さよなら愛しき記憶たち。   作:滝 

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思い出と、クリスマスと、これから。

 ぽつり、ぽつりと、

 その小さな光の粒はグラデーションを描くように、点灯と消灯を繰り返していた。

 

 リビングに置かれたクリスマスツリーの高さはおよそニメートル。流石に大き過ぎるんじゃないかと雪乃に言ったら、あなたが買ってきたのよと返された。昔の俺は頭が沸いていたとしか思えない。

 気付けばもう十二月の二十四日。クリスマスイブその日だ。普段無宗教であるはずの多くの日本人が、それなりに盛り上がる日。その御多分に漏れず、本日の晩御飯は雪乃さんお手製の豪華ディナーだった。

 

「八幡、できたわよ」

 

 キッチンの方からそんな声が届くと、俺は皿に餌を入れられる音を聞きつけたにゃんこの如き速さで食卓に向かう。普段と違って真っ白なテーブルクロスが敷かれたダイニングテーブルには、誕生日や来客時などの特別な時しか使わない銀のカトラリーが並んでいた。

 テーブルの中央にはグリルされたチキンが鎮座し、色彩豊かなサラダの上にはローストビーフが横たわっている。黄金色のコンソメスープの横に並べられたバゲットはまだ温かく、ホタテとトマトにかけられたジェノベーゼソースが良い香りを放っていた。

 

「めっちゃくちゃ美味(うま)そうだな」

「謙遜なしに答えるなら、今年も自信があるわ。さあ、どうぞ召し上がれ」

 

 いただきます、と声を合わせると、待ての解かれた犬の気持ちになってまずはローストビーフとサラダを食べる。続いてコンソメスープ、バゲット。普段よりもじっくり時間と手間をかけた料理はやはりとんでもなく美味で、料理に伸びる手が止まらない。

 

「どう?」

 

 むぐむぐと咀嚼しながら、そう言えばまだ味の感想を言っていないのに気が付いた。それぐらい、俺は雪乃の料理に夢中になっていたらしい。

 

「俺は今、地球上で一番美味いクリスマスディナーを食べている、世界一幸運なやつだ」

「⋯⋯その誉め方は今までで一番ね」

 

 雪乃はそう言うと、安心したように口元を綻ばせる。芝居がかった言い方に突っ込みが無かったのは寂しいが、俺の感想はちゃんと伝わったようだった。

 

「俺って毎年、世界一の料理を食べてたのか?」

「レストランに行った時もあったけれどね。その年の一番は、シェフに譲りましょうか」

 

 悪戯っぽく笑いながら、雪乃はグリルチキンを切り分ける。肉汁がじゅわっと染み出したそれを皿に載せると、俺の前に置いた。

 

「早いものね。あと一週間で今年も終わりなんて」

 

 雪乃はそう言ってコップから一口水を飲んだ。今日ぐらいワインや何か飲むほうが料理には合うと思うのだが、彼女も俺に合わせて全然酒を飲まない。そんな生活が今年の始めの方、俺が過去を思い出せなくなってから続いている。

 そう考えると、もう一年近くもこの状態が続いているのだ。最近は思い出さなくてはという焦りすらも薄れてきたが、俺と彼女にとって長い時間が経った。

 何度か病院には出向いたが、健忘症状以外の予後は何も問題ない。記憶に関する事は脳医学の中でも未解明の部分が多く、いつ治るのか、そもそも治る見込みがあるのかどうかすらもはっきり言えない、というのが主治医の話から受けた印象だった。

 そんな状況を一番悲観するはずなのは、雪乃の方だ。それなのにただの一度も俺を責める事なく、ずっと寄り添ってくれたのには感謝なんて言葉では足りない。思い出せない事に関して心の底から謝りたい気持ちもあるが、多分そうする事は自己満足でしかないだろう。

 

「雪乃にとって、この一年はどんな一年だった?」

 

