家出少女の破天荒   作:三なのです

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家出

家出!

 

それは一度は皆が考えたことのある物。

 

家出!!

 

それは実行しようと予定だけは立てるもの。

 

家出!!!

 

そして、大体家出前に『あ、これ無理だわ』と悟り諦める物――。

 

 

だが!ここにそれを実行した者がいた!それは誰か!!

 

 

「――私だぁぁああ!!」

 

 

天高く響く絶叫。快晴の蒼天に吸い込まれて行くそれは、私の意思を広々と伝えていた。なんかお日様が気持ち良い!

 

そう。今日私は『家出』をした。お家の使命とか『貴族』の責務とか知ったことか!

 

私は自由に生きるのだー!

 

誰にも知られず、密かに姿を消す……ふふ、これぞミステリーガール……。

 

「あ……SNSで報告だけしとこっ。……『家出ナウwww』っと」

 

ポケットから『魔導力学』とやらの技術の結晶、魔導伝導通話装置――通称『魔伝(までん)』を取り出すと、私はスムーズにその言葉を投稿した。

 

さて、やるべき事も終えたし、さて……。

 

「……行くか」

 

「――どこへですか?」

 

ん?おかしいなぁ……声が聞こえたぞ。たまにあるんだよな、誰もいないのに声だけ聞こえるとき。

無視して歩き出そうとすると――ポン、と肩へ手が置かれた。そちらを向くと、無駄に美人なメイドさんが笑顔で突っ立っている。透いた銀色の髪に、赤い瞳。逆行のせいか、その瞳は悪魔のごとく爛々と煌めいているように見えた。

 

あははー、おっかしいなー?誰もいないはずなのに。

 

そんな私の心の声は無視された。肩へ置かれた手の力が強くなる。

なんて世界は非情なのだろう。幻聴だけが私の鼓膜を揺らし続ける。

 

「ど!こ!へ!行くのですか!」

 

「……ん」

 

「はい?『……ん』?なんですか、その腑抜けた間抜け声は?」

 

「――んぎゃぁぁあ!!!」

 

秘技!取り敢えずはしたない声を上げれば驚いて隙が出来る戦法!

 

「あっ――」

 

「甘いねフィネア!」

 

一瞬手の力が緩んだその隙に、私は高校の魔導祭で一位をかっさらった技術をフル活用。体を捻り前傾姿勢へ倒れ込む。同時、ちょっとバックが当たってフィネア後ろへよろめいた。申し訳ないが、今はそんなの気にしてる場合ではない。

肉体強化を重ねに重ね――全力で飛び上がる。

 

瞬間、景色が一変した。沸き上がる昂揚感に、撫でる風。ふっ、気持ちが良いぜ……。

 

靡く髪を払いのけながら左へ目を向けると、眼下にはでけぇ屋敷が……私ん家だな、うん。なんか皆総動員されてなにかを探しているようだ。

花瓶をひっくり返し窓の溝に目を凝らして……大惨事だな。一体何とかくれんぼをしているのだろう。

 

……まさか私が窓の溝に隠れるびっくり生物なわけないし。

 

「――お嬢様」

 

と。後ろでフィネアの声が聞こえた。滞空時間はとうに終えようとしており、そろそろ地面へ着地しようと言う頃。

数百メートルはあるのに声が聞こえるなんて――ああそうだ、まだ制御出来なくて聴覚も強化――いや、確か五感の強化は肉体強化では行われないのでは?

 

そんなことを考え、右手から地面へ軟着陸をする。

 

「私が昔からお転婆だって言われ続けていた、リラお嬢様の専属に当てられたのはなんでだと思います?」

 

「…………え?……美人だから?」

 

私は昔から美人を好む傾向があった。ちなみに最近の私のイチオシは配信を頑張っている『彩色(あやしき)人間(ひとま)』ちゃんだ。とあるアイドルグループの一人だが……まあ、そんな人気はない。そもそもマイナーグループなのもあるんだろう。

 

それはおいておいてだ。顔の良い女は良い。そう思わんか?

