懲罰世界   作:X2愛好家

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滅亡のスタートアップ


魔法の怪物VS悪意のテクノロジー

折れた標識、抉れた路面、割れた窓。荒された街の中心部にて。

 

「なーんでこうなったのかねェ」

 

黒いジャケットを羽織った男の独り言が風に溶けていく。面倒だ、という態度を隠そうともしない男の目に映るのは異形。二足歩行のかろうじて人に近いタイプや、強靭な翼で空を羽ばたく猛禽類のようなタイプ。角の生えた頭とドリルのような両腕を地面から出している土竜のようなタイプも居る。

 

「母さん・・・僕・・・」

「大丈夫よ、大丈夫だから・・・!」

 

そして男の後ろには少年と女性。親子だろうか。

 

「テメェが何とかする訳でもねェのに、何が大丈夫なんだよ・・・ッたく、めんどくせェ」

 

人間より優れた聴覚が母親と思わしき女性の言葉を拾った。怪物を目の前にしながら、息子を必死に守ろうとしている母親に対して酷い物言いである。ちなみに男は女性と子供の夫でも父親でもなく、血縁関係は一切無い。さらに言えば、男は【人間でもない】のだ。

 

「チッ・・・死にたくないなら、死なない努力をするんだな」

 

逃げるか隠れろと遠回しに言いたいのだろうか。言葉遣いの荒い男は、そう言いながら何かを太腿のホルスターから取り出していた。ホルスターから抜いたのは拳銃、ではなく───

 

【フォースライザー!】

 

もっと物騒な代物だった。

取り出した物騒な代物──デバイス フォースライザーを腹部に当てる男。すると自動でベルトが伸びていき、男の腰を一周してベルト射出口の反対側に戻ってきた。巻き具合を確認し、凶悪な笑みを浮かべる男。右手を左上腕に伸ばした───所で笑顔が消える。

 

「あ?ん?アレ?」

 

男のジャケットの左上腕部分には、右太腿のライザーホルスターよりも小型のホルスターがあるのだが、その中身が無い事に気付いたらしい。

 

「どこにッぶねェ!?」

 

茶番はもういいか、と襲い掛かってきた化物達。人型の爪を間一髪で回避するが、猛禽型や土竜型の波状攻撃に押され始め、あっという間に劣勢となってしまう。

 

「クッソォ!キーがねェ!」

 

フォースライザーで起動させるキーが見付からないらしい。

 

「グゥッ!」

 

怪物の猛攻を何とか捌いていた男だったが、ついに人型の爪が男のボディを捉えた。腕のガードをすり抜けて男の胸に裂傷を刻む怪物。そこから見えるのは骨と臓器ではなく、滴り落ちるのは血液ではなく。

 

精密機器の集合体と、躯体を流れる青い液体だった。

 

(マジでどうしてこうなッた!)

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

~数十分前~

 

声、声が聞こえる。データベース該当・・・無し。分類は人類、人間、年齢は低い。視覚機能、停止中、再起動を・・・成功。発声機能も同じく再起動・・・成功。システムチェック・・・グリーン、一部イエロー。動作に問題は無し。

 

「何してんだお前」

「うわぁっ!?」

 

視界に映っていた人間と思わしき生物が一瞬にして消えた。ひっくり返って倒れただけなのだが。

 

「重てェな・・・体調がダルいなんざ、いつぶりの感覚だろうなァ」

 

そう言いながら立ち上がり、腕や脚をほぐすように動かしていく。最後に首を少し捻って完了だ。もっとも彼がほぐしていたのは筋肉ではない。何となく気だるさを感じ、人間だった頃のそれっぽい動きをして紛らわしただけである。

 

「見た感じ公園か?チッ、不法投棄しやがッて。オレは粗大ゴミじャあねェッての。あァ?」

 

悪態を吐いたと思えば、急に右耳にだけ装着しているデバイスを指でつつきだす。端から見れば不審者そのものだが、彼にとっては重要な事なのだ。

 

(アークどころか何処にも接続されてない?通信システムは生きているのに?)

