傭兵の戦場 side.A   作:舌百

8 / 11
神を滅ぼす英傑 file.5-2-2

始まりからどのくらいが経っただろうか。詳細はわからないが文字通り無数の機体を消し炭にしたところで不意に後ろが気になった。なんの脈絡もなかった。完全なる直感だ。後ろを見ている暇があれば眼前の敵を撃滅することに集中すべきである。だが無視してはいけない気がした。チラッとだけ、一瞬だけ目を外した時、自分たちのいる後方で衛星発射装置が蓋を開き、天に向けて支柱を伸ばし始めていたのが見えた。瞬時に無線を開き、通信を入れる。

 

「おいエンケイ!今すぐ船体後方に向かいな!衛生発射装置が動き始めた!」

 

エンケイの方を向かずに指示をする。あいつのことだから返答がなくても仕事をするだろう。だがタンク1人では速度に問題ありになる可能性がある。誰か支援に向かえればいいのだが…そう思った時エリオットから通信があった。

 

『すまん、3人でここを押さえてくれ。俺はエンケイの支援に行く。』

「ああ、頼んだよ。」

 

ちょうど頼もうとしていたところだ。その手間が省けたのは丁度いい。今この場にいるのはレツィーナ、マリア、そして自分の三人だ。対大量兵器に優れるエンケイと対ウトガルド戦に優れるエリオットを失ったのは少し痛手ではあるが敵の性能的にこの3人でも十分に対処可能だろう。

だが後方支援という形では流石に殲滅が遅れるので逆関節機体の利点を生かした高速機動戦闘を行うことにした。今まで砲撃を行っていた高台を蹴り、対岸側の柱の上に移動する。移動している間に6発のクラスター砲弾を射撃した。それらは狙い通り敵機の首元に命中して爆発し、その後爆発の奔流は機体を貫いて後ろに控えていた数機をも誘爆させた。これを繰り返していけば終わるような気がしたが、まだまだ後続が大量に控えているのが視界に入り、気を引き締め直す。引き締め直し、前を見据えると無数にいたはずのウトガルドが幻覚を見ていたかのように跡形もなく消えていた。あったのは未だに熱を帯びたままの焼き消された残骸だけだった。頭が理解を拒んでいる。

 

「なんだい…これ…。」

『遅くなってごめんなさいね?ようやく右腕の子のチャージが完了したのよ〜。』

「ああ…そういう…。まだ多分いるから気を抜くんじゃないよ。」

『は〜い。』

 

全くもって酷いものだ。敵にも誇りや矜持、各々の家庭などが多数あっただろうに、こんなゴミのようにまとめて焼かれるなんて。今の一薙で甲板上に出ていたウトガルドは壊滅した。だがまだ航空機はいるし、格納庫にもまだまだウトガルドのストックはあるだろう。前は2人に任せて、自分は対空に専念することにする。ちまちまと二十機くらいを落としたとき、船体後方で大爆発が起こった。衛星発射装置が吹き飛んだ音だろう。エンケイはしっかりと仕事をしたようだ。これは私もうかうかしてられない。さっきから下の方では二人が暴れ回っているし。このままだとキルスコアが最低になりかねないのでちょっと無茶をすることにする。

ブースターを一気に吹かせて跳躍。これによって、敵機の飛んでいる高度まで到達した。バックブースターとメインブースターを右左で同時に起動し高速で回転を始める。そして弾倉に入っているクラスター弾14発全てを辺り一帯にばら撒いた。着地して真上を見上げると、空は少し赤みがかった黒い雲が覆い尽くしていた。直後無数の黒いものが降り注いだ。戦闘機の破片だ。空は不明瞭となっているためこの状態ではロクに爆撃もできないだろう。ウトガルド側の増援を排除することにする。

下に目線を向けると先程よりも上半身の消し飛んだ残骸が増えている気がする。自分の一瞬の跳躍の間に二射目を放ったのか。本当にふざけてる兵器だ。そんなことを思いつつ装填しようと弾薬庫に手を伸ばすとクラスター弾が切れたようだ。仕方ないので通常弾に切り替える。爆発が使えなくなったせいで殲滅力が大幅に下がっている。通常マガジンの装弾数は25発、改めて見るとスナイパーというよりはライフルに近い趣を持つ武器だ。高台で軽く狙撃体勢をとり、敵機の胴体部分を撃ち抜く。入射点の延長線上には絶賛フル稼働中のエンジンと武器腕用のエネルギータンクがある。そして、25機全てがとてつもない爆発を起こし消滅した。ついでに近くにいた奴らも崩壊した。

