赤い星座出身系主人公モノ   作:シグこれ

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九話

「お腹すいた」

「…………」

 

 開口一番がそれか……。

 

 結局、待てと言われた通りその場で柵にもたれかかり、ボーっと景色を眺めながら素直に待機していたワケだが、ふと気が付けばいつのまにやら太陽は頭の先しか見えず、グラウンドで活動していたクラブは既に引上げ、街には灯りがともり始めていた。

 

「三十秒どころか三十分くらい経ってないこれ? 声かけるの遅いよ」

 

 先程と変わらず少し離れた場所にいるフィーへ近づきながら言う。

 

「まったく、いつまでジッとしてるつもりなのさ」

「そんなに経ってないし、ちゃんと三十秒かからず復活したよ?」

「そうなの? 今まで何してたんだよキミ?」

「ずっとレイを見てた」

「なぜ声をかけないんだ……」

「いつになったらシビレを切らすかなって」

「…………」

 

 いや本当に気付かずボーっと景色ばっかり眺めてた僕も僕だけどさあ。

 楽しいの?

 それキミも辛くない? 

 現に自分がシビレを切らしてるし。

 お腹すかしてるし。

 

「やれやれ、レイで遊ぶのも楽じゃないね」

「……随分調子が戻ってきたじゃあないか。なんだよ。さっきまでしおらしかったくせに、さっきまで弱気だったくせに」

「ん、レイのクサすぎるセリフでちょっと身動き取れなかったけど元気になった」

「おいやめろ。クサいとか言うな」

「『誰にも譲らない僕の、僕だけの――』」

「なんだろう無性に空を飛びたくなってきた」

 

 それ以上続けたら僕は今すぐ死ぬよ? 頭から行くよ?

 真剣な言葉をいじるのはよくないと思う。

 元気になったって言うなら恩を仇で返そうとしないでください。

 

「風の妖精だから空気の淀みには敏感なんだよね」

「はいはい西風の妖精(シルフィード)西風の妖精(シルフィード)。痛々しいなあ、自分で妖精とか言って恥ずかしくない?」

「別に。わたしがつけたワケじゃないし」

「そうだけどさあ」

 

 先代の名を襲名したりする場合もあるが、基本的には戦場で強さを示して名を上げると誰もかれもが勝手にアダ名をつけていって絶妙なモノが浸透していくのが異名。

 たまにそれ悪口じゃないの? って言いたくなるようなモノもあるが、大抵はなるほどと思える名前が多い。

 なんだろう、名付け職人でもいるのだろうか。いやそういう職人がいるのかすら知らないが。

 ……姓名判断士? それはまた違うか。

 いささか、と言うよりは、結構な疑問である。

 

「まあキミ可愛いし、全然名前負けしてないからいいけどね」

「そう?」

「あはは、ぴったりだと思うよ」

「サンクス。レイのもぴったりでいいと思う」

「……サンクス」  

  

 お返しのつもりで褒めてくれたんだろうけど。

 僕のはぴったりと言われて素直に喜んでいいものやら。

 悪口ではないと思うけど、色々誤解を生みやすいと思うんだよな……。

 でも確かに間違ってはないというか、一言で表してるというか……。

 うーん、難しい。

 と。

 僕が少々複雑な思いに悩んでいると、どこからかきゅるるとなにやら切なげな音が聞こえてきた。

 どこからか、と表現を濁してはいるが、この場にいるのは僕達二人だけであり、ほかには誰もいないのであって、言わずもがな、僕等のどちらかなのだが――

 

「だから、お腹すいた」

「それもそうだよね。いまさら腹の虫くらい聞かれてもなんともないよね」

 

 一応気をつかってはみたが、よくよく考えてみれば公園のベンチで堂々と横になって寝るような娘だった。

 今日の夕飯は学食で済まそっか、と僕が言うとフィーはこくりと頷く。

 日が暮れるとさらに冷え込んできた事もあって、そうと決まればさっさと行こうと僕達はようやく屋上を後にする。

 わざわざここで無駄話を続ける必要もないのだ。

 逢引でもあるまいし。

 

「で、なに悩んでるの?」

 

 階段を下りながらフィーが言う。

 

「目ざといなあ、別に悩むってほどじゃないのに」 

「変な顔してたから」

「変な顔って……」  

「変態な顔してたから」

「なんで悪意を足したの?」

 

 別にいやらしい事など考えてはいない。

 しいて言うならフィーの冷たくなったであろう太ももを、頬擦りで暖めてあげたいと思ったくらいだ。

 

「フィーはぴったりって言うけれど、僕としては色々、微妙なんだよなあって。せめて兄さんみたいに『赤』の文字が入ってればいいのに」

「レイのお兄さん……『闘神の息子』?」

「赤の文字はどこにいった。大体それは僕の事も指すからね? 『赤い死神』の方だよ」

 

 ちなみに叔父さんみたいなのでも可。

 

「つまりレイは赤い~みたいなのがいいんだね?」

「まあ……そうかな?」

「じゃ、赤いコオロギ」

「赤いコオロギ!?」

 

 気持ち悪っ! どこから出て来たのその発想!

