『隊長。大丈夫ですか?』
「…ああ、ありがとう。」
『紅の燕もガンダムには敵いませんか?』
「馬鹿いえ…あいつには完全に意表を突かれただけだ。…まさかあんな隠し球があるとは。」
『何されたんです?外傷はあんまり見当たりませんが。』
「突撃だよ。突っ込んできて、デブリに叩きつけられた。」
『それだけ?』
「それだけだ。…だが、速度が段違いだ。俺が目で追いきれなかった。あんな速度で動かしたら操縦してる方がダメージを受けるだろうに。」
『どんな出力してるんですかその機体?まったく、連邦の技術には呆れますよ。』
「それはそうと、あの部隊。なんだ?」
『ありゃ残党狩り部隊ですよ。こっちの特性をみんな知ってやがる。味方機もみんなやられちまった。』
「あいつらが裏切ったか?」
『どうでしょう。”アレ”は向こうさんも喉から手が出るほど欲しい筈です。そのためにわざわざアレの近くでリスクのある戦闘行為なんてさせますかね?』
「確かにまあ、そうか。で、あの部隊の様子は?」
『現在C班が目視偵察中です。我々は向こうの安全が確認出来たら向かう手筈です。』
「分かった。…大人しく待つとしよう。」
『…隊長、C班から入電。安全を確保できた、とのことです。』
「アレは?無事か?」
『確認に向かわせます。…C班、C班。こちらA班…』
ビービーとうるさい警報を切り、機体を少し動かしてみる。関節部は…よし、まだ動く。メインスラスターはやられたがサブスラスターで補助できる範囲だ。多少ぎこちないが任務続行は可能そうだ。
『すぐに向かうそうです。こちらも行きましょう。ゲルググ、牽引しましょうか?』
「いや、大丈夫だ。すぐに追いつく。先に行ってくれ。」
『了解しました。』
部下のハイザックを追いかけながらつい先程のガンダムとの戦闘を思い出す。戦闘慣れをしていた。操縦センスも高い。パイロットがあのガンダムに習熟すればより大きな脅威になるに違いない。
先程戦闘した宙域に入った。大破した艦に十数機のモビルスーツが群がりそれぞれ作業をしているのが見える。と同時にこちらに気づいたのだろう、ガルスJが近づいてくる。
『大隊長。』
「チャーリーエーナか。奴らはどこに?」
『月面方面です。あっちには最近残党狩り部隊共が集まってるって聞くんで多分そこに合流しに行ったかと。』
「なら作業を急がせろ。増援をつれて戻られたらまずい。」
「既に全速力で作業させてます。大隊長は回収目標の確認をお願いします。』
「分かった。」
大破した艦に着き、作業の様子を眺める。しばらく経ってようやく艦の搬出口が開き、回収目標が姿を表す。
『こいつは…ビット、ってやつですか?』
「いや、これはインコムとかいうらしい。これに関しては俺もあまり知らされてない。…だが、アイツらが欲しがるんだ、どうせロクなもんじゃない。」
『まあ、これをさっさと持って行けばいいんでしょ。すぐに済みます。』
「C小隊ばかりに任せて申し訳ない。」
『なに、こんなのはピクニックみたいなもんですよ。任せてください。』
「ありがとう。」
『隊長。回収艦がもう近くに来ているそうです。』
「もうか。早いな。どのあたりかは?」
『そこまでは。』
「分かった。アルファトゥリア、ついてこい。」
『了解ですよっと。』
ハイザックと共に少し宙域を見回ると、すぐに見つけられた。艦体にでかでかと”AE”と刻まれた、無駄に大きな艦。その周囲を新旧様々なモビルスーツが囲んでいる。艦に識別信号を出すと、それらの隊長格であるリックディアスIIが飛んでくる。
『よう、紅の燕。』
「やめてくれ。その名前をお前に言われると鼻がむずむずする。」
『恥ずかしいのか?』
「気分が悪くなるんだ。俺には名前がある。そっちで呼んでくれ。」
『ハッ、分かったよ、セヴァン。』
「目的のブツは手に入れた。これで交渉は成立だな。」
『…ガンダムを取られたな?』
「はぁ?ガンダム?」
『しらは切らせんぞ。戦闘した上で、まんまと取り逃がしただろう。』
「待て、ガンダムのことなど元の契約にはなかった筈だ!」
『約束というものは状況によって変化するものだ。…それに、お得意様に手土産のひとつも無いとはなんだ?』
「あれを取ってこいと?」
『ああ。今貴様らが持っている物もそうだが、あのガンダムにも利用価値があると推測されている。…今なら、報酬を上乗せして貰えるよう上に掛け合ってやってもいいぞ?』
「勝手にやってろ。インコムは持ってきた。契約はそれで終わりだ。」
『…”ネオジオンの残党に襲われた”。』
「…はぁ?」
『貴様らが断った時の筋書きだ。貴様らは我々の気まぐれによって生きている。利用価値がインコムや、あのガンダムよりも無いと思われたら…今度は気まぐれで死ぬかもな?その時はお友達もたくさん呼んでやろう。』
「お前…ッ!…だが、やはり無理だ。先の戦闘でこちらはだいぶ消耗した。修理と補給を受けたい。それからだ。」
『自分が要求できる立場とでも?それに補給中に逃げられたらどうする?』
「無理なものは無理だ。補給中はお前らが動けばいい。まさか実戦もできない案山子を並べている訳でもないだろう。」
『…分かった。それで手を打とう。そのかわり報酬はこちらに半分だ。』
『なっ…補給が終わったあと動くのは俺たちでしょう!もう少し…』
『これ以上の交渉は無い。それとヒラは黙ってろ。これは部隊長同士の話し合いだ。』
『でも…』
「アルファトゥリア。口出しするな。…報酬の件は了解した。だが、その分しっかり働いてもらうぞ。」
『勿論だ。俺は傭兵、金さえあれば仕事はこなすさ。…そうと決まれば、さっさと治してけ。他の奴らは?』
「今インコムを輸送中だ。すぐに来れるだろうがな。」
『全部積み込み終わったら一旦この宙域は離脱するぞ。』
「分かってる。…と、噂をすれば、だな。」
『アレか。インコムは第四ドックだ。取りに行け。』
このままいると邪魔になりそうだ。先に艦内に入っておくとしよう。