彼女たちの対ヒュージ戦争   作:Hakaristi

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私は炭鉱のカナリアだった

 

 爆発……。あとからあとからヒュージの熱線が飛んでくる。誰も彼もが走り出して、私も釣られて走り出そうとする……。でもそのとき気が付きました。私が肩にチャームを掛けていること、私がリリィであること。そのことが……恥ずかしくなりました。恐怖は消えて、駆け出しました。ヒュージの注意を引くために大声を出して、逃げる人に声を掛けて。あっちにもこっちにもヒュージがいました。訓練で振るったことがあるだけのチャームを振り回して、ヒュージを殴って回りました。無我夢中で……。

 

 ケイブが破壊されるまでどのくらいの時間がかかったかは覚えていません。一瞬だったようにも感じますし、3日も戦っていたような気もします。朝になって、亡くなった人の姿が見えるようになると、みんな手を伸ばして倒れていました。まるで何かに縋るように……。

 

 

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 陥落指定地域の奪還作戦の時には気分が浮ついたものさ。長らく人の手の入っていない自然を全身で感じられるんだ。うちのレギオンのお嬢様には嫌がるヤツもいたけどアタシは野営だって苦にならなかった。でも、ものを知らないってのは怖いね。都会育ちのお嬢様がその辺で採ってきた野草を鍋に入れようとするんだ。慌てて止めたよ。よく分からないものをいれるんじゃないって。腹を下して用を足している間に襲われて、クソまみれで死ぬなんてまっぴらごめんだった。

 

 

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 私は空挺部隊に所属していました。各ガーデンが精鋭を出し合って設立されたものです。そんな空挺リリィの任務でも一番多くて、一番恐れられて、でも一番志願者が多かったのが戦闘捜索救難です。戦闘捜索救難の仕事は、孤立して、作戦行動がとれなくなってしまったリリィを回収すること。一般のリリィが市民のために戦うとすれば、その任務の間の私たちはリリィのためのリリィでした。

 

 ガンシップを強行着陸させることができれば幸運です。周囲のヒュージだけを討伐して、遭難したリリィを拾って帰ればそれで任務がおしまいなのですから。でもそんな場面はほとんどありません。大抵は発信器の反応に向かって落下傘での強襲降下です。

 

 ガンシップで地上からの攻撃が届かない高度を飛んでいって、そこから飛び降りるんです。地上のヒュージに気づかれれば大量の熱線が飛んできます。無防備な空中の滞在時間を減らすために、パラシュートの開傘高度は50メートル以下が推奨されていました。笑ってしまいますよね。いくらリリィだからといってそんな無茶な設定がされるなんて。

 

 リリィの使う空挺傘の中でも強襲降下仕様ものは恐ろしく尖った設定でした。何しろパラシュートを開く動作から着地まで1秒もないわけですから。開傘時間を早めるために火薬式の開傘促進装置が取り付けてあったり、最小の面積で最大の抵抗を生み出すために他に見ないくらいのマギコーティングがなされた布を使うんです。タイミングを誤るとそのまま地面と仲良くなってしまいますから、隊のリリィは皆、縮地系のレアスキルを保持していました。

 

 それでも着地の衝撃はその辺のビルの屋上から飛び降りるのと同じくらいのものになります。リリィの身体能力でもあれはかなり応えました。仲間内では、いつか開発者と採用を決めた人間にこれを装備させてガンシップから突き落としてやる、というのが定番の冗談になったほどです。

 

 着地を無事に終えて、周囲のヒュージを掃討してから発信器の出所を探りますが、リリィにしろ、一般市民にしろ、誰かを救助できればそこからが本番でした。行きにガンシップでひとっ飛びだった距離を、負傷者を担いでヒュージから隠れながら歩いて戻らなければいけないのです。せっかく拾い上げた命が帰路でこぼれ落ちていくのを見送らなければならなかったことが何度あったか……。

 

 悪いことばかりでもありませんでした。お給料は危険手当が付いて普通のリリィよりもだいぶよかったですし、何よりも救助したリリィと仲良しになれるのですから。何人かとは今も連絡を取り合っています。

 

 

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 私たちが所属していたガーデンは無名もいいところの、地方によくある弱小ガーデン。全校生徒はたったの100人で、ガーデンが保有するチャームも全部で70本しかないような小規模ガーデン。私たちはよく自虐して笑い合ったものよ。『チャームは2人で1本! 前のリリィが倒れたら後ろのリリィがチャームを拾ってヒュージを倒す!』って。

