神を滅ぼす英傑 file.1
ある日の昼下がり、俺はMRSランクアリーナ上位20人のみが入ることができる共有マンションのロビーでコーヒーを飲んでいた。
「隣、いいかしら。」
後ろから聞き慣れた声がして、振り返る。声の主の女性はランキング第7位の美人、マリア・クルアレスだ。女優としてスカウトされるほどの美女でありながらもランカーに名を連ねる奇人とか言われてたりする。世間一般ではミステリアスでクールという印象があるらしいが実際のところはそんなことはなく、気さくで優しい人だ。
食事が乗ったプレートを手にしているので今から昼飯なのだろう。
「あぁ、どうぞ。俺は美人の誘いを断るほど堅物じゃないぜ?」
彼女は少し笑って、隣に座った。
「あんたは今頃昼飯かい?」
「ええ。この前の依頼、さっきまでやっててね。」
「この前のってことは今帰ってきたばっかりか。お疲れさん。」
という他愛のない話をしている時、放送が鳴った。
『緊急招集の連絡です。以下に名前の上がった者は一階会議室へすぐに集まるように。No.14エンケイ、No.10エリオット、No.7マリア、No.5ロゼ、No.2レツィーナ。繰り返す…』
「あ〜また俺かよ。他に暇してるのなんていくらでもいるだろ。ったく。」
と悪態をつく。自分で言うのもなんだが俺は万能だ。大体どの任務に連れて行かれてもある程度の働きができる。しかも、Aランカーの中では何故か数少ない中量機ということで他のランカーよりも駆り出されることが多い。つい二週間前にも依頼をこなしてきたばっかりなのだ。まあ隣に座る女性ほどは忙しくないが。
それはそれとして、ランカーが5人も呼ばれる任務なんてのはそうそうない、つまるところ今回のは余程の大型依頼なんだろう。面倒極まれりである。
「ふふっ、依頼がないよりはいいじゃない。私食器洗ってからいくわ。」
「おうそうか。んじゃ、お先に失礼するぜ〜。」
マリアは空の食器が載ったプレートを持って厨房の中へと入っていった。それを尻目に俺は扉の方へと歩を進める。…あいつ飯食べるの早くないか?
会議室に向かって廊下を歩いている時、目の前に見知った男の後ろ姿を見つけた。
「よっ!エンケイ。」
そう言いながら肩を組む。
「む?ああこれはエリオット。会議室に行くのですかな?」
「その通り。ところでよぉ、今回の依頼絶対きついよなぁ。」
「まぁそれもまた傭兵業。困難もまた面白いものでしょう。」
エンケイは美國出身の傭兵で唯一のランカーだ。
ガトリング、滑腔砲、ミサイルといった高火力な装備でまとめられた乗機は正面から撃ち合えばランカーですら無事では済まないほどで、その火力から基地破壊や大型兵器攻略の切り札となることが多い。
今こう考えて気づいたが、エンケイがいるということは今回の依頼は大型兵器破壊かぁ…やだなぁ。なんで俺が要るんだろう。俺の機体はただただウトガルド戦のみを想定してるから大型兵器にはまともな傷も与えられないぞ。
会議室まではそこそこ距離があり、雑談が弾む。エンケイとは飲み友ではないが、ランカーの男衆は大抵仲が良いのでよく飯を一緒に食ったりする。俺らの仲の良さはかなりのもので、前に共謀してマリアの風呂を覗こうとしたこともあったほどだ。その時のエンケイは入ったばかりで、真面目そうな雰囲気から誘うのを躊躇したが飲み友の一人が酔った勢いで連絡をしたら予想とは裏腹に普通にノリノリで了承をくれた。そしてその後も2人で馬鹿やったりもしている。
「そういや、こないだ食ったプリンめっちゃ美味かったよなぁ…また食いてぇ〜」
「そうですねぇ。ところでエリオットさん、あのプリンどこから持ってきたんでしたっけ?」
「ん?食堂の冷蔵庫っからだけど?大方誰か買ってきてたんだろ。共有食堂の冷蔵庫に名前も書かず入れとくなんて不用心だよなぁ〜。」
と、どこかの誰かをディスる。ま、大方飲み友衆か誰かだろ。
「あの、そのことなんですけど多分あれロゼって書いてありました…。」
「え。ロゼってあのロゼ?」
「はい。昨日ロゼさんが『アタシたちのプリン誰が食いやがった。名前書いてあったのに食ってんじゃねぇ。』ってキレてましたので…。」
「うっそマジかよ。…俺たち友達だよな!エンケイ!な!」
バシバシとエンケイの背中を叩く。エンケイは何も言わずに目線を逸らしている。おい、共犯だろ。おい。
ロゼ…とはランク5位の今この任務にも呼ばれたランカーだ。とんでもない狙撃能力と認識能力から、高速機は捉えられて墜とされるし、重量機は速度に追いつけずに墜とされる。
だが、最も怖いのはそのウトガルド戦ではなくリアルファイトである。かつての各国家の軍事格闘技の大半をマスターしているがために殴り合いでは常勝無敗。俺も何回か絡まれたことがあるが死ぬかと思った。そして、そんなやつが買ってきた高級プリンを無断で食った俺とエンケイ…殺されないはずもなく…。
