傭兵の戦場 side.A   作:舌百

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第二章
星詠みのクルセイド file.1


エリオットたちパールバティ攻略組が出発するよりも数週間前の朝。自室の机で呑みつぶれている男が1人いた。

机の上には三本の空のウィスキー瓶が転がっている。

 

「あぁ…ゔぇ…朝か?」

 

胃袋から湧き出る吐き気を抑えて立ち上がる。足取りは不安定で今にも倒れそうである。

 

「水水…。」

 

辛うじて冷蔵庫までたどり着き、無数のビールの缶の中から無糖の炭酸水を手に取る。それを一気に飲み干した。酒を割るため故の強炭酸が喉を刺激しながら二日酔いを抑えていく。

 

「ふぅ、昨日は何してたんだっけか。確かエリオットとアレクセイとバルドゥルの4人で飲んで…解散した後に追い酒したんだったな。計何本だ?えー、いちにぃさん…大体ビールが20とウィスキーを5本か…。流石に飲みすぎたな。」

 

空になった炭酸のペットボトルを手に持ちながら洗面所に向かう。洗面所は歯ブラシと歯磨き粉のチューブ、シェービング用のクリームとシェーバーのみが置かれている簡素な見た目だ。洗面台のすぐ下にあるゴミ箱にペットボトルを捨てて歯を磨く。そして顔を洗い、軽く髭を剃って洗面所を出る。まだ少し気持ち悪さは残っているが早朝特有の清々しさが身を包んでいる。着ていたものを洗濯籠に投げ、クローゼットの中から新しい服を手に取り身につける。

 

「さて朝のルーティンも終わったし…飲むか。」

 

軽く伸びをしてそう言い冷蔵庫の扉に手をかけた時、自分の端末に何かの通知が届いた音が聞こえた。

 

「なんだよこんな朝っぱらから…」

 

頭を掻きながら先ほどまで突っ伏していた机に置かれているパソコンの元へと向かい、画面を見る。それは久方振りの依頼の文書であった。かれこれ一ヶ月近く依頼が来ていなかったので流石に興奮している。メールを開き、中身を見る。

 

タイトル:依頼用文書

依頼者:ブリリアンス

本文:ミッションの説明をします。今回の目標はアルバヒスSGの本社となります。ここ数ヶ月ほどアルバヒスの中心部でなにかしらの動きが観測されたとの情報が流れ込んできました。なのであなた方傭兵にはその視察をしてきていただきたいのです。本社や工廠に接近して調査していただくだけで構いません。作戦開始は一ヶ月後となります。勿論報酬は多数お支払いいたします。良いお返事を期待しております。

対象:No17アレクセイ・ハリトン、No9バルドゥル・ローラン、No6レイラ・アブル、No3ブランドン・エインズワーズ

 

ブリリアンスからの依頼なんてこれまた珍しい。あそこは私兵を多数抱えているから基本的に傭兵に依頼なんて出さないのだ。よほどアルバヒスが怖いか、どこかへのちょっかいのために私兵を動かしている余裕がないかのどちらかだ。今回依頼に組み込まれたのは俺含めた飲み友メンツの4分の3に新進気鋭の女性傭兵レイラだ。相手が面倒くさいけどこの依頼以外に受けられるものもないので受領することにし、了承のメールを送る。そこまで凝った返信をする気も起きなかったので適当な短文で済ませる。

返信完了の表記が終わったのでパソコンの電源を落とし、今度こそビールを飲もうと立ち上がった時に扉をドンドンと叩く音が聞こえた。

 

「開いてるぞ。」

 

そう言うと扉がガチャリと開いて見覚えのある顔を覗かせた。昨日ぶりの飲み友の1人であるバルドゥルだ。

 

「よう、飲みにきたぜ。」

「ったく昨日の今日だってのによ。そういやお前、依頼見たか?」

「なんだそれ。」

 

パソコンの依頼文の画面を開いて見せる。

 

「ほぉ、まあ受けるかな。最近俺も懐が寒くなってきたし。」

「そりゃお前の浪費癖のせいだろうが。」

「そんな使ってねぇっての。」

 

そう駄弁りながら冷蔵庫から2本ビールを取って机に置く。プルタブを押し込みカシュという音とともに出てくる泡を口で軽く吸いながら一気に流し込む。早朝から飲むビールの背徳感と清々しい喉越しを合わせて飲み込むこの幸福感がやめられない。ツマミでも持ってこようと席を立とうとした時に半開きのままになっていたドアを勢いよく開ける人がいた。

 

「よう!飲みにきたぞ!ってもう始めてたか。」

 

アレクセイである。

 

「なんでお前らはこの時間にアポ無しで来るかなぁ。そしていっつも俺の部屋なのはなぜだ。」

「寝てたら叩き起こせばいいからな。あとお前の部屋しか酒飲める所ないんだよ。」

「カフェテリアでいいだろ!」

「あそこ朝昼は飲酒禁止だからよ。そして何よりお前の酒のストックが素晴らしいからな。」

「俺の金で買った酒なんだけどなぁ。」

 

そうは言いながらもアレクセイの分のビールと適当なツマミを冷蔵庫の上に置いてあるツマミ入れから取って机の上に雑多にばら撒く。

 

「てんきゅ〜。」

「アレクセイ、お前依頼はどうすんだ?」

「やるに決まってるさ。ここ最近依頼がなくて体が鈍っちまってる。」

「お前も依頼貰えてないのか。」

「俺なんかに頼むならエリオットの方がいいからなぁ。」

「そういうもんか。」

 

そのあとは最近の情勢について雑談をし、アルコールで死にかけている数少ない思考力をチェスで浪費している最中に先程アレクセイが来た時のまま開きっぱなしのドアを越えて部屋に入ってきた存在がいた。

 

「ようチーム酔っ払い。元気してるか?」

「おせぇぞエリオット。俺ら合計で12本も飲んじまった。」

「まだまだ序盤じゃねぇか。あ、一本もらうぜ。」

 

と勝手に冷蔵庫を漁ってビールを開けているエリオット。

 

「勝手すぎんだろ。ちったぁ遠慮というものを覚えたらどうだ?ええ?」

「悪りぃ悪りぃ。でも立つ手間が省けたんだから儲けもんだろ。」

「なんで渡す前提なんだよ。」

 

エリオットは缶を片手に軽く歩きアレクセイが1人で座っているテーブルから少し離れたソファに腰掛けた。ソファの前にはこっちの机から掻っ払っていったツマミが広がっているロングテーブルがある。その正面には普段はほぼ使わない大スクリーンのテレビが置いてある。

チェスの戦況は先ほどまではこちらが優勢だったが、今さっきのプレイミスでルークを1人取られてしまったのでかなりまずくなっている。今キングを守っているのはクイーンと1人ずつのナイトとルークだけである。

回らなくなった頭を使っているせいで頭痛がする。一瞬意識がボーッとしたまま指した時。

 

「チェックメイト。」

「あー…え?!ヤッベやらかしたぁ!」

「これで俺の勝ち越しだな。」

 

これで0勝22敗。俺ら恒例の酔っ払いチェスも終わりその後は適当に映画を見たりして夜11時ごろに解散になった。

 

「ふぅ、いやー飲んだなぁ。」

 

部屋には満杯までビールの缶が入ったゴミ袋が二つ並んでいた。誰も片付けていかないのである。片付けようかと思ったがどうにも体が気怠くてベッドに身を投じ、泥のように眠った。

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