 だから俺は、雪乃に訊いてみたかった質問をぶつける事にした。雪乃は口に含んでいたサラダを嚥下すると、そうね、と顎に手をやり考える。

 

「すごく、新鮮な一年だったわ。あなたの魅力を、再認識した一年だった」

 

 そんな面映い台詞にうっとり見惚れてしまいそうな笑みを添えると、俺の心臓はざわざわと騒ぎ出す。一色もずっと前に言っていたが、雪乃は時々こっちが照れてしまうぐらい直截な表現を使う事がある。きっとそうやって言い切れるのは、彼女が自分の価値観に絶対的な自信があるからだろう。それも彼女の魅力の一つだけど、こちとら言われ慣れていない身からすれば些か眩し過ぎるのだ。

 

「あなたは、どんな一年だった?」

 

 雪乃は満潮のように満ちた笑顔を引っ込める事なく、俺に同じ質問を返してくる。答えなんて決まっていたが、俺にとってみればとても一言で言い表せられる量でも大きさでもない。

 

「俺も、新鮮というか⋯⋯。それだけじゃ伝え切れないんだけど」

 

 思い返せばこの一年、俺にとって全て雪乃を中心にまわっていた。彼女の悲壮な表情が俺に現実を知らしめ、その笑顔に救われ続けた一年だ。

 雪乃の新しい一面を見る度に心にはさざ波が立ち、あるいは大波となって飲まれてしまう事もあった。そんな心の機微を誤解や意図しない解釈を挟む余地なく伝えるのは、食事をしながらでは難しい。

 

「その質問への答えも含めて、雪乃に話がある。飯食って、落ち着いてからでいい。少し時間をくれるか」

 

 雪乃は湛えていた笑みを引っ込めると、もちろん、と呟く。

 それから暫くの間、食卓にはカトラリーと食器の当たる音だけが、静寂と沈黙の間を満たしていた。

 

 

 

 

 二人で一緒に食後の片付けを終わらせると、買っておいたケーキを食べる。その甘さを雪乃の淹れてくれた紅茶と共に楽しむと、もうお腹はパンパンだ。

 人心地つくと俺たちはいつものようにソファに並んで座り、明滅を繰り返すクリスマスツリーを見ていた。電飾は窓に映り込み、東京の街を彩る灯りと混じり合う。どこまでも人工的だが、雪乃と手を繋いで見る景色はひたすら純粋で無垢なものに見えた。

 

「プレゼントが、あるんだけど⋯⋯」

「あら奇遇ね。私もあなたにプレゼントがあるの」

 

 いたずらっぽく笑う雪乃に俺も笑みを返すと、彼女は立ち上がって戸棚から包装紙に包まれた箱を取り出す。言い出しっぺの俺はと言うとさっきトイレに行く振りをして、プレゼントをこっそりソファのクッションの間に隠してある。そっとそれを手の中に忍ばせると、俺たちはソファの両端に座り、若干距離を取りながら向かい合う。

 

「俺から先に渡してもいいか?」

 

 ええ、と頷いた雪乃の前に、小さな箱を差し出した。シルクを思わせる純白の包装紙には、小さな造花があしらわれている。雪乃は産まれたての赤子を受け取るようにそれを両手で迎えると、まだ中身も知らないというのに心の底から嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。開けてみてもいい?」

「ああ」

 

 俺の返事を聞くと、雪乃はほとんど音も立てず、丁寧に包装を剥がし取っていく。やがて見えた小さなジュエリーボックスを開くと、文字通り雪乃は目を輝かせた。

 

「⋯⋯綺麗」

 

 どうやらあの女性店員の見立ててくれたイヤリングは、雪乃の好みにも合致してくれたらしい。雪乃はイヤリングを手に取るとうっとりと眺めた後、今身につけているイヤリングとそれを交換する。

 雪乃はさっきまでその綺麗な耳を引き立てていたフープ型のイヤリングを手のひらにのせると、それを見ながらくすっと笑みを溢した。

 