 ていうかなんでコオロギ!? 僕の要素が欠片も入ってないんだけど!?

 威圧感も感じないしむしろすぐに踏みつぶされそうなんだけど!

 

「や、語感が似てるから」

「ちゃんと意味も考えてよ……」

「割と似合ってる」

「似合ってないわ!」

 

 蔑称もいいとこじゃないか。

 それならまだどちらとも取れる今の方がマシだ。

 断然に。

 

「そういえば、別に蔑称って言うつもりじゃないけど」

 

 フィーは言う。

 

「レイのはどっちかって言うと『血染め』と同じ感じだよね」

「…………」

 

 僕としては即座に、徹底的に否定したかったのだが。

 真に遺憾ながら、本当に遺憾な話ながら、そう感じてしまっている自分がいるのもまた事実であった。

 甚だ遺憾である。

 ……そしてそれが微妙に思う一つの要因でもあったりする。

 

「話した感じ結構似てるし」

「はあ!? どこが――!」

 

 って。

 話した感じ?

 

「え、なにキミ、アレと話したことあるの?」

「まあ」

 

 あの一騎打ちを見届ける少し前に色々あって、とフィーは肩をすくめて言う。

 なにそれ聞いてないんだけど。

 いや聞きたくもなかったけど。

 

「実はその前からも何度か突っかかられて戦った事がある。理由は知らない」

「……とりあえず、生き延びれてよかったねと言っておこうか。とにかく気まぐれな人だからなあ、表と裏の落差が激しいというか――二面性があるんだよ」

「みたいだね。そういうとこ似てる」

「あんなのと一緒にしないでよ。僕は裏表のない素直な男だよ。それで、なに話したの? あの人の事だからどうせ、くだらない話だったでしょ?」

「レイが自分をくだらないって思うならそうなるけど」

「なんで僕について話してるのさ……」

 

 もっと話すべきことはあるだろう。一騎打ちの勝敗の行方とか。

 まあ、ただの雑談だと思えば、共通の話題の一つではあるから不思議ではないのかもしれないが。

 そもそもなんであの状況で敵と雑談してるんだよ、自由気ままにもほどがあるだろ。と言う両者への文句はひとまず置いといて。

 他人の会話で自分がネタにされていたというのはあまり気分のいい話ではない。

 それがアレとフィーの間でだと思うとなおさらだった。

 

「なんか色々聞かされた。あの人も結構なブラコンだよね。そこも似てる」

「おぞましい事言うのやめてくれないかな? あと僕はブラコンじゃない」

「ブラコンじゃないの?」

「違う。兄さんが大好きなだけだ」

「……ブラコンじゃないの?」

 

 違うんだってば。 

 

「それにしても、やけに毛嫌いするね。仲悪い?」

「……別に。悪くはないし、嫌いでもないよ。ただちょっと苦手なだけさ」

「なんで?」

「なんでって……」

 

 一個上なだけの癖してやたらお姉さんぶってくるとか、所構わずベタベタひっついて来てうっとおしいとか、しょうもないイタズラを僕へ仕掛けてくるとか、暇だからってだけでいきなり攻撃してきたりとか。

 少し考えるだけで様々な理由とその時の情景が、すぐさま脳裏に思い浮かぶ。イラつきを共にして。

 とにかく自身の欲求に忠実で、周りを振り回す人なのだ。そしてその欲求の被害をこうむるのが大体僕なのだ。意味がわからない。 

 

「……んー」

 

 と、言っても。

 実を言えば、それらは全て許容範囲内――とまでは言わないが、僕が彼女――シャーリィを苦手としている決定的な理由にもなりえない。

 誤解を恐れず言えば。

 僕は、そんな彼女の事が嫌いではなく。

 家族であり。

 特別の一人でもある彼女の事を。

 むしろ好ましく思っている。

 だったら僕が感じる、少しばかりの忌避や嫌悪の感情は、どこから由来するのだろうか――

 なんて。

 

「同族嫌悪――みたいなものかな?」

 