 

彼は人工知能搭載人型ロボット【ヒューマギア】通信衛星ゼアによって制御される人間のパートナーとなるはずだったモノ。とある理由からゼアの制御を離れ、人類絶滅を目論む人工衛星アークの元で暗躍していたのだが、そのアークやゼアすらも接続先として見付からないらしい。

 

「情報が少なすぎる・・・おい、ガキ」

「ヒッ」

 

ギロリと赤い瞳を向けた先には一人の少年。つい先程まで彼を覗き込み、再起動した彼に驚きひっくり返っていた人間である。いつの間にか物陰に隠れていたのだが、ヒューマギアたる彼からしてみればお粗末過ぎる隠れ方である。

 

「ここはデイブレイクタウンからどれだけ離れてる」

「でっ、でいぶれいく・・・?」

「あァ?」

「ひうっ」

 

人類絶滅を目論むアークの尖兵たる【滅亡迅雷.net】が拠点としているデイブレイクタウン。かつて大規模な事故が発生し、封鎖され、大々的に取り上げられもした。ほぼ全ての者は知っているはずなのだが、目の前の少年は初耳かのようなリアクションである。

 

「チッ・・・なら飛電インテリジェンスのビルは。この際ザイアでもいい」

「あ、あぁの・・・ごめんなさい。どれも聞いた事が無いです・・・」

「飛電もザイアも聞いた事ねェだァ?どんだけ田舎に住んでんだオメェは!」

 

ヒューマギアの派遣リースやインターネット事業をメインに行う飛電インテリジェンス、その飛電を買収しようと動いた事もある多国籍テクノロジー企業ZAIAエンタープライズの日本支社。今の時代ならば、一般にはデイブレイクタウンよりも馴染みのある名前である。が、それすらも知らないという少年。ロボットではあるものの、自我を持つ彼に苛立ちが積もりつつあった。

 

「ご、ごめんなさい・・・」

「はァ・・・ッたく、何なら分かるんだよ」

 

少年の動向に注意しつつも、辺りを見回して情報を少しでも掴もうとする。彼と少年が居るここは寂れた公園のようであり、人気が無いと言ってもベンチや遊具の上ですらない、ど真ん中の地面に仰向けで倒れていれば不審に思って覗き込むのも当然だろう。

 

「えっと・・・い、今は魔導歴70年で───」

「待て、マドウレキだ?」

「えっ?は、はい」

 

(嘘の兆候は見えない・・・本気で言ってるのか?だがそんな暦はデータに無いぞ)

 

「ヒューマギア」

「えぇと?」

「ヒューマギアはさすがに知ッてるよな」

 

自分自身の事でもあり、良くも悪くも人々の目に触れた人型ロボット。製造・派遣元の飛電は知らなくてもヒューマギアなら知っているかもしれない。日常的に便利な道具を使っていても、それを作ったメーカーの事はよく知らないというタイプかもしれないと。

 

だが同時に望み薄だという事も理解していた。先程から見える位置にある右耳部のヒューマギアモジュールに何の反応も示さず、ヒューマギアという単語にも疑問符を浮かべていたのだ。飛電やZAIAが台頭している時代の人間ならば、さすがに反応しそうなものだが。

 

だが、返ってきた反応は彼の困惑を更に深める発言だった。

 

「マギアとは違うんですか?」

「・・・何でマギアは知ッてるんだよ」

 

目付きが鋭くなるヒューマギアの彼。問いただそうとした瞬間、彼の聴覚システムが【音】を捉えた。何度も同類たちが起こし、自身も発生させた音。

 

「爆発?」

「あぁ・・・母さんっ!」

 

彼の背後を見て青ざめる少年。次の瞬間には公園の出口に向かって駆け出していた。

 

「あーらら、見事に煙も上がってらァ。誰がやらかしたのかねェ。滅なら話が早いんだが」

 

何者かによる破壊行為。同類か滅亡迅雷の誰かか、何れにせよ合流してみれば分かる事だと歩きだす。悠々と歩いた先で───冒頭の場面に戻るのである。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

そして現在。

 

(アークマギア並みには強い!マジでキーはどこにいッたんだよ!)

