彼女たちの対ヒュージ戦争   作:Hakaristi

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受け取るもの、支払うもの

 

 HUGE討伐の報奨金? 目安としてスモール級一体で一食、ミドル級一体で二、三日は食べていける。ラージ級を一体倒せば車が買えて、ギガント級なら家が建つ。アルトラ級ならそれこそ宝くじの一等と変わらない。

 

 

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 高給取りに思われがちだけど、リリィってのは個人事業主なんだ。ガーデンと業務委託契約を結んでいるだけで、経費なんかは全部自分持ちさ。専用機を支給されるような一握りの上澄みを除けば、CHARMだってガーデンからの貸与品だ。当然貸出料金を払わなくちゃいけないし、破損なんかさせれば修理代だって払わなくちゃいけない。全損なんてさせたら、当然だけど賠償額は跳ね上がる。それをカバーするために専用のCHARM保険に入るわけだけど、この保険料がまたバカ高いんだ。

 整備費用は工廠科に丸投げすればいいけど、弾薬代は自腹だったよ。どうしてCHARMに前時代的なバカでかいブレードが付いているか気になったことはないか? あれはリリィ側が搭載機能の希望調査の時、いの一番に挙げるからさ。銃撃で楽に始末できるのなんてスモール級ぐらいのもんだけど、スモール級の報奨金なんて雀の涙もいいところだからね。弾の値段を聞いて驚いちゃいけないよ。弾一発はラーメン一杯。狙撃に使うような特殊な弾丸ともなれば二倍三倍は当たり前さ。スモール級一匹に三発も撃てばもう赤字だ。確実に当たる距離まで近づくなら、ブレードモードで叩き切る方が遥かに安く上がるってわけさ。

 ノインヴェルト戦術弾? さすがにあれは国費さ。アルトラ級を始末できるような上澄みは、自腹で予備弾を買ってる、なんて噂もあったけどね。

 

 

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 「ゴールドラッシュで一番儲けたのは金を掘り当てたヤツじゃない。鉱夫にスコップを売りつけたヤツだ」なんて有名なジョーク。リリィが「特定害獣駆除業務従事者」なんて呼ばれて、個人事業主としてHUGEの駆除をしているのも似たような理屈になるのかしらね。

 CHARMの維持費は出撃一時間あたりおよそ百万円といわれているわ。弾薬代なんかも含んでの価格だし、もちろん平均的なものだから、これは機体によって高くも低くもなる。平均値だから、破損させたときの部品代が大きく効いているというのはある。でも目玉が飛び出るほど高いことには変わりはないわ。

 どうしてそんなに価格が高いかというと、CHARMの素材になるマギ含有合金、いわゆるエーデルメタルは製造が難しいの。それこそ重量あたりの価格が金に匹敵するくらい。

 私たちの使っていたCHARMは、第三世代のエーデルメタルが主として使われていたわ。それ以前のエーデルメタルは、金属中の結晶粒界にマギ粒子を偏在させてマギの導通経路を作成し、パーツの表面に刻み込んだ術式でその制御を図るというものだった。でも、第三世代エーデルメタルは、作成時の熱処理に魔導工学を応用することで、結晶粒の配列そのものに術式としての効果を持たせることに成功したの。術式の記述が二次元から三次元になったことで、制御の精密性も消費マギ量も著しい改善があった。でも、微細な結晶粒を意のままに成長させるような処理は、恐ろしく高価な製造機を長時間占有することになる。そんなものに、いくらかの利益率を乗せると、あっという間に材料価格が跳ね上がるというわけ。

 素材を部品にするための加工賃も恐ろしく高いわ。精密に熱処理された部材を、結晶粒の配列を乱さないように慎重な加工が求められる。表面は反応条件が異なるから上手く配列を形成できない、という理由で中心部しか利用できない材料から削り出しを行わなければいけないの。除去体積が大きいからただでさえ加工時間は長いのに、加工熱で結晶構造を歪ませるわけにはいかないから少しずつ加工していくしかない。そしてどうしても加工に失敗する物もでてくる。機械を1ヶ月丸々動かして、やっとできた一個がマギの導通不良で不良品、なんてことも当たり前だった。