 受け入れた者と、受け入れきらない者。

 本当に裏と表があるのは、果たしてどっちなのやら。    

 

      

 

 

 

   

 

 

 

 

 その後、僕達は本校舎を出ると、正面から見て右側に隣接する学生会館へと足を進め、一階に設置されている学食に向かう。

 僕達と同じ目的で溢れかえる生徒を煩わしく思いながらもしっかりと注文を済ませ、料理を受け取り(さっぱり伸びない身長から、よく大盛りにされる。大きなお世話だ)、確保していた席で少し早めの晩御飯をいただくと、さっさと帰路につく。

 お互いだらだらとくっちゃべって食べるような事はしないのである。

 

「あんまり食べ過ぎるといざって時に動きが鈍るんだけどなあ。毎度毎度、ありがたいけどありがたくない」

「だったら早く背を、わたしより小さいその身長を伸ばせばいいよ」

「なんで細かく言ったの? なんで他人のコンプレックスを刺激するの?」

 

 ていうかそれ、ほかでは絶っっっ対言わないでよ? 

 パッと見は全然変わらないんだから。

 言わなきゃバレないんだから。

 

「ま、男扱いされてるだけいいんじゃない?」

「ぬう、そう言われるとあの行為も嬉しく思えてきたから不思議――っと。ただいまー」

 

 そう言って僕は、僕達Ⅶ組の生徒だけが住む第三学生寮の扉を開ける。

 Ⅶ組に入ってよかったと思える事の一つは、この専用の学生寮だろう。

 通常であればⅠ、Ⅱ組の貴族生徒は第一学生寮に、Ⅲ〜Ⅴ組の平民生徒は第二学生寮と、クラスと同じように決まっているのだ。

 まあ、学院のすぐ近くに建てられた二つの寮とは違い、元は空き家だったのを改装し、大きさも少しばかり小さく、トリスタの隅っこの方に在るのだが。

 ついでに寮を管理する使用人とかメイドとか寮長さえいない(第一学生寮は使用人とメイドがたくさんいるらしい)。

 それでもⅦ組設立に合わせてわざわざこんな少人数の為だけに寮を一つポンとあてがうトールズ士官学院はなかなかに太っ腹であると言える。逆に言えば、それだけ期待されているという事なのだろうけど。

 

 とにかく本当なら僕は今頃、多くの有象無象に囲まれて生活していたはずなのだ。

 それがたとえ、どれほど取るに足らない存在であったとしても、やはり精神的に多少は辛いものがあったと思われる。

 普段は気にも留めない、視界にすら入らない子バエが自分の周りを四六時中飛び回っていたら疲れるという話。

 いくら僕の視野を広げる為の学院生活と言えども、一応二年はここで過ごす予定なのだ。

 自分の拠点くらいは落ち着けるようにしたい。

 どんな強者であれ、休まず戦い続けた結果は死、あるのみ――なんて、それはさすがに例えが大袈裟過ぎるけれども。

 そう考えると、少人数で割と立派な寮で暮らせるのは本当によかった事である。

 Ⅶ組でよかった事ランキング堂々の二位に入る快挙である。

 だからと言うか、自然、この扉をくぐる度に、心が少し浮き立ってしまうのだ――

 

「んぐっんぐっんぐっ、プハー! あ、おっかえ――」

 

 扉を閉める。

 バン、と結構な力を込めて閉める。

 

「…………」

「? なんで閉めたの? そんな目頭揉んでないで早く入ろ?」

「ああごめん。なんか目が疲れたみたいで辛くってさ。ほんともう、急にね。すごい勢いで疲れてね」

 

 半開きですぐさま閉じたからか、僕の後ろにいたフィーには中の様子が把握できなかったようだ。

 ……いや、もしかしたら僕の見間違いなだけで、本当は何もなかったから不思議に思ってるのかもしれない。

 とりあえず、もう一度開けてみる事にする。

 

「ちょっと、人の顔見て扉を閉め」

 

 そっと閉じる。

 

「…………めんどくさい」

「それはわたしの決めゼリフ」

「決めゼリフだったんだ……」

 

 ただの口癖かと思いきやそこまで昇華していたとは――じゃなくて。

 

「驚愕だよフィー。知らないうちに、いつのまにやら寮は酒場になったらしい」

「なってない。サラがエントランスで呑んでたけど」

 

 どうやら僕の見間違いでは無く、今度はフィーにも見えたらしい。

 なにしてんだあの人。

 模範となるべき教官が、監督の意味で共に寮で暮らしてる教官が、なに学生寮で堂々と酒をかっ喰らってるんだ。

 せめて自分の部屋に行け。

 

