さよなら愛しき記憶たち。   作:滝 

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誰も彼もが、それぞれの人生を歩んでいる。

 年の瀬も近くなると、心なしか街行く人々の足音も慌ただしくなってくる。ハロウィンシーズンが終わったと思えば、あっという間に街は赤と緑の比率が増え、段々とクリスマスムードが色濃くなってきた。

 (こよみ)はもう十二月、師走である。

 師走の語源には諸説あるが、一説によると師走の師とは僧侶の事であり、昔は年末になると家に僧侶を呼んでお経を上げてもらう風習があったらしい。忙しくしている現代人がみんな僧侶ならもう少し世の中のギスギスも解消しそうなものだが、残念ながら本職の僧侶ですら犯罪に手を染めたりするのが今の世の中だ。もちろん、一部の人間だけではあるが。

 

 

 

「みんなーっ! ありがとーっ!」

 

 ステージの上からそんな声が降り注ぐと、野太い声がライブハウスを揺らした。怒号のようなそれに見送られながら、彼女はぺこりと大きくお辞儀をすると、手を振りながらステージを後にする。

 ここ東京にはライブハウス――通称ハコがいくつもあるが、騒音の問題からか小さな会場は地下に作られている事が多い。地下のハコを使って活動するインディーズアイドル、それが地下アイドルの語源となったらしいが、それならインディーズバンドは地下バンドと呼ばれて然るべきじゃないかと思わないでもない。

 

 俺は肩から下げていたデジタルカメラを背中に背負い直すと、会場を出て演者の控え室へと向かう。関係者を示すシールをズボンに貼り付けてあるが、小さなハコにはわざわざそれをチェックする人員もいない。通路を狭めているアンプやスピーカーといった機材を避けながら控え室に辿り着くと、こんこんと開けっ放しの扉をノックする。

 

「どうぞー」

 

 入室を許可されると、俺はカメラのグリップをひっつかんで控室に入る。そこにいるのは先程まで華麗に歌い、舞い踊っていた地下アイドル・カラフルゆめみだ。

 

「あ、先輩。お疲れ様でーす」

「ちょっと待った、そのまま」

 

 そう言って汗を拭こうとしたカラフルゆめみこと一色いろはの動きを制すると、額の汗と瞳にフォーカスが合うように一枚写真を取った。再生画面を確認すると、うんと頷いて彼女の前にあった丸椅子に座る。

 

「すまん、もういいぞ」

「あぁ、はい。⋯⋯なんか先輩に写真撮られるのって、不思議な気分ですね」

 

 一色は化粧が落ちないようにか、ぽふぽふと押し当てるように額から滲み出てくる汗を拭いていく。

 一色のライブを観に来るのは、今日で二度目だ。一度目は由比ヶ浜の提案通り、俺と雪乃と由比ヶ浜、それに小町も誘って観に行った。では本日の位置づけはと言うと、夏頃に公開したカラフルゆめみのネット記事の好評を受けて、追加取材という事になっている。

 あの記事の公開からお客さんの入りが倍近くになったというのだから、俺も書いた甲斐があるというものだ。今日もキャパの小さな会場というのもあるのだろうが、満員の客入り。歓声は前に見に来た時よりも明らかに力強くなっているのだから、彼女の人気の上昇ぶりがよく分かった。

 

「マネージャーさんは?」

「物販でグッズ売ってます。取材内容はおまかせでいいそうです」

 

 しかしまだメジャーには遠いのか、本日もマネージャーさんはライブを運営する一要員としてきりきり舞いらしい。

 俺は予め用意しておいた質問を一色に投げかけると、彼女はすっかりとカラフルゆめみになって答えていく。明らかに作り物のそのキャラクターはあざとく、しかし作り物ではない可愛さと相まってクセになる。そんな彼女の魅力にファンたちの熱は冷めやらぬのか、熱狂は喧騒となって控室にも聞こえてきていた。

 

「さて、わたしはそろそろ会場に戻ります」

 