「やっぱりあなたは、あなたのままね」

「そりゃどういう意味だ?」

「このイヤリングは、去年クリスマスプレゼントにあなたから貰ったものなのよ」

 

 そう言うと雪乃は、今度こそ堪えきれないとでも言うようにふふっと声に出して笑った。その笑みはさっきからずっと彼女の内面を映し出すかのように、無邪気な喜びに満ちていた。

 

「ちなみに異性にイヤリングを贈る意味は、『いつでも自分の存在を感じていて欲しい』という気持ちの表明だそうよ?」

「その解説がなきゃ綺麗に終われたのになぁ⋯⋯」

「否定しない、という態度は、肯定的に受け取っておくわね」

 

 まったく、これだから雪乃には敵わない。

 イヤリングを選んだのは、少なからず潜在的にそんな想いがあったのだろう。ならばそれを否定する由もなく、俺が言うべき言葉は別にある。

 

「まあ、気に入って貰えたなら何よりだ」

「⋯⋯それだけ?」

 

 雪乃は笑顔を引っ込めると、顎を引いてこちらを試すような視線を送ってくる。ともすればあざといぐらいの仕草だったが、彼女がそれをすると(いとけな)さが際立って可愛いとか可愛いとか可愛いとかしか考えられなくなる。やばい頭バグりだした。

 

「あー、その⋯⋯。すげぇ似合ってるな」

「ありがとう。やっぱりあなたに褒めてもらうのが、一番嬉しい」

 

 素直な感想をそのまま言葉にするのは中々に恥ずかしいというのに、対する雪乃は見ているだけで蕩けてしまいそうな笑みを浮かべながらそう答える。付き合いたてのカップルのようなやり取りはひたすらむず痒くて、しかしどこまでも甘い。

 

「今度は私からね」

 

 雪乃はローテーブルに置いていた長方形の箱を手に取ると、はいと両手で差し出してくる。俺はそれを両手で恭しく受け取り、ありがとう、と呟いてしげしげと眺めた。

 

「開けていいか?」

「ええ」

 

 雪乃が頷くのを見届けると、俺は濃紺のどこか重々しい雰囲気を纏った包装紙を破る事なく剥がしていく。姿を現したしっかりとした作りの箱を開けると、タイトルのない荘重な装丁(そうてい)の本が収まっていた。

 

「⋯⋯本?」

 

 俺の疑問の声に、雪乃はふるふると首を横に振った。手に取って開いてみると、ほとんど全ての頁は同じ様式で軸線が書かれている。

 

「いや、日記か。聖書でももらったのかと思った」

「いくらクリスマスとは言え、そこまでもらって困る物は選ばないでしょう⋯⋯」

 

 それは、確かに。もし本当に聖書をもらって「これを読んで清く正しく生きなさい」とか言われたら、うっかり司祭様にジョブチェンジするのを目指してしまうところだった。

 雪乃は呆れ混じりの微笑みを引っ込めると、少しだけ神妙な表情を作る。

 

「よければだけれど、使って欲しいの。あなたと私のことを、書いていって欲しい」

 

 そう言って雪乃は、俺に向けて手を伸ばした。俺はその手を迷う事なく握って、どちらともなく座り直し、身体を寄り添わせた。

 こんなに嬉しくて、──うら悲しいプレゼントが、あるだろうか。

 日記帳の装丁をひと撫でしてローテーブルに置くと、雪乃は俺の肩に頭を乗せてもたれ掛かってくる。

 

「なあ。今まで過ごしたクリスマスのこと、話してくれるか」

「ええ、いいわよ」

 

 雪乃は携帯電話とスカートのポケットから取り出すと、いつものように写真をスクロールし始めた。彼女には時折りこうして、俺の思い出せない過去の話を聞く事がある。ひょっとしたらそうする事で思い出せる事もあるのかも、と期待しての事だったが、いつしかそれは雪乃と俺の気持ちの大きさを確かめる行為になっていた。

 