 

 スモール級はまず倒せるけれど、ミドル級となると少し苦戦。ラージ級に至っては、討伐したら1週間はその話題で持ちきりになるようなところだった。そんな弱小ガーデンにできることといったら周囲の哨戒と紛れ込んできた小型種を討伐するくらいがせいぜいで。ガーデン全体に、強敵を倒すのは国定守備範囲を持つような強いガーデンの仕事だ、という空気があったわ。

 

 私はそんな空気を変えたくてがむしゃらに頑張っていたの。真面目に哨戒をこなして、はぐれヒュージを狩る。授業だけでなく自主訓練をたっぷりやる。同級生にも呼びかけて皆で励んで。

 

 私がリリィをやめるきっかけになったのは、あるギガント級との戦いだったわ。いつも通りにケイブ警報が鳴って、いつも通りにケイブに駆けつけると、一度も見たこともない景色が広がっていてね。

 

 見たこともないくらい巨大なケイブから出てきたのは見上げるほど大きなヒュージ。私たちのような弱小ガーデンにはケイブの大きさの情報なんて回ってこなかった。だから私たちはいつもの5人編制のレギオンでギガント級を何とかする羽目になったわ。ノインヴェルト戦術がなければ撃破なんてできないけれど、私たちはノインヴェルト戦術用の特殊弾なんて見たこともなかった。応援を要請しても、司令部も慌てていたみたいで時間を稼げとしか言わなかったわ。

 

 もちろん、ガーデンの基本方針に沿ってそうするつもりだった。国定守備範囲のガーデンが討伐レギオンを送ってくるまで引きつけることに成功すれば、それだけ市民の避難も容易になる。あわよくばダメージを与えておいて討伐レギオンを手助けできるかもしれない、なんて浮かれて考えていた。

 

 そんな甘い考えはすぐに吹き散らされたわ。距離をとって射撃を撃ち込んでも硬い装甲に弾かれる。近距離から切り込もうとすればその長い腕をかいくぐらなければいけない。ギガント級が腕を一振りするだけでこちらは2人、3人とダメージを負っていった。それでも気を引くために攻撃を続けるの。

 

 ギガント級の気を引くのに精一杯でケイブの破壊にはとても手が回っていなかったから、状況は悪化するばかりだった。ラージ級やミドル級がわらわらと湧き出てきて、ギガント級の周りにいるうるさい羽虫のような私たちを攻撃しはじめるの。同じガーデンに所属するレギオンが応援に駆けつけてくれたけど、焼け石に水だった。ラージ級たちの攻撃を引き受けてくれても、肝心の私たちが結局ギガント級に蹴散らされてしまう。ギガント級は少しずつ市街地へ近づいていた。私たちは足止めの役割すら満足に果たせていなかった。せいぜいが進行を遅らせる程度。

 

 ギガント級の攻撃を受けてレギオンのメンバーが1人、また1人と戦闘不能になっていったわ。集まってきた援軍のレギオンも、ギガント級の前では水に濡れた紙ほどの抵抗もできていなかった。当然ね。私たちのレギオンは学内でも頭一つ抜けた練度があった。そのレギオンが万全の状態で立ち向かって敵わなかったヒュージを他のレギオンがどうこうできる理由がなかった。

 

 それでもギガント級はチクチク刺してくる羽虫をうっとうしいと思ったのでしょう。突然大暴れしはじめたの。あっという間にその場にいたリリィは皆、瀕死の重傷を負っていたわ。私も両足の骨が折れて、強く頭を打ち付けて意識が朦朧としていた。痛みと衝撃でぼんやりする頭で、『私はここで死ぬんだろうな』と思ったわ。

 

 私の死を遠ざけてくれたのは空から降りてきたリリィだったの。私たちがあれほど必死に立ち向かって敵わなくて、死にかけてまで引き留めていたヒュージをこともなげに倒してしまったわ。まるでちり紙を引き裂くような塩梅で。

 

 私の努力は一体何だったんでしょうね。何かが足りなかったのか、自分で努力していると思い込んでいただけで何も足りていなかったのか……。結局、私たちに求められていた役割は、よく言って戦場の鳴子。悪く言えば炭鉱のカナリアだった。最初に一鳴きして危機を知らせればそれで仕事はおしまい。

 

 次の日、病院のベッドの上で退学届を書いたわ。私には耐えられなかった……。

 

 

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