諸君、努々忘れることなかれ   作:カンタレラ

2 / 2
なんか時間に余裕があったんで書きました


前日譚とか後日談とか色々
理論値の誕生秘話についての独白


 俺は、常々運が悪かったんだろう。自分からすればそれが常態化しているためか、なかなかに気づきにくいがそれを誰かに話すといつも驚かれる。

 だが、逆に運が良くないわけでもなかった。福引を引けばいい結果を残すことも多かったし、悪運による周辺被害も最小限に留められていることもあった。

 運というのは波ということをどこかで聞いたことがある。運が良ければその後に皺寄せとして不運に見舞われるし、運が悪ければその跳ね返りで幸運に恵まれる。

 恐らくだが、俺の運は振れ幅が大きかったんだろう。程々に運がいい時も悪い時もなく、いいときは自分の望んだ通りの結果を齎すし悪いときは自分が一番起きて欲しくないことが起こる。そういった二極化された性質を持つんだと思ってる。

 

 最初の不運は……確か12歳の時だった。

 修学旅行から帰ってきたその晩、俺は疲れて先に寝ていたんだ。しばらくすると何やらリビングの方から物が壊れるような音とか、誰かが暴れるような音、両親と聞き覚えのない男の大声が耳に入ったんだ。

 俺は目が覚め、ただならぬ様子に怯えつつ静かにリビングを覗くとナイフを持った黒ずくめの男が3人いて、そのうちの二人が両親を取り押さえていたんだ。

 強盗だったんだろう。

 どうにかしなくちゃと思った。普通なら警察を呼ぶだろうが、その時の俺は冷静でいられなかった。

 俺は幸運にも修学旅行で購入していた木刀を取り、奇襲するために再度様子をうかがった。

 ……その強盗たちは趣味が悪かった。父親の目の前で母親の服を剥ぎ取ったんだ。

 思春期に片足突っ込んでた当時の俺はその後に何が起こるか薄々感づいた。その後の展開に気づいた父親の憎悪が伝播するように、俺の頭の中も真っ赤に染まった。

 怒りが臨界点を超えた時、頭の中で何かが切れた音がした。肉体は怒りによって熱を持ったままなのに、頭の部分は妙に冷たくて、自然と冴えてたような気がしてた。

 今思えば、この時に一度俺は限界を超えたんだろう。行き過ぎた感情が肉体を凌駕し、その感情に肉体が引っ張られた。

 引っ張られる事によって限界を超えた肉体は大人以上の力を発揮することができた。

 背後から奇襲した強盗は、木刀で利き手と片足を折って、即座に戦闘不能にすることができた。

 続く2人目は突進と共に放った体重の乗った突きによって意識を刈り取った。

 そして3人目に移ろうとした時、その強盗もやばいと思ったのか持っていたナイフで俺を刺してきた。

 父親の俺の名前を叫ぶ声、母親の悲鳴が聞こえた。

 それでも俺は行き過ぎた感情によって一切の歯止めが効かなかった。

 そうしてもう一度、今度は脳の限界を超えたんだと思う。感情が脳の危険信号を無理やり抑え込んで、それを思考のリソースに割いた。

 リミッターを解かれた脳がより多くの電気信号を送り出し、更に肉体は力を発揮できるようになった。

 そうして3人目の強盗は突き放し、首に木刀を叩き込んで意識を飛ばした。

 

 その後は色々あったよ、本当に。怪我の治療に事件の後処理とか。

 幸運だったのは両親に大きな怪我がなかったとか。最後の一撃はちょうど木刀が折れて相手の首の骨を折らずに済んだとか。両親があんな俺を見ても自分に対する態度を変えることがなかったとか。箝口令なり情報統制なりが敷かれて大した大事にならなかったり。

 ああ、あと警察からは過剰防衛ということでお咎めあったけど、飽くまで形式上ってだけで大したお咎めじゃなかったこととか。

 

 本来なら一生に一度あるかないかのような大事件だったが、持ち前の不幸のせいで色んな厄介事に巻き込まれたんだよ。テロから始まりバスのハイジャックに銀行強盗、工事現場の鉄骨だとかトラックに轢かれそうになる子供だとか。ヤクザの抗争に巻き込まれたときは流石に小指の一本は覚悟した。

 そのたびに肉体や脳の限界を超えていたら、段々と限界を超えるための臨界点が低くなっていくんだ。

 最初は我を忘れるを通り越して一周回るほどの感情でも、多少の感情のブレとかで起きるようになったり。最初は死の危険が迫った時だけだったけど、軽い緊張で超えるようになったり。

 最終的には制御できるようになったけど、限界越えたっていい事はあまりない。筋肉の収縮が強くてひどい筋肉痛や骨折を起こしたり、脳がオーバーヒートして血涙や鼻血がよく出たりするから。

 リミッターの解除はそれほどまでに肉体に負担を掛けるから、いつ心臓発作とか脳梗塞が起きても不思議じゃないよねっていう。

 

 ともあれ、俺がウマ娘に匹敵する肉体を手に入れた経緯がこれよ。

 ちなみにいま現在はトレーナー資格をとって中央のトレセンで働いている。脳のリミッターを超えたおかげか知らんが、妙に記憶力が良くなってて暗記物は楽だった。ただしIQが上がったわけじゃないからそれ以外は普通に苦労したが。

 今ではその身体能力を生かしてウマ娘の並走トレーニングとか筋トレのサポーターとして働いてる。

 トレーナー資格をとったと言っても担当は持たず、各チームのトレーニングのサポートしかしてないけど、まあいいでしょ。




感想を頂けたらやる気は出します。ただ時間が取れるかわからないのでなんとも言えないですけど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。