「これは大学三回生の時、ルミナリエを観に行った時の写真」

 

 雪乃の携帯に映し出された写真の中で、俺と彼女は恥ずかしそうに手を合わせてハートマークを作っていた。背景には幾何学模様のイルミネーションが、荘厳なまでの輝きを纏っている。

 

「こいつ、ハートマークなんて作ってるよ」

「それを言ったら私もなのだけど⋯⋯」

 

 あまりにもバカップルらしい写真に照れ隠しの言葉が()いて出てくると、雪乃は横目で批難めいた視線を送ってくる。しかしそれも一瞬の事で、画面がスワイプされる度に煌びやかな光のアートが現れる。

 

「この日は前に行ったディスティニーの比じゃないぐらいの人で、あなたは近くの駅に着くぐらいからげんなりしていたわね。挙句に写真撮ったらさっさとご飯食べに行こうなんて言うんだから、ちょっと怒ってしまったわ」

 

 それ、本当にちょっとだったのかなぁ⋯⋯。そう思いながら雪乃を見ると、当時を思い出したのか俺の肩にのせた頭をぐりぐりと動かして言外に指弾する。もちろんそんな事をされても、俺にしてみればめちゃくちゃ可愛いなこいつ以外の感想が出てこない。

 

「他には?」

「そうね、別の年のだと⋯⋯」

 

 雪乃はそうして携帯から写真を探し出しては、写真と共に思い出を見せてくれた。どの写真も俺の表情はおおよそ素直な感情表現になっているとは言い難かったが、それでも二人の仲は円満だった事が伝わってくる。

 高校で初めて付き合った彼女と社会人になるまで付き合いを続けて、そのままゴールイン。きっと青春時代を過ごしている少年少女から見れば、甘やかな理想を体現したような話だ。

 呼び起こす事のできない大切な思い出に触れるように、俺はそっと自分の頭に手をやった。そこにあるのに触れられない悔しさで、力いっぱい奥歯を噛み締めたくなるのを必死に抑える。

 

「そう言えば、なんだが」

 

 クリスマスの話を聞き終えると、俺は肩に頭をのせたままの雪乃に向けて言う。少しだけ硬くなった声音に気付いたのか、雪乃はふと頭を持ち上げて俺の方を見た。

 

「俺はどうやって、雪乃にプロポーズしたんだ?」

 

 雪乃は少しだけ驚いた顔をした後、すぐに微笑みを浮かべてまた俺の肩にしなだれかかる。写真はもう必要ないとでも言うように、彼女はそっと携帯をポケットにしまった。

 

「あなたの本の出版が決まった、少し後のことだったわ」

 

 ぼんやりと窓に映る光を見ながら、雪乃は訥々と語り始める。それほど昔の話ではないはずなのに、酷く郷愁に満ちた声だった。

 

「たまにはちゃんとしたところでディナーでも食べようって、あなたに誘われたの。クリスマスとか、誕生日とかでもない、何でもない日だった」

 

 雪乃の手が、俺の手に重なる。それに応えるように俺は手のひらを上にすると、彼女は指を互い違いにして絡ませてくる。

 

「ホテルの高層階の、イタリアンのレストランだったわ。思えば食事をしている時から、あなたは緊張した様子だった。ディナーを終えて、ホテルの利用者だけが入れる展望室に移動して、こんな風に夜景を見ていたの。そして展望室から誰も居なくなったタイミングで、あなたは指輪を差し出した」

 

 握られた手にそっと力が入る。俺は身を任せるように頭を傾けると、頬が雪乃の髪に触れた。

 

「それからあなたは言ったの。『俺と長く一緒に居た所為で、お前もだいぶ歪んじまったと思う。だから俺の人生をかけて、責任を取らせてくれないか』って」

 

 雪乃は目線も姿勢もそのままにして、もう片方の手を俺の手に添えた。熱いと感じる程の熱が、そこから伝わってくる。

 