 

 そんな調子だから、私たちが購買していたCHARMの部品を個人で買うのは現実的ではなかったわね。

 部品の組み立てや検査にかかる人件費なんてそれらに比べたらタダみたいなものよ。私たちのような工廠科のアーセナルがほとんどの作業を無給でやっていたのだから。

 

 

 

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 専用機は一流のリリィの証、なんていう風潮もあるけれど、アレも一理あるわ。機体自体は無償で支給される事が多い専用機だけれど、普通の稼ぎじゃとても維持なんてできない。まず、メーカーから受け取った時点で所得税がかかる。戦車と同じくらいの値段がするCHARMは、最高税率の45%が課税されるわ。そして税法上、CHARMは償却資産にあたるから、およそ1.4%の固定資産税が毎年かかる。

 維持費は別にして、個人持ちのCHARMは税金だけでこのバカげた金額が飛んでいくの。年に何体もギガント級を倒すことのできるようなリリィでなければとてもじゃないけど払いきれないわ。そんなリリィだって怪我でもしたらお仕舞いよ。払いきれなかった税金のカタに差し押さえられて、あっというまに公売のリストに並んで終わり。

 ほとんどのリリィが、安くない貸出料金を払って、ガーデンからの貸与品を使っているのはそういうわけ。ガーデンの資産なら、税金を支払うのもガーデンだもの。

 

 

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 未成年者を危険な事業に従事させることは、現代でも労働基準法で禁止されているわ。10代の少女を戦場へ送るとなったとき、ここを曲げることはどう考えても無理だった。原則は一部だけ曲げても、法律を曲げずにいるにはこうするしかないの。リリィが保護されないからといって、リリィ以外も保護されなくていい、ということにはならないってことね。だからガーデンは教育機関の身分を纏っているのよ。

 

 ガーデンはあくまで教育を施す場所。周囲にHUGEが出没するので駆除して欲しいが防衛軍は手が足らず時間がかかる。おっと、ここに都合よく特定害獣駆除業務従事者の資格を持つ学生さんがいるじゃないか。ちょうどいい。割のいいバイトをしてみる気はない?

 

 建前上はそういうこと。恋多き人と混浴できるお風呂屋さんみたいなものだと考えるとわかりやすいわ。

 

 工廠科が「工廠科」なのに、リリィが所属するのは「普通科」なのもその関連よ。あくまで普通科です、リリィ科ではありません、ってね。未成年のリリィを直接雇用することは法律上無理なの。だから個人事業主として開業届を出したリリィと業務請負契約をする。

 リリィを公務員にしてしまっていればもろもろ解決していたのでしょうけど、リリィの黎明期には政治的に不可能だったでしょう。南極帰還兵たちがガーデンの構想を立ち上げ、有形無形の圧力でガーデン設立を認めさせたとき、国連はリリィを少年兵と断じたわ。「最悪の形態の児童労働」として発せられた批難を錦の御旗に、当時の野党は与党を激しく攻撃した。野党は常識があったと言うべきでしょう。HUGE出現以前の化石みたいな常識が。

 とにかく、当時はまだ、子供を前線へ送るなんてとんでもないという、真っ当な心を持つ人間が大勢いたの。リリィ関連法案の審議期間中は、連日10万人規模のデモが国会前を埋め尽くしたわ。当然支持率は暴落。憲政史上最低の5%という支持率を記録したのもこのとき。でも、どんな裏取引があったのか、与党は国会の解散だけはすることがなかった。強引に成立させられたリリィ関連法案に基づいて設立されたガーデンが結果を出すまでの1年間、支持率は2桁に乗ることはなかったわ。

 戦場へ送り出す主体が国ではない、というのにこのありさまだったのだから、もし最初から公務員として採用することにしていたらクーデターでも起きていたかもしれないわね。

 

 

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