近くに爆弾が落ちてきたので、ふと空を見上げると先程の暗雲は綺麗さっぱり消え、太平洋特有の青空が広がっていた。どうやら今日は風が強いようだ。そして空には生き残りの数機が諦めずに旋回していた。そんな奴らを落とそうと片手でライフルを握り、昔見たロボットアニメの一シーンのように片手を上げて見ずに射撃をする。すると敵機の残骸がボロボロと大量に落ちてきた。下を見ると今度はウトガルドはいなかった。なぜだかはわからないけど…そう思ったすぐに地震のような揺れが体を襲った。しかし、十数秒ほどで止まった。津波が見えない以上地震ではないのだろうけど、かと行って何が原因かもわからない。いや、一つ心あたりがある。エリオットだ。

 

『今の…何かしら。』

「多分エリオットじゃないか?おそらく格納庫でも潰したんだろう。」

『なるほど。今回のMVPは彼かしら。』

「だろうね。ケッ。」

 

回線を閉じる。ようやく今回の仕事が終わった。

 

「ふぅ…。」

 

深く息を吐く。モニター類を全て遮断し、視界に映るのはレーダーなどのディスプレイの光のみでそこ以外は黒く塗りつぶされている。目を閉じ椅子に深く腰掛けて、思案する。ずっと感じていた何かは結局訪れなかった。ここ最近のペイロードの不祥事から過敏になり過ぎていたのだろう。これでミッションは終わり。あとは回収を待つだけである。

皆に労いの言葉でもかけようかと通信機に手を伸ばしたその時ズキリと頭に痛みが走った。

 

「…っ。」

 

疲れからだろうか?目を開けて体を起こす。そして不意に視界に入ったレーダーに、本来ありえないものが映っていた。

3機の敵性ウトガルド反応。

急いでモニターを起動し、無線機を雑に手に取る。

 

「あんたたち、まだ終わってないよ!作戦領域内に所属不明部隊が来やがった!チッ、あの守銭奴どもめ…。敵数は3!方角は船体正面!一機はこっちで落とすからやり合う用意しな!」

 

距離はおよそ10キロほど。まだギリギリ背面スナイパーキャノンの有効圏内である。セーフティを色々とすっ飛ばして急いで展開を行う。機体前方に持ってこられたソレを雑に手に取ってサブカメラに接続する。コックピット内に取り付けられたサブカメラ直結のヘッドギアを装着して狙撃体勢に入る。

とてつもない速度で迫ってくる3機はそれぞれ中量、軽量、重量の三種類。機体は黒の塗装と少女を模した真っ赤なエンブレム。噂には聞いていたメアリースーそのものだ。となればまず落とすべきは、重量機。熟練度が我らと同等以上となれば一番厄介なのは火力と耐久力に優れる重量機と言える。

大雑把ではあるが弾着予測を済ませて一撃、引き金を引く。レールガン方式で射出される砲弾は音を置き去りにし、射出を視認してから数秒後に機体の脇から駆け抜ける音が聞こえた。射出から2秒後ヘッドギアの視界に変化が生まれた。重量機のカメラアイが吹き飛んだのだ。狙い目は首筋からコックピットにかけてだってのだが風の影響で少し弾道がずれてしまった。

トドメといかなかったのは残念だがこれで一機は撤退させることに成功した。敵機との距離はおよそ3キロ、接敵まで十秒足らずだろう。

2機を相手取るのは少し厳しいものがある、と思っていると軽量機の方が下段甲板の方へと侵入した。下の方から銃声が聞こえてくる。下段にいたのは、エリオット。少し耐えてもらうことにして我々3人で中量機を爆速で片付けることにする。

と、背面スナイパーを格納して機動戦に移行している時に不明な回線からの通信が届いた。

 

『初めまして諸君。早速で悪いのだが、殺されてくれると嬉しい。』

 

次の瞬間自機の目の前、モニターに胴体だけしか映らないほどの距離に機体が映ったのが視界に入り反射でバックステップする。

今の今まで自分がいたところにはあの刹那でありながらも二百近い弾痕が残っていた。もし反応が遅れていたらと考えるとゾッとする。

 

『ほう。避けるか、デアフライシュッツ。的当てだけでなく狩りにも造詣が深いとは。』

「無駄口叩いてんじゃないよ!」

 

四発のほぼ同時射撃。だが当たったのは一発、ほんの少し機体を掠めただけにとどまった。だが奴は今飛んでいる。瞬間的に背後に周りこんでいたのはレツィーナだった。彼女の攻撃を回避するには無理のある体勢だ。圧倒的な速度で背後に回ったショットガンが中量機の背面を穴だらけにする…はずだった。その射撃すら敵機は無理矢理なブースター機動で回避し甲板の上に着地した。

 

『ブラボー、素晴らしい連け』

 

話を遮るように熱線が相手のいる場所を撃ち抜いた。だがそれすらも最小限の動きで回避され致命傷を与えるには至っていない。

 

