傭兵の戦場 side.A   作:舌百

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神を滅ぼす英傑 file.5-1-2

 雑兵を蹴散らし、鉄鳥を落とし、道を開き続ける。エンケイよりも高い速度で前に進み、足を止めないように可能な限り敵を排除する。周囲一帯の視界が敵だらけなせいで今船体のどのあたりにいるのかよくわからないが結構進んだような気がする。

レーダーはジャミングを受けているのか、全く機能しない。こんなことなら主装甲を少し削ってでも対ジャミング装甲をつけるべきだった。

現在位置すら把握できないのは流石に少々不便と言ったところか。

先に電子戦用の機体でも壊そうかと真上を見てみるとかなりの高高度にぽつんと、旅客機的な形状をした航空機が余裕の笑みを浮かべるようにして飛んでいた。試しに真上に撃ってみるがかすりもしない。というか、当たってない。

 飛べば射程内に収められるのだろうが周囲の大群のせいで上昇ができない。できるのならレーダーなんかに頼らず飛んで目視でやる。一旦どこかに逸れればいいんだろうがそれはそれで色々ときついものがある。主に時間的猶予。解決策を模索しながらも前進を続けていると、右側前方に黒い柱が聳え立っているのが視界に入ってきた。普通に見えるじゃねぇか。と、考えていたことが無駄になったことに少し不満を抱きながらもここが好機と進路を右側にずらしていく。

 

「よしエンケイあとは任せた!俺は下段甲板のところに行って発艦機構潰してくるぜ!」

『了解です、ご武運を。』

 

 今まで走行していた3段甲板最上部から飛び降り、残骸の隙間を縫いながら海の上に出る。その時、後ろから大爆発が起こった。見ずともわかる、衛星が誘爆したのだ。振り返って見てみると火山でも噴火したかと思うほどの煙が立ち上っていた。飽和寸前のギレント粒子が大量に詰まったエネルギータンクの爆発、流石の巨大船体もぐらりと揺れた。それによって甲板の上で撃ち合っていたガネーシャのうち何機かが海に落ちた。あの機体、空中姿勢制御用のスタビライザーにまともなやつ使ってないな。乗りたくねぇぜ。

 次の爆発が起こっているのをBGMにどうやって下段に入るか考えていると自機の正面にガネーシャ射出用と思われる扉があった。さっき大量に脇から出てきていたのはここから出ていたからか。今は閉まっているその隔壁をライフルで適当に吹き飛ばして中に侵入する。

中は細い通路になっており、床にはガイドレールが敷いてある。発射シークエンスがあって正面衝突なんてしたら流石のベネフィットラッキーでも損傷が激しそうなのでなるべく急いでゴール地点を目指す。

 

 細い通路を逆走するのは滑り台を反対側から登るような感覚になる。とノスタルジックな感情に浸っていると下り坂になった。そして、進路に入ってきたのに類似した隔壁が見えた。そろそろか、とライフルを構えた時、目の前にガネーシャが現れた。

 

「どうわぁ!?」

 

 いきなりのウトガルドに流石にびっくりしてライフルを撃ってしまった。目の前のガネーシャは運悪く上半身と下半身がさよならして、すでに力を失った腰から下だけがレールに乗って俺が入ってきた方に運ばれていった。ちょうど射出のタイミングだったのか、俺もガネーシャのパイロットも運が悪いな。

 急いで閉まろうとする隔壁を増加装甲付きの脚部で蹴り飛ばして保管庫であろう内部へと侵入する。部屋の中はガネーシャが超広範囲にずらりとならぶ壮観な光景だった。これを一機一機潰していくのは骨が折れるし弾が足りないのでライフルで柱を壊して床を落とすことにした。

 いつのまにか使えるようになったマップ兼レーダーによるとこの保管庫は三階層になっているらしい。この階層のやつの柱を緩めておきつつ一番上を壊せば三段連続で落ちて一掃できるだろ。曖昧な作戦だが何せ俺は運がいい。さっきのアレはちょっとした手違いなだけだ。

 作業員らしき人間が視界の端でチョロチョロと逃げ惑っているのを見ながら柱の破壊を行う。ライフルで一発、撃ってやるだけで音を立ててひしゃげる。撃っている最中に時たま対戦車ミサイルのようなものを撃ち込まれたりもしたがウトガルドの特殊装甲には傷ひとつつかない。