「わたしのセリフを勝手に使った分は後で請求するとして。確かにめんどくさいね。絡まれる前にさっさと通り過ぎよっか」

「うん……なんだか不穏な言葉が聞こえたけど、それ以外は概ね同意だよ」

 

 それが一番良さげである。

 どの程度酔ってるかは知らないが、昔から酔っ払いへの対処法は無視するのが一番いい。

 

「じゃあせーので行くよ?」

「ん」

「せー、のおおっ!?」

「ぐえ」

 

 そう言って互いに示し合い、扉に手を掛けようとした瞬間。

 突如向こう側から扉が開かれたと思うと伸びてきた両手に僕達は首根っこを掴まれ、

 

「さっきからなーにゴチャゴチャやってんのよ」

 

 僕は左、フィーは右へ、両脇にガッチリホールド。

 のっしのっしとそのまま連行され、エントランスに備え付けられたソファへどすんと乱暴に、強制的に座らされたのだった。

 

「一人で呑むのは寂しいと思ってたところなのよね~。いやー、ちょうど良かったわー!」

「ぎゃーっ! 酒臭いーっ! 一人が寂しいなら酒場にでも行けーっ!」

「サラ、うっとおしい」

「まさか生徒をお酒に付き合わすワケにもいかないし、ほんっといいタイミングで来てくれたわねアンタ達」

「じゃあ僕等は一体なんなんだーっ!」

「サラ、ウザったい」

 

 もがいたり、すり抜けようとしたりとひとしきり暴れてはみたが(僕だけが。フィーは早々に諦めたのか脱力していた。働け)、いっこうに離される気配は無いのでいい加減諦めた僕は素直に、しぶしぶと、話し相手を務めることにしたのだった。

 

「そりゃもちろんダンディなオジ様と呑めるのが一番最高だけど、こうして両手に華ってのも悪くはないわよねえ。ほらレイヴェル、酌をしなさい酌を」

「う……うざっ!」

 

 便所の水でも入れてやろうかこんちくしょう。

 大体両手に華ってなにさ。フィーはともかく僕は男だよ。

 

「そんじょそこらの女の子より可愛いくせしてなにが男よ。男だって主張したいならせめて下の毛を生やしてきなさいっての。どうせ生え揃って無いんでしょ? ん?」

「あはは、さすが元A級遊撃士! ウザさもA級なんて僕はただただ頭が下がるばかりですよ! 思わず脱帽しちゃいますよ、かぶってないけど!」

「なるほど、毛はどうだか知らないけど帽子は完全に脱いじゃってるワケか」

「もう完全におっさんだよこの人」

 

 くだらなすぎる。

 本当にただのおっさんだったらぶん殴ってた。

 だから酔っ払いは嫌いなんだ。

 なんでみんなして僕に絡んでくるんだよ。僕以外にも人はいるのにさ。

 

「サラ、サラ」

 

 サラさんを挟んでソファの右側に座るフィーが言う。 

 

「生えてた」

「あらそう。ごめんねレイヴェル」

「おい!!」

 

 いきなりなに言っちゃってくれてんだこいつ!

 ていうか、え? 見たの? 見られちゃったの?

 いつ? どこで? 覗き? 逆覗き?

 慌てる僕にフィーは、

 

「ただのカマかけ。見てないから安心していいよ。見たくもないし」

 

 と、いつも通りクールに一言。そしてサラさんはニヤニヤ。

 …………。

 こうして団を出て来て思う。

 アレいわく、僕から発せられているという『いじめてオーラ』。

 その時は何をバカなと笑い飛ばしたが、ちょっとばかり信じそうになってきた。

 なんだこの状況。

 なんで僕、女性二人にセクハラされてるの?

 ていうかなんでフィーはそっち側なの?

 

「よくないよ……! セクハラなんてよくないよ……! 人の嫌がる事をするなんてよくないよ! セクハラなんて僕、よくないと思うよ! 最低だよ! もっとモラルを持とうよ!」

「それに関しては激しく同意よ。フィー、なにか言ってやりなさい」

「階段を上るとき自然に後ろに下がってスカート覗くの誰だっけ」

「バレてた!」

 

 これが身から出た錆ってヤツなんだね。

 身をもって経験するとよくわかるモノだ。

 うーん、また一つ勉強になったなあ。

 

「なにごまかしてるの? ほかにも色々言ってあげようか?」

「ごめんなさい! 僕が悪かったよ!」

 

