彼女たちの対ヒュージ戦争   作:Hakaristi

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最高の写真

 年に一度、写真を撮りました。授業は一日休み。精一杯のおめかしをして撮影に挑むので名簿番号の若い子なんかは夜明け前から起き出して準備をします。ガーデンの呼んだ美容師さんにヘアスタイルもメイクもばっちり決めてもらって、おろしたてで糊のきいた制服に身を包んでニッコリ微笑みました。歯を見せて笑った顔を撮ってもらう子、証明写真に使えそうな真面目な顔で撮ってもらう子、ピースくらいまでなら許されていたから少しだけポーズをとる子。

 みんな自分が一番輝いてると思えるような写真を撮ってもらっていました。いつかこの写真を使う日、ヒュージにグチャグチャにされた自分ではなくて、一番キラキラしていた自分を思い出してもらえるように。

 

 遺影を撮影する待ち時間は、遺書をしたためる時間として割り振られていました。寮室の机の引き出しにしまっておくような個人的なものではなくて、私たちが戦死した後に家族もしくは指定した受取人の元へガーデンから送られるものです。何種類かあるテンプレートの個人名部分だけ埋めて済ませる子、親しい友人たちと雑談しながら内容を決める子、人気のない場所で一人静かに書き上げる子。「私には送る相手がいないから」なんて(うそぶ)いて堂々とサボろうとしていた子は教導官に叱られて、友人宛てに書き上げていました。

 

 個人差はありましたが、傾向はあるもので、学年が上がるほど遺書の長さは長く、その数は少なくなりました。逆に、ガーデンに入学したてのリリィの遺書は大体がテンプレートそのままか、それに二言三言付け加えたもの。私たちが命のやりとりをしていることを、頭ではなく心で理解するにはそのくらいの時間が必要でした。

 

 

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 大抵のリリィは自室の机に遺書を忍ばせていたよ。誰にも教えることはないけれど、皆うっすら知っていた。部屋の荷物を整理する時に見つけて思うんだ。「ああ、やっぱり」って。

 

 机の引き出しにしまってあるのは私的な言伝だから、宛名の人間以外は中身を見てはいけないし、受け取った本人も内容は口外しないというのが暗黙の了解だった。

 

 私も書いていたんだ。死なないためのおまじない。もし読まれたら顔から火が出て死んでしまうようなポエムを、仲間宛の遺書として置いてあった。「ここで死んだらあれを読まれてしまう」なんて思うと、不思議と力が湧いてきて、どんな窮地だって生還できた。

 内容について話題に出すのはタブーだったから当時は分からなかったけれど、遺書を受け取ってみると実際にそんなことをしているリリィは一人もいなかった。

 みんな真面目だった。だから死んでしまったんだ……。

 

 

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 遺影として撮った写真は本人が申請すればガーデン側でいくらでも焼き増ししてもらえました。これを仲の良い子たちの間で交換することが流行ったことがありました。自分が一番輝いている写真です。普段はできないようなお化粧をして、澄まし顔で撮った写真をそれは自慢に思わないわけにはいきません。

 小さく焼いてもらったそれを、お手製のロケットペンダントにいれて贈り合います。皆で交換するものですから、アクセサリーだからといって常に身につけていては首が何本あっても足りません。だから常に身につけているのは一つだけ。一番大切な人をこっそりと選ぶ、そんな儀式でした。

 

 

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 写真を悪用したヤツがいてね。私のことなんだが。リリィの私物ってのは高く売れるんだ。で、町の雑貨屋で買ってきたマグカップとかハンカチなんかをインターネットオークションに出すわけよ。当然ながら同業者もガーデンの数だけ居る。そこで付加価値をつけて差別化するにはどうしたらいいか考えたわけさ。

 写真撮影の後で何も知らない下級生に声をかけるんだ。写真を何枚か焼き増しして分けてくれって。まだ世間ずれしてないリリィはまあ素直なもんでね。説得するだとか、面倒な手間なんてなしに、たっぷりと写真を手に入れられた。

 これを雑貨とセットで売るとまあいい稼ぎになったよ。所属や名前と顔は防衛省の公開しているデータベースに載ってるから、なにも悪いことをしてるわけじゃないよ? 単純に生写真を雑貨のおまけにつけただけさ。とびっきりのいい写真をね。写真のリリィが使っていた雑貨だとは一言も書いてないのに、飛ぶように売れたよ。

 我ながら天才だと思ったね。当時は左団扇で安穏としていたさ。いや、きちんとヒュージの駆除に精を出してはいたよ。

 

 これはもっと規模を拡大したらもっと儲けが増えるぞ、と思って学外の友人に連絡を取ったんだ。

 手を広げすぎたのが良くなかったんだろうね。それからすぐに風紀委員が大挙してレギオン控え室を襲撃してきたんだ。真っ昼間で出品作業の真っ最中だったから言い逃れもできやしない。こっちとしてもかなりグレーなことをやってる自覚はあったから、にっこり笑って言ってやったさ。

「で、どうすれば許してくれるんだい?」

 結局、私に下った処分は率いていたレギオンの解散と大量の反省文付きの懲罰房に一週間だけだった。してやったりってところさ。一週間の休暇にレギオンの隊長業務からの解放が付いてくるようなものだからね。学内の処分だから卒業後の進路にはたいした影響はないんだ。まあ教導官になれなくなるくらいかな。我が悪友殿はレギオンの解散にえらく怒っていたけれど、ガーデンが違うんじゃどうしようもない。

 

 当然ながら無闇と写真をバラまくことに規制がかかってね。残念ながら私の副業はそこでお仕舞いさ。自分の写真だけで商売することも考えなかったわけじゃないけど、やっぱり手間と利益が釣り合わないんだよ。そこそこの規模がないとね。

 

 この孤児院の運営費も、半分はそのときの利益から出ている、って言ったら儲けのデカさが伝わるかな?

 

 

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 死んでしまった友人の遺品を整理する……。私服、アクセサリー、本、文房具、受け取った手紙、出せなかった手紙……。

 

 

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 ガーデンは基本的に全寮制です。長期休暇では実家に帰りますが、滞在することのできる時間はそう長くはありません。肩を並べて戦っていた仲間の家を弔問するのはリリィとしての責務の一つでした。

 かつての学友の実家を訪ねて、棺の灰だけが入った骨壺に手を合わせる。いつの間にかその流れに慣れていました。顔を泣きはらしている家族に向かって言います。

「あなたの娘さんは勇敢にヒュージに立ち向かって多くの人を救いました。私も彼女に助けられたうちの一人です」と。

 

 

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