 

そんな私の考えを理解していたのか、初めてフィネアは口許に弧を浮かべる。

 

「ふ、ふふ……お嬢様は私を怒らせるのが得意なご様子で。……お嬢様、私知ってるんですよ?実は私、お嬢様のプライベートも独自で調べてるんですから……」

 

「――ふぇ……フィネア?もしかして、私の購入履歴とか……」

 

あんまりな台詞に、思わず変な声が漏れる。そして、恐る恐る聞いた質問は私に理外の恐怖を植え付けた。

 

「――はい」

 

バッグに眠る魔導列車への切符が、びくりと震えた気がした。なんかチケットが独りでに飛び出しそうな危機感を覚えながら、バックを後ろにネアと向き合う。

 

これまでにないほど満面の笑みのネアが、瞳に映った

 

「ひぇ……」

 

「――お嬢様、ゲームをしましょう」

 

「……ま、まあいいけど?」

 

ぷるぷると震えながら返事をすると、フィネアはさらに笑みを深くし、言った。

 

「ご安心を。単純です。単純。ただ、お嬢様が捕まらなければ良いだけなんですから」

 

捕まらない、捕まらない……?フィネアが楽しそうにこちらを見遣るが、私は困惑に包まれていた。

 

「ええと、それは私に有利過ぎない?」

 

だって、私達『貴族』と呼ばれる連中は魔術の才能が揃いも揃ってなんというか、『酷い』のだ。魔力量もそうだし、なんなら血統魔術とか言う基本チート性能の特別製魔術も持ってたりもする。

 

それを相手に、単なる鬼ごっこ?

 

「……ああ、いえ。大丈夫です。これは対等な勝負ですよ」

 

一瞬不思議そうに首をかしげると、だが。フィネアはすぐに納得したように手を打ち鳴らした。私はそれを疑問に思い、どう言うことか尋ねようとするが――。

 

――そこで、もう一人が現れた。

 

「――全く……いつもいつもお転婆で困ります」

 

黒服をまとった、丁寧な雰囲気を纏った、だがどこかその姿に違和感のある壮年の男。それがフィネアの隣に立っていた。

我が家の使用人の纏め役たる執事を預かる彼は、仮にも貴族の血を引く者らしく、同時にそれが嘘ではないらしいことは私が身を持って知っていた。

 

灰色のオールバックの髪に、鈍く輝く青色の瞳。思わず喉をならす。

 

「げっ……じゃ、じゃあ取り敢えず私は――ひえっ」

 

またしても肩が捕まれていた。なんの恨みがあるんだ!肩に!

 

「お嬢様、そろそろ落ち着いてくれると私共としても――む」

 

肩に置かれた手を掴む。そのまま私は――ただ全力で肉体強化を行った。

 

「おんど――りゃぁぁぁぁあ!!!」

 

「――ッ!これは!お嬢様、落ち着いて下さっ――」

 

そして制止の言葉を完全に無視して、そのまま執事――ヴァイスを地面へ叩き付けた。瞬間、爆音。

土埃を巻き散らし、地面へへこみを作り出す。

 

流れるように体を起こす。どこか感心したような顔を浮かべているフィネアを認めると、そのまま反転。すぐさま体勢を整え、私は勢いのまま地面を蹴りつけた。

 

「――じゃ、アデュー!ヴァイス!フィネア!!私は自分で世界を見るのだ!……お父様には謝っといて!!」

 

空に浮かぶのは、滞空は一瞬。私はそのまま魔力を放出し――空高く舞い上がった。勿論魔力障壁は忘れない。一回酷い目見たんだ……。

 

数秒で眼下のフィネアと、立ち上がりかけているヴァイスは豆粒ほどの大きさになる。……ひえっ、なんでもう立ち上がってるんだ。

手加減してないし途中で引っ張りあげて受け身を取りやすくする、いわゆる『柔道』の相手への思いやり的なあれもゼロ。やると大体即死か失神まではいくのに……怖い。大人怖い。

そのまま規定飛行高度とやらを越さないように調節すると、前方へ。

 

……さて、逃げたは良いがどうしよう。

 

この飛行方法、出力強い移動も速い、出も早いと良いことづくしだが、世間一般に使われないのは勿論理由がある。

これ、魔力使いすぎてヤバイことなるからさっさと着地しなきゃいけないのだ。持ってあと十分だろうか。

 

「……ヤバいかも」

 

風を掴めると多少消費は減るんだけど…………――あ。

 

「そうだ」

 

――これは名案だ。

 

ニヤリと笑む私の脳裏には、一人の人間の顔が結構などアップで写し出されていた。

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