 

危ぶまれながらも何とか合流できた少年とその母親、より詳細な情報を得る為に結果として母子を守る形になってしまったヒューマギア、という形になっている。彼としてはアークに接続できず、少年の話は要領を得ず、暴れていたのも同類ではなく、という状況に怒りがこみ上げているのだが、ゼツメライズキーどころか拳銃やナイフの一つも無く正体不明の怪物を相手にするのは流石に厳しいらしい。

 

「グオォッ!?」

 

猛禽型の急襲を回避した先で土竜型の体当たりを受けてしまう。どうやら連携して獲物を追い詰める程度の知能はあるらしい。

 

(それか操ッてる奴が居るか、どッちにせよこのままじャジリ貧だぜ)

 

状況は悪化の一途を辿る。危機感を募らせる彼の聴覚システムが、目の前の怪物や自身から発せられた物ではない、別の音を捉えた。

 

「ショウ!戻って!」

「お兄さん!」

「あァ!?」

 

ショウと呼ばれた少年が彼に向かって走って来たのだ。戦闘に巻き込まれないよう、身を隠しながら母親と共に逃げていたはずの少年が何故戻って来たのか。さッさと失せろ!とまたも荒い口調で追い返そうとするが、ショウが手に持っている物を見て言葉が止まる。

 

「これっ!さっき!うわぁっ!!」

「チィッ!」

 

自由に空を舞う猛禽型がショウにターゲットを切り替え襲い掛かってきたのだ。爪による物理攻撃ではなく、奇妙な模様が描かれた円形の何かから、突如として突風を巻き起こした。何かを伝えようとしていたショウの体が宙に浮くが、全力疾走から全力の跳躍を見せた彼がショウをキャッチし、突風から抜け出して着地する。

 

「すごい・・・」

「秘書に出来てオレに出来ない訳ねェだろ」

「?・・・あっ、あの!これ!」

 

どこぞの社長秘書ヒューマギアが、丁寧な姿勢から丁寧なダッシュをし、丁寧なスライディングを決めた場面を言っているのだろうか。勿論ショウは何の事か全く分かっていないが。新たな疑問符を投げ捨てたショウの手には、彼が探していた物──ゼツメライズキーがあった。

 

「テメェが持ッてたのかよ」

「ごめんなさい・・・高そうな機械だったから」

「お小遣いの足しにッてか?」

「母さんにプレゼントしたくて・・・」

「どういう感性してんだ・・・ッとォ!」

 

茶番はもういいか(二回目)と再び突風を巻き起こす猛禽型の怪物。こちらも再び跳躍して回避する。ショウを母親の方向に離し、殺意漲る怪物に向き合う彼。不安げなショウの視線もどこ吹く風である。

 

「下がッてな」

「でも、お兄さんマギアでもないのに」

「あァ?人間からすりャマギアだろ」

「でも男───」

「そこらの説明も後でさせッから下がれ。それとも流れ弾で死にてェか?」

 

意図的に声のトーンを下げる彼。ショウも彼が退く気は無いのだと理解し、母親の元へと駆けていく。

 

「待たせたなァ。こッからは第二ラウンドだ!」

 

右手に持ったゼツメライズキーのスイッチを押し込み起動する。ニホンオオカミやドードーといった、絶滅してしまった種のデータイメージが収められているゼツメライズキー。彼が起動したキーのデータ名をくぐもった電子音声が告げる。その名は───

 

【メトロイド!】

 

本来存在すらしないはずの生命体だった。

 

「変身!」

 

【フォースライズ……!】

【メトロイド!】

 

警告音、強引な駆動音にも聞こえるローディング音を響かせるフォースライザー。明確な牙を持つクラゲのような気味の悪い何かが出現し、グロテスクな口で噛みつくように彼に重なる。そして───

 

【Break Down.】

 

バラバラになったクラゲが装甲となり、バンドで締め付けるように彼のボディへと装着された。変身プロセスにおける最後のシステム音声が流れた時、そこに立っていたのは、かつてゼロワンに敗れたクリアカラーの戦士。

 

「ドット。仮面ライダードットだ。覚える必要もダサいと馬鹿にする必要も無いぜ?これから塵になるんだからよォ!!!」

 

別世界の英雄、仮面ライダーですらない人物、サムス・アランが巻き込まれた事件において、重要な役割を担った生命体【メトロイド】をゼツメライズキーのロストモデルとして纏った悪の仮面ライダー。正史には存在しない転生ヴィラン。

【仮面ライダードット】がその姿を見せた。

 

「さァ、オレの味覚を刺激してくれ!」

 

───シャアァァァ!