そんなことを考えるうちに、会議室の前についた。ノブを回して、中に入るとロゼとレツィーナはもう席についているのがわかった。会議室は、大学の講義室を小規模化したような形をしていて、正面真ん中が段のようになっており端にはマイク台が、中央にはスクリーンが置いてある。そして部屋がでかい。この部屋の定員は24人らしい。なんでランカーの数より多いんだ。
薄暗くてよく見えないがマイク台のところに誰か立っているのが確認できる。おそらくは仲介人だろう。入ってすぐの場所にある空席に座り、エンケイはその隣に座った。
ボケーっと肘をついて待っていると、後ろから扉が開く音が聞こえた。
「ごめんなさい。遅くなったわ。」
先ほどぶりのマリアだ。パタパタと走り、我々が座っている席の前に着く。
着いた直後スクリーンに映像が映され、マイクに電源が入る音がする。
スクリーンに映ったものは、今回の目標と思われる空母?らしきものだった。飛行甲板が船体左側に縦に3つ、下段に横一列に2つとかなり変態的な見た目をしている。さらに右側の空きスペースにはウトガルド発射用のカタパルトと思しきものと無数に存在する対空砲台、対艦砲そして指揮用と思われる高層ビルのような高さの艦橋が5つほど、そして船体後方には巨大な発射機構のようなものが3つ存在していた。
「皆さまお揃いのようですね。それでは只今より今回の作戦を説明します。依頼主はペイロード、目標はポイントネモへ向けて航行中のアウシュニャギャーンの超大型空母、パールバティーの破壊です。パールバティーは全長2000m、全高350m、全幅600mと超大型の名に恥じないサイズの空母で積載量もそれに伴って非常に多いです。搭載しているものは一昔前の戦闘機ですが性能は侮れません。さらにウトガルドも大量配備されているようで正面切っての戦闘はあなたたちでも苦戦するでしょう。そのため依頼主は大型輸送機Prophet級を用いた対象への空挺作戦を提案しています。異論はございませんか?」
それに対してロゼが代表のようにそれで構わないと言い仲介人は話を続ける。
「この作戦における最重要目標は船体後方にある三つの衛星発射機です。空母の船体破壊が難しいと判断した場合はそれを破壊して撤退していただいても構いません。この船に搭載されている衛星は対地用大型レーザー衛星トリシューラといい、まだ試験段階のようですがこれが空に放たれてしまっては我々ペイロード本社を含めた世界中の全てが攻撃されてしまいます。世界の市民の平和を守るため是非とも協力をお願いします。報酬の方は後ほど各人の端末へお送りいたします。」
そう言ってスクリーン映像が止まり、電気が点いた。
「何か質問はございますか。」
「一ついいか。」
そう言って手を挙げたのはロゼだ。
「今回の作戦領域内にビルのようなものはないよな?」
「ええ、はい。海上ですので。」
「ならアタシ用の狙撃の台になりそうなものを用意してくれ。航空機でもウトガルドでも飛ぶ板でもなんでも構わない。その空母の上じゃ障害物が多すぎる。それじゃあ、満足に支援もできない。」
「なるほど、では後ほど上層部にウトガルドを乗せるに耐えうる航空機の同時投下を依頼しておきます。」
「ん、さんきゅ。」
その問答が終わったあと仲介人はこちらを見回した。
「他に、何か質問のある人はいますか、いないようですのでこれにて作戦概要紹介を終わらせていただきます。決行日時などはこの後本部から皆様へメールが届くと思いますのでそちらをご確認ください。それでは、ご武運を。それと依頼主から一言、作戦領域内にウトガルドが侵入した場合、撃破すれば報酬の上乗せが約束されている、とのことです。」
そうして仲介人は壇上から降り、裏口へと通じるドアを通り消えていった。
「はぁ〜今回の依頼も随分とめんどくさそうだなぁ。俺ら傭兵をなんだと思ってるのかね。」
「捨て駒でしょうなぁ。企業にとっては目の上のたんこぶのようなものですから。」
「まぁそれもそうか。ついでに何人か始末しようって魂胆なんだろう。生意気だ。」
「ええ、全く。作戦が終わったらペイロードに直行して荒らしておきます?」
そんな、憶測と不満とジョークを織り交ぜた話をしているとき、横から声がかかった。
「あんたたちそんな想像で人に濡れ衣着せるんじゃないよ。それはそれとして、エリオット、面貸しな。」
ちょうど部屋から出るために登ってきたロゼだ。
「面貸せって?俺何したっけな…プリン勝手に食ったことか?そりゃ悪かったよ…」
「そうじゃないよ、全く。レツィーナが模擬戦したいんだと。あと食堂のプリン勝手に食ったの本当かい?模擬戦のあとアタシの部屋でCQCの訓練と行こうじゃないか。」
「ふぅ、俺はリアルファイトが苦手だから遠慮するよ。それと、模擬戦の話は了解だ。今日でもいいけどどうする?」
「明日で構わないよ。くれぐれも手を抜いたりなんてしないようにね。」
そう言ってロゼとその後ろについていたレツィーナは去ってしまった。
「ったく、手加減できる相手じゃねぇっての…」
自分の失言への後悔と、自分への過度な期待にヤケになりながらそうぼやいた。多分ガチで殺されるかも知れないなぁ。
隣にいたはずのエンケイはいつの間にかいなくなっている。薄情なやつだ…プリン食ったの共犯だろ…。