「出発」という号令とともに、車列が隊伍を組んで進んでいった。廃墟の中で待ち受けているのは何か、皆よく分かっていた。
IEDタイプも時間が経つにつれ、どんどんと派生種が現れ始めていました。自走爆雷よろしく猛スピードで接近してきては自爆してくるタイプ。地面の下に隠れ潜む地雷タイプ。攻撃力を高める方向に行った種類の中には、単純に爆発力を高めただけではなく、EFP(Explosively formed penetrator:自己鍛造弾)を大量に射出するようなものまでいました。
リリィはHUGEに対して常に莫大な淘汰圧をかけていました。そしてHUGEの増殖速度は極めて早い。過激な説では、一年間で三十世代を数えるショウジョウバエよりもさらに、世代交代のサイクルが早いとも言われます。
対HUGE戦争初期に見られたような、マギのみを摂食するタイプのHUGEが減少していったのも、その適応性の高さによるものです。当時のHUGEは、マギのみを栄養源とすることから、マギ保有者――リリィ以外の存在も含みます――のみを狙い、そして肉体的には何ら傷つけることなく摂食行動を行っていました。その過程で事故のようにマギ保有者が死傷することはありましたが、少なくとも「食べるために殺す」ということはありませんでした。
しかしながら、対HUGE戦争中期頃から出現し始めたHUGEは、明らかに肉食性を獲得していました。マギ保有者の絶対数は少なく、まだまだ地球上のマギ濃度も低かった頃の話です。爆発的に増殖するHUGEたちが、マギのみで増殖することによる限界を感じていたかは定かではありませんが、利用できる資源は多い方が繁栄には有利だという証拠でしょう。
マギに比べて効率に劣る肉食ですが、資源量だけを言うのであれば莫大な量がありました。なんと言ってもマギ保有者に比べて非マギ保有者は圧倒的大多数ですし、そのあたりの獣だっていいのですから。運良くマギ保有者を捕食することができれば、マギの利用も可能であるという保険までかかっています。
そのため、比較的少ないエネルギーで体を維持することのできる小型種は、いち早く肉食に適応していきました。その適応による回答の一つが、自爆するHUGEでした。
マギを吸い取るためには対象が生存しているか、少なくとも絶命直後である必要がありますが、肉食であればそのような配慮は一切不要です。むしろ下手に逃げ出さない分、行動を阻害し続けるために必要なエネルギーも最小限でよく、この点でも効率的でした。その効率を自然選択――リリィによる淘汰圧を自然選択と呼ぶのかは議論があるところです――によってさらに先鋭化していった果てが、最初に言ったような、凶悪なHUGEたちでした。
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一番腹立たしいのは、IEDタイプを製造するコストは、ネストにとってほんの僅かなリソースを割くだけだということ。
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誰がなんと言おうと、自走するIEDタイプを生み出したのは防衛軍の奴らだって主張を続けるよ。「リリィ以外のマギ的攻撃手段」なんて言って、自走自律マギ爆弾なんてふざけた名前の特攻兵器を投入したせいさ。HUGEどもに、当たる距離まで走って近付けばいい、って発想を教えたのは絶対にあの兵器だ。防衛軍が実戦投入を始めてしばらくしてから自走タイプが出現した事実も、このことを補強してる。
ほどよく遺伝子を弄ればヒトではないから人権問題にはならない、なんて反吐が出る。命をなんだと思っているんだ。
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私は今でも朝食にオレンジジュースは飲まない。たまたまオレンジジュースを飲んで出撃した日に友人が吹き飛ばされて粉々になったから。
歩き出すときは必ず右足から前に出す。左足から歩き始めて、地雷型に引っかかって死んだリリィを知っているから。
車に乗るときは片足をもう片方の足の上に載せる。爆発したとき、もしかしたら片足だけでも残るかもしれないから。