「⋯⋯本当に、嬉しかった。どうしてそんな言い方しかできないのって思ったし言ってしまったけれど、答えるのに迷いはなかった」

「⋯⋯そうか」

 

 雪乃の手を握り返すと、そっとその手の中から抜け出した。それに違和感を感じたのだろう、雪乃は身を起こすと横から俺を見る。

 

「じゃあ、やり直さないといけないな」

 

 俺はソファから下りると、雪乃の前でかしづいた。先ほど贈ったイヤリングの物とは別のジュエリーボックスを、彼女の目の前で開く。

 きっと俺は、彼女の想う俺であって、少し違った──言うなれば、歪んだ存在なのだろう。

 ならば俺は、今の俺の言葉で、言わないといけない。

 取り違えもなんのまちがいも起こり得ない言葉で、確かな感情を、今、伝える――。

 

 

「雪ノ下雪乃さん。心の底からあなたのことが好きになりました。俺と結婚して下さい」

 

 

 真っ直ぐに雪乃を見て、一直線な言葉で、俺は彼女に求婚した。

 雪乃の瞳に潤いが増してくるのを、その唇が何を紡ぐのかを見逃さないように彼女を見詰め、その答えを待ち続ける。

 

「──はい」

 

 鈴を転がしたような声が聞こえるのとほとんど同時に、雪乃の(まなじり)から一筋の涙が落ちた。

 その答えが、じんわりと俺の中に染み入ってくる。どこまでもどこまでも奥まで入ってきて、泣いてしまいそうなぐらいに温かい。

 差し出された雪乃の左手を取ると、既に指輪をしている薬指に真新しい指輪を通した。二つの約束は、彼女の指の上できらりと輝いている。それも段々と滲んで、鈍い光へと変わっていく。

 

「⋯⋯っ」

 

 次の瞬間には雪乃はソファを下りていて、俺の唇に確かな柔らかさと熱さを伝えていた。頬を伝った熱い雫は、もう誰のものなのか分からない。腕の中の細い身体は、絶え間なく小刻みに震えている。けれどそれはきっと俺も同じで、その震えを止めようとするかのように、雪乃の腕がきつく俺の背中を抱いていた。

 

「ねえ、八幡」

 

 一体どれぐらい、そうしていただろう。

 微かな嗚咽が溶けてなくなると、雪乃はそっと身体を離した。

 目だけで続きを促すと、彼女の薄桃色の唇が弧を描く。

 

「私、今が一番幸せよ」

 

 とくんと一瞬、心臓が跳ねる。しかし次の瞬間に訪れるのは、この上のない平穏と、狂おしいまでの愛しさだった。

 もう俺は、雪乃との間にあった全てを知る事は叶わないのかも知れない。きっと確かに感じていたであろう焦がれるほどの恋慕も、積み重ねた美しい思い出にも、もう触れられない。

 それでも、身勝手にも俺は雪乃と歩みたいと、そう願った。

 だから──。

 

「雪乃」

 

 立ち上がり、彼女の手を取る。

 雪乃と同じ、未来を歩む為に。

 もう失くしようもない、大切な思い出を重ねていく為に。

 

「──」

 

 瞬間、視界が歪んだ気がした。

 鈍い音が身体を駆け抜け、最後に鼓膜を震わせる。

 

「⋯⋯八幡?」

 

 どうしてだか、白い天井とソファの脚しか俺の目には入って来ない。目の前にいたはずの雪乃が、酷く狼狽えた様子で俺の上から覗き込んでいた。

 

「──八幡っ!」

 

 目を瞑ってもいないはずなのに、視界は白くぼやけていく。

 身体から何もかもが──受け取った熱ですらも、抜けていく感覚。

 

「ねえ、八幡──! ──⋯⋯ん!」

 

 混濁していく意識の中で、聴覚もやがて鈍く消えていく。

 

 完全に意識を失う、その瞬間まで。

 もう聞こえなくなった彼女の叫びだけが、俺の頭の中を木霊していた──。

 

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