでも信じた自分が愚かだったと思わざるを得ない。
『おい、少しいいか』
「いや、よくないです」
『我の扱いがあまりにも雑じゃないか!?』
「まあ、剣だしねえ」
「そうだな、剣だからな」
『それだけの理由で全く参加させてもらえないのは理不尽すぎないか……?』
俺から始めたとはいえ、ちょっと扱いが雑すぎないか? せめてお前らは味方でいてやれよ。特にアレフさんは相棒だろうが。
流れを作ってしまったのもあるし、意見が欲しいのでアークに振る。
「んで、自称聖剣(笑)は何を言おうとしてたんだ?」
『うん、貴様の我への扱いが変わらんのは知ってたが……そうだな、とりあえずそこのアホ二人に直させたらよいのではないか』
「いや、無理だろ」
天井や床の焦げ、水道が壊れているこの現状を素人に直させるだと?
業者でも嫌がるのが容易に想像できるぞ?
「「そうか、その手があったか」」
「ええ……」
『まあ、うん。この二人ということに引っかかるのは理解できるが、そこは信用して良い。我が保証する』
「その保証した二人のせいでこうなってるってこと、知ってる?」
ふっと、こちらに向けられていた意識が逸らされたのがわかった。いや、お前も信用しきれていないのかよ。
「よし、ならさっさとやるぞ。勇者よ、手伝え」
「はいはい、というかリュエルにしかできないから必然的に僕はサポートに回ることになるんだけどね」
やれやれ、とため息をつきながらアレフさんがリュエルさんを連れ立ってキッチンへ向かっていった。
いや、マジで何かしようとしてるのか?
これ以上下手なことしないでほしいんだが、まあこれ以上酷くなるなんてことはそれこそキッチンが吹き飛ぶとかくらいしないとないだろうな。
……………………。
「いやマジでこれ以上被害が増えたらまずいから止めるか」
『いや、止めなくて大丈夫だろう』
立ち上がりかけた俺をアークが引き留めてくる。
『色々と不安要素があるというのは否定しきれないが、我は大丈夫だと思うぞ』
「ほう……? なぜそう言える?」
『まあ、相棒なのと……リュエルの方も知らん仲ではないからな』
そう言葉を発するアークの声色は、本当に信用しているようだった。
そんなアークに茶々を入れるのも野暮だと感じたので、おもむろにアークを手に取る。
『……どうした、我を手に取って』
「いや、なんとなくどうこの聖剣もどきを叩き折ったら有効活用できるかなって」
『今すぐ放せ! 我を手に取るな! というか気軽に我を手にするな! 不敬だぞ!』
「よいではないかよいではないかー」
『ええい気色悪い!よくは知らんがやめろ!』
あの二人を邪魔しに行くのも吝かなので、アークをいじり倒すことにした。
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「終わったぞ」
「酷い目にあった」
そんなリュなんとかさんがそんな言葉と共に部屋に入ってきた。
なぜかその後に続いて入って来たアレフさんが黒焦げだったのだが、突っ込んでいいところなのだろうか。
そうですか、とだけ無難な返事だけ返したのだが、「大変な作業をしてきた私たちに対して冷たくないか?」と何故かむくれられた。知るか、その原因を作ったのはお前らだろうに。
「まあまあ、気持ちはわかるけど、歯牙にもかけられてないって感じたからこうなったんだと思うよ」
「実際歯牙にもかける必要性がないですからね」
「思っていた以上に彼女への対応が冷たかった!?」
『……そう考えると、我への扱いはまだ温情のある方なのか……?』
いや、うん。何か好き勝手言ってるけど、結局俺はどうしたらいいんだよ。
勝手に部屋をぶっ壊して勝手に部屋を修理するとか言って何かやってたわけだが。
労ってやらないとダメなの?マジで言ってる?
キッチンが直ってるなら茶くらいなら淹れてやるが。俺が飲むついでに。
『うむ、リュエルの機嫌のこともある。一度キッチンを見てやったらどうだ?』
「俺に指図するな。土に埋めるぞ。仕方ないから見てやるが」
『あれ? 我への扱い、更に酷くなってないか?』
訳の分からないことをアークが言っているが、実際問題キッチンがどうなっているのかを見る必要はあるだろう。
ドアを開くと、なるほど。
一面の大理石の床に壁。調理器具は見覚えのあるものがガスコンロくらいで、何故か洗い場まで石造りで以前よりも深くて広い。冷蔵庫がなくなり、何故かいくつかの箱に食料品が全て仕分けされて置かれている。
そして、もう一度全体を見回す。
うん。俺の知っているキッチンから色々と物が変わってしまっているがそれ以上に。
「……なんか広くね?」
アパートの一室ではありえないレベルの広さになっていた。
いや、なんでだよ。
「どうだ? まあお前のこれまでの部屋とは異なるだろうが問題は無かろう」
「いや、おかしいだろ? 何がどうなったら部屋が広くなるんだよ」
「ん? それは私の知っている台所をイメージしたらこうなっただけだが」
「イメージするだけで部屋が広くなるなら土地問題もなければ建築会社もいらないんだよ」
「あはは……僕も止めようとしたり、代案を立てながらやってたけど、気に入らなかったのか爆破されてこの有様だよ」
「なんか黒焦げだったのはそういう背景があったんですね」
というか、修理なのにまた爆破したって何してるの?
あと、修理じゃなくてこれだとリフォームなんだよな。今更だけど。
「あと冷蔵庫はどうなったんだよ。あれは壊れてなかっただろ」
「景観が損なわれるからなくしたぞ」
「食料保存をどうしろというんだこいつ」
貴様の飯だけ常に傷んだものを出してやろうかこのやろう。
「待て、代わりにこの箱に中身を入れておいた。ただの箱に見えるだろうが、これでも保存がきくようにしているから問題ない」
「……アレフさん?」
「ああ……まあ君からしたら信じられないだろうけど、本当のことだよ。僕らのところではこれが一般的だし」
見た目は完全にツ〇ール製のゲームとかでよく見るやつなんだが、アレフさんが言うならまあ信じても良いだろう。嘘ならアークをいじめるだけだし。
『何かあれば我で怒りを発散させようとするのはやめろ貴様!?』
何か感づかれたみたいだが、まあ特に問題はないからいいか。
とりあえずキッチンがこれまでと大きく様変わりしたので、慣れていくのにどれだけ時間がかかるのか、それだけが心配になった。
増えたのは人数と台所の面積でした。
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