「チッ、厄ネタはこっちの方だったってことかい…。」

『お姉ちゃん、私が撹乱するから援護お願い。』

「任せな。」

 

レツィーナは発言通り高速で敵機に貼り付いた。武器と武器がぶつかり合うほどの圧倒的なクロスレンジ、この距離での戦闘でレツィーナと渡り合える者など世界で見ても片手で数えるほどだろう。もちろん中量ニ脚機などで対処できるはずがない。しかし眼の前にいる黒い機体は器用にすべて避けていたのだ。ショットガンも、乱射されるエネルギーマシンガンすらも。さらに言ってしまえば敵機の両腕に握られた短砲身のガトリングによる的確な迎撃によってレツィーナの機体は徐々に削られていっているのが目に見えてわかる。だがそれでも目の前の高速機に専念しているはずの今が好機。そう思い、スナイパーライフルの引き金を引く。

一瞬、赤く光る双眸がこちらを睨むと、一発だけこちら側への射撃が行われた。そしてその弾丸はすでに放たれた亜音速の砲弾に命中した。

 

「は?」

 

あまりにも現実離れした光景に素っ頓狂な声をあげてしまう。弾と弾の跳弾、静止して狙うだけでもとてつもない難易度を誇る魅せ技を実戦で、それも世界トップの高速機の相手をしながら行うなど人間の所業ではない。そして、弾かれた弾はあろうことかレツィーナの方へと飛んでいっている。声を出そうにも間に合わない。

当たると思った瞬間にレツィーナのいた場所の少し後ろをエネルギー弾が通り過ぎて行った。今にもあたろうとしていた弾丸はそのエネルギーに消滅させられた。

 

『危なかったわね。』

「あ、ああ助かったよ…。」

『切り替えていきましょ、撹乱くらいなら私にもできるわ。』

 

そして戦線に今までは支援に徹していたマリアも参加した。

 

『ふむ、デウスエクスマキナにデアフライシュッツ、エリスまでとは。流石に同時に相手取るのは大変だな。』

 

そう言うと、黒い機体は一気に海上まで後退してから船体後方へと移動を開始した。

 

「逃げんじゃないよ!」

 

残り弾倉の21発を連射するが一発も掠らない。即座にレツィーナが高速で追撃を行う。だがそれが悪手と気づいた時には遅かった。逃げていたはずの相手は高速で反転し、両腕のガトリングを一斉に放っていた。

 

「レツィーナ!」

 

気づいて叫んだ時には彼女の機体は蜂の巣になっていた。右腕は吹き飛ばされ左足は膝から下が千切れていた。だが、射撃から一秒もかからない程で彼女の機体はとてつもない速度で回避をした。

 

『ごめん、お姉ちゃん。使うね。』

 

その宣言をして一瞬の静止ののちとてつもない光をブースターから放ち始めるレツィーナの機体。全身に穴が開いていることからそこからエネルギーが噴き出している。あれこそ、レツィーナの二つ名が天使の理由、オーバーロードだ。あれならば確かに速度で上回ることができる。だがバランスが崩れている上に各種装甲が消し飛んだ状態での起動はかなりの危険が伴う。制止しようと声を上げる前に、彼女は視界から消えた。

次に現れたのは敵機の背後。残された左腕のショットガンを背中に突きつけ、射撃。

 

『なっ…これは、想像以上だ。』

 

敵機は至近距離で全弾受けたことでバランスを崩した。その隙を見逃さずマリアのレーザーと自分のスナイパーによるクロスファイアを決める。着弾時の巨大なエネルギーによる爆発が起きる。完璧な連携、絶対に直撃した。

しかし煙が起きたところにいたのはほんの少しの傷がついた例の機体であった。

 

『なるほどこれは…。今日のところは撤退させてもらおう。』

 

敵機が立ち止まり、踵を返して船首の方へと加速を始めた。

 

「なんだったんだ…今の…」

 

この場にいる二人とも呆気に取られている。レツィーナは気絶したのだろうか応答がない。我に返りエリオット達に無線をつなごうとしたとき、回線がオープンになった状態で通信が聞こえた。

 

『追撃しなくてもいいのですか?』

『まあ、いいだろ。よし、上の支援にでも…』

「それなら要らないよ。」

『ロゼ?!聞いてやがったのかよ…』

「こっちも今連絡しようとしたのさ。何でだかはわからないけどいきなり撤収しやがってね。」

 

本当にいきなりの撤収だった。意図は不明だが帰ってくれるならそれはそれで良い。周囲に敵反応はなし、これでミッション完了だ。

 

「周囲に新たな敵反応はなし。つまるところミッション完了だ。お疲れさん、あんたたち。」

 

通信を切り目に手を当てて思案する。

 

「なんなんだい…この胸騒ぎは。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。