 取材が終わると、一色は椅子から立ち上がる。ファンの出待ちは会場付近の迷惑になるから、ライブが終わって暫くした後に会場で交流の機会を作っているらしい。流石にその様子までは取材許可を取っていないから、今日の仕事はこれでお終いだ。

 

「ところで、先輩?」

 

 俺が立ち上がると、何故か一色は控室から出る事なくこちらを見詰めてくる。俺が不思議に思っていると、彼女は少しだけ真面目な表情になった。

 

「雪乃先輩にはクリスマスプレゼント、用意するんですよね?」

「ああ⋯⋯、うん、まあ⋯⋯」

 

 俺は一応肯定とも取れる返事を返すが、その言葉はあまりにも頼りなかった。

 もちろん、贈るべきだとは分かっているし、贈るつもりもある。しかし何を渡せばいいのか、全くアイデアがなかった。雪乃の身の回りを見ても不足する物は何一つとして無かったし、ちょっといい雑貨や家電を贈るというのも違う気がする。

 

「ちなみに知っていると思いますけど、雪乃先輩の誕生日は一月三日です。プレゼントはまとめちゃ駄目ですよ」

「分かってるよ」

 

 そう、その上その直後に彼女の誕生日まであるのだ。これがまた悩ましいところだった。

 

「ちなみに一色、知ってたらでいいんだが、去年は――」

「あーあーあー、わたしは知りませんし、知ってても言いませんよ。なんでか分かります?」

 

 一色はてくてくと控室の出口の方へ歩くと、くるりと振り返って小首を傾げる。実にあざとい仕草だが、その目は真面目に答えろと言っていた。

 

「さっぱり分からん。なんでだ?」

「諦めるの早⋯⋯。そんなの、決まってるじゃないですか」

 

 そう言うと一色はまるでファンサービスでもするみたいに、ぴっと人差し指を俺に向けて自信満々な笑顔を作る。

 

「それは今の(・・)先輩が選んだ物を贈って欲しいからです。ちなみに今わたしが欲しいのはパルミューダのスチームトースターです!」

「あー、はい⋯⋯。うん、そうね。最後のはファンにお願いしたらいいんじゃないの」

「それはわたしのプライドが許しません。ファンから貰いたいのは声援と応援、先輩から貰いたいのは家電です」

 

 なんじゃそりゃ、と呆れていると、一色は「じゃあ行ってきますねー」と言い捨てて控室を後にした。

 残された俺は、控室にぽつんと一人。

 未だプレゼント選びに関してはヒントもなければ、地図も羅針盤も何もない。ただ一つ、一色の『今の俺が選んだ物』という言葉だけが、静かに心を漂っていた。

 

 

 

 

 翌日の月曜日。

 俺は午前中に家事を終わらせると、午後から銀座に繰り出していた。

 贈り物を選ぶには事欠かないし、ここなら雪乃に似合うものも見つかるだろう。当然買う物やブランドによっては相当なお値段になるが、普段雪乃の身につけている物のレベルや似合うかどうかを考えたら銀座しか選択肢として出て来なかったのだ。

 そんな訳でいくつかの店に入って見たのだが、当然ながら有名ブランドも新興ブランドも場所柄そこそこのお値段はする。しかしありがたい事に、過去を思い出せなくなる前に出版した本の売上は好調だったし、日銭以上の稼ぎはあった。だから雪乃の事だけを考えて、喜んでくれるかどうかのみを気にして選んだらいい。

 

「いらっしゃいませ」

 

 誰もが聞いた事のあるブランド店を、ひたすらにはしごする。慇懃(いんぎん)な声に迎えられるのも、今日で五度目だ。

 鞄、財布、アクセサリー、コスメ。正直どのブランドも信じられないぐらい瀟洒(しょうしゃ)で、物によっては豪奢すぎるほどだ。何を贈っても、雪乃ならその魅力を引き立てる一つとして取り入れてくれるだろうし、似合うとも思う。

 しかし、だからこそ余計に決められない。デザインはとりあえず置いておくとして、何を贈るかぐらいは決めないと。

 

「お客様。宜しければ、お探しもののお手伝いをさせて頂きます」

 