 既にバレてるモノもバレてないモノも、第三者の前で口に出されるとそこはかとなく気まずい。

 まあ、それがサラさんなだけマシなのだが。

 

「ふう、じゃあもういいよ。僕も開き直るよ。はいはいわかりました。開き直ってサラさんの胸の谷間に顔を突っ込んだらいいんでしょ?」 

「そんなことしたら首をねじ切るわよ」

「せめて折るくらいに留めてください……」

 

 バイオレンス過ぎる。

 エントランスが血の海になる。

 

「でも、ほっぺにチューくらいならいいわよ?」

「え?」

「オリエンテーリングの時言ったの忘れたかしら? ま、私がしてあげる方だけどね」

「……ああ」

 

 そういえば最初に、ARCUSの通信でそんな事も言っていた気がする。

 ご褒美にーって。

 最後がカオスすぎてすっかり忘れてた。

 盛大な僕いじめで忘れてた。

 ふむ。

 それならまあ、本人がこう言ってるワケだし!

 

「レイヴェルが本当に、本当に望むなら、今してあげるわよ?」

「あはは、なんですかその確認は! そんなの言うまでもないですよ、もちろんお願い――」

 

 ――します。

 とまでは続けられなかった。

 なぜかと問われると僕も答えにくい。

 というか、僕自身もよくわからないので答えられないと言うのが答えなのだが。

 ただ、一つ言えるとしたら――

 

「…………」

 

 目があってしまったのだ。

 ハタ、と。

 こちらを向く、サラさんの後ろから。

 何も言わず、いつも通りの表情で。

 深く、吸い込まれそうな瞳でジッと僕を見つめるフィーと。

 

 普通に僕を見ているだけのはずなのに、別に咎められている訳でもないのに、その目を見ていると言葉は急に尻すぼみになり、上がったはずのテンションが徐々に下降して行き、なんだか気まずい気分に――気まずい?

 

「なに? お願いするの? しないの?」

「…………」

 

 サラさんが何か言っているが、それでも僕は、まるで固定されてしまったようにフィーから視線を外せず。

 フィーもまた、視線を逸らす事無く僕を見つめている。

 互いに見つめ――見つめられている。

 気まずい? なんで? それでいいの? 本当に?

 自問自答を繰り返す。

 それがどれほど続いたのか。

 なぜか見つめられているだけでぐるぐる回る頭の中に。

 その間、心の奥底から少しずつ、少しずつ浮上してきた僕が僕に嗤い掛け――囁きかける。

 

 ――だってソレは、他とは違う。(キミ)が欲する(キミ)だけの、極上の特別(エサ)だからだろ?

 

「……ェル。レイヴェル?」

「……ぁえ?」

 

 ハッと、意識が戻る。

 

「なにボーっとしてんのよ? するのかしないのか、どっちにすんの?」

「え、あ……え? なんの話でしたっけ? ていうか僕、なに考えてましたっけ?」

「……アンタ、その年でボケがきてるの?」

「いや……え?」

 

 サラさんからなんとなくフィーへと視線を移してみると、彼女は別にこちらを見るでもなく、眠そうに大きなあくびをしていた。

 ……なんか、一つの答えが見えた気がしたけれど、気のせいだったか。

 

「ご褒美の話よ! ほっぺにチューしてあげましょうかって話よ!」

「あ、結構です。なんか加齢臭しそうなんで」

「じゃあ死にましょうか」

「しまった! 口がすべったああだだだだ!!!」

 

 みしみし言ってる!

 頭がみしみし言ってるからその手を離して!

 

「サラ、遊んでないでそろそろ部屋に戻ったら?」

「あん? なんでよ? 今からコイツの頭蓋骨を楕円形にするところよ?」

「それは見てみたいけど。そろそろ一人、帰って来ると思うよ? 呑んでるところ見せていいの?」

「誰が帰って来るのよ?」

「リィン。学食で女の子とごはん食べてた。まっすぐ寮に向かうならそろそろだと思う。ほかの人は知らない」

「……ふんふん、なるほどね~?」

 

 と、ようやく僕を離す。

 どうやら帽子が被り辛い頭になる事は避けられたようである。

 僕はふう、と安堵の溜息を一つ吐き、サラさんの慈悲へ感謝の言葉をと顔をあげる。

 だが。

 

「……ARCUS?」

 

 僕の頭の次に握られていたのは、戦術オーブメント。

 

「……いやあの、頭を楕円形に変えられる方がいいとはいいませんけど、さすがに魔法は――」

 

 ――やめてほしいなあ

 

 

  

 

 

 

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