 手当たり次第にトラス構造の鉄の柱を破壊した。そろそろ頃合いかと思い、航空機を上層に輸送するためのエレベーターに近づいた。先ほどのように、脚部のブースターを点火して増加装甲で扉を蹴っ飛ばす。固く閉じられていたそれは一瞬の抵抗ののちにくの字に折れ曲がり奥の壁にめり込んだ。

 中にあったはずであろうエレベーターの本体は三つ上、下段甲板のところにいる。中に機体の上半身だけを覗き込ませて片腕のライフルのトリガーを引く。機体を中に戻しておく。少しの間の後ギリギリとワイヤーが擦れる音が聞こえてきた。そして目の前を高速で通過していくエレベーターだったもの。下のあたりから金属同士が激突した音が聞こえた。

 ちょっとだけブースターを点けて役割を終えた空虚な縦穴の中に入る。一瞬の浮遊感の後真上に直立で上昇を開始した。一つ上がって、搬入の途中で壊れたと推測できる半開きの扉をライフルで弾き飛ばす。中にはずらりと並んだ航空機の数々。こちらもまた先程と同じ手順で柱を撃ち抜いていく。

 

 とりあえず目につく範囲の柱は壊したので今、この3段格納庫を支えているのは壁だけとなった。そしてここの上の段に乗っている艦載機の総重量は壁と床とのつながりだけで支えるには重すぎる。あとは適当な爆発でも起こしてやれば崩落を始めるだろう。何かいいものはないかと思い、周りを見渡すと、ちょうどいいものがズラリと並んでいた。自分だけエレベーターの中に退避しつつ、ライフルだけを出して一番壁に近い航空機を爆破させる。空対艦ミサイル装備のマルチロールだったらしく、大規模な爆発が起こった。

 これだけの破壊行動をしたんだ、計画通りに行ってくれないとちょっと面倒だが…。

俺の心配をよそに、俺に取り憑いている幸運の女神様はしっかりと仕事をこなしてくれたようで負荷に耐えきれなくなったらしくまるで地震が起こったような地響きが鳴り始めた。

陥没を始める床、艦載機たちは抵抗する間もなくその崩落に巻き込まれていく。連鎖するようにして、上の床も落ちてきた。

エレベーターの縦穴に砂煙が一気に充満した。砂煙晴れる前にさらに一つ上、下段甲板一つ下のところに上昇する。高度表示的にちょうどの場所につけたので、中に入る。先程機体の搬入途中だったので開きっぱなしになっている。砂煙が晴れた後、崩壊した格納庫が眼前に広がっていた。火の手は上り、あたり一帯は瓦礫で埋もれた。

 

 俺のやるべきことが終わりゆっくりと下段甲板のところに入る。今まで閉所に居ただけに遠くに見える空と海の青が一層綺麗に見える。上の甲板の戦闘音はすでに止んでおり、今回の依頼の終了を告げている。あとは帰投のための輸送機を待つのみとなった。

 ブースターを切り、薄暗いカタパルトの上を歩く。全てが終わったゆったりとした雰囲気に包まれながら歩いていると、いきなりオープン回線での無線が届いた。

 

『あんたたち、まだ終わってないよ!作戦領域内に所属不明部隊が来やがった!チッ、あの守銭奴どもめ…。敵数は3!方角は船体正面!一機はこっちで落とすからやり合う用意しな!』

 

そう言われ目を凝らしてみると正面遠方、距離にしておよそ10kmほどの地点に謎のウトガルドと思しき機体が三機、水面スレスレをブースターで飛行していた。その直後、自機の真上から超高速の弾丸が放たれ敵部隊のうちの右端を行く機体を吹き飛ばした。飛翔速度はマッハあるかないかくらい、かなりの高速で迫って来ているため会敵はおそらくすぐだろう。次弾を警戒したのか敵は二方向に分かれた。ロゼのスナイパーの装填速度は15秒ほどかかる、この距離あの速度ならばもう一発は撃てるがどうなるか。そう思ったが二機のうちの一機、軽量型と思われる機体がその速度を爆発的に増加させた。そして、自機の目の前に来ていた。

 

被弾した。

ショットガンだろうか、強い衝撃力で機体の動きが鈍い。回避行動を取るために敵機を見据え、バックブースターを全開にする。敵機は逆光で黒く染まった軽量機、武器はショットガンとパルスライフルだろうか。禍々しくなったミッシェルのような印象を受ける。