 イヤリングのショーケースの前で声にならない唸りを上げていると、そんな声が背後から届いた。無為に振り返ると、髪をアップにまとめた女性店員がいる。やはり有名ブランドともなると、店員の容姿もこだわりと言うか選出される基準もあるのだろう。ひと目見て美人と分かるその店員は、どうしてだか俺の顔を見るや否や「え、ヒキ⋯⋯」と声を上げて目を見開いた。

 なんでぇ⋯⋯その反応。ひょっとして格好からヒキコモリだと思われたのだろうか。確かに仕事場的にはヒキコモリだし、しかし身なりにはそれなりに気を使っているつもりだっただけに、その反応はショックだ。

 

「⋯⋯ええ。クリスマスプレゼントに何がいいか、迷ってるんですが」

 

 しかしその提案は門外漢の俺にとって、垂らされた蜘蛛の糸に等しい。決めかねているなら、いっその事その道のプロに尋ねるのが一番正解には近づけるのだろう。

 

「失礼ですが、お贈りする予定の方とはどのような関係になるのでしょうか?」

 

 少し派手目のメイクの彼女は、こそばゆいぐらい丁寧な言葉遣いでそう訊いてくる。

 しかしその質問には、どう答えるべきだろうか。色んな呼び方が頭に浮かんでくるが、恐らくは対外的に一番分かりやすくて語弊のない言い方をするなら、こうなるだろう。

 

「一応、婚約者、という形になるんですが」

「それはおめでとうございます。宜しければなのですが、ご婚約者様のお写真を見せて頂ければ、私共でお力添えできるかも知れません」

「あ、はい。お願いします」

 

 有名ブランド店ともなると、そこまでしてくれるものなのだろうか、俺は携帯の画面を開くと、雪乃の顔がよく分かる写真を選んで女性店員に見せた。彼女は写真の中で微笑む雪乃をまじまじと見ると、ふっと破顔して親密な声で言う。

 

「綺麗な方ですね」

「ええ、そうなんですよ」

 

 言った直後、しまったと思った。これでは思いっきり惚気(のろけ)ではないか。

 しかし彼女はよくある事なのか気にした様子もなく、既にショーケースに視線を移して商品の選定に入っている。

 

「こちらのデザインであれば、ご婚約者様によくお似合いだと思うのですが」

 

 台座ごと差し出されたのは三つのリングが重なった、所謂(いわゆる)トリニティデザインと呼ばれるタイプのイヤリングだ。写真の中のフープ型のデザインと少し似ているが、色も印象もまるで違う。イヤリングを買うと決めて見ていた訳ではないのだが、頭の中でそのイヤリングを装着した雪乃をイメージすると、これしかないのではないかと思うぐらい彼女に似合っていた。

 

「いいですね。これにします」

 

 俺の即決に驚く素振りすら無く、店員の女性はありがとうございますと丁寧に腰を折った。こんなに早くしっくりくる物が見つけられたのだ。こちらこそありがとうございます、と返すと、彼女はさっきよりも自信に満ちた顔で言った。

 

 

「きっとご婚約者様も、お喜びになられると思います」

 

 

 

 

 プレゼントを買い終えると、俺は銀座の街を駅に向けて歩いていた。

 相変わらず綺麗な街並みで、行き交う足音だけが雑多なところだ。さっきからずっと頭を使い、歩き回っていた所為か小腹が空いてきている。どこか店に入って甘いものでも食べようか、と視界に入ってくるカフェに注意を向けていると、その店内によく見知った顔が見えた。

 雪乃――。

 聞こえるはずもないのにその名前が口を()いて出そうになって、しかし次の瞬間目に入った光景に俺は言葉を失った。彼女の真向かいの席に、スーツを着た男が親しげに話しかけながら座ったのだ。同じくスーツ姿の雪乃は薄っすらとした微笑みをその男に向けると、いつも通り優雅な所作でカップを傾ける。

 男の容姿はどう見ても普通以上で、有り体に言えば一切の隙がないイケメンだった。窓越しに見るその光景は正に美男美女のカップルだ。似合いすぎて、――少し息がしづらくなる。

