「…クソ。」
じりじりと距離を詰めてくる敵の包囲網をレーダーで確認すると、悪態をついて覚悟を決める。不用意に視認できる範囲に入った敵MSを数機見つけると、ライフルで一番近くにいたガゾウムを撃ち抜いて近くのデブリに身を隠す。すぐさまビームと弾の雨が降り注ぎ、一瞬でデブリが穴だらけになってしまった。次の攻撃は防げないだろうが…今なら攻撃が止んでいる。攻めるなら、今しかない。敵の居場所に当たりをつけ、デブリから飛び出す。すぐさま攻撃が再開されるが、回避機動でギリギリ避け続ける。敵に接近しきり、もはや不要と考えたのか、ビームライフルを捨ててヒートホークを構えたハイザックに、サーベルを振り抜いてヒートホークごと腕を切り飛ばす。突撃した勢いを保ったまま、援護のために近づいてきていたマラサイの方へハイザックを蹴り飛ばし、二機まとめて腹部をビームサーベルで貫く。一度距離を取って爆風から逃れると、盾で飛散した破片を防ぎながら敵の集団に再突入した。
「これで、六機目!…一体何機いるんだ、倒しても倒してもキリがない。」
未だデブリの陰から現れ続けるMSに心底辟易する。接近の警報も切ってから久しい。レーダーに写る敵影はすでに二十機に達しようとしていて、このままいけばいずれ押し負けるだろう。…だが、徹底した遅延戦術で、かなりの時間を稼ぐことには成功した。そろそろのはずだ…。格闘戦を仕掛けてきたガゾウムを撃ち抜きながら敵の集団から離脱し、すぐさま次に飛び込む集団を見定めて飛び込もうと操縦桿を倒す。が、何か異変を感じて機体を急停止させた。その様子を好機と見たのか、こちらに突撃してきた敵の集団が光ったかと思うと、次の瞬間メガ粒子砲の掃射がデブリ帯に穴を開けた。
『待たせたわね。隊長?巻き込まれてないといいのだけれど。』
「ミラか!」
続いて第二射、第三射が敵ごとデブリ帯を削り飛ばし、更にいくつかの小さな光が近づいてきた。
『隊長、援軍に来ました!後続もまだいます。』
「エイダン。それにあの艦影は…」
『こちら側に逃げてきた残党勢力の追撃に来た。協力しろよ、レイルス。』
「大隊長まで…これなら。」
大隊旗艦の直属部隊と、その配下数隻。テリオン隊の援軍を受けて、ヒットアンドアウェイを終了し攻勢に出る。艦砲射撃によって部隊のほとんどを失っていたネオジオン残党とリックディアス指揮下の連合部隊は多少の抵抗ののち、すぐさま撤退を開始した。
『我々はこのまま追撃を続ける。…レイルス。武運を祈る。』
「は。」
横を通り過ぎる数隻の戦艦の方を向きながら、操縦席で敬礼する。大隊長のいる艦橋が見えなくなると、転身してミラの方へとガンダムを進めた。
『たまたま、通りがかったんだって。』
言い訳のようにミラが言う。呼んだわけじゃないのだろうとはわかっていたが…
「あの人らしい。」
恐らく、何かに感づいて追ってきたのだろう。大隊長は昔から、その辺りの嗅覚が鋭いのだ。…全く、頭が上がらないな。肩をすくめると、ミラが持ってきたものに目を向ける。
「それは?」
『ん、これ?ヘンチマンだけど?』
とぼけたような物言いだが、確かにそれは、ヘンチマンだった。艦橋部分は完全にひしゃげていて見るに耐えないが、それ以外の部分は特に問題なさそうだ。
『どこかのせっかちさんが、ロクに確認もせずどっかいっちゃったから大変だったみたいよ。苦情はしっかり聞いてあげてね。』
「…まさか。」
ヘンチマンがゆっくり動き、こちらにライトが照射されたかと思うと、チカチカと点滅を始めた。
「これは…モールス信号か!」
『ええ。通信機能がやられちゃったらしいわ。…でも、クルーは、全員無事よ。』
「そう、か。…よかった。」
予想外の吉報に、思わず涙が出てくる。
『ねえねえ、見て、隊長が泣いてるなんて珍しい。』
「うるさい。俺だって泣くときゃ泣くさ。」
イーサンがからかってくるが、それさえも少し嬉しく感じてしまう。
『さあ、隊長。ヘンチマンの方は準備オーケーよ。他の子達も。』
ヘンチマンの方から戻ってきたミラからバリュートパックが投げ渡される。頭を振り、パックを受け取ると、装備をするためにヘンチマンの方へ進む。だいぶ予定はズレたが、本来の任務がこれから始まる。地上に降りて、本部を目指す。その単純な道のりに、まだまだ障害があるだろうことを覚悟して、鮮やかな青い地球を見た。