取り敢えず体勢を整えて引き撃ちの姿勢をとる。ブースター全開で左右に揺れながらバックする。

敵はエイムが定まらないようで放たれるショットガンの弾は壁を撃ち抜くだけにとどまっている。だがこちらも高速機動しながら追尾してくる敵を捉えられずにいる。

どうしたものか悩んでいると無線が一方的に開かれた。

 

『よぉ裏切り者のクソ野郎!ここで会えたってのは最高だなぁ!ぶち殺してやる!』

「その声、お前ロッツォ…」

『テメェが俺の名前を呼んでんじゃねーよ!』

 

攻撃がさらに苛烈さを増す。無線を切り忘れているのか息遣いや愚痴などが回線から聞こえて来る。激昂して攻撃が苛烈になったからと言って隙が生まれたわけではない。むしろその逆でこちらはライフルを撃つ暇もなく回避行動を強制される。時折明らかな隙が生まれるがそれはおそらく誘うためのブラフ。事実、攻撃が全てショットガンのみによって行われているのだ。迂闊に攻め入ればパルスガンで一気に装甲を消されるだろう。マップを確認するとあともう少し下がれば先程崩壊させた格納庫に到着するらしい。そこならば三次元的な機動が可能になる。相手にとっても有利な場所となるがここよりはこちらに利があるだけマシと言えるな。

 狙いを悟られないよう、先程と変わらぬペースで後退を行い上手いこと発艦用エレベーターの中に誘い込んだ。こちらは先ほどとは別のエレベーターで、ちゃんと形だけは残っている。ただまぁ、中身は先ほどの衝撃で吹き飛んだせいでスカスカなので踏んでやれば床が抜ける。そしてエネルギー切れを装ってブースターを切ったのに釣られた相手ごと真下に落ちた。

 

 俺は途中にあるエレベーターの入り口である扉に足を引っ掛けて中に入る。相手さんはジャイロの更新が間に合わないようで背中から落ちていったのが見えた。

 壁に手をついてブースターで減速しながら山のように積まれた瓦礫の上に降り立つ。あいつはあのまま落下したのだろうか。下にはエレベーターを駆動させるための装置があるからうっかり刺さったりするとウトガルドでも中身がショートしかねないな。そう思っていると、自機の右斜め前にある扉を吹き飛ばしながらあいつが出てきた。

 

『てめぇ…ふざけやがって!』

 

かなり頭に来てるらしい。壊れた電灯が照らす薄暗い格納庫の中で睨み合う二機、お互い少しも動けぬ緊張感が走る。

 

「なあ、ロッツォ。少し、話をしねぇか?」

『テメェと話すことなんざねぇよ。死に腐れゲスが。』

「そんな嫌わないでくれてもいいじゃないか。かつては共闘した仲だろう?」

『テメェ…んなこと抜かして生きてられっと思うなよ。』

 

 軽く煽ってやると、目の前から機体が消えた。その速度はリミッター付きのミッシェルとタメを張れるくらい。もっとも、彼女とロッツォの明確な違いはその動きの複雑性なのだが。ロッツォには機体操作に癖がある。あいつの癖は初見の相手であれば翻弄できるだろうが、タネのわかってる相手にはむしろ隙でしかない。その癖とは加速時に左にフェイントをかけることだ。超高速で行われるフェイントは最早影分身となり一瞬だけ残像を作り出す。凡人であればその分身に気を取られ、最初に左に動くのが見える人ならば左に対応しようとする。それを利用して相手の意識の外側から機体のウィークポイント、背面部にショットガン等の近接装備を叩き込む、という正真正銘の初見殺し兼一撃必殺とも言える技。マリアやロゼであればまんまと引っかかるだろうが、俺はこの技を味方という立場で幾度となく見てきた。だからこの癖に則れば敵はこちらから見て左からくる、そう思って左に機体を急反転させた時、背筋に悪寒が走り気がつけば回避行動を取っていた。急に吹かしたブースターで体勢が崩れさらに脚部を瓦礫に引っ掛けてしまったことでゴロゴロと瓦礫の上を回転する。

 

 自機が寸前までいた場所にロッツォの濃い緑色の機体がショットガンを地面に突き刺していた。右からだった。俺がその技を知っているからわざと封印したのか、真意はわからないがいづれにせよアドバンテージがないというのは少し不安になってくる。だが、慢心をなくせば次の攻撃の対処は容易だ。ちゃんと身構えておけば反応できない速度ではない。いやそれすらも慢心か。