 二人の格好からして、恐らくは仕事上の付き合いなのだろう。彼女の微笑みだって、きっと俺以外の男に向けられる事だって多々あったはずだ。

 それなのにどうして、ここまで俺は動揺してしまっているのだろう。どうしてここまで、胸の中が淀んだ黒に染まっていくのだろう。さっきまで感じていた食欲は完全に失せ、ごろごろとした不快感だけが胃の中を転がっている。

 しかしそうして、見すぎてしまっていた所為か。――雪乃は俺に気づくと窓に寄ってきて、手招きをしながら口をぱくぱくと動かした。

 そこまでされて見なかった振りなど出来るはずもなく、俺は入口にまわって店内に入る。出迎えてくれた雪乃は、さっき見たよりもずっと素敵な微笑みを俺に向けた。

 

「こんなところで偶然ね。今日も取材?」

「ああ、いや⋯⋯。ちょっとぶらついてただけだ」

 

 雪乃は席に座ると、隣の椅子を引いてそこに座るように促してくる。着席すると当然、斜め向かいに座った件のイケメンと相対する事になる。

 

「久しぶりだな、比企谷」

 

 男はどこか親しげにそう言うと、爽やか過ぎるほどの笑みをこちらに向けてくる。久しぶり、という事は、彼は俺の知人であるらしい。もちろん今の俺にとってみれば思い出す事のできない、初対面の男になるわけだが。

 

「葉山くん。さっきも話したけれど⋯⋯」

「分かっているさ。⋯⋯けどどうしても、『はじめまして』とは言いたくなくてね」

 

 葉山と呼ばれた男はそう言って笑顔を引っ込めると、酷く淋しげな微笑みを浮かべる。そんな表情をするという事は、俺と親しかった一人になるのだろうか。毎度の事ながら再会したのに初めましてという展開には、妙な心苦しさがある。

 

「ああ⋯⋯。何というか、すまない。思い出せなくて」

「謝らないでくれ。雪ノ下さんの事まで忘れてしまってるんだ。不可抗力だよ」

 

 彼はコーヒーを一口飲むと、近くを通りがかった店員を呼び止める。俺がコーヒーに砂糖とミルクを付けるように注文すると、彼はこちらに向き直った。

 

「俺は葉山隼人。君とは高校で二年、三年と同じクラスだった同級生だ。今は親の弁護士事務所を継ぐ形で弁護士をしている。今日は雪ノ下さんとクライアントが一緒になって、仕事の打ち合わせをしていたところさ」

 

 きっと葉山の方も、店外から見ていた俺の視線に気付いたのだろう。状況を説明しながらさらりと誤解を解いてくるとは、どうやら出来るイケメンらしい。

 それにしても企業の顧問弁護士に、コンサルタントか。まるでドラマの設定みたいだが、そう言う俺もノンフィクション作家などという特殊な職業だ。華やかさには欠けるが、つまらない職業ではない。

 

「ついでに言うと、私と彼は幼馴染という事になるわ。あなたと葉山くんは⋯⋯親友? ということでいいのかしら」

「まさか。そんな風に思われたことは一度もないはずだよ」

 

 あくまで自分目線の意見は言わずに、葉山は仮面のような微笑みを顔に貼り付けている。担当編集の材木座といい、俺のまわりは絆が強いようで妙に拗れた付き合いが多いし、何とも癖の強い男ばかりだ。いや男友達と呼べる人で言えば入院中に見舞いに来てくれた戸塚は別格だったな。あれ以来会っていないが、なんであんなに可愛いんだろう。男なのに。

 

「そう。私には少なくとも、親友同士に見えていたけれど」

「それは嬉しいやら悲しいやら、複雑な気分だよ」

 

 静かに届いたコーヒーに、俺は砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。

 昔を懐かしむ声と、郷愁を帯びた表情。

 それが消えて無くなればいいと思いながら、白と黒の境目がなくなるまで、俺はコーヒーをかき回していた。

 

 

 

 

