キュッキュッと音をならし目的の教室へと向かう一つの人影、彼女が一歩踏み出す度に肩口で切り揃えられた髪がそよぎ豊かな胸が僅かに弾む。彼女が近くを通ると男子生徒と女子生徒もそして教師であっても見惚れてしまう、だが元来他人の視線に無頓着な彼女はそんな視線を気にする事なく目的地へと向かって歩みを進めていく。
着いた、此処が彼のいる教室。成る程先輩しかいないというのは少し緊張してしまう、そうでなくても目的の人物は超常の存在が跋扈する裏の世界において三大勢力と評される内の一つ悪魔陣営の英雄の一人なのだ。
くちびるをギュッっと引き締め扉に手を掛けゆっくりとスライドさせる、カラカラと音をたて開き始める扉を開ききるとそこから顔を覗かせ件の人物を訪ねる。
「失礼します、二年のマシュ・キリエライトと申します。兵藤一誠さんはいらっしゃいますか?」
その瞬間教室の空気はがらりと変貌を遂げた、兵藤一誠の悪友である松田と元浜の二人はその人物へと詰め寄ると襟首を掴みガクガクと揺さぶり始める、その目からは涙を流し唇は噛みきってしまったのか血も垂れている。
「またか兵藤!またお前なのか!アーシアちゃんだけでも癪にさわるというのに!二年生のアイドルの一人マシュちゃんまでその毒牙にかけたのか!!」
「絶対怪しい催眠術を使っているだろう!俺たちにも教えてくれ!!」
「別にそんなんじゃねぇって!」
「「嘘だぁ!!!」」
突然始まった珍事に目をパチクリとまたたかせるマシュ、そんな彼女に近づき何時もの事なので心配ないですよっと声をかけて来たのはアーシア・アルジェントその人である。
「それでどうしたんですか?マシュさん、何か用事なら伝えますけど」
「いえ、アーシアさんでも大丈夫なのですが、……先輩、藤丸立香先輩について聞かせてほしくて。」
「成る程藤丸さんについて、イッセーさんマシュさんが待ってますよ」
「ああ、ごめんアーシア、マシュ今行く!」
二人の手を払いのけマシュたちの元へと向かう兵藤、その後ろ姿に血涙を流し出しかねない位悔しがる二人だった。
場所は教室から変わり人通りが少ない空き教室の前へとやって来た三人、元々少ない人通りを魔術による人払いによって人の気配は皆無である。
「それで、マシュは藤丸の何について聞きたいんだ?」
「えっと、なんでもです。学校での生活態度からこれ迄の歩み、資料では拝見させて頂いたのですが当事者の皆さんの口から直接お聞かせ願えればと思いまして」
そう言って頭を下げる彼女は成る程確かにアイドルと言われるだけはあると思える、その姿は庇護欲をかきたてる。
だが確か後日聞いた話では彼女と藤丸立香は自身の家程ではないが増築された彼の家で、彼の仲間たちと共に共同の生活をしていると聞いている。ならば聞きたいのは、どの様な経験をして彼女を助ける迄に至ったかだろう。
話して聞かせるには時間が少しかかる、その上自分とアーシアだけでは抜けている部分もあるだろう、なら皆を巻き込んで思い出話といこうではないか、そうと決めたら後は人を集めるだけだ。
「なあマシュ、一つ提案があるんだけど、こんなのはどうだ?」
自分の考えを伝える、するとふわりと花が咲き誇る様な朗らかな微笑みを向けこう言った。
「それは素晴らしい提案だと思います、私も先輩だけでなく皆さんの話を聞いてみたかったので」
では続きは放課後のオカルト部で会いましょう、そう言って離れて行くマシュ、俺とアーシアはお互いに顔を見合せ頷き合う、さあ先ずは新しく出来た後輩の為に人を集めるる事から始めようか。