私の初陣? そうね、覚えているのは前の日まで『お姉さま』と慕っていた肉片をバケツに集めたこと。中等部に入学したばかりの女の子でもリリィはリリィだったから。
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「整列」の号令……背の順に並ぶと私が一番小さい。教導官が歩いてきて私に近づくと言うのよ。「こりゃまたなんておちびさん! あなたなんかに何ができるの? お母さんのところに帰ってもう少し育ってから来たらどうなの?」なんて。でもお母さんはそのとき既に亡くなっていた。ヒュージの襲撃から私をかばって。目の前で。
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人生で何度目かの身体検査でスキラー数値が50を超えたときは嬉しかった。すぐにガーデンの願書を取り寄せる手続きをしたの。何日かして届いた願書を見て母が悲しそうな顔をしたこともよく覚えているわ。
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一番大変だったのは警報で飛び起きて5分で支度を終えること。服を整える時間を節約するために、一回り大きなサイズで制服を注文した。服を頭からかぶって靴を履き、5分以内に整列する。ベルトや紐で調節する時間すらなくて、ぶかぶかのまま駆けつけることもあった。CHARMを服に引っかけて自分を切りつけそうになった子もいた。教導官が気づいて叱って、素早く身支度するコツを教えてくれた。服と格闘している私たちのそばに立ってがなり立てるの。「お前たちをリリィに仕上げるにはどうしたらいいんだ、このままじゃ単なるヒュージの餌だ」
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ガーデンへ出発する列車で見送りに来た母と別れました。厳格な母でいつも叱られてばかり。何かよいこと……人助けだとか……をしても優しく微笑むだけの母。でもそのときだけは違いました。改札をくぐってからずっと、私を抱きしめて離しませんでした。最後にじっと私の目をのぞき込んで言った言葉。「必ず生きて帰ってきなさい」と。そのことが忘れられなくて初めての長期休暇の時には飛んで帰りました。
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初めての実戦で同級生が4人亡くなりました。並んだ棺を目にしてみんなが泣きました。ひと学年、3クラス全員が。そんな私たちに教導官が演説しました。
「涙を拭きなさい。最初の犠牲者です。犠牲者はもっと出ます。気をしっかり持って……」
その後は、泣かないで埋葬しました。泣かなくなりました。
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今では想像もつかないかもしれないけど私も昔は一流のリリィとしてならしていたの。ええ。この右足を失うまでは。リジェネレーターの付与手術を受ければ足を取り戻せると分かってはいたのだけれど……、どうしてもダメだったわ。
私が右足をなくした戦いで最後まで立っていた彼女もリジェネレーター持ちだった。市民の避難のために時間を稼ぐことが必要で、後退を許されなかった私たちのレギオンは一人、二人、と負傷して戦えなくなっていった。私もかなり粘ったのだけど瓦礫の中に潜んでいたヒュージに不意を突かれてしまって。気づいたときには膝から下がなくなっていたわ。
たった一人になった彼女はリジェネレーターで負傷を回復しながらひたすらヒュージを引きつけていたの。右腕を切り飛ばされれば左腕にチャームを持って、腕が生えてくるまでの隙を最小限に。足を熱線で焼かれれば炭化したところを自分で切り飛ばして再生させる。そんな滅茶苦茶な戦い方をしていたわ。そう、あれはきっと私たちを守るため。人一倍優しい子だった私のシルト。
私たちは瓦礫の陰から援護射撃をすることしかできなかった。レギオンのメンバーも皆、呼びかけていたわ。「もういい、撤退しよう」って。リジェネレーターがあるからといって痛みを感じないはずがないのに。あんな戦い方をしていては生き延びたとしてもどんな後遺症があるか分からない。そう思ってみんなあの子を止めたかった。そうです。分かっています。あのとき彼女が戦うのをやめて撤退を選んでいたら、私たちの生還はおろか避難中の市民にも大きな被害が出たでしょう。それでも止めたかったんです。仲間があんな異形になってまで私たちのために戦うなんて耐えられなかった。
無理矢理使い続けたリジェネレーターがどこかで狂ったのでしょう。いつの間にか彼女の腕が一本増えていたんです。胴体を両断された後は脚が4本になっていました。彼女はそれでも戦い続けて。もう私たちはそれを見ていることしかできなかった……。
ヒュージの熱線があの子の頭を消滅させたときは悲しみよりも安堵が勝りました。やっと解放された、これであの子はもう戦わなくてもいいんだ、って。でも、あの呪われた強化スキルはそんなことでは彼女を解放してはくれなかった。首から上がなくなった体が倒れそうになった瞬間、足を一歩踏み出して踏みとどまったんです。あっという間に頭が生えてきて……。
あの子の元気だった時の写真をいつも持ち歩いています。ロケットにいれて、いつでも見返すことができるように。そうでもしないとあの子との思い出が全てあの姿に置き換わってしまうような気がして。
あんな姿になってまで私たちを守ってくれた彼女に与えられたのはノインヴェルトの魔法球でした。救出部隊のレギオンが有無を言わさず叩き込んだんです。今でも分かりません。あの子にとってそれは味方の裏切りだったのか……、それとも救いになったのか……。