 カフェを出たところで葉山と分かれると、俺たちは駅に向けて歩き出した。見上げればビルの窓ガラスは鏡面のように空を写し込み、濃紺の中に橙の灯りを灯している。

 吹き抜けた風はさっきよりもずっと冷たくて、思わず肩を窄めた。それを横目で見ていたのか、雪乃はくすりと小さな笑みを零す。

 

「一気に冷えてきたわね」

 

 ああ、と小さな声と一緒に頷きを返すと、ダウンジャケットのポケットに突っ込んでいた手を外に出した。

 ぷらんぷらんと、手持ち無沙汰。

 雪乃はその細い身体に似合わず寒さには強いのか、手袋もつけないまま歩いている。あるいはその手は、何かを待っているのだろうか。

 

「なあ」

 

 そっとその手を握る。雪乃の手に強張りはみられない。それに少しだけ安心して、俺は言葉を続けた。

 

「その、さっきの葉山って⋯⋯」

 

 けれどまるで目詰まりを起こしたフィルターみたいに、その先は出てこない。否、言いたくないという気持ちが、全てを堰き止めてしまっていた。

 雪乃は俺の顔を覗き込むと、くてんと小首を傾げて続きを促してくる。なんでもない、なんて言葉で逃げそうになる俺を、そのあどけない表情が遮ってくる。

 こんな事を訊くなんて、本当に無粋だしどうしようもない。否定してくれるのを願っていて、もし肯定された時の覚悟なんて何一つ決まっていないのに、それでも俺は知りたいと願ってしまっている。

 

「ひょっとして、元彼だったりするのか?」

 

 雪乃は俺の言葉を聞き届けると、ぱたりと歩みを止めた。そのまま歩みを進めていた俺の手と手が離されて、絶望的なまでの寒さが手のひらを撫でる。

 

「⋯⋯っ」

 

 雪乃は何かに耐えかねたかのように、その場にしゃがみ込んだ。寒さが瞬時に、俺の心の奥まで染み渡って来る。

 俺は、どうして興味という底無しの欲望に抗えなかったのだろう。知らなくていい事を、どうして知りたいと思ってしまったのだろうか。

 冴え冴えとした空気の中で、俺の心は大敗を喫した古戦場の跡地が如く酷い寂寥に満ちていた。

 

「雪乃⋯⋯」

 

 異常だ、こんな感情は。

 こんな綺麗な女性に、俺以外の恋人がいなかったなんて、そんな訳がない。当たり前じゃないか、そんな事。ショックを受ける方が、絶対に、おかしい──。

 

「八幡」

 

 雪乃は目尻に雫を溜めながら、俺の真正面に立って正視してくる。思わず、目を逸らしてしまいたくなった。それでも俺は現実を受け止めようと、雪乃の目を真っ直ぐに見返す。

 

「あなたが入院している時に言ったことを、忘れたのかしら。私が好きになったのは、生涯であなただけ。恋人として、婚約者として過ごしたのも、あなただけよ」

 

 最後までその言葉を聞き届けた俺の顔は、きっと酷く間抜けな顔をしていただろう。口をぽかんと開けたままの俺の手をギュッと握ってくると、雪乃は続けた。

 

「でも少し⋯⋯。いいえ、凄く嬉しいわ。あなたがここまで分かりやすく嫉妬してくれたの、初めてだから」

 

 雪乃に手を引かれて、再び俺は歩き出す。冷たい空気、濃く蒼い空の下を。

 

「ねえ、八幡。最近言っていなかったから、ちゃんと言うわね」

 

 雪乃は俺の手を握ったままそれを胸の高さに持ち上げると、少しだけ恥ずかしそうに言う。

 

 

「あなたのことが、大好きなの。誰よりも、何よりも、一番」

 

 

 そう言って笑った雪乃の顔は、きっと宇宙から見た地球よりも美しくて。

 俺は鼻がつんとなってしゃがれそうな声の代わりに、きゅっと強く彼女の手を握り込んだ。

 

 




 というわけで、少し季節は飛んで十二月のお話でした。
 次回はクリスマスの話になります。

 引き続きよろしくお願いします!
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