 次の瞬間、地面からショットガンを引き抜いた敵機はまたもや機体を揺らした。精神を研ぎ澄まし、心で敵を捉える。そして、今回はこちらの方が早く引き金を引けた。こちらのライフルの弾丸が薄い装甲を引き裂く。内部が露出した軽量機は距離を取り、またもや睨み合いの体勢になった。今回はその静寂も一瞬で終わったのだが。直進で詰めてくる敵機体。ヒットアンドアウェイは不可能と判断したのだろう。超至近距離での殴り合いを仕掛けてきた。乱射されるショットガンとパルスガン。狙うことは考えず、ただ装甲を削りつつの牽制を前提としたような撃ち方だ。この曖昧な攻めもまたブラフだろう。じんわりと削られゆく装甲に対しての焦りと決定打を差し込むタイミングのない苛烈な攻撃、おまけにメアリースーの連中と戦っているという緊張感が対峙する人間のミスを誘発する。しかもこちらの攻撃は()()()()から避けられる、回避先を想定した決め撃ちにすらも対応されるという連射武器を持っていないヤツではどうしようのない相手だ。

 このまま引いて撃ってばかりいても埒が開かないので逆に前進する。敵は武装を若干外角側に撃っているので近付くのは容易だった。そして勢い余ってフルスピードで敵機体に激突した。相手も詰めてくるのは想定外だったらしく回避できずに直撃し、正面装甲を凹ませながら遠くまで吹っ飛んだ。減速に意識が向いている隙を逃さず射撃を行う。ハッとした様に左に回避を行ったようだがその動きは想定済み、予測射撃が見事命中し片腕に突き刺さった。

 静寂が場を包む。すぐ真上で撃ち合っているのだろうか射撃の音が障害物越しに聞こえてくる。やたらと重厚な音が聞こえるがメアリースー側の重装型だろうか。他のメンツの心配よりもまずは我が身だ。敵を正面に据える。ロッツォの野郎、撃たれたことで冷静さを取り戻したのか一定距離を保ってこちらの隙を狙っている。適当に牽制射撃を行いつつ、ブラフを巻いていく。だが奴は避けるだけでこちらにはこようとしない。余裕ができたのでレーダーを確認してみる。見るとこことは遠い場所でやり合っているのがわかった。今俺らがいるのが船体前方、三人は船体後方にいた。今の配置はなかなかに好機である。なぜならばロッツォが逃げて向こうと合流する確率が下がるからな、それに…。と思っているとよそ見しているのに気づいたのか詰める素振りを見せてきたのでこちらも後退しつつ射撃をしようとしたところ瓦礫に脚部を引っ掛けてしまった。

 バランスを崩すこちらの機体、隙を見つけて目の前から迫り来る必殺の刺客。勝ちを確信したことで響く怒号。

 

『トドメだ!このクソがぁ!』

 

ショットガンを突き出して敵機の指が引き金を引こうとしたとき、右側の壁が消し飛び敵と自機の隙間を大口径なガトリング砲の弾が通過して反対側の壁に穴を開ける。

 

「ナイスタイミングだぜエンケイ」

『全く、狙ったんでしょうに…間に合わなかったらどうしていたのですか?』

「まあそんときはそんときだ。さて、とロッツォ君、2対1という絶望的な状況だがどうする?」

 

三角形状に立ちながら睨み合う三機。

 

『んなもん決まってんだろ!テメェら全員ぶっ殺して…あんだよ。』

 

啖呵切りの途中でいきなりテンションが駄々下がりしている。

何事か少し構えるがすぐに無意味と化す。

 

『チッ、今日のところは見逃しといてやる。だが次会った時は確実に殺してやるからな。』

 

そう言い残して敵機は姿を消した。そう、撤退したのだ。

 

『追撃しなくてもいいのですか?』

「まあ、いいだろ。よし、上の支援にでも…」

『それなら要らないよ。』

「ロゼ?!聞いてやがったのかよ…」

『こっちも今連絡しようとしたのさ。何でだかはわからないけどいきなり撤収しやがってね。』

 

そうだったのか。メアリースーが途中でミッション放棄、あり得ない話じゃあない。強力な敵が現れれば撤退する。そういう組織なのだ。だが戦闘力的には互角だった。撤退する意味はあったのだろうか…?そんな疑問が頭に浮かんできたが

 

『周囲に新たな敵反応はなし。つまるところミッション完了だ。お疲れさん、あんたたち。』

 

そんなロゼの通信によってまあ、いいかとただミッションの完了を喜ぶことにした。




待たせたな。

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