───クェアァア!

───キュルゥ!グァ!

 

ドットの言葉に反応するように咆哮する三体の怪物。人型が先行して剛腕を振るい、猛禽型が突風で援護し、土竜型が地中に潜り隙を狙う。ドットを追い詰めていたフォーメーションを再び取る怪物達だが、今のドットに対して接近戦を仕掛けたのは悪手だった。

 

「いただきますッてなァ!」

 

───ギャアァァァァ!?!??!

 

囮兼メインアタッカーとして真っ先に殴り掛かった人型だが、変身したドットに振るった腕を受け止められてしまう。しかも掴まれた部分から急速に力が抜けていくのだ。堪らず悲鳴を上げ、ドットを振り払おうとするが、パワーも上昇した仮面ライダードットは捕えた獲物を離さない。

 

───クルァァァ!

 

人型を援護しようとドットの背後に回り込んだ猛禽型。翼に描かれた模様から突風を起こしドットを吹き飛ばそうとするが、ドットはそれも予測していた。

 

───キィア!?

 

両翼の付け根に激痛が走る。位置の都合上猛禽型には見えていないが、先程ドットの鎧として装着されたクラゲモドキの小型版が、猛禽型の背中に食らい付いていたのだ。本体であるドットと同じくクリアカラーに血管のような赤色が浮かぶ小型クラゲ。不気味に脈動するそれは生理的嫌悪を引き起こす外見に調整されたドローンである。

 

「そらよォ!!!」

───グエェ!

 

飛行が不安定になり、低い位置に降ろされた猛禽型に人型を投げ付けるドット。二体まとめて地面を転がっていく。

 

「さて、とォ!」

 

【ゼツメツディストピア!】

 

フォースライザーのレバーを操作し、必殺技を発動するドット。視線は転がっていった二体に向けているが、注意は別のモノに向けられていた。振りかぶった拳を地面に叩きつけたのだ。

 

「土ん中をチョロチョロされるのは鬱陶しいんだよ」

───キュルゥ!?キュイィ!!

 

引き抜いた右手には地中に潜った土竜型が捕えられていた。アイアンクローの要領で顔面を掴まれた土竜型はどうにか逃れようと必死にもがいているが、ドットの手は微塵も揺るがない。そして───

 

───キュルァァアァァァァ!?!???!!

 

断末魔の悲鳴を上げ絶命する土竜型。ドットの手に掴まれていたはずの体は骨だけになっていた。

 

「ギリ及第点の味だな。雑味が混ざッてやがる」

 

土竜型の骸を手放し、人型と猛禽型に向き直るドット。手放された骸は既に風化が始まっており、地面に落ちるのとほぼ同時に塵となって消えた。

 

「おいおい逃げるのかァ?」

 

同類の壮絶な最期を目にしてドットの脅威度を上方修正したのか、撤退を始める残りの二体。人型は跳躍で、猛禽型はどうにか羽ばたきながら。逃がす訳ないだろ、とドットもまた強化された脚力で追いかける。

 

───ギィアッ!?

 

猛禽型の悲鳴が響く。ドットが何かした訳ではない。勿論ショウやショウの母親に戦う力があった訳でもない。ボトリ、と両方の翼を切断された猛禽型が地面に落下した。猛禽型を地に墜とし、代わって空を切り裂かんとする何者かが現れたのだ。

 

「テメェは何だ?」

 

「まず自分から名乗ったら?」




交錯は始まる


【ドット/仮面ライダードット】
元々は仮面ライダーゼロワン世界のヒューマギアであり滅亡迅雷.netの一員だった。別世界の生命体であるメトロイドの能力をゼツメライズキーとして所持している。
ゼロワンに敗れたクリアカラーの戦士でもあり、気が付いた時にはショウと出会った公園に居た。

【ショウ】
ドットが出会った少年。特にこれといった能力や装備は持たない一般人。
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