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不意打ちの爆発から逃れるには防御力を高めるしかありません。LAC(Lily's Aromored Cavalier :リリィの運用する人型機動兵器)を使用できれば一番なのですが、いかにガーデンの予算が潤沢といえども人数分のLACはさすがにコストがかかりすぎるので、搭乗できるのは持ち回りです。残りのメンバーは防衛軍払い下げのAPC(Armored Personnel Carrier:装甲兵員輸送車)か、運がよければIFV(Infantry Fighting Vehicle:歩兵戦闘車)に乗って、接敵まで自分が吹き飛ばされないようにひたすら祈っていました。
ギガント級の一撃にも耐えうるLACであれば、至近距離から自爆攻撃を受けても生き残ることは簡単です。でも、非魔導装甲しか持たないAPCやIFVでは、確率の慈悲に
しかし、ただでさえ居住性に重きを置いていない狭く暑苦しい車内で、さらに通気性の悪いバトルクロスを纏っているのは並大抵のことではありません。訓練で初めて乗ったときには、牢屋だってこれほどつらい思いはするまいと考えたものです。暑い時期でしたから、リリィがすし詰めになった車内は人いきれで極端に湿度が高く、リリィの搭乗を想定していない冷房は効いているのかいないのかも分からないようなありさまでした。おかげで降車したときには全身汗だくのびしょ濡れになっていて、とても見られた姿ではありませんでした。
リリィといえば、戦場を華麗に駆け抜け、縦横無尽に機動する花形の兵科であるはずだったのに、今の私たちはどうしたことだ、狭苦しい棺桶に押し込められてノロノロと移動している。なぜリリィたる私たちがこんな訓練にいそしまなくてはならないのか。素直にランニングでもしていた方が訓練になるのではないか、と同級生たちと不満をたっぷりとこぼしあいました。
当然、新入生の内心など教導官にはお見通しです。シャワーを浴びるまもなく、そのまま座学で見せられた動画は意識を変えるのに十分なものでした。
画面に映った女性は、それは悲惨なありさまでした。ベッドの上に座った姿勢で画面に映っていましたが、顔の半分を火傷の痕が覆っており、着ているパジャマの裾は右腕を除いてその途中で膨らみを失っています。
バトルクロスを着けなかった私たちかもしれない。教導官に言われるまでもなくそのことを理解しました。
「運が悪ければ、たった一発の爆発で発射されたEFPが車内を暴れ回り、中にいたリリィが挽肉に変えられてしまうことだってありました。HUGEが爆発して、体表の皮膚装甲板がその勢いで四方八方に飛び散ります。一部の装甲板は凹型をしていて、爆発のエネルギーを効率的に受け止めるようになっています。この特別な形の装甲板は、爆発によって弾丸の形に変形され、あらゆる物を貫通していく弾丸になります。車体を貫通した弾丸は、二人のリリィを一瞬で貫きました。彼女たちには何が起こったかを理解する時間もなかったでしょう。二人を殺したそれは、勢いをまったく衰えさせることなく突き進みました。さらに一人の両腿と左手を切断し、最後の一人の胸に風穴を開けて、そこでようやく止まりました。たった一発の爆発。たった一発のEFPが、3人もあの世へ送り込んだんです。一番被害が大きくなる場所を正確になぞったかのようでした」
そんな話を聞いた後は、それまでとは打って変わってバトルクロスの着用について考えるようになりました。理不尽に直面させ、疑問に思ったところで訓練の意義を提示し、理解させる。さすがに毎年毎年リリィを育てているだけあって洗練された手腕でした。
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バトルクロスを装着することで変わる確率はせいぜいが数パーセント程度ですから、頑なに着用しないリリィもいました。「そんなもの着ていたら咄嗟に逃げ出せないじゃない」確かに、車両火災から逃げ遅れることもよくある悲劇です。視界を狭めるヘルメットで、HUGEに気付かずやられることも。そもそもが防御結界よりも防護性能が劣るバトルクロスに、どこまで信を置くかはリリィの判断に任せられていました。紙切れ一枚だってないよりはいい、と着用するのか。移動中の直撃は運がなかったと諦めて、戦闘中の機動性を高めるために自分の防御結界だけを信じるのか。
自分が本当に正しいと判断した道を行くしかありません。